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72 翼を下さい

なんというか…異世界に生まれ変わってからスカイダイビングを体験する破目になるとは思わなかった。


パラシュート?そんなもんがあるかあああぁぁっ――――!!




一瞬前まで辛うじて意識を保っていたヒクイドリも

ついに限界を越えた。

それもそのはず、立て続けに直に電撃を流し込まれればね。

空の上で意識を失った巨鳥の身体は一気に失速、当然ながら墜落を始めた。


―――――――耳許でビュウビュウと鳴る風がまるで悲鳴のようだ。


箱庭のように美しい街並みが急速に近付くにつれ、僕の意識は冷静さを取り戻そうと足掻きだした。

嫌な性分だ、いっそ失神出来れば楽に死ねるのに。


眼下には陽の光を受けて輝く湖面。

あれはダメだ。

万にひとつも助かる見込みが無い。

この高さでは水面でもコンクリートの上に落ちるのと大差ない衝撃を受けて挽き肉確定だったはず。


必死に過去の乏しい知識を漁って、出た結論は。


「……………林…の上なら、いけるか…っ?」


おあつらえ向きに落下予測地点の側には小規模ながら木立の群れがある。

どのみち現在高速で墜ちてる真っ最中の人間としては、四の五の言ってる暇は無い。


ヒクイドリの身体と樹木の枝で衝撃が出来るだけ緩和される事を祈りつつ、そのままニュートンの林檎のように引力に身を任せるしかなかった。




あ、ダメだ。木立には届かない――――、と覚悟を決めた瞬間、身体が巨鳥とりごと真横に吹っ飛ばされた。


バキバキと木が折れる音が響き、やや遅れてドサリと凄まじい衝撃が身体を襲う。


あ、これヤバイかも。

なんか気が遠くなってきた。―――――…頭も打ったか?

お迎えが見える………。







「蘇芳ちゃん、蘇芳ちゃん!!――――――スォード!!死んじゃだめぇっ……」


僕の天使が泣きながら空をかけてくる。


小さな翅を懸命に羽ばたかせて、寧ろ落ちる勢いで。

―――――――落ちる?


「うわあ!何やってんの、この子は!!」


気絶してる暇、無し。


どうにか根性で起き上がって、落ちてくる少女を両腕に受け止め―――――きれずにひっくり返ったのは、仕方ないと思う。


「うっ…――――つつっ…」


幸いヒクイドリがクッションになって、どこも痛めた様子は無い。

一拍遅れて降り立った黒い獣が、オロオロと心配げにシュシュを気にしているのはお約束だ。

さっき林の上で真横に吹っ飛ばされたのは、こいつが体当たりをしたせいだ。

いや、そのせい、というかそのお陰で奇跡的に助かったのは間違い無いんだけど。


素直に礼を言いたい気分になれないのは何故だろう。











「無事で良かった…………」


僕はようやく自分の腕の中に戻ってきた少女を固く抱き締め、深く息を吐いた。


「さっきまで生きた心地がしなかった……。君に何かあったらと思うと、堪らなくて…」


「………………スォード…ごめんなさい…」


「……っ。君、声が―――――」


さっきのは幻聴じゃなかっのか!ほんとに言葉が………………。


「…………怖かったんだもん。蘇芳ちゃんに……スォードに、また置いてかれると思ってっ…!」


「シュシュ…」


――――――――思い出したのか。


「こっ…怖かっ……た―――。やだよぅ………もう置いてかないでぇっ……」


「―――――シュシュ…!大丈夫、もう大丈夫だから…」


取り乱してボロボロと泣きじゃくる小さな少女を両の腕にそっと閉じ込めれば、衣服越しに柔らかな温もりが――――鼓動が伝わる。

ああ、生きてる。


良かった……。


―――――そう思ったら一気に緊張が溶けて、僕の意識は途切れた。


























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