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祖父の依頼、孫のお願い

お待たせしました。

ちょっとキリのいい所まで書いていたので、先週はお休みしました。

普段は5000字を目安に書いているので、先週分と合わせて約1万字です。

この大司教様は確か、俺が初日に教会へ来た時にも居たはずで、その時に舞姫さんから「ほらほらあれあれ!あそこの偉そうな顎髭がここの偉い人だよー!」と教えて貰った。

今思えば何ちゅう説明の仕方だと思う。


他にも真司やハルさんにも、その存在とゲーム内の役割を教えてもらったのだが、まさかそれがアリアちゃんのお爺ちゃんで、しかも始まりの町の大司教様である事に、俺は「へーそうなんだー。すごーい!」位にしか思わなかったのだが、真司はそう思っては無いらしく、キョロキョロと画面上を行ったり来たりしているので、ウィンドウで色々と調べているらしい。

その理由を真司からこそっと教えて貰ったら、どうやらゲーム内のNPCは年を取るみたいで、アリアちゃんの見た目が幼稚園児位だと推定すると、丁度このゲームと同い年位になるだろうと言う事で、もしかしたら新規のイベントが起きるかもしれない!って真司は期待して色々と調べているみたいだ。

と言う事は、最初にアリアちゃんと会った時から、イベントが始まっていたと言う事だろうか?


イベントは主に2つあって、運営が主催しているお祭りの様な大掛かりな物と、NPCの好感度が高くなると発生する依頼クエストである。

運営側のは、闘技大会の様な全プレイヤーが参加出来る物だが、NPC側のは特定のNPCと仲良くなったプレイヤーが対象で、後々大掛かりになって行く事もあるイベントである。



「ふむ、わしはジェイムズ。ジェイムズ・リフォード。ここを任されており、アリアの祖父で「おじいちゃん!あのね、あのね!」(これ、静かにせんかアリアよ。今はわしとこ奴らで話しておろうが…)」


「えー、だってー」


「(少し待っておれ)…すまんが目立つ故に、裏に回ってもらってよいかの?」


「「あっ…全然大丈夫です」」


最初は顎髭をさすりながら、威厳たっぷりに話していたのだが、俺から手を離したアリアちゃんが、タターと大司教様の元へ行き、裾をグイグイ引っ張りながら自分の事を話そうとしたので、一瞬で先程の威厳が霧散して、ただただ孫に振り回されるお爺ちゃんへと成り下がってしまった。

さすがにちょっとだけ不憫に思ったので反対せずに、先に教会の裏へと進んで行った大司教様の後をついて行った。


「すまんの。わしに付いてまいれ。…あぁ君、裏に飲み物を頼む」


「あっはい!かしこまりました」


行く途中に居たシスターに、大司教様が飲み物を頼んでから教会の裏に行くと、そこには芝生が生えていて、ちょっと豪華な白い丸テーブルと椅子が数脚置いてあった。


「ありがとう、下がって良いぞ。ささっ、立っていては何じゃ、お主達は座りたまえ」


「はい。では、失礼します。お二人共どうぞごゆっくり」


裏へと回った俺達は大司教様に言われるがまま椅子に座わり、お茶を持って来ていたシスタが、にこやかに去って行った後、大司教様からギラッとした殺気を放たれた。


「孫が我儘を言ったようですまんのぅ。して、主らは、わしの愛しのアリアと、どのような関係かの?」


アリアちゃんと灰白さん達が遊んでいて、アリアちゃんの笑い声が聞こえる中、いきなりの修羅場に額から汗が落ちる感覚を味わう。

完全に祖父馬鹿発動中である。


当のアリアちゃんは、アリアちゃんを中心に灰白さん達が輪になって座っており、今はアリアちゃんが皆の分の草冠を作っているみたいで、すでに真白とさえずりの頭には草冠が乗っている。

どうやら遊びに夢中で、こちらの雰囲気を感じていないみたいだが、灰白さん達は俺に向かって来る殺気が原因で、危害が加えられるのかと思い、殺気が出た瞬間から「主人に喧嘩売ってるんですか?我々が相手になりますが何か?」って感じで、こっちをずっと凝視しているので、手を振って大丈夫だとアピールしておく。


