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闘技大会本戦〜控え室での騒動〜

ついにやって来た本戦の日!

最終日と言う事もあって、入り口はすでに人がごった返しになっている状態であり、売店なども長蛇の列が出来ているほどであった。


「これは真司達の言う通りにしておいて良かったな」


「ガウ」


昨日の帰りに、どうせ明日も混んでいるのだからと、売店で次の日の朝食を買おうと言う話になったのだ。

なので俺達はあの列には並ばずに、朝食のホットドッグを食べている。

昼食は真司達が買っておいてくれているらしいので、「本戦が終わったらそのまま合流しに来ちゃって!」と舞姫さんから言われている。


「うーん。やっぱり最終日って感じで緊張するな」


今日の為に早めに寝たりしたけれど、やっぱり緊張しているのか、手が震えてしまうので両手でグーパーしつつ緊張をほぐしながら、唯さんが来るのを待った。


「おーい!」


「あっ!唯さーん!こっちですー!」


9時を少し過ぎた辺りに、少し離れた所から現れた唯さんが手を振りつつ来た。


「お待たせ。それじゃあ行こっか」


「はい!」


そのまま控え室へと向かう道すがら、ふと唯さんの雰囲気がいつもと違う事に気付いた。

それといつもと違う装備だ。


「今日はいつもの装備と違うんですね」


普段の白銀の鎧とは異なり、白地に黒の蔦が纏わり付いている様に彩られていて、さらに光の当たり具合でも濃淡が違がって見えるのだ。


「ん?うん。今日で最後になるからね。派手にやろうかと」


「へー!控え室で応援してますね!」


「ん。ありがブフ」


そう言いつつ控え室の扉を開けた瞬間に、目の前に大輪の薔薇が現れて、こっちを見ていた唯さんは思いっきり薔薇にぶつかった。

俺は唯さんの後ろに居たのでぶつかりはしながったが、こんな真似するのはあの人しかいない。


「あぁ!愛しい唯。今日でここで会うのも最後になるのだと思うと、とても残念だ!…さぁ君の為に用意したこの薔薇を受け取ってくれるかい?」


「はぁ…そこ邪魔」


「おっと済まない。おっ?ヨシタカ君も一緒か!お互い頑張ろうね」


「あっ…はい」


唯さんの邪魔発言と、シッシッて手で払われたアーサーさんはスッと後ろに下がったので中に入る。

その時に、俺に気付いたのか挨拶してくれたけど、改めて変人さんだと思う。

昨日のレギオンと時はかっこ良かったのに、本当に唯さんが相手になると残念な人だ。


「こっち」


唯さんに手招きされたので、付いて行った。

早い時間だからか人はまばらだけど、後々混雑するだろうからと、試合会場に近い場所に陣取った。

当然アーサーさんも付いて来ている。


「さっきは邪魔して悪かったが、この薔薇達は僕の気持ちでもある。受け取ってほしい」


「ん…ありがとう」


ちょっとしょんぼり顔になりながら片膝をつき、唯さんに薔薇を手渡し、受け取った唯さんはスーと薔薇の匂いを嗅いだ後にお礼を言ってから仕舞った。


「それはそうと…今日の装備は初見だな」


均等に並べられているベンチに、唯さんを中心にして座りながら、アーサーさんが唯さんの装備を真剣な表情で見ながら聞いてきた。


「アーサーさんも初見なんですか?」


「あぁそうだよ。基本唯はソロプレイヤーだし、僕はクランのメンバーとやっているからあまり唯に会えないし、たまに僕達と一緒のクエストに行く時はいつもの着て行くしね」


「普段は「白銀の戦乙女(重)」で事足りるからね。今日で最後の大会になるだろうから、特別にこれを着て着たの。天界と魔界をソロでやる時はこっちを使うから、私の本気を見せてあげる」


ふわっと微笑みながら言われたけれど、ゾクっと背筋が震える。

周りの雰囲気もなんだかピリッとした物に変わってしまい、そばにいる灰白さん達も、さっきの雰囲気に当てられたのか毛が逆立ってしまっている。


「あっごめんね」


周りの空気に気付いた唯さんがフッと、元のふわんとした雰囲気に戻って、周りの人達もホッとした感じになる。


「こらっ!さっきの唯でしょ!周りを不用意に煽らないのー!まったくこの子は」


そんな中1人の女性が俺達の所へと来て、唯さんにデコピンをかます。


「うふふ。ごめんごめん」


デコピンされた場所をさすりながらも、その女性に謝る唯さん。


「うふふ、ごめんねー。でも、皆にも知って欲しいんだ。極めれば私のようになれるんだって事。それで、早く私のいる所まで来て欲しいかな?じゃないと普段活動している所にほとんどプレイヤーいないからさ」


