闘技大会予選side真司
真司目線での闘技大会の様子です。
「おっ!そろそろ時間だから行ってくるわ」
闘技大会2日目。
昨日は初級と中級の上位4名が決まり、上級も数名戦った所で1日目は終わった。
そして、今日の予選では俺は1番最初に戦う事になっていたから、開始時間20分前に控え室に向かわなくてはならず、嫌々だけど、渋々だけど、目の前のモフモフをモフモフしていたいけど、しょうがないから我慢して重い腰を上げた。
いや、自分で参加したんだけどさ、目の前にモフモフがあったらそりゃあモフモフしたいじゃん!
あーどっこいしょーいちっと…
「頑張れよ。真司!」
「おうよ!」
俺がモフモフしていた従魔の飼い主であるユッキーが拳を出して来たので、俺も合わせてお互いの拳をガツンとぶつけ合った。
「4回勝ち抜けば大丈夫」
「初戦敗退とか罰ゲームだからねー!」
「まぁ、楽しんで来なさいな」
「応援しているよ!」
「頑張ってね。真司君!」
上から順に、唯、舞姫、白薔薇、ハル君、ハル君の奥さんの明日菜さんだ。
ハル君と明日菜さんは、昨日はリアルでの用事があり、さらに俺達が出るであろう今日と最終日しか予定が空けられず、この2日しか来れないらしい。
「おう、頑張ってくるわ!取り敢えず初戦は勝ち抜けるようにするわ」
それぞれにハイタッチした後に、選手用控え室のある場所へと向かった。
「おっ、真司ー!久しぶりー!」
「よう!真司!初日のアレ!結構出回ってたぞ!」
「よう!久しぶりだなー!あれって何だ?」
「ニャハ!真司の変顔だニャン!」
「お主、見た目はそれ程なのに中身が残念でならん」
「うるせーやい!」
控え室に入ると、顔馴染みのプレイヤー達からの挨拶や近状報告で盛り上がっていると、ギルド職員の服を着たNPCが入って来た。
「最初の選手8名の皆様〜!こちらにお願いしまーす!」
NPCの声に従い、装備チェックや体調チェックを終えたら、それぞれのフロアへと向かって行った。
チェックするのは、不正が無い様に体力や武器・防具の耐久値を最大値まで上げて、回復系アイテム(異常状態回復は持ち込みは可である)の持ち込みをしていないかの確認だ。
さてさて、俺の初戦は一体誰になるのやら…
ゆっくりと階段を上がりフロアへと立つと、一年前の風景を思い出す。
あの時もこんな景色だったな。
あの時は中級のソロでの参加で、今と比べたら戦い方が下手っぴだったなと思い出し笑いをしていると、反対側から相手がやって来
た。
「おっ?初戦はキリか!」
「にゃにゃ!初戦は真司かにゃー。テンションダダ下がりにゃあ」
「おいおい…」
フロアへとやって来たのは、さっき挨拶していたキリだ。
キリは俺が相手だって分かった瞬間に、耳と尻尾がだる〜んって下がった。
本名は嬉力裏舞で、俺は名前が長いからキリって呼んでいる。
語尾の通りに、防御力が普通のより若干下がるのに、猫耳と尻尾が付いた防具を装着している成り切り系のプレイヤーだ。
キリ曰く「リアルだと痛いけど、ゲームの中にゃら大丈夫だからにぁ!」って言っていたな。
キリは「heavens animal」って言うクランに所属していて、名前の通りの動物に由来している面子が勢ぞろいしている。
「顔見知りしにゃけど、手加減はしにゃいにゃよ?」
「当然!」
『……3、2、1、FIGHT!』
ちょうど俺とキリの間に、3Dの映像と音声が発生してお互いが戦闘状態に入り、開幕と同時に火蓋が切って落とされた。
ーーーカンッ!キンッ!キンッ!
「チッ!当たらにゃいにゃ!」
「いやいや、当たってますがな!」
「ケッ!にゃ!そっちはかすり傷にゃ!こっちは大っきいの貰っちゃったにゃ!」
たかが1分、されど上級以上だと1分間の間に
様々な攻防が繰り広げられる。
ゲーム世界のアシストにより、普段では到底出ない速度での攻防を繰り返しつつ、一旦距離を置き会話し合う。
キリの武器は鉄で出来た2つの扇子で、舞う様な連続攻撃を繰り出すタイプで、威力よりも手数タイプである。
対する俺は、2つの刀と小刀。
唯さんとの訓練で、双剣の訓練もしていたので、なんとかキリの攻撃を躱す事が出来ている。
「ぐっ…鉄扇が重いにゃ」
ふぅ、やっと効いてきたか。
俺が持っている刀の1つに、重力負荷を付かれる物がある。
重力負荷って言っているけれど、本来の効果は疲弊し易くなる効果だ。
モンスターならば切った場所から徐々に疲弊して行き、最終的にはゼェハァさせるもの
で、飛行出来るタイプか、ちょこまかと動き回るタイプに有効だ。
疲弊させた時の動きが、重力負荷みたいな感じだから、重力負荷って俺は呼んでいる。
疲弊よりなんかカッコイイからな!
