旅支度
お待たせしました。
10話です。
今日のこれからの予定は、お昼を食べた後
に、エリアフィールドである「天に昇りし大樹」に向かう予定で、その前準備として、商店街で初期装備だけだった俺の武器や防具、お金に余裕があれば装備品なんかも買えたら良いかな?って思っている。
もちろん、灰白さん達にも装備品を買う予定だ。
使役モンスターの場合は、人型のモンスター以外は自前の武器である爪や牙があるた
め、専用の武器と言うものが無いけど、モンスター専用の装飾品などがある。
分かりやすい例だと、首輪などがそれに当たる。
もともと、このゲームの場合はプレイヤーのLvアップで攻撃力とか防御力などが上がったりはしないのだ。
では、どうやってそれらを上げるのかと言えば、冒険者ギルドのLvを上げて使用できる武器・防具・装飾品を増やすしか無い。
これの利点としては、Lvだけの条件でどんな武器でも使用出来る事だろう。
また、これは現実世界への影響を考えての事でもあるらしく、ゲームの中の自分と、普段の自分との差が出来てしまえば、戻った時に脳と身体の感覚が異なり混乱してしまうの
だ。
速さの例で説明したいと思う。
100メートル20秒で普段走る人が、ゲームだと100メートル10秒で走れた場合、現実世界へ戻った時にいざ走ろうとして、ゲーム感覚のまま走ろうとすれば、当然身体が追い付いて行かずにコケる。
ゲーム世界が長ければ長い程このような事態になる人が増えるのだそうだ。
なので、予防策として自身の身体変化は全て装備品の影響である。
と、思わせるための措置なのである。
しかし、使役モンスターの場合はそうでは無く、きちんとLvが上がれば諸々のステータスが上がるのだ。
だから、昨日の時点での攻撃力や防御力が俺よりも高かったりしたのだ。
「さて、プレイヤーショップに行くか、NPCショップに行くか…」
「ん?その2つって違いがあるの?」
商店街の大通りを外れた所で立ち止まった真司が、どちらに行こうかを悩んで立ち止まってしまったのだ。
こっちとしてはどちらでも良いのだが…
「もちろんあるぜ。NPCショップは既製品
で、プレイヤーショップはオーダーメイドみたいな感じだな。」
聞く所によると、NPCショップの場合は、町の周辺で取れる素材から作られた武器などの販売がメインなのだそうだ。
利点としては、素材の持ち込みは無く現金さえあれば買える所と、武器が標準の物である事、全町のNPCショップに行ったとして
も、壊れたりした際の補修や修復が、比較的安くて簡単な所だそうだ。
では、プレイヤーショップの場合はどうかと言うと、自分用の1点物を作る事が出来るが、素材から集めなくてはならず、さらに、本人の使い勝手が良いように微調整したりするため割高となっている。
ただ、店頭に置いてある物は例外で、その場で微調整が出来て売ってくれる。
さらに、職人の癖のような物が各武器などに出ており、他のショップに補修、修復などをお願いすると、割高になってしまう。
比較的NPCショップよりも高いプレイヤーショップの良い所は、例えばだが、同じ片手剣を使うとしても、筋肉ムキムキのマッチョと小さな女の子では、腕の長さや戦闘スタイルなどが違うので、標準の武器よりも自分用にカスタマイズされた武器の方が、使い勝手が良く、効率よく狩りに行ける。
ただ、これは極端な例なので、普通体型のプレイヤーは、NPCショップの武器で戦っている人もいる。
「ちょっと高いけど、あそこにするか!」
「えっ?どこ?」
「まぁ、行ってからのお楽しみで!」
「よう!俺様がチャンだ!同じテイマー同士安くしてやんよ!」
と、言う訳で連れて行かれた所は、この前掲示板でお世話になったチャンさんの所だっ
た。
目の前のチャンさんは、30代位の男性で、ちょっと軽薄そうな外見をしているが、プレイヤーとしての腕は良い方なのだそうだ。
今はカウンターの向こうで、座って受付をしている。
「ヨッス!今日、ユッキーに新しい装備一式を買わせたいんだけど、良いのある?」
「よろしくお願いします」
真司と拳を打ち付けながら挨拶をしたチャンさんは、俺をジロジロ上から下まで見なが
ら、何かブツブツ言っている。
「ねぇ、大丈夫なの?なんか怖いんだけど」
普段こんなにジロジロ見られる事が無いので、普通に怖いのだ。
「大丈夫だろ?多分」
「おいっ!」
「よっし、分かった!おめぇさん、普段何使ってるんだ?」
ポンと自分の膝を叩き、スクッと立ち上がったチャンさんが、ウィンドウをスクロールしながら問いて来た。
「えっと、片手剣です」
「よっしゃっ!なら、こいつ等なんかはどうだ?」
と、目の前に3本の片手剣が出て来た。
「牙狼剣」 3200G
・ウルフの牙や爪で作られた片手剣で、比較的初心者用の武器では攻撃力が高めであ
る。
攻撃力 210 耐久値 100
