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78 宣言

暑苦しい真っ黒な外套を脱ぎ去ったシュシュの背中に小さな真珠色の翅があるのを見て、幼い王子達は思わず声を上げた。


「――――わぁ、翼だ!」


「どうして翅があるの?もしかして空飛べる?」


「お前たち、失礼だぞ!」


年長の王太子がたしなめてはいるけど、王太子本人も興味津々な様子は隠しきれていない。

純粋な好奇心からキラキラ輝く視線を直に浴びせられて、臆病なシュシュはギュッと僕の首もとにかじりついた。

――――こういうの久し振りだよね。

よしよしと宥めるように背中を撫でると、半泣きの顔でウルウルと見詰められる。


うっ…。人前でなければ思いきり愛でるのに。


「あーほらほら、ちょっと下がって。その子物凄く怖がりなんだから詰め寄ったらダメだよ」


ロードが間に入ると小さな王子達は渋々後ろに下がった。

ビクビクと怯える様子のシュシュにライディーンがついと鼻面を寄せてから、ふしゅう、と鳴らして三人の王子にじっと視線を向けたのは、単に『ガキはこれだから』という呆れの表現だったんだろうけど、生憎と目から殺人光線を発しているようにしか見えず、幼い王子三人はガチンとそのまま硬直して動けなくなった。


あーあ。


「殿下方……飛天に害意はございませんので御安心を」


一応フォローは試みるけど、ライディーンの顔面凶器は慣れるしかないんだよね…。


「こんにちは、ライディーンのお姫様」


聞き覚えのある声におそるおそる振り向いたシュシュが、ロードの顔を見つけてぱっと笑顔を浮かべる。

やっと見知った相手に出会えて嬉しかったんだろう。

その後ろで金縛りから解けた王子が小さな声で「叔父上ばっかりズルい!」と抗議の声を上げるのもしっかり聞こえた。





その後ロードが「立ち話もなんだし」と言い出して、庭園の片隅の瀟洒しょうしゃ四阿あずまやに全員で移動をした。


「天翅―――か。文献での知識はあったが余も見るのは初めてだ。不思議な姿をしているが…可愛らしいものだな」


「ええ、本当に。娘にして“お父様”と呼ばせたいくらいです」


「……自分はどちらかと言えば“お兄様”がイイ」


「………………」


ここん家(王家)は筋金入りの男係一族で、直系に殆んど女子がいない。

先代は稀な例外だ。

なので、シュシュのような小さな女の子が周りにいた事がないらしく、妙な妄想が炸裂寸前になっている。


「いっそ本当に王家うちで引き取るか…」


王のその台詞がライディーンを激しく逆撫でしたのは言うまでもない。


ぐがあああああぁ!!ぎしゃあ――――っ!!


突然の本気の威嚇に一同は飛び上がった。


「なっ…何だ、いきなりどうした!!」


比較的ロードだけが落ち着いていたのは、何となく理由が分かったからだろう。


「………陛下、申し訳ございません」


「スォード?あれはどうしたのだ!」


「ライディーンはこの子を『主』として慕っております。それはもう、服従を誓うほどに。『主』の望まぬ事を強いる者に容赦は致しません。たとえそれが王族の方々であったとしても、です」


「……………なんと……………!」


予想外の言葉に愕然とする一同。


「いつの間に…そのような……」


「―――――きちんとお話をするつもりで参りました」


これだけは言わなければならない。

僕は王の前に跪き深くこうべを垂れる。


わたくし自身は王の臣下であり、国と王家に仕える者であることに揺るぎありません…。ただ、私と飛天には何に代えても守ると決めた存在ものがあり……その為には手段を選ばぬ場合もあるとだけ、申し上げて置きたく存じます」


「――――王に力ずくで刃向かうか」


「いえ、その場合全力でトンズラさせて頂きます」


真顔で問うた国王は次の瞬間吹き出した。


「な……成る程…っ、くくく」


このやり取りを心配そうに見守っていたシュシュが、椅子から降りてピトリと傍に寄り添う。


「…お互い余程大事と見える」


「はい、何しろ可愛い嫁なので」



「「「「 何ぃっ!! 」」」」




あはは、と乾いた声で笑うロードの横で3人の王子は呆然と口を開いた。


シュシュは見た目より年齢が上だと説明したのに。

まるで自分の娘を嫁に寄越せと言われた男親みたいに全員が説教モードになった。


………さっき初めて会わせたばかりだと思いましたが…?
























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