今回は腕に集中して攻撃を当てていたから、武器が重く感じているのだろう。
最初は微々たるものだろうけれど、さっきみたいな攻防だったらあっという間に重くなるだろうよ。
「ふぅ…」
額から顎に落ちる汗を拭いつつ、キリの出方を待つ。
キリの事だから、そろそろあれが来るか?
「にぁあ…しょうがにゃいにゃ…」
「やっぱな」
「グルルルルルル」
そう言ったキリは武器をポイッ!と捨てて、四つん這いになりボソッと何かを言った瞬間に、さっきまでの雰囲気が無くなり荒々しくなって、俺に襲い掛かって来た!
「クッ!両腕じゃなくて、足にもやっておけばよかったぜ!」
今のキリの状態は獣化。
補助スキルの一種で、スキルポイントを消費して使う事が出来て、これに類似するスキルは狂戦士とかだな。
能力は攻撃力とスピードが極限まで上がる代わりに、防御力と思考能力が極端に低下してしまう諸刃の剣。
狂戦士との違いは、動物を選んでその動きや性能をモチーフにしている所かな?
だからか、ネコ特有の身軽さで俺を翻弄して来る。
「ギャウ!」
グワッと襲い掛かって来るキリを避けつつ、太ももを斬りつける。
クルンとネコ科を想像させる動きで着地と方向変化をして、また襲い掛かって来るキリだが、太ももへの攻撃が効いているのか先程までの動きよりも鈍っている今がチャンスだ!
「悪いけど、これで終わりだぜ!」
バカみたいに突っ込んで来るキリにタイミングを合わせて、俺自身の最大攻撃の居合斬りをカウンターで喰らわせると、試合終了のブザーが聞こえて「YOU WIN」の文字が浮かんだ。
よしっ!罰ゲーム回避成功!
「へぇー上級だと、スキルポイント10貰えるのか」
闘技大会で一戦ごとに勝利すると、経験値とスキルポイントが一定数貰える。
なので、Lvアップ以外に上らないスキルポイントを稼ぐのにちょうど良いイベントなもんで、ユッキーには出来る限り勝って貰いたいもんだ。
「さてっと、…大丈夫か?」
チラッとキリを見ると、スフィンクスポーズでダウンしていた。
または土下座でだる〜んポーズか?
「ぐににー負けちゃったにゃ〜!真司おぶってにゃー!」
「しょうがねぇーなー!ほれ!」
「にゃっと!」
獣化が解けたキリは、俺の攻撃と獣化の後遺症が出ていて動けないでいたので、しょうがないから控え室までおんぶで連れて行く事にした。
基本的に〜化は、効果が切れた瞬間に満腹数が著しく低下して、まるで筋肉痛の様に動けなくなってしまうのだ。
まぁ、半分は俺の責任だし責任持って控え室まで持って行ってあげるぜ。
控え室に行けば、運営によって戦闘中に負ったダメージは解消してくれるからな。
自力で行けない場合は、運営の人がここまで来てくれるけどさ。
2戦目と3戦目もあっさりと終わった。
あっさりって言ったけれど、これは唯さんとの特訓のおかげで対策が取れていたからであって、あの地獄の様な特訓をした俺以外ならば、簡単な相手では無かったと思う。
2戦目の内容は火系統を使う魔術師で、3戦目はハンマー使いの知り合いのおっさんであった。
双方との戦い方は、遠距離攻撃の剣撃を飛ばして様子見をしつつ、隙が出来たら懐に入って攻撃して行くスタイルで勝てた。
魔術師は火の球を飛ばしたり、移動阻害のための火の壁なんかを出して来たが、火の球は一閃で掻き消し、火の壁が出たら避けて剣撃を相手に飛ばしつつ距離を詰めて行き、相手のHPを9割まで削って勝利した。
ハンマーのおっさんの時は、ハンマーが重い分動きがゆっくりで、一撃一撃の動作はゆっくりだが、その一撃や余波を貰わないように一定の距離を開けつつ攻防を繰り広げて、おっさんがハンマーを持ち上げれなくなった時に、「あちゃーダメだこれ!ハンマー持ち上がんないわ!降参だ!」って向こうから降参してくれた。
そして残る予選はあと1つだ。
これに勝てば本戦に進めて、最終日まではモフモフし放題だぜ!ヒャッホーウ!!!
「お主…顔!顔!」
「ハッ!」
モフモフな未来を夢見ていたら、不意に誰かに揺さぶられた。
「何だお前か」
目の前にいるのは、黒衣装に身を包んだ忍者野郎で名前は小太だ。
確か、俺の記憶が正しければ、俺やユッキーより1歳年下であった。
「何だとは何だ?せっかくだらし無く醜く歪んでいるお主を思って、呼び覚ましてやったと言うのに」
「いや、うん。ごめん」
パコンって頭を叩かれつつ、溜息を吐きながら言われれば、申し訳ない気がして来た。
って言うか、俺そんなにヤバい顔していたのか?
