1周年記念番外編。その2
モンスターにモテ過ぎたので、テイマーになります!」の1周年記念の番外編です。
本編に登場するキャラクターの日常の一幕で、本編には登場していないキャラクターも出ています。
分かりやすいように、本編に登場するキャラクターはゲームキャラクター名にしております。
「とあるおっさん達の日常。〜ハルの場合〜」
クーラーが程よくかかっているリビングのソファに座って、頭を左右にぴょこぴょこして探し物をしている娘を待っている間、息子の頭を撫でて居る1人の男性。
「パパ〜、つぎこれ!」
「はーい。シンデレラだね」
「うっ! ブーブー!」
「うん。次は車の読もうね」
テテテと走り寄って来た愛娘こと、みちるが持って来た絵本を受け取ると、ソファの右側にみちるを乗せて、手渡されたシンデレラを読み始める。
左側には、やっと落ち着きと言うのを理解して来た弟の海が座っていて、次に読むのは自分のお気に入りの車の絵本を指名するが、まだ絵本の題名と車と言う単語が上手く言えないので、車の絵本の事をブーブーと言っている。
今日は外の気温が約40度と暑く、外で子供達を遊ばせるには熱中症の危険があったので、部屋で大人しくそれぞれが好きな絵本を交互に読んで、遊んでいるのだ。
「それじゃあ読むよー。むかーし昔、ある所にーーー」
絵本を読んでいるのはゲーム名「ハル」こと、長瀬春樹である。
ゲームとの見た目の違いは髪色くらいで、現実世界では普通に黒色であるが、それ以外はほとんど見た目の変化はない。
ハルは、みちると海の父親であり、今は奥さんの明日菜が昼食を作っているので、出来上がるまでは邪魔にならない様に、2人の面倒を見ているのである。
そんな3人の家族団欒を、コッソリと見て居る人がいる。
「フフッ」
ソファが邪魔で頭しか見えないが、読み始めたハルの、太く筋肉質な腕をみちると海がギュッと抱きしめて居るのだと分かる距離感をキッチンから眺めていた明日菜は、昼食の準備が整ったので、ハルを呼ぶ。
「パパ〜! そろそろご飯にしたいんだけど大丈夫〜?」
「はーい、ママ。ちょっと待ってて!」
絵本を読んでしばらく、ちょうどシンデレラの物語で0時の鐘が鳴るタイミングに、明日菜がハル達を呼んだので、パタンと絵本を閉じてソファに置く。
「先にご飯にしよっか?」
「「はーい!!」
幼い子供達なのに我儘を言わず、素直にハルの言う事を聞く2人の頭を撫でながら、良い子に育って本当に良かったと思うハル。
「あとで絵本の続き読もうね」
「うん!」
「パパ、抱っこ」
「はいはい」
そんな良い子に育った2人に、食後でちゃんと絵本の続きを読む事を約束して、抱っこをせがみ両腕を広げて待っている海を左腕で抱き、右手でみちると手を繋ぎながらキッチンの方へと向かうと、そこではすでに明日菜が微笑みを浮かべながら待っていた。
「フフッ。本当に2人共、パパの事好きねー」
「えへへ、そうかな?」
「うん! みちる、パパ好き! 大きくなったらパパと結婚するの!」
明日菜の言葉に頬を染めて照れるハルに追い打ちをかける様に、みちるが小さい女の子の時限定で言う定番の台詞を言う。
その言葉の破壊力は抜群で、一瞬でハルはデレデレに感極まってしまい、しゃがんで正面からみちるに抱き着いた。
「みちるーー! 僕もみちるが好きだよー!」
「きゃーーーー!」
「かいも、かいもギューーーするーーー!」
ハルに抱き着かれたみちるは、子供特有の高い声を出しながらも自分も負けじとハルの首元に抱き着き、それを間近で見ていた海も一緒に混ざってギューギューと抱き着き大会が始まるが、明日菜がパンパンと手を叩いてその大会は一瞬のうちに終わらせる。