「俺は真司。冒険者だ。お孫さんと会ったのが今日で2回目だ。まぁ、見て分かる通りにこいつが使役している従魔にゾッコンのようだぜ」


「ヨシタカです。同じく冒険者で、今あそこにいる従魔達の飼い主です」


大司教様の殺気を物ともせずに真司がギルドカードを出しつつ自己紹介をしたので、それに俺も便乗させてもらう。


「むむ?主らの従魔では無く、全てこちらの従魔なのか?」


あそこと指差し教えたところで、大司教様の目が少し大きく開き、さっきまでの殺気が霧散して驚愕しているのが分かる。


「あぁ、はい」


「それはそれは…お主は冒険者に成り立たなのに、大変じゃのう」


俺のギルドカードを見てふむふむと頭を上下に振り、顎髭をさすりながら憐れられたのだが、もう多頭飼いはテイマーの宿命なのだと思っているし、俺の体質の方は19年間親しんでいるので、不本意ながらもう慣れた。




「見た限りでは、アリアはお主の従魔に随分と懐いておるようだな?」


「見たいですね」


俺と大司教様でアリアちゃん達が遊んでいるのをしばらく見ていたら、ふと小さく呟くように大司教様が聞いてきた。


「お主がアリアを誑かした訳ではない様じゃな?」


「なっ!いやいやいや、そんな事しないですよ!」


俺はロリコンでも変態ではないです!と、首と手を精一杯横に振る。


「そうかそうか。それを聞いて安心したわい。それにしても、彼奴の顔はどうにかならんのか?アリアの教育に悪い気がするのう」


そう言われたのは真司で、奴は自己紹介が終わって直ぐに、アリアちゃんと遊んでいる灰白さん達をモフリに出かけて、今では全員で追いかけっこをしている最中である。

もちろん鬼は真司だ。


「ふむ、アリアが懐いてある様じゃしな。これも何かの縁じゃ、お主達に任せようかの?主らに護衛を頼みたい」


【大司教ジェイムズ・リフォードからの護衛クエストが発生しました。参加しますか?】


「えっ?あっ、ちょっと真司ーー!…何やってんだよ!早く来い!」


突然ウィンドウにクエストが発生して、しかも参加するかどうかが画面上に表示されているので、受けていいのかどうか、一応このゲームの先輩である真司を急遽呼び寄せた。


「何だよー!せっかく今、灰白たん達と草原でキャッキャウフフしていたのにさー」


俺から見たら完全に鬼ごっこだったが、お前からしたら「ほら!俺を捕まえてごらん」「あぁ〜ん、あなた待ってー!」に、なっていたわけだな。


「って、そんな事はどうでもいいんだけど、今大司教様からクエスト貰っちゃってどうしたらいいと思う?」


ぶつくさ文句を言ってくる真司を隣に座らせて、さっき来たメッセージの表示を真司にも見せる。


「どれどれ?ふーん?別に受けていんじゃね?大司教様、とりあえず詳しく聞いてもいいですか?」


「もちろんじゃ。この依頼は、わしを含めて3人を目的地まで護衛して欲しいのじゃ。こちらからは4人乗りの馬車を用意するので、2人はこちらに乗れるぞ。目的地はここから南にある羽田ポータルじゃ。集合場所はここで、明日の10時から移動を開始したいと考えておるのじゃが、して、どうじゃろうか?」


なんと、実は羽田ポータルは俺達がこれから行こうとしていた場所で、名前の通り現実世界では羽田空港に当たる場所である。

昨日、次はどこに行こうか?なんて話していたら、真司に羽田ポータルに行こうと言われていたのだ。なんでも重要な場所でもあるから、行って説明したいらしい。


「ほほう、なら俺は明日でも構わないぜ。今日の空いた時間は、夜空達の七福神のお守りを取りに行ったり出来るからな。それに相手が教会関係者ってのが重要だ!」


そうだった。うっかり忘れていたが、夜空達は灰白さん達が持っている七福神のお守りを持っていないから、色々と恩恵が貰えないのだった。


「なるほど、それだったら羽田ポータルは明日でも良いね。でも、教会関係者がってどう言う事?」


「ほっほっほっ!確かに、それも報酬にしようと思っておったわ」


静かに俺達が話しているのを聞いていた大司教様は、真司が言った内容が分かっているのか、人差し指を立ててウインクをしながら会話に入って来た。


「よっしゃ!この場合は俺も入りますか?」


「もちろんじゃとも」


「なら、ユッキー!ここで断るのは勿体無いから、絶対に受けようぜ!」


「えっ?えっ?」


俺が会話について行けないのに、大司教様と真司が楽しそうに会話していて、どんどん先に内容が進んでしまい、さらに、とある報酬が貰えると大司教様に言われた後の真司はこの護衛クエストにノリノリである。


