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最強の本気

お久しぶりです。

皆さまお待たせしました!


フロアへと続く廊下の先で、2人の男女が両端に立っていた。

お互いに、運営の指示があるまではここで待機なのを知っているので慌てたりせず、お互いを意識しながら時間が来るのを待っていた。


「久しぶり。1年ぶりくらいかな?」


「お前、闘技大会でしか対戦受付無いからな。…勝ち逃げなんて許さないからな」


唯は、隣にいる知り合いであるハンターに軽く挨拶をして見るのだが、ピリピリとした返答が返って来る。

最後の方の言葉は独り言の様にポツリと言ったのだが、唯にはちゃんと聞こえていた。

目線は合わせていないけど、向こうは確実に闘争心が剥き出しだと分かる雰囲気を醸し出しているのが分かる。

まぁ、それもそうかもしれないかな?と、唯は内心で思った。

何せ、唯を除けば彼も優勝候補で、去年はもう1人の優勝候補であったレオに負けて唯と戦えず、もし仮に唯が今年優勝してしまうと殿堂入りになり、ここでは2度と戦えなくなってしまう。

対戦モードとしてプレイヤー同士が戦えるモードもあるのだが、お互いにそれは望んでいない。

何故なら、お祭りとして戦う事に意味があるのであって、普段だったら攻略の方に走りたいからだ。

主に「唯」が、であるが。


「ん?どうしたの?」


チラチラとした視線を感じ、唯が頭を傾げながら聞いて見ると、声を掛けられたからか、今度は目を逸らさずに上から下までじっくりと観察する様に見つめられる。

普通だったら、こんな風にじっくり見られでもしたら「きゃー!変態ー!」なんて起きようものだが、そんな事は無い。

何故なら、初めて見る唯の装備がどのような性能をしているのかを、時間が許す限り解読しようとしているからだ。


「いや、それは今日が初見だよな?」


それとはもちろん、唯が身に付けている一式装備の「天地双界」である。


天地双界は武器と防具、両方合わせて更にある称号を入手していなければ本来の性能を発揮出来ない面倒くさい一式装備ではあるのだが、今回の決勝に上がるメンバーを見て、「おっ!これは着て来いって言う神の命令が聞こえる!」などと思った唯が、ヨシタカ達の特訓の合間に、舞姫と共に普段の装備との違いを調整していたのである。


「もちのろんで、つい最近揃ったからね。

今日が初披露であってる。知り合いのよしみで助言してあげる。最初から本気で行くから、ちまちましてたらあっという間に終わるかもね?」


「ハッ!望む所!」


舞姫にはすでに知られているのだが、その他大勢に見せるのは今日が初めてだし、掲示板などにも載せていないので、場に存在が認識されて無いのは、あながち嘘では無い。


お互いに殺気を纏い牽制していれば、ソルトの声が響いて来て唯達の紹介をし始め、ついに本戦が始まろうとしていた。


『では、入場して頂きましょう!皆様お馴染みの、全プレイヤー中最強の戦力を誇る【最強 唯】と、剣と魔法を巧みに操る【魔剣士 ハンター】の登場です!』


歓声が響く中、唯は全てを無視してフロアへと立ち、深呼吸をしてすぐに攻撃体制へ移れるようにしてから、目を閉じてブザーが鳴るのを待つ。

対してハンターは、視線をあっちこっち移しながら魔法の準備をしていた。


『それではソロ無差別級準決勝、唯vsハンター試合開始!』


「…界、天」


試合開始のブザーが鳴るとともに、唯は何かを言ったのだが、唯めがけて無数の火の玉が襲って来て、その衝撃に辺り一面が土煙に覆われて視界が奪われると同時に、爆音により唯が言った言葉も掻き消されてしまう。

その隙に、ハンターは次の魔法を用意しつつ、唯の出方を見極める。

ハンターも無差別級の常連であるが、牽制の様に放たれた攻撃は、唯の強さを良く知っているからこその様子見である。

何故なら、唯が言った「初見」の言葉の意味を良く知っているからであった。


『おおっとー!ハンター選手、早速試合開始と共に無数の火の玉を唯選手にぶつけたー!