「ポイズンナイフ」 2900G
・スネークの毒牙で作られた片手剣で、威力は低めだが、小確率で相手を毒の状態にする事が出来る。
攻撃力 150 毒 18 耐久値 180
「先見のナイフ」 3800G
・プレイヤースキルにより作られた片手剣で、威力は普通だが、小確率でクリティカルヒットが出る片手剣。
攻撃力 180 会心率 15 耐久値 170
「まぁ、おめぇさんのLvで装備出来るって言ったらこんなもんだな!どれも俺の自信作だせ!」
「そうですね。今の装備に比べるとかなり性能は良いですね」
さて、どれにしようか悩むな。
「餓狼剣は攻撃力は高めだが、耐久値は弱いな。小まめに砥石で手入れしないと、すぐに刃こぼれしちまう。ポイズンナイフは攻撃力は低いが、その分、毒の効果が期待出来るからな、手数が多く出来れば簡単に毒殺出来るぞ!ただ、難点なのはドロップの肉の品質が下がる事だな。先見のナイフは、確率は低いがクリーンヒットが出ると1撃で狩れる。攻撃力もそこそこだから俺的にはオススメだ
が、値段は高めだから財布と相談してくれ」
悩んでいた俺のために、チャンさんが各武器の説明をしてくれた。
「よし、これにします!」
俺が選んだのは、先見のナイフだった。
金額はちょっと高かったけど、特にマイナス要素も無かったのが決め手のポイントだ。
「それじゃあ、一応振ってみたら?」
「おう!」
真司に促されたので、俺は先見のナイフで片手剣専用の簡単な技を数回行う。
「どうだ?重心の重さ、持ち手とかに不自然は無いか?」
チャンさんが職人の顔で聞いてきたが、俺としては、特に違和感は無かったので「大丈夫です!」とサムズアップする。
「んじゃ、次は防具だな。こん中だとやっぱりウサギの奴が一番まともじゃねえか?とりあえず、装備してくれ」
「飛びウサギ一式防具」 8200G
・頭から足まで、防御力の高い飛びウサギの皮素材で作られた一式防具。
カスタマイズでモフモフを付ける事も可能。
防御力 250
一式スキル
防御力(小) 耐久力(小)物理耐性(微)
「了解です」
目の前に現れた防具を、頭から順に付けていき、サイズがズレているのは、その場でチャンさんが直してくれた。
「おぉー似合うじゃん!どうする?モフモフ付ける?」
「おう、付けるんなら、テイマーの好でタダでカスタマイズしてやるぞ!ウサ耳にでもするか?」
「付けないよ!」
2人は俺から距離を取り、「えー付けないのかよー」「タダでしてやんのによー」とヒソヒソしているが、全部聞こえているから、多分あれはワザとやっているのだろう。
全く困った人達だ。
「それより、今度は灰白さん達の装飾品をお願いしたいんですけど〜」
今だに距離を置いてる2人に、批難がましく目線を送りながら、灰白さん達を前に出す。
「おお、こいつ等がお前さんの従魔か」
早速画面をスクロールさせながら、あーでも無い、こーでも無いと探してくれている。
「あれ?ユッキーの分はいいの?」
「うん。武器と防具で1万位使っちゃってるしね。この後で何かに使うかもしれないし、残りは取っておこうかと」
「なるほど、まぁ、灰白ちゃん達の分は俺が出すぞ!」
「ありがとう。でも、半分は自分で出すよ!一応、飼い主は俺だからね」
「どうしました?」と言いたげだな顔でこっちを見てくる灰白さんを撫でながら、チャンさんが選び終えるのを待つ。
「よし、こんなもんでどうよ?」
「力の首輪」 2800G
・攻撃力を少しだけ上げる効果のある首輪。
「守の首輪」 2800G
・防御力を少しだけ上げる効果のある首輪。
「紅石の足輪」 3000G
・火属性の魔石を埋め込んだ足輪。
火属性の攻撃をする際に、威力が少し上がる。
「碧石の足輪」 3000G
・水属性の魔石を埋め込んだ足輪。
水属性の攻撃をする際に、威力が少し上がる。
「聖石の足輪」 5000G
・聖属性の魔石を埋め込んだ足輪。
聖属性の攻撃の威力と回復量が少し上が
る。
上から順に、灰白、真白、紅緒、露草、さえずりの装飾品であり、真司と半分ずつ出し合って買い、それぞれに装着させて行き、チャンさんにサイズ調節などをして貰った。
その際に、真司は灰白さんと真白に「モフモフさてせ下さい!」とお願いし、「少しだけなら許可しましょう…」「しょうがないけど、イヤイヤなんだからね!」と2匹を撫でている。
紅緒達はご機嫌で、俺の両肩に止まりピチュンピチュンと鳴いている。
支払いは方法は、ウィンドウの画面に商品名が並んでおり、1番下の所に合計額が書かれているので、そこをタッチするとチャンさんにお金が支払われる。
真司から灰白さん達の分の半額を貰い、チャンさんに一括で払った。
払ったと言っても、現金では無く自動引き落としだったが。
一応かかった金額は全額で28.600Gで、俺が払った分は20.300Gだったので、結構いい買い物をしたと思う。
