勝者の咆哮
『それでは、パーティ初級決勝戦です。選手の皆さん入場して下さい』
これに勝てば優勝であり、ついにここまで来てしまったのかと思いつつ、運営の人に指示されて中央に設置されているフロアへと向かった。
ここに立つのも今日が最後で、次に来るとしたら来年になってしまう事と考えると、何だがこのお祭り騒ぎが終わってしまうのも、寂しく感じてしまう。
ふと思えば、これまでの2週間はあっという間だったなと思いつつ、ドクドクと心臓の音が大きく激しく高鳴るので、グッと右手で心臓の辺りを握り締めながら、唯さんの決勝戦を思い出した。
「ヨシタカ君こっちこっち!一緒に見よー」
「はーい。隣失礼しまーす」
「はーい。どうぞー」
唯さんを見送った後、マチさんのウィンドウで唯さんの試合を観戦する事にした。
控え室は広いと言っても、数百人が入っているので、全員がウィンドウを展開すると邪魔になる。
なので、だいたいパーティほどの人数で固まり、その中の1人のウィンドウで試合を見るのが、決勝時の暗黙のルールであるようだった。
もちろん、試合前にそんなの見たく無い!って人もいるので、その人達用に仕切りが用意されていたりする。
そんな訳で、俺はマチさんのウィンドウで試合を見る事にした訳だ。
アーサーさんと和葉さんは、仲間が全員揃ったとかでそっちへと帰って行った。
マチさん曰く、「どうせ、唯ちゃんが居なくなったから向こうへ行ったんだよ!本っ当に唯ちゃん命だよねー!」なんて言っていた。
そんな雑談をしてしばらく待っていると、画面に唯さん達が出てきた。
「やっとあの防具の性能が分かるよー!」
マチさんはあの防具の性能を知りたいのか、早く!早く!と言いながら試合が始まるのを待っている。
俺も唯さんの試合が始まるのをワクワクしながら待っていると、ソロ無差別級の準決勝が始まった!
「…あれ?こんなに真っ白でしたっけ?」
開幕早々に唯さん目掛けて大量の魔法が飛んで行き、あっ!て思った時にはすでに、控え室がシーンと静まり返っていた。
唯一ザワザワしているのは、俺みたいな初級っぽい外見のプレイヤーだけで、それ以外の人達は1秒も見逃さないとウィンドウを凝視している。
「えっ?ちょっと嘘でしょ?あれだけ喰らって無傷とかあり得なくない?えっ?無効系?えっ?そんな防具出てたの?」
隣でさっきの俺の言葉が聞こえ無かったのか、マチさんも呆然としつつ早口でまくし立てるが、俺にはそれがどの位凄いのかと言うのが分からないので、ただ画面を見ているだけしか出来ず、もし舞姫さんが近くにいたら解説をしてくれていたかもしれない。
ただ、最強の名は伊達では無く、唯さんはこの場にいる数々のプレイヤーを黙らす事が出来るのだと知り、改めて凄い人なのだと実感した。
そして、決勝でも唯さんは数々のプレイヤーの度肝を抜かしてライオンみたいな人に勝利し、ソロ無差別級の優勝者が決まった。
その時の事を思い出せば、この緊張も興奮へと変わっていき、女性と男性で違うのだけど、俺も唯さんみたいに周りが注目する様な試合をしてみたいと、グッと片手剣と小楯を握り締めた。
『さぁ、決勝へと進んだのは、この2チームだぁ!画面右のパーティは、初級では珍しいテイマーであります!対するはこれまでの試合では、戦闘バランスの取れたチームでありますね!』
『どちらが優勝しても間違いは無いですね』
『選手の皆様、準備は良いですかー!』
司会者の問い掛けに対し、俺と向こうのリーダーが手を挙げて答える。
『それでは、パーティ初級試合開始!』
「GO!」
試合のブザーが鳴り俺の合図で、いつも通りに灰白とこがねが一直線に相手に向かって駆けだした。
狙うは最奥にいる魔術師狙いだ。
紅緒と露草も、それぞれの背中に乗せて貰っている。
今回戦うパーティは、2・2・2の遊撃、盾職、魔術師とバランスの良い構成だと真司達が言っていた。
では、どうやって攻め落とせばいいのか悩んでいたら、唯さんが「魔術師2人が範囲攻撃、または高火力の魔法で敵を一掃し、その魔術師を狙う相手を盾職のプレイヤーが守り、相手の魔術師を遊撃が攻め落とすのが基本スタイルで、場合よって違いはあれど、あれだけの熟練度ならば優勝候補に入ると思うな。だけど、初級の場合は全員の攻撃力と防御力は同じ…ただ、スピードとかは制限が課せられている訳でない。なので、ヨシタカ君達はそこを生かす戦い方をした方が良い」
