MMM作戦
呑気な顔をして、僕関係ありませーん!って顔をして反省のそぶりも無い2羽を見て、昨日の打ち上げで聞いた最も効果がありそうな躾を実行しようと思う。
「躾はMMM作戦を決行したいと思います!」
「ブハッ!おけ、分かった。俺から白薔薇の所に連絡して、ブフッ、おいてやるわ」
「ありがとうございます!」
昨日の打ち上げの時に、テイマーの皆様から「もし従魔がオイタをしたら、こう躾けるべし!」って色々なやり方を教えて貰った。
その中の1つと、もう1つを合わせてお昼の時に決行する予定だ。
「さて、そんじゃあ4匹分の装備品でも決めるか。何かリクエストはあるか?」
「こがねは属性強化で、あとはオススメってありますか?」
こがねは雷属性のスキルを持っているので、紅緒や露草と同じく属性を強化する装備品を頼んで、残りの1匹と2羽はどちらも物理系なので、チャンさんにオススメを聞いた。
「そうだな…。まず、馬の方は長時間乗るの前提でウエスタン鞍の、騎乗者HP自動回復か騎乗者MP自動回復系の回復タイプか、馬上攻撃を高めるか馬自身のステータスを上げる補助タイプがあるな。一応自動回復系は馬のLvが上がれば習得出来て上乗せ出来るぞ。
そんで鴉と梟なんだが、それぞれの特徴を伸ばす装飾品で良いんじゃないか?攻撃担当は結構居るんだし」
「なるほど、なら、夜空のはHP回復するやつでお願いします」
「黄金石の足輪」3.500G
・雷属性の魔石を埋め込んだ足輪。
雷属性の攻撃をした際に、威力が少しだけ上がる。
「癒しの鞍(騎乗者HP回復)」4.800G
・騎乗したプレイヤーのHPを少しずつだが回復する鞍。鞍のサイズが大きくなるにつれ値段が跳ね上がる。
「鷹の目ゴーグル」2.800G
・鷹の目スキルが付与されたゴーグル。
遠くの物を視認する事が出来る。
「忍びの心得マスク」3.800G
・忍びの心得が付与されたマスク。
移動の際に発生する音を減らす効果と、気配を少し無くす効果がある。
以上が新しく買った装飾品で、早速それぞれに装着させていくのだが、濡羽としじまが装備させたアイテムに違和感があるのか、もぞもぞと居心地が悪そうにしている。
鞍以外のアイテムは、元々プレイヤーも装備出来るアイテムで、大きさはプレイヤーが装備するのが前提で作ってあるので、2羽にはかなり大きいサイズなのである。
ただ、その後テイマーやサモナーの職業が出てきた事により、従魔のサイズでも付けられるように、装備品には自動調節機能が設定出来るようになったのだそう。
「違和感物凄そうだな」
「だな。ヨシタカ設定で不可視に出来るからしてやれ」
真司とチャンさんに言われて、ウィンドウにて装備品の表示機能をオフにする。
「どうだ?」
「カー!」「ホー!」
サイズがピッタリなのにモゾモゾしているのは、普段は付けないような物を付けている影響だろうという事で、見えないように設定したら、モゾモゾしていた2羽が「スッキリ!」って態度になった。
ちなみに、名前の通りの装備品なので、濡羽は左右の縁に鷹が描かれたゴーグルを着けるタイプで、しじまのは黒い生地の布で忍者の様に口元を覆うタイプである。
「そんじゃあ白薔薇には言ってあるから、向こうに着いたらすぐに用意してくれると思うぜ」
「分かりました!ありがとうございます」
「おうよ。ついでに結果を後で写メで頂戴」
「あー…了解です」
別れ際にニヤニヤしつつそう言われて、一瞬どうしようかなぁーって思いはしたが、こがね達の装備品の助言や、MMM作戦の連絡を白薔薇さんに入れてくれた事もあり、チャンさんのお願いを聞く事にした。
「って訳で、真司には悪いんだけど、先に白薔薇さんのショップに向かうぞ」
「ええよ!ってか、MMM作戦って生で見た事ないから楽しみだわ。ついでに撮影も俺がするから安心しろ!」
真司もチャンさんと同じでMMM作戦が何なのかを知っているので、こっちもニヤニヤしてイタズラをする子供のように笑っている。
そんな会話をしつつ白薔薇さんのお店に向かうと、すでに白薔薇さんが待機していてくれていた。
「真司!悪いんだけど皆を連れて行ってくれないか?」
「りょーかい!ブラブラしてくればいいんだろ?」
俺は真司に近づいて、白薔薇さんとの会話を聞かれないように、皆をこの場から連れて離れてて欲しい事をヒソヒソとお願いをする。
「皆は1人1個だけ好きなオモチャを買っていいぞ!ただし、あんまり高いのはダメだからな!」
「ほら、皆さーん!お求めのアイテムはこちらですよー!」
オモチャを買って貰えると目をキラキラさせた皆は、真司の後について店内を物色し始めたのを確認して、白薔薇さんが俺の元にやって来た。