「今回の護衛クエスト成功の報酬に、報酬金と共に特別戦闘スキルである僧侶、または付与術師どちらか1つを伝授しよう」




【特別戦闘スキル】それは、通常戦闘スキルとは異なり、同時に使用出来る戦闘スキルの事である。

例えば、俺が今使っている片手剣の場合で説明すると、戦闘時に同時に使う事が出来るのは派生スキルの盾となり、他の戦闘スキルを使う際にはいちいちウィンドウで選択をしなければならないのだ。


もちろん、今の俺がそうだってだけで、全武器同時使用が出来る唯さんのような例外も存在するのだが、今は置いておく。


そして、今話題にしている特別戦闘スキルの場合だと、今の俺が使っているテイマーのように、通常戦闘スキルと同時に使う事が出来るのである。

ただし、他の戦闘スキルとは異なりそれぞれにメリットとデメリットが存在する。


例えばサモナーの場合だと、メリットはMPが続く限り従魔の出し入れが自由だと言う事

と、一度見たモンスターならば召喚一覧に記載されているので、一部を除く全てのモンスターが召喚出来ると言ったところだ。

デメリットは、パーティ分しか呼べない所と、プレイヤーが死に戻りすれば全ての従魔が消える事、さらに召喚したモンスターが死に戻りした際には、12時間のクーリングタイムが出てしまう事だろう。


俺の使っているテイマーのメリットは、何匹でも従える事が出来て、俺から離れて自由に出来る事だ。もちろんデメリットは、増えれば増えるほど飯代や宿代のお金と管理が掛かる事だ。


それで、今回の報酬に提示されている僧侶と付与術師のデメリットはそれぞれ同じで、攻撃力や防御力が1〜2割ほど低下してしまうと言う物だ。

そのかわり、僧侶の場合だと回復系アイテムやスキルの回復量UPと消費MP減少、各バッドステータス解除率UPなどである。

付与術師の場合だと、武器や防具に各属性を重ねがけ出来たり、各ステータスを上昇させたり、さらにはモンスターにバッドステータスを付ける事とかも出来るのだ。


そして今回の報酬である特別戦闘スキルの僧侶と付与術師を得るためには、教会または寺院のNPCと仲良くなり好感度を上げて、さらに偉い人とお近づきになり信用されてから、今回の様なクエストを発生してクリアすると取得出来るのだ。


大体の流れでは、教会または寺院へお参りをしたり、NPCと会話をして親交を深めたり、教会や寺院のお掃除をしたりしてポイントを稼いで行くと、向こうの方から声をかけて貰える。

もちろん、毎日顔を出した方がポイントは溜まりやすい。

また、東京近辺は好感度ポイントは高いが、クエストの難易度は低く、東京から離れていけば行くほど、好感度ポイントは低くなって行くのだが、クエストの難易度が上がって行くのだ。


そして、失敗すると最初からやり直しなので、習得するにはこの面倒な手順を組まなければならないから、是非受けようと真司は言っているのだ。

ちなみに、現在出ている最短記録は1ヶ月であるので、ここで俺達がクエストにクリアするとかなり最短記録になる。

なので今でも、最短で1ヶ月もこれに付き合うんだったら、もっと遠くに出かけて攻略を進めるんだ!って人が多いから、意外と習得している人は多くないらしい。


「で、どうするんじゃ?受けてくれるかの?」


「はい、喜んでー!」


「おいこら、何勝手に言ってんだ!…まったく、では大司教様。その依頼受けさせてもらいます」


真司が俺を無視して、某居酒屋の様な受け答えをしたので、軽く頭を叩きつつも俺自身も今回の護衛クエストは反対では無いので、受ける事にした。


「ほっほっ、契約成立じゃ。それでは明日10時に教会の入り口で待っておれ。よろしく頼むぞ」


「はい!」


「おう!任せてくれ!」



そう別れてからの次の日、教会まで行くとすでに馬車が用意されているのだが、ちょっと辺りが騒がしくなっている。その原因は…


「いーやーだー!アリアもいっしょにいーくーのー!」


なんと、アリアちゃんが俺達と一緒に行きたいと駄々をこねてしまっているのだ。


「これ、アリア。我儘を言うんでわない!」


「やだやだやだー!おじいちゃんだけずるい!」


すでに教会の入り口にはいつでも出発出来るように馬車が準備されており、御者と中に乗っている従者が入り口でオロオロと成り行きを見つめている。


昨日はクエストを受けた後に夜空達のお守りを入手して、今日のための準備も色々して挑んできたのだが、何だか最初から雲行きが怪しくなってしまった感じ?