「よし、まぁ、今のLvだとそんなもんだろ。
また買い物をする時は、俺ん所に来いよな」
「はい、ありがとうございました」
「じゃあな、チャン!今度会う時は闘技大会だろうな」
「おう!また賭けて儲けるわ!」
チャンさんとお互いに手を振りあいつつ別れ、大通りに戻って、今度は食品を買い込
むために、食べ物を売っている屋台を見て回った。
「結構、買い込んだんじゃないか?これ?」
実は、皆で屋台を見ていた時に、灰白さんが、「このお肉買って下さい!」と言いたげに、肉の串焼きを出しているお店の前で、スッとお座りして、前足で俺の足をテシテシしだした。
今度は真白が「これ買って下さいー!」と八百屋っぽいところで、俺の足の裾を引っ張り、「意地でもここから離れませんよ!」
と、動かなかった。
最後は雀達で、プレイヤーがお店を出していたおにぎりの屋台の屋根の所に止まり、ずっと鳴いていたのだ。
さすがに3羽も鳴き続けていると営業妨害になってしまうので、しょうがなく買ってあげたのだ。
主に真司が。
俺は自分の分だけ払っている。
「あぁ、もう、モフモフタイムは終わりですか〜」
真司から離れて俺の方に来た雀達を、残念そうな顔で眺めている。
灰白さんから始まって、雀達まで奢ってあげた真司に、それぞれが撫でられていたが、
今は全員が俺の周りに集まって来ていた。
「うう、もっと撫でていたかった…」
「まぁ、時間もそろそろお昼だし、混まないうちに何か食べに行く?」
「そうだな、適当な店に入って何か…」
「あーーー!大っきいワンチャンだぁー!」
喋っていた真司を遮り、大きな声が聞こえた方を見ると、そこには、こちらを指差しながら見ている小さい女の子がいた。
頭の所をみると表示はNPCのようで、ニコニコしながらこっちに近づいて来た。
「ねぇねぇ、ワンチャン触ってもいい?」
淡いピンクのワンピース姿で、茶色で右側のサイドテールをパタパタと揺らしながらこちらに来た幼女は、少しモジモジしながら、キラキラと純粋な眼差しをこちらに向けつ
つ、小首を傾げておねだりして来た。
「もちろんいいよ。この子が灰白さん、こっちは真白。この雀達が紅緒、露草、さえずりだよ」
俺は、女の子と同じ目線になりつつ、1匹ずつ女の子の目線に合わせて紹介していく。
それぞれ紹介された順に、顔をペロンと舐めたり、スリスリとしてあげると、その度に
「キャッ!」や「ウフフ」などど可愛らしい声を上げている。
「キャー!大っきい!モフモフ!」
一通り紹介が済んだら、女の子はガバッと灰白さんに抱き付いた。
他の皆も、女の子の周りに集まってギュウギュウ抱き着いたりしている。
ふと、今まで思わなかった事だが、狼である灰白さんの高さは、俺の腰よりやや高い位なのだが、普通の小さい子供は大きな動物は怖くないんだろうか?
多分、この子は大丈夫で、さらに犬が好きなんだろうな、来る時に「大っきいワンチャン!」って言ってたし。
「クッ羨まっ…すぐその場所を変わって欲しい!切実に!」
チラッと隣の真司を見ると、物凄く羨ましそうな顔をしていたが、我慢の限界が来たのか、モフモフの中に入って行った。
「お兄ちゃん達ありがとう!」
「どういたしまして」
あれから、女の子の気の済むまで撫でさせて上げると、女の子は堪能したのかピョンと俺の所に飛んで来たので、頭を撫で撫でした。
「これね、お礼にあげる!バイバーイ!」
ポケットから何かを取り出し、俺の手の上に置くと、手を振りながらピューとどこかに行ってしまった。
「あっ!」っと思った時には、もう姿が人通りに隠れて見えなくなってしまった。
「走るの早いなぁー」
「イヤイヤ、おいおい。感心している場合じゃないよ。何貰ったんだよ?」
「あっそうだった」
真司に言われて貰ったものを確認してみると、
「手作りのお守り」
・小さい女の子が一生懸命に作った、ミサンガのお守りであり、1度だけHPが0になる攻撃を受ける際に、お守りが身代わりで引き受けてくれる。
「えっと、これってもしや…凄いものでは無いですか?」
「凄いなんてもんじゃねーぞ!普通こんなのは貰えないんだぞ!発生条件はなんだろ?
取り敢えず、この事はよく検証してないし保留にしておこう。後々面倒な事になりそうだからな。」
一応、貰うための条件は、女の子に自分の従魔をモフらせる事だと思う。
さらに、手元にあるお守りは5個だったの
で、おそらく貰えるお守りの個数は従魔の数に関連しているのだと思うが、発生した条件が分からなかったため、この事は、俺と真司の秘密になった。
どうしてこうなった?と思ったが、過ぎた事だし、どうする事も出来ないので、俺は貰ったお守りを灰白さん達に装着させつつ、お昼を食べに、真司オススメの近場のお店へ向かうのだった。
最近ここに繋がる事が出来ない時間があるけど、大丈夫なのだろうか?




