天に昇りし大樹2
少しだけ長め。
今居る所は-天に昇りし大樹-の6階。
俺達の周りは鬱蒼とした木々で覆われて、時々獣か鳥の鳴き声が聞こえて来る。
先頭を歩いているのは灰白さんで、間に俺と紅緒達、そして後ろを真司が警戒しながら散策している。
「なんで、木の中に木があるんだよ!」
「そういう仕様だからだろ?取り敢えず、ここを抜けたらまた平原だから頑張れ!」
朝から俺達はここの攻略中で、スタートから大体1時間半位が経っていると思う。
ここのフィールドダンジョンは1〜2階は非戦闘エリア、3〜4階が平原エリア、5〜6階が森エリアになっている。
3階と5階に出て来るモンスターはそれぞれがソロで、4階と今いる6階にいるモンスターは2〜4匹位のグループになっていて、俺達を襲って来る。
普段森の中を歩かない俺としては、辺りを警戒しながらの探索は結構堪えるものがあったりする。
さらに、平原と森で出て来るモンスターが違い、平原で出て来るモンスターは今まで討伐して来た、ウルフ・飛びウサギ・タヌキなどの獣が多く、森に出て来るモンスターはスライム・蛇・ゴブリンなどの木の上からでも攻撃が出来るモンスターが出て来るようになっていた。
「グルルルルルル」
前を歩いていた灰白さんが、ある場所に向かって警戒しつつ体勢を低くしながら唸りだした。
これは近くにモンスターがいる時の合図である。
森の中だけど、今の所は灰白さんのおかげで奇襲を受けていない。
「よし、紅緒達も灰白さんに移ってサポートよろしく!」
「「「ピチュン!」」」
俺の両肩に待機していた紅緒達を、真白も乗っている灰白さんの所に移してから、灰白さんはモンスターのいる方へダッシュし、その後ろを俺達も付いていく。
少し離れていたモンスターはどうやら3体のゴブリンのようだ。
「ガウッ!ガルル」
灰白さんの合図で、バシュ!バシュ!と先制で両サイドにいるゴブリンに、紅緒と露草の属性攻撃が相手モンスターに炸裂し、それに怯んで後退した隙に真ん中にいるゴブリンの喉に向かって、灰白さんの噛み付きが炸裂する。
「キシャー!」
「ギャウギャウ!」
「ギャ…ギャフ…」
真ん中のゴブリンは灰白さんの噛み付きで、息が出来ずにもがいていて、時々灰白さんに向かって引っかこうとしているけれど、それを真白が上手くサポートして抑え込んでい
る。
「よし、俺は左!」
「了解!」
その間に、俺と真司が両サイドのゴブリンに向かって攻撃を放ってから離脱し、入れ替わりで紅緒と露草が、それぞれのゴブリンに向かってもう1度属性攻撃を仕掛けた。
《経験値を入手しました》
《魔石を3つ入手しました》
《ゴブリンの爪を2つ入手しました》
《ゴブリンの牙を2つ入手しました》
《ゴブリンの毛皮を1つ入手しました》
《古ぼけた木の棍棒を1つ入手しました》
「ふいーお疲れー!」
「ウィース。乙ー!」
「ワンワン!」
「ブーブー!」
「「「チュチュン!」」」
「はいはい。ヨシヨシー」
3体のゴブリンを無事討伐し、「撫でて撫でてー」と言いたげな皆を撫でてつつ先に進むと、辺りが開けて目の前に階段が出て来た。
「ふぃー取り敢えずここで休憩でもするか」
「さんせーい」
この-天に昇り大樹-ではセーフエリアが階段と周囲20mのみとなっていて、階段の横幅
は、5人ほどが並んでも大丈夫な位に広く、段数も結構ある。
なので、休憩する人は駅のエスカレーターの様に、先に行く人様に3列位を開けて階段の壁側の2列分の部分で休憩するか、階段の周りのスペースで休憩する。
もちろん上の階の入り口付近も20mのセーフエリアとなっているのでそっちで休憩している人もいる。
「よっし、そんじゃーここからの注意事項を挙げます!」
「はーい!お願いしまーす!」
「基本的な事しか言わないし、面白味も欠けるからボスの行動パターンとかは言わないからな!」
「大丈夫だよー」
俺達は階段の空いているスペース3段分を使って座って休憩しつつ、上の階についての注意事項を真司から教わる。
