天に昇りし大樹1
ここから攻略という名の日本旅行が始まります。取り敢えずは東京の有名な所からですかね。
「うっわぁー…でっけー」
夕陽に照らされている大きな樹の根元で、首をほぼ真上まで上げて見上げたけれど、樹の天辺までは全然見えなくて、むしろ樹の途中から雲に隠れて見えなくなっていた。
遠くから見た時は一応全部見れてたんだけどね。
「だろっ?俺も最初来た時はでっかくてびっくりしたなー」
俺と同じ様な格好で見上げた真司も、懐かしむ様に見上げている。
真司がここに来るのは4年ぶり位なのだそうだ。
「いやぁ、ここに来るまででも目印にしていたけど、まさかここまで大きいとは思わなかったよ。ってか、樹の幹とかどんだけ太いんだよ!」
お昼を食べ終わった俺達は、ここまで徒歩で来ている。
と言っても、途中で灰白さん達と追いかけっこをして遊んだり、モンスターと戦闘をしてLvを上げていたので、真っ直ぐにここまで来た訳では無い。
ただ、この大きな樹が目印となっているために迷わずに来れるのと、始まりの町からこの大きな樹は見る事が出来きて、始めたばかりの人は殆んどが、この見た目がモロにダンジョンっぽいー天に昇りし大樹ーを目掛けてやって来るのだそうだ。
だから初心者の俺でもやり易いだろうと、ここに連れて来たのだそうだ。
「うーん、どん位だったっけかな?けど、太さはわかんないけど、高さ的にはリアルのとほぼ一緒だぞ?」
「あっ、そうなの?」
「おう!って言っても、実際にどれ位大きいのかとか、調べるまで興味無かったから知らなかったんだけどな」
「あははっですよねー」
ー天に昇りし大樹ーのモデルとなった建造物は結構前に作られたらしく、当時は相当盛り上がったらしい。
完成当時はニュースなどに結構出て混雑がしていたらしいが、日常として当たり前になっている今となっては、元からある物だったのでさして俺は興味が湧か無かった。
調べようなどと思うのは、歴史好きか建造物が好きな奴位だろう。
あと、このゲームの特徴としては行った事のあるダンジョンの名前をタッチすれば、モデルとなった建造物とかの画像と歴史がウィンドウのマップに表示されるので、リアルで旅行に行く時の参考とかにしている人が多いらしい。
ただ、建物の中に入っているお店とかの情報は無い。
「取り敢えず、記念写真でも撮るか?」
「うーん、どうしようかな?」
「ワンワン!」
「「「ピチチュン!チュンチュン!」」」
灰白さんが吠えて、真白がグイッグイッと俺の裾を引っ張る。
紅緒達に至っては俺の目の前でワチャワチャしていて正直鬱陶しいぞ!
「ワッワッ!なっ何?どうしたの?」
「これはあれじゃね?皆で写真撮りてーんだよ!」
「ワフ!」
「真司よ!その通りだ!」と、言いたげな顔をしながら俺の前にお座りする灰白さんと真白。
紅緒達は目の前から俺の両肩へと移る。
「ほら、そうと決まったら早速撮ろうぜ!」
と、言われて樹を背後に俺達は並んだ。
前に灰白さんがお座りして、その背中には真白、紅緒、露草、さえずりが鎮座している。
その後ろに俺と真司が立っている状態だ。
「それで、どうやって撮るんだ?樹が大きいから見切れるだろ?それに自撮りって出来るの?」
「全部出来るぞ!まぁ、課金アイテム使うけどな!ハイチーズ!」
空中をスクロールして何か操作しているなと思ったら、急にガシッと肩に腕を回された瞬間に、何処からかカシャって音がした。
「うおっ!いきなり何だよ!」
「ハイ、これ〜」
『真司からスクリーンショットが届いています。確認しますか?』
一応、はいを押したらさっき撮った写真が出て来た。
うわー俺超ビビってるじゃん!
「いきなり何だよ!俺は撮り直しを所望するぞ!」
「あははっ分かってるって!」
そう言いながら、今度は俺が撮る番で真司に操作方法を教わりながらの撮影会を開始し
た。
「取り敢えず、ウィンドウの機能にスクリーンショットがあるからそれ押してみ?」
「了解!…うひゃ!」
スクリーンショットの所を押すと、通常と自撮りの2択があったので、俺は自撮りの方を押したらいつも見ている風景と左右反対になったので、ビックリして変な声が出てしまった…恥ずかしい。
「プププ。大丈夫だ!慣れる慣れる!」
この野郎笑いやがって!