「やあ、ヨシタカ君。例の物は出来ているよ。ちょっとお値段が嵩んでしまうのだが問題だが、大丈夫かい?」
「全く問題ないです!ついでに、バレないように従魔全員分のを別に欲しいのですが大丈夫ですか?」
お金の方は、闘技大会の優勝賞金と今まで貯めていた分があるので問題ない。
「ノープロブレムだよ。うちでは両方3.000G
で9匹分だから27.000Gだね。見た目一緒だから、サービスで分かりやすいように名前を書いておいてあげよう。健闘を祈る。ついでに写メの方をよろしく頼む」
「あはは。チャンさんにも同じ事言われましたよ!」
そうして皆が、「このオモチャが欲しいんですー!」って戻ってくる前に、例の物をポーチの中にしまい込んだ。
雷門乗馬クラブ、チャンさんの所と合わせると軽く10万以上のお金が消えて行ったが後悔はしていない!ので、白薔薇さんに感謝の言葉を言った後に、早速MMM作戦を実行するために宿屋へと向かった。
「この後デザートがあるから、ちょっと少なめだぞ。皆が食べ終わったら出すから、早食いはダメだからな!」
空いているテーブルの上に鳥達と真白、さらに夜空で2食分、テーブルの下に灰白さんとこがねの分で1食分を置いたら、「えっ…これだけ?」って顔をされたので、食後にデザートがある事を伝えればパァァァと顔を輝かせて食べ始めた。
俺達も目の前の定食を食べ始める。
俺のは鮎の塩焼き定食で、真司のは鯵の開き定食で、灰白さん達の分も半々で同じものである。
それぞれにご飯、味噌汁、お浸し、漬物が付いていてお値段が550Gである。
そして、これを食べ終わったらついにMMM作戦が始まる。
「ご馳走様でした。それじゃあ出していくからな」
定食を食べ終わり、器などが消えたのを確認して、それぞれにデザートを出していく。
デザートは、リアル世界で目にする可愛らしいペット用ケーキである。なので、白薔薇さんのご好意でネームプレートが付いており、それを確認しつつ皆の前に出していく。
「紅緒まだだぞ!「チュン!」……よし、食べていいぞ!」
全員の前へケーキを出す前に、紅緒が食べようとしたので待てをして、それぞれに行き渡ったのを確認してちょっと焦らしてたら、「早く早く!」って目で訴えて来たので、良しを出したら「美味しい!美味しい!」と食べ始めた。
しかし、濡羽としじまも期待して食べ始めたのだが、一口、口に含んだ瞬間に動きを止めて「おえええぇーマジュイーーー!」とゲホゲホし始めた。
「ふふん!そのケーキ不味いだろ!」
「カーーーー!」「ホーーー!」
「なんだよコレ!酷いぞ!」って俺に訴てて来た2羽に、俺はお説教も含めて説明する。
「反省して無いみたいだったけど、また今日みたいに急に居なくなったりしたら、ご飯は全部不味いのにするからな!」
「「…!?」」
「なん…だと!?」って感じに、目と口を開けて呆然とする2羽。
それを見た灰白さん達は「お前達馬鹿だろ?」「全く馬鹿なんだから!」「プププ怒られてやんの!」「あーあー僕知らない!」「アンタ達馬鹿だねー!」「ムシャムシャ!このケーキウマーーー!」「ヨシタカしゃん!ケーキありがとうですー!」と、こがね、夜空以外は呆れを含んで眼差しで見ている。
そうMMM作戦とは、M(まじで)M(飯が)M(マズイ)作戦である。
このMMM作戦に使われる食べ物は、見た目と匂いはごくごく普通に美味しそうなのだが、味が物凄く不味いのだ。
例えるならば、人間が感じる旨味以外の味を、全て悪い方向に混ぜ合わせたような感じである。なので、あまりの不味さにショックを受けるのと同時に、ご飯関係は主にプレイヤーに依存する事になる従魔達は、飼い主に逆らうと「今後の飯が不味くなる!」となるかもしれない可能性で、やんちゃや悪さをするのを止めるのだそうだ。
別名をコードXと呼び、由来はメシマズ料理の事を物体Xと呼ぶ事から来ている。
「ただし、ちゃんと反省して俺の言う事を聞くのならば、近いうちに灰白さん達が食べているのと同じものをあげるよ。今はお仕置き中だからダメだけどね」
さらに俺は、灰白さん達にも見た目は同じだが美味しい方のケーキをあげた事により、濡羽としじまは他の皆の分のケーキを、羨ましそうな顔をして見てから、自身のケーキを見て、もう一度ペロっと食べてまた悶絶する。
「かーー」
「ほーー」
ションボリした顔で、俺の前にテコテコと歩いて来た2羽は「ごめんなさい」と言うように、ペコリと頭を下げつつ鳴いた。
「うん。反省しているならば良し!」
「プフフ。オケ録画完了。各方面に連絡した。けど、せっかくの特性どうするんだ?」