「まず…さっき言ったけど、次の階は平原エリアになっている。ただ、注意して欲しいのが、次の階から雷の属性持ちが出て来るからそこは十二分注意して欲しい。特に露草タンね。」
「ピチチ?」
灰白さんの背中の部分に座っていた露草が「僕ですか?」と言いたげに首を傾げる。
「あー確か露草の場合雷属性が−20になっていたっけ」
「そうなんだよ。−20だと、ダメージが1.2倍で入るんだよ。」
えっと、防御力の関係とかを無しにして、単純に100のダメージを受けたら+20入ってしまうって事か…
「確かに気を付けた方がいいね。ダメージが多くが入る分、死に戻りしやすくなるって事だろ?」
「そう言う事。あと、此処だと低確率なんだが、雷属性の攻撃を喰らうと麻痺状態になるから気を付けろよ。」
「了解!確か一定時間の間、行動不可能になるんだっけ?」
ビシッと敬礼しつつ、麻痺状態に付いて真司に確認を取る。
「あぁ、その間に大技喰らうと死に戻りしやすくなるからな。まぁ、その時はさえずりタンの出番ですよ。」
さえずりは「任せなさい!」と言いたげにキリッとキメ顔をしつつ胸を張る。
さえずりの聖属性は他の属性と違ってダメージが入る攻撃は無く、殆どが回復か補助系のスキルになるので、万が一俺達が麻痺状態になっても、さえずりが入れば回復する事が出来ると言う訳だ。
ちなみに、反対の闇属性は行動を阻害したりする攻撃がメインになる。
一応、ここの1階の売店に、雷耐性+5の装備品が売っていたのだが、ここの仕様で耐性が+1上がるたびに1000G加算されて行く為中々買う勇気が無かったのである。
むしろ、お金が無かったと言うか…
「さて、ボス戦までの慣らしに行きますか!
とりあえず、ユッキーは積極的に1回は必ず当たった方がいいかもな!」
「えっ…なんで?」
いきなりなんて事を言い出すのか、呆れと若干引いた顔をして、なんで必ず被弾しなければならないのかを聞いた。
「いや…ほら、このゲームだとダメージは初期で50%カットされていて、まぁ…後で設定で弄れるんだけど、衝撃はカットされないからさ、ボス行く前に雷属性に慣れる為って事
だ。当たると結構痺れるぞ!」
このゲームの場合、ダメージは%で色々と弄れるのだけれど、命に別状がない範囲の衝撃などはそのままであるのだ。
そちらの方も下げてしまうと触覚なども下がってしまう為らしい。
「うっ…分かった。とりあえず、弱そうなのに当たっとく」
「よし、頑張れよ!そんじゃー上の階に行きますか!」
○
「いやー、雷属性の攻撃ってマッサージみたいで、中々に気持ちの良い感じだったぞ!あれ位だったらずっと喰らっていたい気分!」
「マジかい!俺は静電気とか嫌だから苦手なんだけどな」
俺達は7〜9階までを攻略し終えて、10階のボス部屋の前にいる。
なぜ、すぐにボスの討伐に行かないのかと言うと、目の前に数組のプレイヤーがいる為である。
ボス部屋は他の階と違った構造になってい
て、入り口からΨの様に三叉に別れており、中央がボス部屋に繋がっていて、ボス部屋は木で出来た大きなボールの様な形の部屋になっていて、他のプレイヤーが入れない様に入り口は見当たらず閉ざされている。
反対側にも同じ様に三叉になっていて、討伐が終わったプレイヤー達はこの両端の道を通って入り口まで帰って来るのである。
なので、順番待ちをしている俺達の後ろに
も、討伐が終わったプレイヤーが並び始めていた。
取り敢えず。待ち時間を利用して俺達は列に並びながらお昼ご飯を食べつつ順番待ちをしている。
今日のお昼は
売店のホットドック(マスタード多め)
オニオンスープ
(真司はクラムチャウダーである)
と、一応デザートのカットフルーツだ。
ちなみに、今までの階での地形やモンスターはと言うと、7階は平原で今まで討伐していたモンスターに雷属性がプラスされていた。
4階と同じでグループになっていた為、波状攻撃をされるとちょっと厄介だったかな?