「大司教様。大司教様さえ良ければ、俺達はアリアちゃんが一緒でも大丈夫ですよ?別に良いよな?」


「あぁ、俺は大丈夫だせ。それに、そろそろ行かねぇと昼に間に合わなくなるぞ?」


このままここで立ち往生している訳にもいかないし、小さい女の子が泣いているをじっと見ているのも何だか落ち着かないので、真司に確認を取って大司教にそう提案する。

それに真司の言う通り、そろそろ出発しないとお昼に間に合わなくなってしまうのだ。

一応携帯食料とかは持って来てはいるのだが、出来れば向こうで何か買って食べたい。


「むむむ…ふぅ。すまんの、お主達のご厚意に甘えるとしよう。アリア、道中は大人しく言う事を聞くのだぞ!」


「うん!ありがとーおじいちゃん!お兄ちゃん!」


俺の提案に折れた大司教様はげっそりとしており、自分の我儘(お願い)が通った事にキラキラ笑顔になったアリアちゃんも、大司教様と共に馬車に乗り込んで、早速護衛クエストが始まった。


「それじゃあ、灰白さんとこがねは馬車の両側で並走してくれ。濡羽は馬車の上で警戒を担当な!それじゃあ行くぞ!」


今回の護衛クエストの配置は、馬車が中心で前方に俺と真司と夜空。左には灰白さんと紅緒。右にはこがねと露草。そして馬車の上には濡羽が待機して周りを警戒している。

真白、さえずり、しじまは馬車の中でアリアちゃんの担当である。

基本的に真っ直ぐ行けば着くのと、細かい所は真司に後ろから指示を出して貰って出発した。


「本当に俺は攻撃に出なくていいのか?」


「おう、大丈夫だせ。片手剣じゃあリーチの関係で馬上攻撃しにくいだろ?けど、他の武器だとユッキーが慣れてないから、攻撃の威力がイマイチになるだろうしな。まぁ、今日みたいな事になるかと思って、昨日チャンの所で弓強化して装備して来たんだからな!バシバシ当てちゃうぜ!」


そう言って弦を何度も弾いてアピールする。


確かに真司の言う通りで、夜空に乗った状態だとリーチが短い片手剣は、上手くモンスターに攻撃が当たらないだろうなと思っていたのだ。

今はまだ大丈夫だとしても、今後どうなるか分からないから、真司のように片手剣だけではなく別の戦闘スキルも磨く努力をしよう。そう心に決めて何回かは軽く戦闘にもなったのだが何事もなくしばらく進み、休憩の時間になった。


「皆お疲れ様。露草、悪いんだけど水を出してもらえる?」


「チュン!」


馬車で出来た影の中で全員が円陣になるように座るが、周りの警戒のために俺と真司は交互に休憩を取る事にした。灰白さん達も半分に分けて交互に休憩をし、残りが警備担当である。

こがねと露草と夜空と濡羽が最初に休憩を取るので、露草に俺達全員の分の飲み水を出して貰う。

教会組は自分達で用意しているので、俺達が何かしたりはしなくていいらしい。


「それじゃあ、ちょっとトイレ行ってくるわ。俺の体よろしくねん!」


「分かった。じゃあ、俺も後で行くからその時はよろしく!」


「あいよー!」


そう言うと、真司の体が馬車のに寄りかかる様にして目を閉じ、まるで寝ているかの様な状態になる。

この状態はスリープモードと言って、いつものテントを張った場合の簡易版の様なもので、スリープモードでは、短時間のログアウトがメインとなり、主にトイレ休憩だとか水分補給などがメインの数分のログアウトの時に使用する。

この場合は、今の真司の様に無防備な状態になり、もし周りに仲間が居なければ、モンスターやPKの格好の餌食となってしまい、攻撃されて死に戻りしてしまう。

逆にテントの場合だと、PKからの攻撃は無効になるのだが、東京以外の場所では、たまにモンスターに攻撃される事があるそうで、その時のためのアイテムを、これから入手しに行くのだ。

