ご注文はひらり布ですか?
暖かな朝の光を浴びてゆっくり少女が目を覚ます。その髪は綺麗に輝いていた。
「うーん なんだか今日は 目覚めが良いぜ」
寝起きの霧雨魔理沙は、ベッドの上でグーッと身体を伸ばしてから今日の予定を考えた。
(朝御飯食べてから香霖とこにお茶とお菓子をたかりに行くか、そうだ今日は霊夢のとこで宴会をするんだったな、宴会の準備でも手伝ってやるとするか)
早々と予定の決まった魔理沙は朝御飯の準備に取り掛かった。
今日はあいつにいい酒を買ってきてやろうと考えてわくわくしていた。
今日の宴会が無くなってしまうとも知らずに。
「困ったなぁ…」
森近霖之助は眼鏡をクィッと上げ、溜息混じりに呟く。
「どうしたんですか?霖之助さん」
名無しの本読み妖怪こと朱鷺子が店のカウンターの下からひょっこりと顔を出した。
「いや ね……この本の続きが無いんだよ 知らないかい?」
「知らないですねぇ 多分あの人じゃないですかぁ?」
小馬鹿にするように朱鷺子が笑顔で人差し指を顎に添え、首を傾げる。
腕を組んで霖之助が顰めっ面で大きく溜息をつく。
溜息とほぼ同時にカランと扉を開ける音が響いた。
「よう 香霖邪魔するぜ」
「邪魔するのなら早くあの本を返してくれ」
「あの本?ああこれか 本の表紙が変わっただけで パチュリーの持ってるやつと一緒だったぜ」
魔理沙はごそごそと懐から参考書程の大きさの本をカウンターのうえに置いた。昨日から服にしまったままで彼女ですら忘れかけていた様だ。
「ん? なんです?その本」
朱鷺子が魔理沙に尋ねる。
パッケージには赤い仙人と青い仙人らしき人物が笑顔で写っている。
ただ、朱鷺子にはどうやら読みにくいフォントだったようだ。
「ああ、これか 『美味しい霞の見分け方、そして霞を食べることによるその効果。③』って本だ まぁ…あんまり参考にならなかったけどな」
「へぇ…どうしてそれを読もうと思ったんですか?」
魔理沙はとても誇らしげに答えた。
「そこに本があるからさ」
(うわ。
なお、この時点で自分の名前の魔理沙と「あんまり参考に」の「まりさ」とを掛けていたのだが朱鷺子にはそんな事微塵も分かる気は無かったようだ。
「魔理沙には難しかったんだよ さ、早く返したまえ」
魔理沙の返した本を手に取る霖之助
紅茶を少し口に含んでパラパラとページを捲った。
「へえ…やはり読み易く纏められている…それに、実体験付きと来たもんだこのシリーズは素晴らしいと思うよ」
ま、実際に人間に出来るかボケェーッ!って言う気持ちもなくはないんだがねと霖之助は心の中で静かに叫んだ。半妖怪だけど。
「そうか?私はあんまりだと思うんだ…」
「さっすが♪香霖堂の店主は見る目が違いますネ♪」
いきなり出てきた青娥に驚いて霖之助は、むせる。
自分の本を(表向きでは)過大評価されて青娥はとっても満足気だ。
「急に出て来て何なんだ あんたは一体」
扉を開けず壁を通り抜けて浸入してきた青娥に霖之助が問う。
「そうです!私が青娥娘々です。」
「おっとぉ そのノリに乗っかると長くなりそうだなー!そうだ、用件だけ聞こう!」
面倒臭さいからこういう類の輩は早く済ますのが一番だ。こんなしみったれたところに感想を聞きに来た訳じゃないし、本来の目的があるんだろ どうせ と魔理沙はそう思った。
「あら、このノリ ふとちゃんは乗ってくれるのにぃ んもー!マリちゃんのいけずぅ!」
「ちょっと待ってくれ あんたのキャラが掴めない」
「あらあら 冗談ですわよ まさか本気でこんなキャラだと思ったの?」
青娥がこちらを見てクスクスと笑った。全く、いけ好かない仙人だぜ。
「早く用件を話してくれ。こっちは忙しいんだ。」
本を読むだけなのに。
「実はですね…あるマジックアイテムを探しておりまして♪」
「マジックアイテムねぇ…どーせロクなもんじゃないです?」
怪しい目で青娥を見つめる朱鷺子。
青娥はサッと目を逸らす。
「この邪仙のことだ。危ないことに使うのは確かだろう。私の箒を掛けてもいいぜ。」
「で、何をお求めでしょうか。」
客と分かると否や態度が丁寧になる霖之助。一応は客扱いなのね。
「透明になれる布ってありませんでしょうか?」
「そんな 聞くからに怪しい物は うちでは取り扱っておりません またのご来店をお待ちしております」
しょぼーんとした顔で邪仙は渋々、香霖堂の扉を開けて帰っていった。