うーん、確かに鏡だと思えば大丈夫かな?
一応右下に操作する機能が付いていて、+の方を押せば近付いて、−を押せば離れて行
く。
↑を押せば上からの写真になるし、↓を押せば下からの写真になる。
自撮り棒とか使わないし、こっちの方が楽でいいな!
「でも、やっぱり大樹が見切れるぞ?」
そう、いくら下から上からやってみても、大樹が大き過ぎるため見切れてしまうのだ。
「課金アイテムで魚眼レンズって言うアイテムがあるからそれを買って装着すれば全部撮る事は出来るぞ。まぁ、今回は俺が撮ったのを送るから考えてみたら?」
「おーなるほど!考えてみる!」
という訳で、お互いを撮ったり撮られたり、撮った写真を送ったり送られたりして時間は過ぎていった。
「さて、もうそろそろログアウトの時間だよな?」
「あーそうだね。ボス攻略って結構時間かかるんだろ?」
現在18:07と左上に表示されていてそろそろログアウトしておかないと、またお母さんに叱られてします。
「そうだなー。ルートを全部回るなら大体1日位で、ササッとやるなら2〜3時間位じゃねーかな?」
「そっか…なら今日はログアウトかなー」
「りょーかい!じゃあ、こっちこっち!」
「ん?」
真司に背中を押されながら、俺達は樹の根元にポッカリと空いた空洞に向かわれたので、俺は慌てて真司を呼び止めた。
「おっおい、中はダンジョンになってんじゃないのかよ!」
「あぁ、大丈夫!大丈夫!中に入って見れば分かるよ」
パシパシと背中を叩かれて先へと促されたので、しぶしぶ真司に付いて中に入って行く
と、 パァッと中は明るくなっていた。
さらに、今まで聞こえなかったのに中に入った途端にザワッザワザワッとした話し声や生活音が聞こえたのだ。
外から見た入り口は真っ暗で無音だったの
に、ゲーム仕様だからだろうか?
「あれ?なんか温泉やホテルの入り口みたいな…?」
中は円形になっていて、キョロキョロと辺りを見渡すと、温泉とかホテルの受付みたいな場所があったり、飲食店や飲食スペースみたいなのがあったり、極めつきは入り口の横のお土産コーナーがある事だろうか?
あっ…と、俺は発見した。
リンゴ3個分のネコやマヨネーズの妖精のキーホルダーが大樹と合体して売ってあったのだ。
それを見て、この2つは流石だなと俺は思ってしまった。
「そっ!ー天に昇りし大樹ーは全10階層になっていて、1階は受付や買物スペース。2階は宿泊スペース。3階からがダンジョンになってるんだ。」
「えっ、マジかよ!」
「フ〜!運営の親切設定ー!」
真司に大丈夫と言われたけれど、さすがにいきなりのダンジョン攻略にちょっとだけ緊張はしていたのだ。
そんな俺の緊張を返して欲しい。
「って事は、外にテントが無かったのはそう言う事か。なぁ、他にもここみたいなダンジョンってあるのか?」
ー天に昇りし大樹ーに来て疑問に思っていた事だったのだ。
さすがに発売当時では無いからそれ程人は居ないだろうと思っていたが、樹の周りに誰もテントなどを張ってはいなかったので、ここは無人なのか、あるいは、ボス討伐まで何時間も出来る人達なのかと思っていたのだ。
「基本的に、東京はここみたいに親切設定な所が多いかな?東京から離れれば離れる分だけ鬼畜設定になって行くけどな」
「おっおう。…頑張る」
ニヤッと笑いながら言われて、若干引いてしまった。
鬼畜設定ってどんだけなのだろうか?