そうしなければ、ずっとギューギュー大会をしていそうな雰囲気であったからだ。
「はいはい、抱き着き大会は後にして、今はご飯食べよう! さぁ、席に座ろうねー」
「はーい!」
「あーい!」
ハルが海を、明日菜はみちるをそれぞれの隣の席に座らせて自分達も座ると、明日菜の手を握り一言。
「でも、1番好きなのはママだからね?」
「もう、馬鹿! そんな事知ってるわよ」
実はこの2人、高校の時からの付き合いであり、今でも何だかんだ言って10年以上の月日が経っているのにも関わらずラブラブな2人に対して、彼等を知っている人達からは、おしどり夫婦や、バカップル夫婦なんて呼ばれていたりする。
「パパまだー?」
そんな両親のイチャラブしている光景を、当たり前過ぎて見慣れてしまっているみちるが促す。
この家族には、とあるルールがあるのだ。
「あぁ、ごめんね。それじゃあいただきます」
「「「いただきます」」」
それは、家族が全員いる時は全員一緒に食卓を囲んで挨拶をすると言うもの。
なので、ハルが「いただきます」を言わなければ、目の前のぷるぷるしていてツユフワなオムライスはいつまで経っても食べれないのだ。
今日の長瀬家の昼食は、オムライスにゴマだれ(ハルが1番好きなドレシッング)がかかった夏野菜の温サラダである。
人によっては、オムライスは昔懐かし薄焼き玉子でケチャップ派や、ふんわりトロトロの玉子にデミグラスソース派の人もいるかもしれないが、ここ長瀬家のオムライスの場合は、明日菜が手っ取り早く作る為に、大きいフライパンに全員分の卵液を加えてスクランブルエッグを作る様に火を加えて、半熟にしたのをそれぞれのチキンライスに乗せているので、見た目はふんわりトロトロだが、上に乗っているのはケチャップである。
「ははっ海。ケチャップべったりだな」
「うぐっ!」
そんなケチャップたっぷりのオムライスを、口いっぱいに頬張った弊害で、口周りいっぱいにケチャップ塗れとなった海の面倒を見ながらも、家族団欒で和気藹々と昼食を食べ進み、幸せな時間を過ごす。
「ごちそうさまでした!」
「はーい。全部食べて、海は偉いねぇー!」
体が小さい故に1番食べるのが遅かった海も食べ終わり、元気いっぱいでごちそうさまの挨拶をした海を明日菜が頭を撫でつつ褒めた後、全員分の食器を持った明日菜はキッチンへと戻る。
「それじゃあ、片付けるからみちる達の事をよろしくね」
「りょーかい。それじゃあシンデレラの続きを読もうか?その次に海の絵本を読んで、でもその前に歯磨きしような?」
「うん! パパ、早く早く!」
海が食べ終わるまでずっと待っていたみちるが、早く早くと洗面所までハルを引っ張って行く、シンデレラの続きを早く聞きたいが故の行動でもあるのだが、ここでは歯磨きの時だけ見れる子供番組っぽい歯磨き特集のDVDを見たい為だ。
「はい、みちる。海も1人で出来るかな?」
「かい、ひとりできる!」
ハルから自分用の歯磨きを受け取ったみちると海は、早速TVの前に陣取りハルがDVDを付けてくれるのを待つ。
『ーーーー、ーーーー!』
シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ
3人分の歯磨きの音をさせながら、黙々と歯磨きをしているともう1人、洗い物を終えた明日菜も歯磨きをしつつハルの隣に座ると、ハルは明日菜の腰元に腕を回して密着させると、明日菜は腰に回されている手の上に自身の手を重ねて、ハルに寄りかかる。
これを、側から見た人間が居るならば、第一声が「リア充爆発しろ!」で、ある。