8階からは森で、モンスターの数は1匹ずつ、9階はグループだったけど、見えない位置からの雷攻撃は結構焦ってしまう。
以外と魔法攻撃って範囲広いんだよな。
「いやぁーここまでのMVPは真白たんだろ!
露草に当たりそうな攻撃全部受けてたんだからな!さすがですよー!」
などど思っていたら、真司が真白を褒め出して触ろうとしたけど、シュッ!と避けられている。
「確かに!真白のおかげで結構楽だった気がする。って、事でご褒美にりんごを上げよ
う」
防御力が高い真白が、俺や真司で防ぐことが出来ず、露草が躱せない様な攻撃が来た時
に、自ら被弾して大ダメージが出るのを回避させていたのだ。
「ふふん!当然ですし!」と言いたげにキリッと凛々しく胸を張る真白に俺はご褒美のりんごを上げる。
りんごはすでにカット済みのを購入してい
た。
他の皆も「いいなぁー」って顔をしている。
「んー、ならボス戦で活躍したらご褒美を上げるよ。灰白さんは取り敢えず骨でしょ?それで紅緒達はおにぎりとかかな?」
「ワンワン!」
「「「ピチュチュチュン!」」」
尻尾をブンブン振って俺の顔を舐めたり、俺の前でホバリングしたり、「ヤッタァー!見ていて下さいね!頑張りますよぉ〜」と言うようなテンションの上がり方である。
「ちょっと、ちょっと!わわわ…群がる
なー!」
などとやりつつ時間を過ごしていたら、目の前に石碑がで出来た。
ちょっと前に俺達の前に居たパーティーが中に入って行ったのだ。
なので、今石碑が出て来たのは、前のパーティーの討伐が終わったって事だろう。
【雷獣に挑みし者、このまま進みますか?】
【はい/いいえ】
石碑にはそう書かれていたので、もちろん「はい」を押す。
すると、目の前の木の枝が広がり、ぽっかりと開けて先へ進めるようになった。
「油断するなよ!」
「わかってるよ!」
そう言って一歩足を踏み入れると、そこは幻想的な風景であった。
辺り一面は遮蔽物が何も無く、明かりは閉ざされているのだが、多数の小さな光の粒が連なってキラキラと辺りを照らしているのだ。
「うわぁ、綺麗だなぁ」
まるで深海で空気の泡に光を当てた風景みたいだ。
皆もキョロキョロと辺りを見回すが、真司だけが前方を注意深く睨みつけていた。
「前方注意!お出ましだぞ!」
そう言われて前を向くと、今まで漂っていた光の粒達が1箇所に集まり出した。
それに伴い、影から光の中へとネコ科のような足取りで1体の獣が現れた。
見た限りでは灰白さんより少し小さい、ネコとイヌとキツネを足して割ったような外見
だ。
ただ、尻尾だけがタヌキのようにまん丸になっている。
「あれが雷獣?」
「あぁ…来るぞ!ボス戦の初っ端は気合を入れろよ!」
『シャーーーーー!!』
俺達の10m先まで来た雷獣は、ピタリと足を止めて思いっきり息を吸ったかと思ったら、
鼓膜が破れそうなほどの咆哮を放って来た。
「ぐわぁっ!」
一応警戒はしていたが、想像以上の咆哮の大きさに思わず耳を塞いでしまい、紅緒達もビックリしてしまっていた。
そんな俺達の両サイドから、真司と灰白さんがダッシュで一直線に雷獣に向かい、戦い始めた。
「大丈夫か!ユッキー!」
「ビックリしたー!けど、もう大丈夫!」
俺は両頬を叩き気合いを入れて、雷獣の方へと駆け出した。
「今まで通りにやれば大丈夫だ!相手の動きをよく見て躱せ!」
「了解!」
今までの戦闘を思い出しつつ、真司からのアドバイスに従い、雷獣に攻撃を加えていく。
だが、3発位の連続攻撃を何回か当てようとするが、その殆どが躱されて行く。
やっぱりボスだけあって、今までのモンスターよりも断然強い。
もちろん攻撃力にしたってそうだ。
ただの引っ掻きや噛み付きでさえ、ダメージが減りやすく感じる。