「…って、言っても当分先じゃん?それより今は受付を済まそうぜ」
「あぁうん、そうだね」
そう言われて、俺達は入り口から右側にある受付の場所へと向かう。
受付は4つありホテルと同じ感じになっていて、2つの受付は他のプレイヤーに対応していたので、空いてる受付に向かう。
「いっらっしゃいませ。何泊ご利用予定ですか?」
「んー…取り敢えず、1日で良いよな?」
「うん、大丈夫。ってか任せる」
「了解。んじゃ、一泊でお願いします」
「はい、1泊ですね。では、こちらの鍵をご利用下さい。延長される場合は、今から24時間以内に受付へ連絡して下さい」
「了解でーす。次はこっちだ!」
受付へ向かい、眼鏡をかけた男性NPCの問いは真司が答えて部屋の鍵を受け取った。
受け取った鍵は特殊なアイテムとして機能していて、持っているだけで効力があるアイテムみたいで、鍵には、○○号室の鍵と記されていて、その隣には機能時間と利用プレイヤーの名前が記されている。
一応真司と俺達のパーティーメンバーも記されていた。
この機能時間が過ぎるとアイテムが自動消失して、部屋に入れない仕組みとなっている。
そのまま真司は、2階に上がる階段の方では無く売店の方へと向かった。
「あれ?そのまま部屋に行かないのか?」
「部屋に行く前に必要な物とか一通り買っとくんだよ。ダンジョンは3階からになっているから、ここで買物して2階でログアウトする感じだな。んで!明日が攻略だ!」
「あぁ、なるほどね。確かに行ったり来たりは面倒くさいよなー。ここ広いし」
「そう言う事!ってな訳で、ここで超重要アイテムを買います!」
っと言われて、アイテムショップで色々買い込んだ。
主に回復薬とか食料とか普段使っている物が多かったが、ここに来て初のアイテムを見つける。
アイテム
「転移石-天に昇りし大樹専用-」
お値段 500G
・天に昇りし大樹専用の転移石。
使用するとダンジョン入り口に飛ぶ。
「なぁ、真司よ」
「どしたん?」
俺は取り敢えず購入したアイテムを真司の目の前に出す。
「もしやこれが超重要アイテム?」
「おう!アッタリー!一応保険だな」
真司が言うには、このアイテムはダンジョン内だったらいつでも使用出来るらしく、戦闘で危ない時とか遠い所から入り口に戻る時に使ったりするアイテムであるらしい。
そして、重要な事がある。
それは、戦闘不能になった際には死に戻るのだが、このゲームの場合は最後にログアウトした町に戻るらしい。
つまり、俺がここで死に戻ると始まりの町に行ってしまうのだ。
なので、そうならない為にほとんどのプレイヤーがこのアイテムを買って行くのだそう
だ。
さらに、各ダンジョン専用では無く凡用の転移石があるが、これは物凄く高いらしい。
真司にお値段を聞いたら、0が4個以上付くらしい。
確かに、手軽にポンポン使える値段では無いな。
「さて、色々買い込んだし取り敢えずはログアウトするか」
「だなー。明日頼んだぞ!」
「おう!任せとけ!」
○
「よっす!おはようさん。昨日は良く寝れたか?」
「俺も皆もバッチリだよ!」
次の日、ダンジョンの入り口になる2階から3階に行く階段前で円陣を組んでいた。
階段は各階の両端に上と下への階段が分かれて設置されているので、ちょっと移動が大変だった。
「さって、ここから上がダンジョンになっている!皆、気を引き締めて行くぞー!」
「オー!」
「ワオーン!」
「ブッ!ブッ!」
「「「ピチュチュン!」」」
ー天に昇りし大樹ーのダンジョン部分になる3階の入り口になる階段の下で、周りの目を気にせずに真司が皆へ気合を込めた掛け声を出て、皆がそれぞれ気合を込めて応えた。
俺と真司は利き手をグーにして上に上げて、灰白さんはお座りの状態から遠吠えをし、真白は灰白さんの上で、フンス!フンス!と気合を入れて、雀達は各々の定位置にて翼をはためかせた。
今から俺の初めてのフィールドダンジョンへの攻略が幕を上げたのだ。
目指すはー天に昇りし大樹ーの頂上にいるフィールドボスである-雷獣-の討伐だ。
ボスは通常のモンスターよりも一癖も二癖もある難敵であるのとフィールドダンジョンでの注意事項を思い出しながら、俺は胸の内に闘志を燃やしていた。
「よし、行こう!」
俺達は、ダンジョンへと一歩足を踏み出し
た。
ちなみに作者はここには行った事が無いです。展望デッキからの眺めはどうなんでしょう?