と言われたので、後衛に控えている魔術師の攻撃が入る前に、灰白とこがねが向かう。
たとえこっちの攻撃が間に合わなくても、勢い付けて迫り来る肉食獣は、慣れていなければビビって貰える確率が高く、詠唱をキャンセルにすれば魔法は不発になってくれるので、とにかくこの2匹には先制に出てもらった。
そんな2匹の前を塞ごうとした盾職の格闘家と、俺と同じ片手剣と小楯持ちの2人を、灰白は大きくジャンプし、こがねはスルリと交わして魔術師目掛けて突進する。
その時に、屈んで盾を構えていたプレイヤーの頭を踏み台にするオマケ付きだ。
「わっ!くそ!」
軽く踏みつけた程度ではほとんどダメージは入らないが、一瞬の隙が出来たらこっちのものである。
魔術師の方へと向かおうとする前に、紅緒が相手を丸焼きにし、露草の方は相手を水浸しにして、ついでに行動阻害も入ったのか、先ほどよりも動きが鈍くなっている。
「うわっ!」
「ぐわっ…ち!」
ジタバタともがく盾職に、紅緒と露草はさらに攻撃を重ねていく。
そんな2匹に負けじと、俺も仲間の方へと向かおうとしていた双剣使いの行く手を阻んで、攻撃を仕掛ける。
「くっ…この人上手いな」
双剣の利点をフル活用して、様々な攻撃をしてくる相手に若干戸惑いつつもなんとか捌いていていく。
特訓の成果が出ているのかもしれない!
「ワン!」
その時、後方から灰白に吠えられる。
「うわっ!」
バッと振り返った時には、近くにハンマー使いが待ち構えていて、俺は慌てて小楯を構えた。
双剣使いに夢中になり過ぎて、周りの確認を怠っていた!
「…っいてて。あっ!」
何とかガードは出来たのだが、横殴りでハンマー使いに殴られて吹っ飛んでしまい、なんと俺は場外に出てしまった!
「おっと兄ちゃん。こっから先は行かせねぇぜ!」
「あんた達!そっちのワン公抑えときな!」
「ちょっ!マジか!」
「鳥ウゼェ!」
どうにかフロア内に戻ろうにも、先ほどのハンマー使いと双剣使いがガードしていて入るに入れず、真白もどうにかしようとしたのだが、先ほどの2人に邪魔されて時間内に戻る事が出来ずに、俺は失格となってしまった。
「うそーん!…うぅ、戦闘だと俺役にたたねぇー!クッソー!皆頑張れー!」
場外失格となってしまったので、俺に出来る事はフロア内に残っている皆の応援をする事しか出来ない。
ただ、テイマーの利点として俺が戦闘不能になっても灰白さん達は戦い続ける事が出来るので、皆に託すしかない!
「俺の分までがんばってくれー!」
『試合終了ー!現在フロア内に残っているのが3対2、さらに判定での結果が出ました!テイマーのヨシタカパーティの優勝です!』
「ワオォーーーン!」
場内に残っているのは、灰白さんとこがねと露草で、灰白さんが勝利の雄叫びを上げている姿は様になっていて、ぶっちゃけかっこいいと思ってしまった。
対戦相手の方はハンマーと双剣が残っていて、お互い悔しそうだったが、笑顔でこっちに手を振って来た。
『テイマーのプレイヤーがいち早く場外というアクシデントはありましたが、テイマーの利点を生かした素晴らしい戦いでしたね。優勝おめでとうございます』
『おめでとぉー!皆も拍手ー!』
【ヨシタカ様、優勝おめでおうございます。新しい称号が付与されました。優勝アイテムを冒険者ギルドにて受け付けています。受け付け期間は1ヶ月です】
「うわわぁー。しちゃった。優勝」
「おおっ、おめでとー!いやぁー、負けちゃいましたぁー!ヨシタカの所のワンちゃん強いねー!」
優勝した事に呆然としていたら、隣で体育座りをしている魔女っ子リリちゃんが声をかけて来た。
「いやいやー、俺もリリのお父さんに速攻で場外に出されたからね!」
「あはははは!お父さんとお母さん息ピッタリでしょう」
フフン!と腰に手を当てて自慢げに言う。
実は対戦チームは家族での参加で、お父さんがハンマーでお母さんが双剣。盾職はそれぞれがお兄さんで、もう1人の魔術師はお姉さんだそうだ。
早々に場外失格になった俺の所にリリとお姉さんが来て軽く世間話をしていたのだ。
そのついでとばかりに、フレンド登録なんかも済ませていたりするが、ちゃんと灰白さん達の応援もしていたぞ!