本当に、とんだバカップル夫婦、仲が良過ぎなのである。
しばらくは歯磨きの音をさせていたが、DVDが終わるタイミングで全員の歯磨きも終わり、約束をしていた絵本をハルと明日菜が読み進めると、みちると海が食後の睡魔でうつらうつらと船を漕ぎ出したので、2人で寝室に運び布団に寝かせ、自分達も一緒に昼寝をしようと布団に入る。
「ハル君に腕枕して貰うの……私大好きだなぁ」
「僕は、腕の中で大好きな明日菜が、安心した寝顔を見るのが好きだな」
布団に入るとハルは明日菜に腕枕をし、必然と顔の距離が近くなった2人はお互いを見つめ合い、だんだんとその距離が0になる。
「ふふっ。ハル君、愛してる」
「僕も愛してるよ。明日菜」
愛おしい人を腕に抱きながら、今日も幸せな1日だなぁと思うハルなのであった。
「とあるおっさん達の日常。〜チャンの場合〜」
ここは若者の町、原宿。
店員を除けば、10代から20代の男女が殆どであり、特に竹下通りの真っ直ぐ続く道には大勢の若者が集まっており、いまだにこれを見た外国人からは「お祭りでもあるのか?」と思われる程の人気スパットである。
そんな若者の町原宿の、竹下通りとの境目にゲーム名「チャン」こと鈴木達也が居た。
「あっちぃー。マジでサウナだな。はぁ、とうとう東京も40度近くになったか」
現実世界のチャンはゲーム世界とは違い、髪は黒のツーブロックショートで、紺の七分丈
のカーディガンに白の半袖Tシャツ、デニムスキニーにコンバースという出で立ちだ。
何故チャンは、40度近い蒸し蒸しとした夏の暑い季節なのに七分丈を着ているかと言えば、「暑いから、どっかの店に入ろうぜ」って事で何処かのお店に入った時に、店内の冷蔵が効き過ぎていた場合、薄着の女性が「寒〜い」なんて言った時に上着を貸して好感度のポイントUPを企んでいるからであるが、今日はいつもとちょっと違う。
いつもは自分と趣味も合う大人な女性とデートをしているチャンだが、今日はチャンのデートのお供として付いて来ているのは、従妹の高校生3人であった。
「「何しているの、お兄ちゃん! 早くこっちこっち!!」
左右からステレオの様に、同じ声、同じタイミングでそれぞれがチャンの手を取り合って手近なお店へ引っ張り合う。
そんな3人からちょっぴり離れた所で、大人しそうな女の子が苦笑しつつ見ていた。
チャンとこの3人は従妹であり、双子の愛梨と愛華が叔母の娘達で、美優が叔父の1人娘。チャンとは母方の親戚が集まる時にちょくちょく合う間柄で、年齢が一周程離れている為に、この3人からは兄の様に慕われている。
今日は、双子の「高校最後の夏だから、原宿に行ってみたい!」と言う我儘に、ちょうど東京で働いていたチャンに白羽の矢が当たり、美優も連れてこの4人が原宿に遊びに来たと言う訳である。
「へーへー。ってか、ちゃんと付いて行くから引っ張んなよ」
面倒くさいと言う顔を隠しもせずに、双子に両手をぐいぐいと引っ張られているのに反発する様に付いて行くチャンに、双子がプリプリと反論する。
「むー! だって、時間は有限だよ!」
「お兄ちゃんが今日だけって言ったんだよ!」
「うへぇ…暑い、寄るな!」
グイッとチャンに迫る双子に、シッシッと両手で払う仕草をすると、こちらを見ていた美優と目が合う。
「美優も見てないで愛梨と愛華を黙らせろ!」
「うぅーん。お兄ちゃんごめんね。それは無理かな?」
胸の前で両手を合わせて、小首を傾げながらごめんねのポーズで謝る美優。
自分では、この双子を止める事は出来ないと長い付き合いの中で分かっており、止める事が出来るのは、遠慮も無く扱うチャン位だと思っているのだ。
