地を駆けし者に潜む影
今後の事を考えてキーワードに追加設定しました。
基本ほのぼのなのは変わらないです。
浅草神社での戦闘分は終わったので、お昼はゲームマネーの屋台などで食べる事にして、ズラーと並んでいるお店を見ながらぶらぶらと食べ歩きをしていった。
最近食べ物の事で分かった事だが、材料になる物や、もう定番の商品になっている物は無課金で、コンビニや、ここみたいな有名なお店の商品は課金商品であるという事だ。
例えば今日だと、宿屋の鮎や豚の生姜焼きは東京で取れたりした材料で作られたので、無課金になっていて、ここみたいな仲見世通りに並んでいる商品は課金商品になっているのだ。
だから、現実世界の〜店の〜って商品だと全部課金になっているって事だ。
ただ、値段の方は現実世界の物よりかなり安くなっているから、そこは人件費と材料費が掛からないからなんだと思う。
ただ、いくら安くなっていても懐具合が寂しいので、今回はゲームマネーで買える物を中心にして昼食を終えた。
灰白さん達も、無課金でも課金でも、食べられるのならどちらでもいい様であったので、お店で売っていた串焼きや焼きそばなんかを食べつつ、朝から目星を付けていたある場所に俺達は向かった。
「おぉー!動物系の番組で観たことがある風景!」
俺の目の前に映るのは、数頭の馬が柵の中で優雅に歩いている風景である。
中には座ったりしている馬もいるし、お試し乗馬の様に、上に人を乗せておじさんに引かれながら、ゆっくりと柵の周辺を歩いている馬もいた。
ここに来たのは、今日の残り時間を馬の練習をしつつの散策にしようと決めていて、朝にこの町の事を調べたら、馬を借りる場所がある事を知ったからだ。
ただ、町ならどこでも借りる事が出来るみたいなんだけど、なんで真司は始まりの町で馬を借りなかったのだろうか?
俺もテイムの空きがあるから、馬をテイムする事は出来るが、いかんせん野生の馬に会わないのだ。
会ったとしても遠目に見える距離で、近くに行こうとすると逃げてしまうので、馬と触れ合えるここに来ようと思っていたのだ。
柵の近くに立っている俺に気が付いた馬達
が、わらわらとこっちに向かって歩いて来
た。
ほとんどが茶色の馬なのだが、その中では一頭だけ深い紺色をした馬もいる…のはいいんだが、上に人を乗せた馬もこっちに来ているんですが?
「うぉい?何だ?どうしたんだ?」
おそらく、馬が勝手に動き出した事に驚いたのか、上に乗っている人が「えっ?えっ?」
って感じに慌てていて、ただただ馬の上で呆然としている。
その人をサポートしていたおじさんが、馬の紐をグイグイと引っ張りながら元の場所へと戻そうとしていたが、その苦労も虚しく俺の所まで来てしまった。
「あなた誰ですか?」「ここに何かようですか?」「あっ撫でてくれても良いですよ?」
って感じの馬達に、俺はちょっと固まってしまう。
なぜなら、馬に会う事が少なくて、近くで見るとかなり大きい事に、躊躇してしまったのだ。
だって、現実世界で馬に触ったりした事のある人って、そんなに多くは無いと思うんだ。
俺が小さい頃に、父に連れて行かれた動物園で親子乗馬をした写真があったけど、子供の頃過ぎてあまり記憶に無いしな。
「すいませーん!すぐに動かすんで!あっこら、群がるんじゃ…あれ?」
「あっどうも」
おじさんと目が合った俺は、申し訳なく思いながら、挨拶をした。
「いやーあんちゃんみたいに、物凄く馬に懐かれる人を見たのは初めてだ!」
「俺も、あんなに多くの馬が近くに来たの初めてですし、ご迷惑をかけたみたいですいませんでした」
結局、俺が退かないと馬も動かなかったの
で、おじさんが応援を呼んで来て、その人に案内されて、ここ「雷門乗馬クラブ」の受付に来ていた。
馬がいた事に興奮して、受付の方に気がつかないで柵に近寄った所為で邪魔をしてしまったので、俺はしょぼんとなりながらおじさんに謝った。