おかげで、唯選手の辺りが土煙に覆われ全く見えませんが、いくら唯選手でもさすがにあの数の攻撃は…およ?なななんとー!無傷であります!風魔法で払われた土煙から出て来た唯選手!無傷であります!』


『おや?やはり、あれは天地双界ですね』


観客席ではどよめきが起こるが、唯一2人の人間は平然としていた。

1人は舞姫で、もう1人は運営で司会者席にいる菜々緒である。


『えっと、唯選手の防具が先程とは異なるのですが、ちょこっと性能を教えて頂く事は出来ますかね?』


『えぇ…ううーん。一応そう言うのは運営が答えちゃいけないのですが、そうですねぇーまぁ、この見てれば分かるのと、揃えるのが大変って事くらいですかね?あとは唯選手が教えてくれる事を祈りましょう!』


『おおっとー!分かっていたけど、聞いても謎が深まるだけでしたー!』


フロアでは、「うぅーん」と唯が伸びをした後に砂をはたき落としている姿を見て、いくら無差別級であるハンターも驚きを隠せないでいた。


「なっ!嘘だろおい!」


ハンターが驚愕するのも当たり前で、如何に高い防御力や耐性を持っていても、攻撃が当たったのならば幾らかはHPバーが減っていなければならないのだが、唯の頭の上に表示されているHPバーは試合開始と同じく減少などしていなかった。

そして、先程と異なり黒い部分が全て無くなっている防具を見て、その性能を試すべく今度は水属性の攻撃を仕掛け始めた。


「くそっ!」


ハンターは先ほどの攻撃が全て火属性での攻撃だったので、今度は火以外の属性でどれが有効かを探るために、手当たり次第に攻撃していくのだが、徐々に顔色が悪くなる。

何故なら、火属性以外の攻撃もすべて全くと言っていいほどダメージを与える事が出来ないからであった。

ハンターが攻撃したものの中で、唯一微かにダメージを加えられてたのは、小さい石による攻撃のみであった。


「なるほどな…魔法攻撃全無効って訳だ」


「当たり。ってな訳で、こっちから攻撃行くよ?」


「ちっ」


唯が使用しているスキルの性能を理解したハンターは、舌打ちした後に唯に突っ込んで行った。

自身の二つ名である【魔剣士】の、魔法の大部分を完全に封じられているのだから、ハンターは己自身の剣技で唯に勝たなくてはならない。

先程の小さい石は、風魔法によって吹っ飛んだ試合会場のかけらが、偶然唯に当たってダメージが入ったに過ぎず、もう一度狙おうにも入るダメージは微々たるものだし、足場になる部分が大破してしまうので使う訳にはいかなかった。



『またしてもハンター選手に大量の雷が直撃です!これは痛い!唯選手は更に、上位の魔法をハンターにバンバン打ち続けています!…あぁっと!ここで試合終了です!ハンター選手を打ち破り、勝者したのは唯選手だー!』


『まさしく、最強に相応しい攻撃の数々でしたね』


いくら魔法が封じられていても無差別級に出場し、準決勝まで進める程にはハンターの剣技のLvは高いのだが、それよりも唯の方が上手であり、4割ほどしか唯のHPを削る事が出来なかった。


「あぁー!負けた負けた!」


地面に力尽きた様に、ハンターが大の字にバッタリと倒れ込み、その上から唯が手を差し伸べた。


「けど、ナイスファイト!ここまで削れたのは対個人戦で久しぶり」


「…えっ、マジで?」


差し出された手を掴もうとしたが唯の言葉に驚き、手を掴もうとした体勢のまま固まってしまい、ポカンとした表情で唯を見つめてしまう。


「マジで」


グッとサムズアップしつつ、真剣な表情で唯は答え、中途半端に伸ばされているハンターの手を取り、よいしょっと立ち上がらせる。


「そっか…えへへ。なぁ、最後に握手いいか?」


ハンターはその言葉の意味が分からず一瞬動きを止めたが、唯に立たされた後、言葉の実感を感じたのか、ちょっと照れ臭そうに頭をかきつつ、手を差し出した。


「もちろん」


グッとお互いの手を握り締める2人に、観客席からは大歓声があがっていた。

そんな2人を、ギラギラとした目で見つめる1人の男がいた。





『さぁ、お待たせしました!ソロ無差別級決勝です!これでソロの試合は全て終わりになり、また唯選手が勝ってしまうと殿堂入りになってしまいます!果たしてそれを防げるのか!それでは入場していただきましょう!【最強】の唯選手と、【百獣の王】レオ選手の入場だー!』