ただ、雷獣なのに雷属性の攻撃が無いのは何で何だろう?と思っていたら、雷獣が蹲り出した。
「ピチュン!」
今まで属性攻撃が無い事と、雷獣の動きが無くなったため、油断した紅緒が雷獣に突っ込んで行く。
「バカっ!紅緒!下がれ!」
『ギァーーオ!』
真司が焦って紅緒を捕まえようとしたが、バチバチバチッ!!と辺り一帯にスパークが発生した。
「ピチュン!」
さっきまで綺麗に漂っていた光の粒が、今までよりも光り輝きだして激しく点滅し、いきなり放電したのだ。
「クソッ!」
急いで弾き飛ばされた紅緒を回収して下が
り、回復薬を与える。
ダメージが半分を下回っていたからだ。
直撃になる前は7割ほど残っていたので、さっきの攻撃は結構ダメージが大きいって事になるのだろう。
露草に被弾でもしたら大変だ。
「露草は後退、あの雷には絶対に当たるな
よ!」
「チュン!」
露草を後ろに下がらせ、俺と紅緒は雷獣の方へと向かった。
今まであった光の粒は殆どが無くなってしまったが、雷獣自身の周りをバチバチッと雷が走っているので、さっきまでの明るさと余り変わらない。
「HPが半分を下回ったんだ。ここからが本番だぞ!」
戻って開口1番に真司に言われたが、出来ればもっと前に言って欲しかった!
「クッソー!雷纏っていると、全部の攻撃に属性が付くのか!」
回復薬を飲み、雷獣の攻撃を避けてまた攻撃を加える。
何と無く攻撃パターンは分かるようになって来た。
皆の動きも統率が取れて来たように思うが、全部に対処出来るまででは無いので、何回か飛んでくる雷攻撃に被弾してしまう。
その度に、俺か真司が回復薬を与えている
が、それも1〜2回だけだ。
何故なら、さえずりが全体に回復効果のある歌をずっと歌ってくれているからだ。
回復量は微々たるものだが、ずっと続けばダメージ分が回復するので、大変助かってい
る。
「ハァーッ!」
「ギャウ!」
さっきまで当たらなかった攻撃も結構入るようになって来た!
さすがに雷獣もボロボロになって来て動きが鈍くなって来ているからだろう!
もう少しで討伐が出来るはずだ!
「よし、もう一踏ん張りだ!」
《経験値を入手しました》
《テイマーの熟練度が上がりました》
《片手剣の熟練度が上がりました》
《雷獣の爪を3つ入手しました》
《雷獣の牙を1つ入手しました》
《雷獣の毛皮を1つ入手しました》
《雷獣の魂のかけらを1つ入手しました》
《使役モンスター紅緒のLvが上がりました》
《使役モンスター真白のLvが上がりました》
《使役モンスター露草のLvが上がりました》
《使役モンスターさえずりのLvが上がりました》
「やったー!討伐成功ー!」
「おめでとうー!時間と回復はまだあるし、もう一周するか!」
「そうだねー。正直疲れたけど、雷獣の素材も欲しいし、もうちょい頑張る!」
「よっしゃ!そうと決まれば、急いで並ばないとな!」
雷獣を倒したら、雷獣が出て来た所から明かりが見えて来た。
おそらくあそこが出口だろう。
何故なら真司がダッシュでそっち向かっているからだ。
「おいー!休憩させろー!」
と、言いつつ俺と皆も走りながら出口へ向かった。
「こんなつもりじゃ無かったんだけど!」
結局俺達は、時間の許す限り雷獣を討伐し続けた。
もう、最後の方なんか、雷獣が可哀想になる位にボコボコにされまくっていた。
だって、うずくまる動作しだしたら「さっきの仕返しだっ!」って感じで紅緒が遠距離の連続攻撃をし出すもんだから、帯電状態からの討伐時間が、最初と比べるとかなり短縮されていた。
それを何回も何回も繰り返していたけどね。
おかげでマナ回復薬がスッカラカンだ。
まぁ、これで最初のボス戦も終了したし、今度は何処に行くんだろう?
これを書いてる途中、雷のワンコが頭の隅をひょこひょこする。