「良い。お互い次勝てば本戦に行ける故、悔いの無い試合にしよう」
「だな!」
そして、予選最後の組み合わせが出た。
「クッソ!あんにゃろー!開幕早々煙幕ぶち撒けやがって…チッ、見えねぇな」
俺の相手は初見のプレイヤーで、何で見にくくなるゴーグルなんぞしてんだ?って思っていたらこう言う事か!
試合開始と同時に、空に向かって2発の煙幕を打ち、目の前は真っ白だ。
生憎魔法系の強化をしていないから、今の俺だとこの煙幕を晴らす事が出来ない。
さらに、この煙幕の中に砂でも無いっているのか、さっきから目がゴロゴロしている気がする。
運営め!こんな所まで再現しやがって!
チュイン!チュイン!
「グッ…」
どっかから2発の弾丸が俺の肩と太ももに直撃する。
急所は外してあるが、嫌な所に攻撃された!
たたらを踏んだが何とか踏ん張り、相手に狙われない様にしゃがんでおく。
壁みたいな物が無い場所じゃあ気休めみたいなものだろうけどな。
その後も相手の姿は見えないのに、こっちの場所は把握しているかの様に数発攻撃を喰らってしまい、残りHPが2割になってしまっていた。
ダメ押しで剣撃を飛ばして見たけれど、手応えを感じていないから、こっちが断然に不利な状態だ。
「っ!なっ!」
しょうがないから、同じ場所にいると狙い撃ちにされるので移動しようとすると、ガクンって何かに足を取られて転んでしまった。
「いやぁー!やっと纏わせたよー」
何だ?って思っていたら、刀の届かない位置からゴーグル野郎がやって来た。
「何しやがった?」
「足に砂を纏わせただけっすよ!あっ!俺っち必中ってスキル持っているんで、それで攻撃が当たられたっす!ちなみに俺っちの名前は砂射羽鴉っす!」
今起こっている事を聞いたら、聞いていない事もペラペラと教えてくれた。
スキルの必中は、スキルポイント50を消費して使えるスキルで、遠距離攻撃を主としているプレイヤーだったら、付けておくのが常識なスキルだ。
必中の効果は、遠距離攻撃を相手に必ず当てるって感じだが、狙った所に必ず当たる訳では無いし、敵に防がれたりもするスキルなのだが、狙い外しが減るので重宝されているスキルである。
まぁ、唯さん曰く、「必中スキルが無くてもプレイヤースキルが高ければ当たるし」って言っていたっけな。
マジであの人は化け物級!
「んでもって、出来たら降参してくれるとありがたいっすね。動けない人を攻撃したくないんで」
「だな。俺も攻撃範囲からそんなに離れられれば何も出来ないし、この足の砂、取れそうに無いしなぁ…はぁ、降参だ!」
実はさっきから、足に纏わり付いている砂は外せないか、やってみてはいるんだがグッと固定されていて外す事が出来ないし、剣撃を飛ばそうにも、あれは思いっきり刀を振るわなければ、スキルとして発動しないから、今の俺はお手上げ状態であった。
「あざーす!あっ、控え室まで連れて行くっすよ!」
「あはは、あざーす…」
試合が終了すると、フロア全体を覆っていた煙幕が無くなって行き、視界がクリアになった。
その時に初めて、ゴーグル野郎、改めてにぱっと笑う砂射羽鴉の素顔が見れた。
「お疲れ様ー!最後残念だったねー!」
「「お疲れ様ー!」」
「お疲れ真司」
「くそー!あの砂打ち野郎!弾幕にも砂入れてやがったんだぜ!くそーまだ目がゴロゴロしてる気がする!慰めてー!」
皆がいる観客席に戻ると、それぞれが労いの言葉を掛けてくれるが、今はそんな物よりもモフモフで慰めて欲しい!
そう言ってユッキーの周りにいたモフモフ達に飛び込んで行ったが、俺の気配に反応してサッと皆に躱させてしまう。
いつもの事と言えばいつもの事なのだが、負けてしまった後だと、避けられたダメージが想像以上に大きい。
「こらこら、真司が落ち込んじゃうから、皆で慰めてあげてよ」
ユッキーにそう言われて、渋々灰白タン達が俺に近寄って来た。
「ありがとうユッギー」
「泣くなよ。ってかユッキーって呼ぶなし」
運営に回復魔法をかけて貰ったから、本当は目に砂なんか入ってはいないんだが、なんとなーく取れていない様な気がする。
泣いてなんかいない。
目にゴミが入っているからだ。
まぁ、気がするだけなんだけどさ。
負けた悔しさを、灰白タン達をモフモフして慰めよう!
…うひょー!これだよこれ!
ハァー!辛抱たまらん!
「はぁー!俺のオアシスー!」
「うん。真司キモいぞ!」
遠くから舞姫が何かを言っている様な気がするが、無視だ無視!
今はこのモフモフを堪能すべし!
来週は唯目線です。
まぁ、勝負の結果はお判りですかね?