ションボリと頭を下げている2羽を撫でていたら、真司が笑いを堪えつつ聞いて来た。
「そうだな。無言で行かなければいいんだから、何か合図してくれればいいかな?例えば盾コンコンしたり乗ったりとか」
鳴いて知らせる場合も考えたが、モンスターが何処にいるか分からないような状態での合図に、鳴いて知らせる場合だと居場所がバレてしまう事があるかも知れないので、無しにしたのだ。
両肩や腕に乗るのも考えたが、休憩したい時に乗る場合があるかも知れないので、それも無しにした。
「だな。そんな所が無難だろ?バラバラの合図をさせるよりかは、似たようなので一緒の方が混乱しないだろうしな!」
「って訳だから、俺から離れて何かする場合は盾に乗るか、盾をコンコンするかの合図を出してくれ」
「カーーー!」
「ホーーー!」
「雀達も、離れる時は濡羽やしじまと同じやり方で俺に合図を出してくれ。それ以外の灰白さん達は一声かけてね」
濡羽としじまは、「はーい!」って感じに両翼を広げて返事をし、他の皆にも了承が得られたので、宿屋を後にする事にした。
「さて、そんじゃあ次の目的地はここから下の方にあるから、南門の方から出るか」
そう言って南門の方を指差し、先頭を歩く真司の後を皆で付いていくと、早速濡羽が俺の盾に乗り裏の部分を嘴でコンコンしてから、スーーーと人ごみに向かって飛んで行く。
夜空を引率するのに盾を付けている左腕を肩の所まで上げていたので、乗るにはちょうど良い高さである。
「南門だからな!遅れるなよ!」
遠く離れて行く背中に声をかけるが、返事は無く人ごみに紛れてしまう。
「あーー!ワンちゃん!」
しばらく南門までの道を歩いていると、前方から声がして、女の子が両手を広げて走りながらやって来て、灰白さんのモフモフにダイブした。
「あれ?君って前にあった事あるよね?」
「あの時のお守りの子じゃね?」
「うん!アリアだよー!えっと、このワンちゃんがはいしろでー、うさぎさんがましろー赤いのがべにおー、青いのがつゆくさー、ピンクなのがさえずりー、きいっ…!?なんかふえてる!」
おそらく、この女の子の名前がアリアちゃんなのだろう。アリアちゃんは前に会った時に紹介した従魔達に指を指しながら、名前を呼んでいたが、こがねや夜空なんかは初めて会うため驚いた顔をしてキョロキョロと3匹を見ている。
「そう、増えちゃったんだよ。この黄色いのがこがねで、こっちのお馬さんが夜空。その夜空に乗っているのがしじまで、後もう…「カーーー」あっ、帰って来た。それでこの鴉が濡羽だよ」
「すごい!すごい!」
ちょうど良いタイミングで帰って来た濡羽を俺の腕に着地させて、アリアちゃんの目の前の高さまで持って行くと、目をキラキラさせてぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「また、今日も触る?」
「うん!…あっ、おつかいのとちゅうだったの。おうちかえってからでいい?」
大きく頷いて濡羽を触ろうとした瞬間に、アリアちゃんは眉を八の字にして、ショボンって顔をしつつ上目使いで自分がお使いの身である事を言う。
「なら、俺達も一緒に向かおうか?真司は急いでたりする?」
「いんにゃ、別に大丈夫だせ!」
ショボンとした顔が可哀想だったので、そう提案をし、一緒に行動中の真司にもお伺いをたてると、こちらはサムズアップして答えてくれる。
「ほんとう!じゃあ、アリアといっしょにいこう?」
「うん。いいよ」
「あのね、お家はこっちなの!」
俺の提案にパァアアアと顔を輝かせると、俺の手をギュと握り案内をしてくれる。
「グヘヘ、俺もモフモフに混ざっちゃお」
「何か言ったか?」
「べっつにー!」
ちょっと離れた所では、真司が悪い顔をしつつ何か言ってたみたいだが、小さ過ぎて聞こえないので聞いてみたら、何でもないとルンルンスキップをしながら付いて来た。
「なぁ、俺ここ知ってる」
「うん。俺も知ってる!」
「こっちなのー!おじいちゃーん!」
ここに来るまでに、アリアちゃんとお喋りしつつ向かって行くと、人混みを離れて教会が目の前まで迫って来ていたのだが、さらに教会の中へと入ってしまい、手を振りつつ大声でアリアちゃんが呼ぶと、祭壇にいた背筋がピン!とした老人がこちらを振りまいた。
「おや?アリアが客人を連れて来るとは珍しい」
自身の孫が、知らない人を連れて来たのに驚きつつ、孫デレの表情で出迎えた人物。
この人物は見たことがある。
「マジかー!この教会のお偉い様じゃん!」
そうなのだ。
この老人は、ここの大司教様であるのだ。