「ったく、面倒くせぇな。どうせ、お前らが店の中ウロウロしている時間の方が長いんだから、さっさと行け」
「「ぶーー! お兄ちゃんのイジワルー!」」
「ほう? お前らの分だけ買い物の上限金額を下げるぞ?」
愛梨と愛華の態度に若干イラっとしたチャンは、ちょっとだけ意地悪く笑いながら、愛梨と愛華のダメージになりそうな言葉を言うと、さっきまでの態度が嘘の様にコロッと変わって、あわあわと慌てる。
「ごめんね、お兄ちゃん!」
「そうよ、お兄ちゃん! ちょっとした冗談なのよ!」
「ブフッ」
「「あっ! ちょっと美優笑わないでよ!」」
そんな双子の態度に思わず美優が吹き出してしまい、それを愛梨と愛華が咎めるのだが、
チャンが2人の頭をポンポンと叩き落ち着かせる。
「はいはい、分かった。分かった。取り敢えず暑いからどっか店に入って何か食おうぜ?」
「「賛成ー! お兄ちゃん、甘い物系でもいい?」」
「出来たら私も、甘い物を食べたいです」
「まぁ、別にいいぞ?」
チャンからの提案に、双子はもちろん美優も賛成で、女性陣3人から甘い物のご指定が来ても余り悩まずに即答すると、パァァァと3人が笑顔になる。
「「きゃーー! お兄ちゃんありがとう!」」
実家では滅多に食べる事が出来ない都会のデザートにテンションが上がった愛梨と愛華から、チャンのほっぺにキスをしたのだが、されたチャンの顔はあまり嬉しそうではない。
「うぅーん。ガキにチューされてもな」
「「なっ……何だとぉ!?」」
「あははは」
またもやぷりぷりと怒る双子を無視して、彼女達が希望しているお店へとスマフォで調べながら向かう。
「ほら、ガキ供! 付いてこないと置いてくぞー!」
「はーい」
「ちょっとー!」
「私達ガキじゃないし!」
「「高校生だし!」」
次の日。
「おは「うわぁーん! 先輩の裏切り者ーーー!」
「あ”ぁ」
出社して自分の部署に入った瞬間、後輩の後藤に両肩を掴まれてグワングワンと大振りに揺さぶられて、若干キレ気味になるチャン。
周りに居た社員達も急な大声を出した後藤に「何だ? 何だ?」と注目する。
「俺、見ちゃったんですからね! 俺の誘いを断って若い女の子達とデートしている所!」
「はぁ? お前何言ってーー」
「見た感じ高校生っぽい感じの子達でしたよね? 先輩、彼女出来ないからって高校生相手に援助交際ですか?!」
「はぁっ? お前、何言ってんだ!」
後藤のこの言葉に、周りの社員達が「えっ? 鈴木が援助交際? それって犯罪だよね?」と言った眼差しを向けて来て、「やばい! 早く誤解を解かなければ、このバカの所為で俺の人生が終わる!」と思ったチャンは、慌てて後藤に怒鳴りつけたのだが、後藤はさらに自分が見た事を大声で言ってしまう。
「だって、先輩。昨日、原宿で双子の女の子達にキスされてたじゃないですかー!」
実はこの後輩、従妹達3人とのデートの前日に「先パーイ! 飲みに行きましょう! ついでに先輩の家に泊めさせて下さい!」と言って誘って来たのだが、もうその時には従妹達がチャンの家に泊まりに来て居たので、その誘いを断っていたのである。
なので、暇になった後藤はブラブラと適当に外を歩いていた時に、偶然愛梨と愛華がチャンのほっぺにチューをした場面を見てしまったのである。
その時に問い詰めれば、彼女達との関係が従妹だと分かったのだが、あまりの衝撃に固まってしまった後藤は、あの人混みである。あっさりとチャン達を見失ってしまったのである。
つまりは後藤の早とちりなので、そんな事をした覚えが無いチャンは、とうとうコイツの頭がイカれたのかと思ったが、最後に後藤が言った「双子」と言う単語で、後藤が何を見て誤解をしたのかを理解した。