「いやいや、気にすんな!馬が懐く人には悪い人はいないってな!んで、今日は何しに来たんだ?」
ガハハと笑いつつ、俺の肩をバシバシ叩きながらおじさんが聞いてきた。
「イテテッ。えっと…馬を借りに来ました。
あと、色々教えてもらいたいです」
「なるほど、初心者か。なら、最初はここで練習してからの方が良いだろうな!俺はコザックだ!分からない事は俺か、息子のレコにでも聞いてくれや!」
叩かれた肩を摩りながら、コザックさんからここの馬達についての事を聞いた。
ここにいる馬は全て同じ品質であり、借りるなら1日1,000Gで、買うなら50,000掛かる。
さらに、戦闘不能の状態にした場合も買取になり、お金がかかってしまう。
これは、このゲームの設定なのだが、借りるだけだとNPCと同じく、HPが無くなり戦闘不能になると、死亡扱いになってしまうが、テイムすると、プレイヤーと同じく戦闘不能になっても復活する事が出来るのだ。
この場合はプレイヤーと同じで、最後に寄った町の入り口付近に自動転送される。
つまり、町の入り口にモンスターでは無い動物達が居れば、それは死に戻りした従魔であるという事だ。
さらに説明が続き、借りた場合は各馬専用の1日利用券が発行されて、それを持っていれば該当する馬を借りる事が出来る。
利用券はアイテム扱いになる為、自動的にアイテムボックスに転送される。
そうそう、アイテムボックスはプレイヤーのLvが上がると容量が増えるみたいで、最初の頃の限界値が100だったのに、今は130にまで増えている。
Lvが10上がる度に、容量が10ずつ増えていく仕組みたいだ。
確かに、モンスターの素材とかで結構圧迫されて来ていたので、この容量UPはかなり嬉しい!
さて、話を戻して、馬には転移石が付いていて、利用期限が過ぎたら、自動的にここに戻る仕組みになっているので、遠出に行くなら不測の事態に備えて、少し多めの日数を借りる事が多いそうだ。
「ここまでで分からねぇ事は無ぇか?」
「大丈夫です!」
「なら、適当に馬を見繕うから、乗馬体験とするか!利用料は500Gだせ!」
と、言われて向かった先は、先程の円形の形をした広場で、そこには俺が邪魔をしてしまったプレイヤーの方もいた。
「さっきは乗馬の邪魔をしてしまって、申し訳ないです」
「アハハ!大丈夫だよ。僕はキース。短い時間だろうけど、乗馬頑張ろうね」
「はい!」
「おーい!あんちゃん!取り敢えず、この馬で練習してみろ」
軽くキースさんと挨拶をしたら、一頭の馬を連れたコザックさんがやって来た。
さっきの二の舞にならない様に、他の馬は厩舎に入れられているので、ここにいるのはキースさんが乗る馬と、俺の目の前にいる紺色の馬のみになる。
ちなみに、灰白さん達は柵の外で日向ぼっこを満喫中である。
「はい、よろしくお願いします!」
「まず、こいつは夜空だ。大人しい性格だから、基本的に搭乗者の言う事を良く聞いてくれるぞ!」
「バフン」
「よろしくね。夜空」
コクコクと頷く様な仕草をした後に、ジィーとこちらを見つめてくる夜空の頬を撫でる
と、尻尾をフリフリしだした。
「アッハッハ!あんちゃんは夜空に気に入られたな!そんじゃー説明して行くぞ!」
「了解です!」
それから1時間後、地面にドサリと落ちて大の字に寝そべりつつ、はぁ…はぁと荒い息を吐く。
「つ…疲れたー!!むしろ、尻がイテー!」
普段使わない筋肉を使ったせいか、全身が筋肉痛の様な状態になっている。
むしろ、お尻が1番痛い。
「ブルフフン」
「大丈夫かい?」言いたげに、こちらへ心配そうに顔を下げた夜空に、「大丈夫だよー」と夜空の頬をさする。
「もうへばったのか!あんちゃんもヒョロイなー!取り敢えずこれ食べな」
そう言って手渡されたのは、「うちけし草」と言うアイテムだった。
「うちけし草」
回復薬では回復出来ない体の異常を治す草。
肩こり腰痛に悩むお年寄りが好んで食べる。
火傷などの状態異状には効かないので注意。