まぁ、テイマー限定の裏技があって、それは外にいる従魔達に、襲って来るモンスターを討伐して貰うと言うものだ。

これもテイマーのメリットな所だろう。


「たでーまー!交代するぜ」


「おかえり。今の所は異常無し!それじゃあ俺の体よろしく」


「あいよ」


「灰白さん達も交代して休憩を取ろう」


「ワン!」


10分程経った頃に、眠っていた状態から戻って来て伸びをした真司が立ち上がり、今度は俺がスリープモードの休憩を取る。

操作方法は真司がスリープモードする時に教えてもらったので、画面上をサクサク操作すると眠気が襲って来た。




「お待たせ!何かあった?」


ログアウトした俺は、簡単にトイレと水分補給、それと小腹が空いたので、買い溜めしてある栄養補助食品を食べてから戻って来た。


「いや、雑魚が2回襲って来たけど、その前にこがね達が倒していたから俺の出番無く終わった。ちゃんと褒めとけよ?」


「そっか。分かったありがとう。…こがね達頑張ったんだなー!ヨシヨシヨシ」


真司から俺がいない間の状況を教えて貰うと、警備担当だったこがね達が「主人一(あるじー)頑張ったんだぞ!褒めて褒めて!」と、寄って来たので、全員の体をわしゃわしゃ撫でくり回して褒めると、「きゃー!もっともっとー!」と、寝転がってお腹を見せて来た。


「………そろそろ準備して」


寝転がって、見えるお腹を撫でようとしたら「いいなー羨ましいなー」って感じの、ジットリとした視線が俺の背中に来ているので、寝転がって待っているこがね達には悪いけど、それ以上のモフリは強制終了である。


「では、残りも頼んだぞ」


「お兄ちゃん!あとで夜空に乗せてね!」


「いいよ。向こうに着いたらね」


休憩が終わり全員が馬車に乗り込むと、窓から顔を出した大司教様から一言声を掛けられ、反対の窓からピョコンと顔を出したアリアちゃんにおねだりされたので、撫で撫でしつつ快諾して残り半分の道のりを進んで行く。

その時に、ついうっかりアリアちゃんの頭を撫で撫でしてしまって、祖父馬鹿を発揮した大司教様に睨まれてしまい、それを後ろで見ていた真司が、口元を押さえつつ笑いを抑えるなんて事があった。




「に、してもだ。今回はフルコン出来そうだな!ユッキー良かったな!これは報酬上がるぞー!」


「ん?それってどこで判断したんだ?」


「ほら、馬車をよーく見てると上の方にHPバーみたいなのが出るだろ?それが馬車の損壊度であれが0になるとクエスト失敗。それで、報酬は大体三段階に分かれているんだけど、緑は全報酬ゲット、6割ゾーンの黄色が報酬金だけゲットで、3割ゾーンの赤で報酬金減額になるんだ」


俺の後ろに乗っている真司が後ろの馬車を見ながらそう言って来たので、俺もちょっと真司が邪魔で見難いが馬車をよく見ると、確かに真司の言う通りにHPバーみたいなものが出ている。