「あ〜……お前、とりあえずここに座れ」
「先輩、俺の誘い固まって高校生と援助交際してたんですかぁーー!」
未だにきゃんきゃんと騒ぐ後輩を誘導して椅子に座らせると、後藤の両肩に手を置いて動かない様に押さえつけて、事の真相を教える。
「あれは、援助交際じゃない! あの子達は俺の従妹だ!」
「あだだだだ! 痛い痛い! 先輩痛い!」
真相を教えつつお仕置きとして、背後から思いっきりこめかみの部分を力いっぱいグリグリしてお仕置きをすれば、後藤の絶叫が部屋一面に鳴り響いた。
成り行きを黙って見ていた周りの社員達も「何だ。いつもの事か」と通常に戻っていったのだった。
「とあるおっさん達の日常。〜ブッチャーの場合〜」
ブッチャーこと今田勝己の朝は早く、毎朝5時頃に起床すると簡単に身支度を済ませる。
現実世界のブッチャーの外観はほぼ同じである。
そんな彼の右手には、猫のキャラクターが描かれているお散歩用鞄を持っていて、外で待っている2匹の愛犬、サモエドの小雪とシベリアンハスキーの流星と共に散歩に出掛けるのが、ブッチャーの朝の日課である。
「行ってくるぞー」
「はーい。気を付けてね」
「「ワンワンワン!」」
妻である美智江に見送られて、「僕待ってます!まだですか?」「早く行こうぜ!」と、尻尾をブンブン振り回しながらブッチャーに飛び付いて来た2匹のリードを持って、散歩へと出掛けた。
ブッチャー家の家族構成は、先程も出ていた妻の美智江。それと息子夫婦と孫が2人の合計6人+2匹の3世帯である。住んでいる所は駅から直ぐの商店街で、父親から譲られた今田精肉店の2階部分が住居スペースとなっていて、1階が店舗スペースになっている。
そして、ブッチャーが朝と夕方の犬の散歩当番であり、美智江と息子嫁が朝食の準備をしている間は、ブッチャーが犬の散歩に出掛けているのだ。
今田精肉店は朝7:30〜12:00、13:00〜19:00が営業時間となっているが、商品が全部売り切れたら早めに閉めることもある。
特に混む時間帯が、通勤時間の朝と夕方で1番お客さんがやって来る。
その理由は、コロッケやメンチ、チキンカツなどの惣菜を買いに求めるお客さんが多いからだ。
しかもありがたい事に、今田精肉店のお隣がパン屋さんなので、朝食用にコロッケやメンチカツを買って、そのまま隣のパン屋さんでコッペパンを買うお客さんで賑わうのだ。
これは父親の代からで、始まりはお客さんからの提案だったそうだ。
ちなみに、そのパン屋さんの隣が八百屋さんで、その隣が魚屋さんである。
朝のこの時間、八百屋さんはキャベツの千切りや人参やコーンなども入ったミックスキャベツを売り、魚屋さんは魚介類のフライを売っていているので、この4店舗は毎朝お客さんで賑わうのだ。
そんないつも通りの朝の風景の中、ブッチャーは2匹のワンコを引き連れながら、きっちり1時間かけて犬の散歩に出掛けていた。
「帰ったぞー」
「あっ、親父! 俺もう飯食べたから、先に肉の準備してるぞ!」
「あいよ」
2階から降りて来た息子に返事をしつつ、散歩から戻ってお腹を空かせた小雪と流星の餌皿と水入れを満杯にすると、自身も朝食を食べる為に2階へと登り、すでに準備されている朝食を食べて仕事場へと向かう。
朝食を食べたらお昼までは戦場である。
主な仕事の分担は2つ、送られて来た肉の処理をするのがブッチャーと息子の担当であり、美智江と息子嫁がレジと惣菜調理を担当していて、朝の通勤ラッシュのこの時間は、揚げ物の良い匂いに誘われたサラリーマンや学生達が、お店の周りに集まっていた。
「いらっしゃい! コロッケ2つね。160円だよ」