「うーん。独特の風味…不味くは無いけど」
1つ貰って食べてみたけど、これはパクチーとかの様に好き好きな味で、俺としては可もなく不可もなくって感じだったけど、食べ終わると全体の筋肉痛が取れて行くような気がする。
乗馬は大変だって言われてるけど、正直舐めてました。
「まぁ、1時間で大体の操縦が出来るんなら大丈夫だろ?分からねぇ事は無いよな?」
「大丈夫です」
乗馬のコツは自転車と同じで、1度コツ掴んだら結構スイスイ上達して行き、そのおかげで調子に乗って、筋肉痛になってしまったんだけどね。
「なら、こいつを連れて行けばいい。1日利用料で1,000Gと体験乗馬で500G、うちけし草は付けるか?うちけし草は1個50Gだぜ」
パシパシと夜空の体を叩きつつ、コザックさんが聞いて来た。
もちろん「はい」と答えて、うちけし草5個と、利用券がアイテムボックスに入った事を確認して、夜空を加えた皆でぐるっと雷門から時計回りの神社巡りに出かける。
「筋肉痛にならなければ、結構乗馬も楽しいかもなー」
「フンッ!フンッ!」
「「チュンチュンピチュン」」
真白、紅緒、露草は俺と一緒に夜空に乗っての移動で、普段見ない高い所からの景色が、乗馬の楽しみになっていた。
まぁ、周りは殆んど平原だけどね。
何故、真白達は一緒かと言うと、真白は単純に夜空より足が遅いからで、紅緒と露草はスタミナが無いから、長時間の飛行が出来ないから、俺と一緒に夜空に乗っているわけだ。
「ワンワン!」
「ギャウー!」
「あっこら、置いてくぞー!」
灰白さんとこがねは、思いっきり駆ける事が出来るのが楽しいのか、ダッ!と先行した先で、2人で戯れて遊んで、それを俺達が追い越すという事を何回かしていた。
ぱっと見はほのぼのなんだろうけど、こっちは乗馬に神経を集中させないといけないの
で、2人を注意するだけで精一杯だ。
頼むから迷子にならないでくれよ!
「案外、馬に乗って行くと近いんだな」
地図で場所を確認しながら、時計回りでぐるっと1周をし終えたので、地面に降りてうちけし草を食べながら、ちょっとした休憩を挟んでいた。
全部回るのに2時間位掛かったのだが、それは初めて行く場所だからだろう。
今度はもう少し時間が短縮できると思うけ
ど、同じ場所をくるくる回るのもつまらないから、別の場所に向かって進もうかな?
ログアウトまであと2時間あるから、帰る事も考えての移動にしないとな。
今日みたいな練習する時間が取れるかは分からないから、なるべくたくさん乗馬したいんだよね。
乗馬のスキルは上がってはいるけれど、中々実感しにくいから、今のうちに上げとかないと、俺のお尻がヤバい事になる!
「グルルルルルル」
「ギャウウーー」
痛むお尻をさすっていたら、灰白さんとこがねが、態勢を低くしてある1点を見つめて唸りだした。
だが、俺から見たらそこには何も無い、ただの平原が広がっているだけだ。
「2人共どうしたんだよ?何が…うわっ!」
いきなり何も無い所から、氷の弾丸が俺達に向かって来て、思わず腕で顔をガードしてしまった。
だが、来るはずの衝撃が来ないので、恐る恐る腕を退かすと、そこには「attack impossible(攻撃不可)」と表示されていた。
「えっ?…何?どう言う事?」
「アヒャヒャヒャヒャヒャ!お前俺よりLv低いんかよー!マジで攻撃損だし!」
訳が分からずに呆然としていると、ちょうど氷の弾丸が来た方から笑い声と共に、何も無かった場所から、1人の男性が光学迷彩を解いたような感じで、姿を現した。
全身が黒と赤の防具で、毒々しい印象を与える。
「お前…誰だ?」
ジリッと後退しつつ、相手の情報を聞き出
す。
「んんー?名乗る訳ないでしょ?おバカちゃん?」
「グッ…」
ジリッと下がった分だけ、相手もニヤニヤ笑いながら近付いて来る。
くそっ、どう言う事だよ。
真司は言っていなかったけど、もしかしてこいつプレイヤーキラーって奴か?