「ちょっと…唯。貴女どこまで行っているのよ?」


「ん?多分一番遠くだと、魔界の沖縄と天界の北海道かな?本当に、端っこだと1箇所しか町が無いからアイテムの補充大変だよー」


天界と魔界、または天国と地獄と呼ばれているのは、このゲーム内の隠しダンジョンとも言える要素で、天界に行くには鹿児島の百合

ヶ浜、魔界は青森の恐山にいる門番をクリアすると行く事が出来るのだが、推奨Lvは500以上となっている。

ただ、Lv500が着れる装備でも、天界と魔界内のいわゆる雑魚となるモンスターの攻撃でも6割ほど喰らうのだと言うのだから、ソロで攻略している唯さんの凄さが、よく分かると言うものだ


「おいおい。僕達でさえ両方とも本土で足止めなのに…さすが唯タン!」


「ウッゼ…ところでこの子は?私この子どっかで見た事あるのよねー?」


唯さんを褒め称えるアーサーさんに、心底呆れとウザそうな顔をした後に、こっちを見て指差しながら唯さんに聞く。


「この子はヨシタカでテイマー。彼の周りにいる従魔は彼のだよ。こっちは和葉。あぁ、あと、真司のリアフレ」


「よろしく。私は「Adults' party」所属、副団長の和葉。一応こいつのお()り担当だから、これに何かされたら遠慮無く言うんだよ!」


「よろしくお願いします。ほら、皆も」


これと、指差しながら言われたアーサーさんは、「これとは何だ!」とプンスコしているけど、それを遮るように灰白さん達が和葉さんの前に出て、それぞれのやり方で挨拶をする。


「んー?和葉が見たのは、アーサーが私の所に来た時じゃないかな?ほら、予選5日目の時」


「ふむ、確かにあの時は両者居たはずだからな」


5日目と言うとあの時かな?

アーサーさんのお仲間がたくさん居たから、あの中に和葉さんが居て、俺を見たって事かな?


「いや、それよりも前だった気がするんだよね。んー…あっ!君、唯と舞姫にキスされてた子だよ!あースッキリー!」


「あぁー!」


それって、初日に2人からキスされたやつだけど、そうか、見られてたのか!

いや、あそこにはそれなりに人が居たから、他にも見てた人が居たかも知らないと思うと恥ずかしいー!


なんて思っていたら…


「ちょっとヨシタカ君!今のはどう言う事かな?お兄さんに遠慮せずに言ってごらん!さぁさぁさぁ!」


「あばばばば」


ガシッ!とアーサーさんに両肩を掴まれてグワングワンと揺さぶられる。

それに目が必死過ぎてガチで怖い!

灰白さん達もそんなアーサーさんにドン引きであるようで、動けないでいる。


「止めんか馬鹿者!」


「ッテー…和葉、邪魔するな!これは一大事なん…あだだだだ!」


和葉さんが、暴走したアーサーさんの頭をハリセンで思いっきり叩いて止めてくれたのは良いのだが、今度は文句を言ったアーサーさんのこめかみの辺りを、グーでグリグリしてお仕置きをしている。

あれって昔母さんにやられたけど、結構痛いんだよな。


「ヨシタカ君。あんな大人になっちゃダメだからね」


「なろうにも、なれないですよ。あんなの」


しばらくそんな2人を見てから、ポツリと唯さんが言ったけど、アーサーさんみたいになる片鱗を持っているのは、動物限定だけど真司だろう。

俺はあそこまで熱中する何かって、勿体無いからなぁ…


「…よう。小僧と最強、久しぶりだな。ところで…うちのアホと和葉は何やってんだ?」


「ヒェッ!」


ふと、くぐもった声が聞こえたので振り返ると、そこには返り血が付いた仮面とエプロンを装着している大きな化け物がっ!


「あれ?ブッチャー久しぶり。あれはかくかくしかじかで…」


「あぁ、いつものやつか」


「ん、様式美なの。それと、ヨシタカ君怯えているんだけど、ブッチャー何かしたの?」


「いや…特には」


もうブッチャーさんの見た目がアレ過ぎて、思わず唯さんの後ろに隠れてしまった俺は、目の前の怪物改めプレイヤーがブッチャーさんだって事が分かり、唯さんの後ろに隠れた事が恥ずかしくなり、顔が赤くなる。


「大丈夫です。ちょっとグロ系のホラーが苦手なだけで、ブッチャーさんに何かされたって訳では無いです」


「そう?なら、ちょっと前に…あっ、やっぱりそのままで」


「えっ?」


唯さんの影から出ようとしたその瞬間に、グッと唯さんに抱きしめられる。


「えっ!ちょっと唯さん!こんな事したら、またアーサーさんが暴走するんじゃ!」


なんて思った瞬間に、目の前に巨大なモンスター達が襲い掛かって来た!


「うぉっ!」


「フンッ!」


モンスターの波に、俺と唯さんの前に居たブッチャーさんが飲み込まれ、そのまま突撃をかまそうとした所を、唯さんが何らかのスキルで弾き返した。


「キャーごめんなさーい!ちょっとーあんた達人様の前で何してんの!」


「こっちは大丈夫だよ」


目の前で目を回しているモンスター達の後ろから、女性が慌ててやって来るので、唯さんが大丈夫だと手を上げて答える。


「おいおい、俺ごと巻き込みやがって」


「まぁ、別に大したダメージじゃないでしょ?」


「まぁな」


「そっちは大丈夫?」


「なんとかー!」


「一体どうしたんだ?マチらしくないぞ」


モンスターの波に飲まれたままだったブッチャーさんが、唯さんに文句を言いつつ立ち上がり、それに手を貸しながらも唯さんが返事を返し、ついでに和葉さんとアーサーさんの無事を確認する。

2人は騒動が起こった直後に、思いっきり後方へと飛んでいたので無事であった。

あんな人だけど、危機察知能力高過ぎ!