ついにソロもこれで最後なり、観客のボルテージも高まっている。

ソルトが言うように、唯がこれに勝ってしまうと殿堂入りになり、もう闘技大会での勇姿を見ることが出来なくなってしまうからだ。


「やぁ、レオ。ヤられる準備は出来ているかな?」


「ふん!唯はその装備で大丈夫なのかよ?残念だが、俺はハンターと違って魔法は使わねぇぞ!」


「うん、知ってる。私達の試合の時に、舐め回すように見ていたけれど、問題はない」


「なっ!そんな風に見てねぇよ!」


そう、唯とハンターの試合をギラギラと見ていたのはレオである。

彼もまた、唯に勝とうと必死に2人の戦闘を見ていたのだが、唯に言外に変態と言われてしまい、つい顔を真っ赤にしながら怒鳴ってしまう。

シャイな一面がある男の子なのである。


『それでは試合開始ー!』


フロアに立って呑気な会話をしているが、容赦なく試合開始のブザーが鳴る。


「双界、地」


「獣化!」


『さぁ!早速レオ戦闘の十八番獣化です!ヤル気満々って事ですね!それに対して唯選手は、今度は全身が真っ黒になっています!』


ソルトが言うように、2人は同時にそれぞれのスキルを発動させて見た目が変化する。


「グルルルルルル…ガウ!」


レオの獣化は言葉の通りに、部位ごとに獣になるスキルで、現在のレオの姿はライオンの半獣のような姿をしている。

簡単に言えば狼男のライオン版みたいな姿である。

それに対して唯の姿は先程とは違い、全身が真っ黒に染まり、手にはこれも真っ黒な鎌が握られている。


「あぁ?どう言う事だぁー!」


獣化したレオは、すぐさま唯に殴りかかったのだが、唯にあっさりと片手で受け止められてしまう。

普通なら、獣化したレオの攻撃をそんな風に止める事は出来ないので、観客もレオ同様に驚きざわめいている。


『なななんとー!レオ選手の渾身の一撃は、唯選手に簡単に受け止められたー!しかもこれまたダメージは受けていない模様!これはどう言う事ですか!』


司会者として何度も担当しているソルトは驚きはしたが、それよりも優先すべき事がありすぐさま菜々緒に聞く。


『それはですねー。天地双界のスキルによる効果ですね。天と地2つの世界を統べる者に使う事の出来るスキルで、天は先程のハンター選手の様に、魔法系全般の攻撃を無効にし、自身の魔法攻撃の消耗をかなり減らす効果があります。地はご覧の様に、物理攻撃を完全無効にする効果がありますね』


菜々緒の解説に観客はどよめき、聞こえていたレオも内心焦り出していた。

なんせレオは、魔法系をほとんど習得していないので、もう負けが決まっているようなものだからだ。

ただ、菜々緒の解説も全てを言っている訳でわなく、双界・地の場合は物理無効と、クリティカルと武器の切れ味も上昇させる効果がある。

それと引き換えに、1度使えば12時間のリキャストタイムが必要と言う連戦には向かないスキルなのである。


「ね?さっき言った通りでしょ?」


ふわっと微笑みつつレオに言うが、言われた方からしてみたら、それは恐怖以外の何者でも無かった。




「おっ!最強ちゃん、お疲れちゃーん!」


「おっとと」


弧を描くように舞ったお酒をナイスキャッチし、白薔薇達が開けておいてくれた観客席にどっこいしょっと座るやいなや、グビリグビリとお酒を飲み始める。


「おいおいおい、最強ちゃん!先に何かしらのお言葉は無しかよ!」


「…ん?えっと、お代わりある?」


「ちげーよ!」


もう飲み終わったのか、早速お代わりを要望する唯にチャンがつっこむ。

こんなやり取りをするはずでは無かったチャンは、ガックリと項垂れるのだが、唯我独尊系の唯と舞姫のツッコミ担当が決まった瞬間であった。

この場にいるのは打ち上げのメンバーでほぼ全員が揃っており、今ここにいないのはまだ試合が残っているヨシタカ達とマチ、それに北海道にいるお父さんと、そんなお父さんの手伝いをしに行った舞姫のみである。

それ故に、ここには白薔薇以外の従魔達が大勢集まっており、小さいの大好きなハルやもふもふ命の真司の顔はだらしなくなっている。


「さって、残るはマチとヨシタカの坊主だな」


「まぁ、唯と舞姫が師事したのだから大丈夫じゃないかな?」


「ん。頑張ってほしい」


新しいお酒を貰い乾杯しながら、次に出てくるヨシタカを応援する唯達であった。



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