「おはよう、おばちゃん! コロッケとメンチ1個ずつ!」
「はーい、コロッケとメンチね。180円だよ。はい、20円のお釣りね」
「ちょー良い匂い! 腹減ったー!」
「あら、朝食べてないの?」
「食べたけど、減るものは減るの! 取り敢えずコロッケ1つ」
そんな慌ただしい朝の通勤ラッシュが終わり、ほどほどにお客さんの入りが減ったタイミングで、表で販売をしていた美智江がブッチャーの所に来る。
「ちょっと、あなた。ご飯の準備するからお客さんお願いね」
「あぁ」
ほとんどの肉を切り終わったので、ヒマになったブッチャーが美智江と交換して、お客さんの相手をしている間に12時となり、一旦お店を閉めてからお昼休憩を挟んだ。
お昼休憩が終わると、今度はおば様達が井戸端会議をしにお店へやって来る。
「美智江ちゃーん! 聞いたー?あそこのお孫さん、甲子園に行くんだってー」
「あら、そうなの? あそこってあそこのたかし君?」
「そうそう! ちょっと前からこの辺りでも話題になっていたのよー」
「あらヤダ。全然気が付かなかったわ」
「ヤダ美智江ちゃんったら、ここら辺だと結構有名よー」
「「「ねー」」」
大体いつものメンバーがお店に来て、ある事ない事を話し合い賑わいを見せている内にあっという間に夕方となり、今度は帰宅してくる人達で商店街は賑わう。
ブーブーブーブー
「ん?」
そんな中、2回目の犬の散歩に出掛けようとしていたブッチャーの携帯に、メールが届いた。
『アーサーが風邪を引いたので、今日は私とアーサーはお休みします。アーサーが風邪を引いた理由。
お風呂上がり暑いのでパンイチ+クーラーをガンガンかける→うっかりそのまま寝る。
見事に風邪を引く→病院に行って処方して貰ったが、今だ熱下がらず→安静しろと言われたので寝ている←今ここ
アーサーから一言「皆、ごめんね♪」だって』
メールの差出人は、awo最大クランで自身も所属している「Adults' party」の副団長、和葉からであった。
「あいつ……バカだな」
メールの内容を確認した後の第一声は、社会人の癖に体調管理も出来ないアーサーに対しての呆れであった。
「うぅん……あの2人が抜けるんだったら、今日の攻略はちっと難しいかも知れねぇな
」
「クゥーーン」
今日の夜に攻略をしようと思っていた場所を思い出し、2人が抜けた場合の戦力差を考えて頭を抱えてたブッチャーの足を、流星がカリカリと引っ掻いて現実に引き戻す。
小雪はニコッと笑った顔のままで待っている。
「おっと、悪かった。そんじゃあ行くぞ」
待っていてくれた2匹の頭を撫でつつ、夏の日差しがキツイなか、2回目の散歩に出かけて行った。
「「ハッハッハッ!」」
「わぁーた。わぁーたから、そんなに急ぐな」
今度は朝の散歩と違い、近場のドッグランに向かって夕飯の時間になるまで遊ぶ事が出来るので、早く遊びたい2匹のテンションは鰻登りで、朝の時とは違ってグイグイとリードを引っ張って進んで行く。
「はぁはぁはぁ、疲れた」
夕方から夕飯になるまでのこの時間は、2匹が思う存分に遊べる時間である為に、ブッチャーの都合を考えずに遊びまくるので、いくら頑丈であったとしても、終わる事にはヘトヘトとなっていた。
「ほれ、お前ら。帰るからボール離せ」
ブッチャーの命令に、口に咥えていたボールをポテンと足元に落として、大人しくリードに繋がれると、そのまま来た道を戻って帰って行く。
そんな3人の、とある日の日常であった。
ぶっちゃけ、個人的にハルはおっさんの年齢だと思ってはいないのだが、ここを逃すと書く場面が無いので、残念ながらおっさんという事に……




