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79 デレ×デレ

ロイヤルファミリーによる僕への説教(教育的指導?)が一通り済んだ後も、ライディーンの機嫌は一向に回復する様子がなかった。

喉の奥を不機嫌に鳴らし、金色の眼にギラギラと警戒心をたぎらせて王族を威嚇し続けている。


「なんというか……余が悪かった。頼むからそれを宥めてくれ、どうにも生きた心地がせん!」


半分泣きが入った国王の懇願を嘲笑う人間がこの場に存在するはずもなく。


比較的ライディーンに慣れている僕でさえ、殺気でうなじの辺がチリチリとあぶられるような感じがする。

するとそれまで大人しく石造りのベンチに腰掛けていたシュシュが、今や怒れる魔神と化したライディーンに至って気楽にトコトコ近寄り、その首筋を優しく撫で擦り始めた。


「ライー?怒るのダメよ」


………ぐるる。


「ずっと一緒。ね?」


ぐぁう……。


小さな少女にトントンと子供をあやすような手付きで鼻先を撫でられ次第に唸り声を治める飛天の様子を、王族達は驚愕で目玉をひん剥きながら見守る事となった。



「声、出せるようになったんだ。良かったねぇ」


そういえばそこはロードに報告して無かったかも。


「…はい、幸いにも」


顔馴染み二人がしみじみと会話を交わす傍ら、他の面子は未だに硬直。

どうやら一瞬前まで殺戮者一歩手前の状態だった飛天に、“公開デレ”を只今絶賛見せ付けられ中で、思考能力を根こそぎ奪われているもよう。


巨大な黒い獣が四肢を折り曲げ、小さな少女を身の内側に大事に囲い込み鼻面を擦り寄せて甘える光景は、飛天の普段の暴君振りを知る者からすれば、思わず壁に頭を打ち付けて我が身の正気を疑う場面だ。

少女の方も獣を少しも恐れる様子が無く、その爪や牙に平気で手で触れ、頬を寄せて微笑みを浮かべている。


敢えて彼等の心情を異世界風に代弁するなら。


『――――――オーマイガッよ!!!!』


ではないかと。







一種の恐慌状態が過ぎると、肝心の『飛天の騎士』の今後についての話が副宰相を務める王弟殿下の口から順を追って語られた。


今日の式典を皮切りに飛天の存在は公にされる事となり、その能力は自ら吹聴して回らずともいずれ国内外に知れ渡る。

であれば、周辺諸国の要らぬ警戒心を煽らぬ為にも敢えて飛天を軍部に組み込む真似はせず、国の守護神的な立位置に留めるのが最善であろうと。


実際問題「国の為に何処其処どこそこへ行って、コレコレこういう仕事をしてこい」と言ったところで、到底ライディーンがその通りにするはずもなく、命令を下した相手をサクッと殺っておしまいだと僕にも断言出来る。


『飛天を従える事が出来る』と勘違いしている一部の人間を抑える為にも、王のあのパフォーマンスが必要不可欠だったというわけだ。





『如何なる者も飛天の騎士を従える事は罷りならぬ』




飛天に要らぬちょっかいを掛ける人間がどうなろうと僕の知ったことじゃないけど、関係のない者が巻き添えを喰うのは洒落にならない。


『飛天の騎士』などと聞こえは良いが、要はライディーンのお守りだ。


「……其奴が何を思ってこの国に留まっておるのかは分からんが、長い付き合いだ。王家うちとしても出来れば良好な関係を保っておきたい」


うん。まあ、本音だろうね…。

うっかり踏んだら滅亡フラグ確実な地雷とか、そんな感じ?

この王様も余計な気苦労が多いのか、妙な具合に老成してる。まだお若いのになんてお気の毒な。



















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