8 か弱きもの
「えー…いくらなんでもそれはマズイんじゃないかな?」
「だって!しょうがないじゃない。この子貴方から離れないんだもの。なにも全裸にして診察するわけじゃないんだから、傍で控えて居てくれたらいいのよ!」
「うーん…」
何かと言えば健康診断の件だ。
子供達は全員怪我の有無や健康状態を調べ、身体的特長等の記録を取る。
後々身元調査の為の資料に使われるから絶対必要になるものだ。
それでも幼いとはいえ仮にも女の子が医師の診察を受ける場に男が居るのはどうかと思うんだけど。
肝心のその“女の子”が僕にしがみついて離れようとしないものだから、一緒に付き添っていた女性隊員からの提案で、その場に同席する事になるらしかった。
「その外套だけ脱いでくれるかね」
総白髪の好好爺といった風貌の医師がニコニコと人好きのする笑顔で少女の顔を覗き込む。
とはいえ言葉がちゃんと通じてるわけじゃないから、少女は座らされた椅子の上で身動ぎもせずに固まったままで動かない。
見かねた女性隊員が少女の外套に手をかけて脱がそうとすると、少女は途端に怯えて後ろに控えていた僕の腰に飛び付いて来た。
ぎゅうぎゅうしがみついて嫌々をするように頭を擦り付ける。
「あぁん、やっぱり駄目かー」
「むぅ、嬢ちゃんよっぽど怖い目にあったのかのぅ。無理強いはしたくないがチラッと見に腕や足に擦り傷も有るようだし、きちんと診せてくれるといいんじゃがの」
それは僕も気になってはいた。
長時間自力で立っていられない状態といい、他の子供たちと比べて衰弱の度合いが激しすぎる。
ああ、もう。この際か。
少女の身体をひょいと抱き上げ、ポンポンと頭を撫でてから自分の膝に座らせる形で椅子に腰掛けた。
解らないだろうけど一応の説得も試みる。
「怖い事は何もしないよ。怪我とかしてないかお医者さんに診て貰うだけ。――――痛くしないしすぐ終るから」
ちゃんと目を見ながらゆっくりと話す。
見つめ返してくる目には今にもこぼれ落ちそうなぐらい涙が盛り上がって、うるうると助けを乞うように揺らいでいる。
―――――なんだか自分が物凄い極悪人になったような気がする。
まるで年端もゆかぬいたいけな少女を手込めにする脂ぎったヒヒ爺かなにかに。
「………………ごめんね」
するりと外套の合わせ目に手を入れて肩から引き下ろす。
少女がぎゅっと目を瞑り、身を硬くするのが感じられた。
懸命に耐える様子が痛々しくて、少しでも恐怖を和らげようと頭を抱き寄せたら、懇願するような眼差しでじっと見つめられて凄まじい罪悪感に陥ってしまった。
(~~~~~~~~~何やってんの自分。これは仕事だから!)
気を取り直して。
「……………怖くないから。安心して…?」
もう一度手を伸ばして今度は髪を撫でる。
ゆっくり、ゆっくり。
暫くすると少女の身体から僅かに力が抜けて、くたりと身を預けるような重みがかかった。
これなら今度は、と思って目で合図を出そうとすると、ナゼか女性隊員はほんのり頬を赤らめ、医者は「結構なお手前で」とかなんとか訳の分かんない台詞を呟いた。
…………こんのエロ爺ぃっ。
この作業を長引かせても良いことは一つもない。
手早く済ませてやらないと。
そう、思って。
思いきって外套を両肩から引き下ろした瞬間、思わず自分の目を疑うモノを、そこに見つけてしまった。