「本当にごめんね!普段は大人しい子達なんだけど、ここにくる途中でそわそわし出しちゃって、扉開けたら猛ダッシュするんだも

ん!ビックリしちゃった」


「あっ!ごめんなさい。それ俺が原因かも知れないです」


事情を知っている唯さん以外の人が、頭に「?」を浮かべているような顔になるが、説明しても良いのか判断に迷う。


「えっと…」


「このメンバーなら、説明しても大丈夫。皆良い人。って訳だから、皆も他言無用で。ヨシタカ君に何かしたら…」


「ヒーー!言わないです!言わないですからその殺気を鎮めてくださいー!」


唯さんの殺気に、マチさんと言われた人が慌てて土下座しだす。


「えっと、リアルでも俺、動物に好かれやすいみたいで、それで、こっちに来たらそれがモンスターに適用されたみたいで、ユニークスキルになっちゃったんでテイマーになったんですけど、多分、それでこんな事になったんだと思います」


事の説明をしたら、ガバッとマチさんが顔を上げる。


「んぉ?と、言う事はもしや君は…ヨシタカ君かな?」


「あっそうです」


「うぉっほーい!お仲間増えたー!私はマチだよ!よろしくね!ここら辺のは私の従魔達だよ!」


土下座の状態から飛び上がり、俺の両手を掴み万歳されられる。


「なぁ、マチよ。未だ気絶状態で放置するのは流石に…」


「うん。可哀想なんじゃないかな?」


「えっ、また暴走しそうだからヨシタカ君が出るまでこのままでいいよ?」


そんなマチさんに、ブッチャーさんと和葉さんが、放置されっぱなしの従魔達の心配をするが、そんな事を言われたの従魔達は放置される事になるのだった。

その後、皆で本戦開始の時間になるまでワイワイと話し合っていた。



『さぁ、お待たせしました!泣いても笑っても、勝者と敗者が決まってしまう闘技大会最終日!これより開幕です!』


10時ぴったりに本戦が始まったと宣言され

て、ここからでも聞こえる程の歓声が響き渡る。


『最初は、ソロ初級の上位2名の登場になりますね』


『こちらでの勝者と、次の勝者での試合で優勝者が決まりますね。予選からだいぶ時間が経っているので、どれほどスキルを伸ばしているのかで勝負が決まりますね!』


『いまさら常連の皆様には説明は不要かも知れませんが、本戦での運びは予選と異なり1フロアの試合になり、1戦毎に小休止を挟ませてもらいます。選手とフロアの準備が整い次第、試合開始になります』


『さて、菜々緒さんに説明して頂きましたが、大事な事なので毎年説明が入りますよ!

では、簡単に選手の紹介させて貰います』


とうとう本戦が始まった。

さっきまでの和やかモードから一転して、全体的にピリピリした雰囲気に変わる。

それはそうで、ここにいる全員が優勝を目指しているのだ。


「とうとう始まったね」


「…はい」


「闘技大会本戦はね、司会者が選手について軽く紹介したりするから、ヨシタカ君は有名になっちゃうかもね」


「…」


「…ヨシタカ君緊張してる?」


「うっ…そうみたいです」


場の空気に当てられて、さっきまで止まっていた手の震えが再発する。

とくに、無差別級の人達が発する空気が、ビリビリと俺の肌に突き刺さる。


「ふむ、それじゃあ最強と言われている私から、最後に必要な事を伝授してあげるね」


そう言って俺の目をジッと見つめながら、力強くそして安心させる様に言う。


「貴方の仲間を信じなさい。大好きな貴方の為に最大限の力を発揮してくれる。そして、信じられている貴方を信じなさい。大丈夫。最強の私が保証してあげる。貴方達は必ず勝つわ!」


「はい!」


闘技大会において、無敗を誇る唯さんからの激励に心が震えた。

灰白さん達も闘志が漲っていて、やる気満々である。


「皆、優勝を目指そう!よろしくな」


「ガウ!」


「ブッ!」


「「「チュン!」」」


「ギャウー!」


それぞれが、「何を今更」「もちろん!」「まっかせてー!」って言っているかの様に答えてくれる。


それから暫くして、とうとう唯さんの番になった。


「これより、ソロ無差別級になります。選手の唯さんとハンターさん。準備は出来てますか?」


「おっしゃ!今年こそお前にギャフンって言わせるかんな!」


「はいはい。…それじゃあ、行ってくるね」


「はい、行ってらっしゃい!」


運営に出番だと言われた唯さんは立ち上がり、俺の頭をポンポンと叩いてからフロアへと向かった。


そして、その日。

無差別級で超えるものは居ないと言われる伝説が生まれる。


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