今の段階でモンスターからの攻撃は受けていないので、HPバーは満タンだ。


「今回は馬車だけど、他に色々似たようなのがあるんだぜ」


そう言って道すがら真司から色々教わる。

今回は護衛クエストだが、渡航クエストだったり、防衛戦または攻城戦だったりと今回と似た感じのクエストがあるみたいだ。

渡航クエストは湖を渡る時や、本州から他の県に行く時なんかに発生するみたいで、防衛戦は日本各地にある城を攻略する時に発生するみたいだ。

渡航クエストの場合はランダムで敵モンスターが出て来て、特に巨大クラゲや似たようなタコやイカが出てくると、触手が船に絡まったりとかで大変面倒くさいらしい。

お城関係は主に、現実世界の天守部分(模擬天守は除く)があるものが出ているらしく、そこでのボス戦は戦国時代の面々が出てくるので、一部の人には堪らないらしい。

なんでも某ゲームの様に顔面偏差値が高いのだそうだ。


そんなこんなな話をしつつ羽田ポータルへと向かっていると、さっきまでずーっと地平線の先まで草原だったのが、ちらっと海が見え始めて来た。


「おっ?海見えて来たじゃん!なら、あっ、ほら、あれあれ!あれが羽田ポータル」


真司が肩越しに指差す先に白い建物があり、どうやらそれが羽田ポータルのようで、到着まであとちょっとの所まで来た。


「やっと着くのかー!もう尻がヤバ…「カーーー!」


途中で休憩を挟んだのだが、慣れない長時間の乗馬にお尻が限界であったので、それが終わると思っていたら、警戒していた濡羽から敵襲の知らせが来た。


「どっからだ?……ヨシタカ!後方上空から鷹が3!濡羽だけだと心許ないからしじまを出すぞ!」


「了解!」


後方を確認した真司の指示に従い、後ろを走っている馬車と並走すると、すでに窓から大司教様が顔を出していた。


「敵襲か?!」


「はい!上空から鷹が「ワンワン!」


「チッ!今度は左後方から狼がこっちに向かって来てやがるぞ!」


何が起こったのかを瞬時に理解した大司教様に状況説明をしようとした時に、今度は灰白さんから狼が近付いて来ていると、吠えて知らせて来たので確認して見ると、狼が4頭こちらに向かって来ていた。


「なっ、マジかよ!どうすんだよ真司!」


ジリジリと近付いて来ているモンスター達に、慌ててしまう。


「慌てんな!ヨシタカはそのまま前方を注意しながら走る事に集中してろ!ってな訳なんでザクッと指示出すぞ!こがね、こっちに来い!」


「ギャウー!」


合計7頭のモンスターと敵対するのが初めての事で、軽くパニックになっていた俺の肩を、真司が叩いて落ち着かせて、反対側を守って並走していたこがねを呼んで、皆に指示を素早く出して行く。


「灰白は俺達と交換で前方を警戒してくれ。それで、もし敵が出たら牽制を頼んだ。紅緒はこっちでこがね達と一緒に後方の狼を牽制、大司教様、真白とさえずりを馬車の上に!真白は右を警戒、さえずりはダメージを負った面々の回復を頼んだ。そんでしじまは濡羽と一緒に鷹をやるぞ!馬車はそのまま全速力でセーフゾーンまで行って下さい!」


「了解した。無理するでないぞ!」


「お兄ちゃんたちがんばれー!」


素早く指示を出した真司に従い、それぞれが移動して行く。

今は馬車の前方を灰白さんが走り、馬車の上に真白とさえずりが待機。その後方に俺達と、鞍の後ろに移動して来たしじまと濡羽、その横でこがね達が並走している形だ。


「羽田ポータルまであと少しだから、倒す事をメインにして深追いするなよ!こがね達は俺達と並走しつつ、属性攻撃で牽制して狼が来ないように!濡羽としじまは俺と一緒に鷹の牽制だ!間違って俺の矢に当たるなよ!」


「カーーー!」


「ホーーー!」


「それじゃあ作戦開始!ぶつかるから屈んでいろよ!【必中】【三連射】」


必中

・敵に対し、弓または投擲武器の攻撃を必ずどこかに当てることが出来る。ただし、必中スキルを使用した時に、攻撃力が4〜6割低下してしまう。


三連射

・1回の攻撃で3つの矢が出る。


腕が当たるからと、前傾姿勢になりつつ後ろを確認すると、真司が弓の固有スキルを言い放つ。

すると、まるで鷹に吸い寄せられるようにして3本の矢が飛んで行き、「誰がそんな真似をするか!」と言っているように鳴いてから、しじまと濡羽が飛び出して行き、鷹に向かって牽制しに始めた。

その間も真司は弓でもって、鷹がこっちへ来られないように攻撃をし続けている。

地上では、こちらに向かって来ていた狼に向かって、火、水、雷の属性攻撃が爆裂し土煙が出来ていた。

紅緒は火属性攻撃で火の壁を作り、狼が目くらましや遠回りをする様に攻撃をして、露草はそれから漏れた1匹1匹に、水の球を当てている。

特にこがねの攻撃は器用で、体の周りに何個もの雷の球を作り出しては、近付いて来る狼に向かって当てていっている。

そんな中で俺は、ひたすら夜空の操作に集中していた。




「あそこ!セーフゾーンに入るぞ!」


肩を揺さぶられながらそう言われて前方を見ると、すでに羽田ポータルの入り口まであと少しの所まで来ていた。

セーフゾーンは町などの周囲100m内の事であり、そこに入れば、たとえ外だとしてもモンスターに襲われない場所だ。


「早く終わってーー!」


一刻も早く、この追われている恐怖から解放されたい!

そう思いつつ、セーフゾーン目掛けて夜空を全力疾走させて行った。

私、敵では無くフィールド?に追われるのが苦手です。

アババババ!って、パニックになるであんなん。

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