ちなみにお姉さんは、恍惚とした表情で真白を撫でている。
どうやら、ペット禁止のマンションなので、動物好きとしては黙っていられなかったのだとか。
「ワンワン!」
「ん?わっ!バカッ!」
そんな俺達の所に灰白さん達がダッシュで突っ込んで来て顔中ペロンペロンのぬるんぬるんでヨダレまみれにされる。
さらに俺の上で、灰白さんとこがねの場所取り合戦みたいになり、色々な所を踏んでいく。
「ちょっ!まっ、踏んでる!俺の大事な所踏んでる!」
「あはははは!ヨシタカ、超ヨダレまみれ!うけるー!」
「灰白さん。痒い所は無いですかー?」
「クゥーン」
試合が終わった後は、運営の人に「表彰式が始まるまではご自由にどうぞ」と言われたので、真司達がいる観客席に来ていた。
結局、俺の活躍はほとんど無い試合だった訳だが、軽く説明すると、俺が場外に出される前に灰白さんとこがねが魔術師達を場外に出して、それぞれを10カウントの失格にさせてからこっちに来ようとした時に、俺が危ない場面だったので助けに行こうにも間に合いそうに無かったので、あえて吠えて注意を促そうとしたのだが、俺があっさりと場外に出てしまい、さらに10カウント内に戻る事が出来ず失格となってしまった後の灰白さんは、「よくも私の主人を!」みたいな感じで、俺の代わりに皆をリードして優勝に導いた訳である。
なので、今回のMVPは灰白さんであろう!って真司がすごい勢いで言って来たので、ご褒美のブラッシング中である。
チラッと俺の周りにいる従魔達を見ると、物凄く羨ましそうな顔でこちらを見ている。
今日の従魔の数は今までの中で1番数が多くて、その理由はこの前の掲示板で知り合った面々が勢揃いしているからである。
観客席に向かう時に、昨日までの真っ白いスペースが出来ていなかったので、皆どこに居るのだろうかと迷ったのだが、真司からの「物凄くモフモフしている所にいるぞ!ここはまるで天国の様だ!」って、書かれているメッセージが届いて辺りを見渡せば、確かに動物の群れの様な集団があったのでそこへ向かってみると、俺が知らない人が結構居た。
「おう、坊主!ここ、ここ!ここ空いているぞ!ついでにここにいるのが今日の打ち上げのメンバーだぞ」
「あっ、チャンさんお久しぶりです!」
それからしばらくは、「初めまして〜です。よろしく!よろしく!」コールが始まった。
そして一通り初対面の人達と挨拶が済んだと言う事で、真司が押す功労者の灰白さんのブラッシングしていたと言う訳だ。
余談だが、そんな彼らが連れている従魔も、ヨシタカが近くに来たらいつもの様に群がって来てしまい、「第2回ヨシタカの定位置は俺だ!戦争」が開催されようとしていた。
ちなみに、俺が場外に出るまでの事は唯さん達に解説されていて、試合を見ていたいつものメンバーと初対面の人にまで「ドンマイ!」と肩を叩かれた。
ちっくそう!分かっているよ!
断然俺より灰白さんの方が、戦闘面で役にたつって事は!
今は俺の下でデロンデロンに溶けて居るけど、舞姫さんが録画していた試合を見ても、無駄の無い動きで本当にカッコ良かった。
「さって、お昼ちょい過ぎ位には終わりそうだけど、ヨシタカ君何か食べておく?それとも我慢しておく?」
ヒョイっと俺の顔を覗き込みながら舞姫さんが聞いて来た。
今は11:20分頃であり、お昼頃ではあるのだが、打ち上げの事を考えるとあまり食べ過ぎない方がいいのかな?
「あー、ちょっとお腹空いたので何か軽めに食べておきたいですね。いつも大体どれ位に終わりそうですか?」
「そうねぇー去年は15時頃には表彰式だったかな?そっから移動も含めると、早めの夕食位には始められそうだけどおにぎりでいい?」
「あっ大丈夫です。ありがとうございます」
舞姫さんから皆の分も含めて貰う。
パクリと食べてみると、なんと中にはイクラが入っていた!それにもう1種類はトウモロコシを混ぜ込んであるおにぎりである。
「今日の朝お父さんと作ったんだよー」
「どっちも北海道の特産だからな!坊主、たんと食えよ!」
「お父さん美味しいです!」
舞姫さんがそう言うと、ヒゲもじゃの熊みたいな人が手を上げて答えるので、お礼を言う。
その後は、ワイワイと騒ぎながら試合を観戦して過ごして表彰式まで待った。