じゃないと、普通はプレイヤーに攻撃しようだなんて思わないよな?
どうしよう?どうすれば良い?
「アハーハ!お前には攻撃出来なくても、周りのモンスちゃん達は攻撃出来るよなー?」
そう言うが早いか、男の周りに沢山の氷の弾丸が浮かび、今度は俺では無く周りにいる灰白さん達目掛けて一斉に攻撃して来た。
「なっ!止めろ!」
必死で防ごうとするが、氷の数が多すぎて皆が被弾してしまう!
「そこまでだ!七星結界!」
バッと俺の目の前に現れたのは、白馬に乗った金髪の騎士で、氷の弾丸が結界により全て弾かれてしまった。
「フン!僕の目の前でPKはさせないよ」
スッと剣を抜きつつ、俺とPKの間に移動して、相手から俺達が見えない様にしてくれている。
「なっ…騎士王様じゃねーか。チッ。分が悪いな…ここッガァッ!…」
「シュコー。シュコー。」
「ナイスな一撃だね!さすがブッチャー」
「シュコー」
目の前がお馬さんのお尻で、何が起きたのかサッパリ分からず、一応助かった事だけは認識しながら呆然と立っていると、ストンと白馬から降りた騎士の人がこっちを向く。
イケメン効果か、何故か笑顔が物凄くキラキラしている。
「大丈夫だったかい?」
「うあっ!…はい、助かりました。ありがとうございます」
「いいよ、いいよ。災難だったけど、間に合って良かったしね。
僕はアーサー。皆からはアーサー王とか騎士王って呼ばれているよ。それでこの子はジェニファー」
「ブヒヒヒィーン!」
「わっわっ!」
「よろしくー!」って感じに、白馬のジェニファーに顔をスリスリされたり、ペローンと顔を舐められたりする。
「あはっ!気難しいジェニファーに好かれるだなんて、君は凄いなー!」
「おい、おい。全く…俺を忘れるなよ?」
ちょっと掠れた声がして、アーサーさんの横からヌッと出て来たのは、大きい図体で、それに見合うだけの大きな刃物を持っている。
さらに、仮面を付けて白のエプロンを着けているが、チャームポイントでポケットにネコのアップリケを着けている。
「あははっ。ごめん、ごめん。こいつはブッチャー。またの名を解体屋だよ」
「ふぅ、よろしく」
仮面を外したブッチャーさんは、中々に渋いおじさんって感じで、白髪混じりだけど筋骨隆々で、ヤクザ映画とかに出て来そうなおじさんだ。
ただ、ちょいちょい可愛いアイテムがある。
「よろしくお願いします。僕はヨシタカでテイマーです。こっちから俺の従魔の灰白さんとこがね」
「ワン!」
「ぎゃうー!」
2人揃ってお座りの状態で挨拶する。
「それで、この馬は乗馬クラブで借りた夜空で、その背中にいるのが真白と紅緒と露草です」
「ブフフン」
「ブッブッ」
「「ちゅちゃん」」
夜空の背中に、ちょこんって感じで3匹揃って座っていて、そこから挨拶していた。
「あと、ここには居ないんですけど、今唯さんって方に預かって貰っている、さえずりって言う歌雀も僕の従魔です」
一通り皆の挨拶をし終わったら、ガシッといきなりアーサーさんに肩を掴まれた。
「君…唯って言った?それは黒髪で、俺と似た様な格好の女神の様に美しい唯タンの事かっ!」
「えっと、確かにアーサーさんの様な格好だったと思っ…」
「唯ターーーーーン!」
えええええぇぇ!
急に吠え出したんだけど、この人いきなり何なのー!
「あぁ、最強の事になるとこうなるんだ。諦めろ」
さらっとブッチャーさんがそんな事を言う。
その顔は呆れ顔だ。
えぇー…アーサーさんさっきまでカッコ良かったのに、一瞬で残念な感じになったよこの人。
ただ、ただ、ブッチャーさんを出したかった。
アーサーは残念なイケメンにしたかった。




