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62 決断

エムローザで最初にヒクイドリが確認されてから数日。

南領の各地ではその被害が続々と報告される事態になっていた。





「今回の群れはかなり大所帯だ。農村部から家畜の被害が相当数挙がって来てる。しかも見張り番についてた人間にも怪我人が出たとか」


「あれほど手を出すなと告知したんだがな……」


「………………む」


いつもは割りと砕けた雰囲気の3隊長の集まりも流石にこの状況では深刻に成らざるを得ない。

朝礼前の引き継ぎを兼ねた顔合わせの席が俄に重苦しい雰囲気に包まれている。

現在まだ人死には出ていないにしろ、それはヒクイドリがどちらかと言えば夜行性で人間が極力夜間の行動を避けているからこその結果に過ぎない。

己の身を守る牙も爪も持たない人間が丸裸も同然の姿でノコノコ目の前に現れれば、ヒクイドリはそれを一瞬で屠るだろう。


「せめてあれが常識的なサイズの鳥だったらこれほど苦労しないんだがな…」


ガレ隊長の独り言には誰もが内心首肯しただろうけど、それは言っても始まらないというやつだ。


人間にとってかなりの脅威と思えるヒクイドリの件があまり中央で知られていないのは、恐らくミスルギ南領のこの辺りがヒクイドリにとっての北限で、しかも襲撃が不定期の上被害の殆どが家畜で済まされているからだと思われる。

一応報告はなされているにしろ、国が本気で対策に乗り出すまでもないと判断したのだろう。

現に僕もついこの間まで何も知らなかったくらいだ。


「都市警備隊の権限が及ばない地域の事は騎士に任せる他は無いだろうが、せめて市内に例の告知を徹底させるべきだろうな」


「それと夜間の見廻りか強化か」


「………それが誰であれ悪戯に犠牲を払わせてるべきではない。隊員達にも充分な注意を呼び掛けるように」


若手の隊長二人が方針を打ち出し、爺っつぁまが厳めしい顔で話を締め括った。


どのみち人間に出来る事はあまり多くない。








“声が聞こえる”と言って、あの子は泣いた。


たどたどしい唇の動きと指先から伝わる言葉の端々には拭いようもない怯えが表れ、今にも消え入りそうなほどの憔悴ぶりはどう見てもただ事とは思えない。


“追ってくる”とも言い、“また終り”と絶望を滲ませた顔は、幼い少女の表情では無かった。


あの子にヒクイドリの声を聞き取る事が出来たのだとしたら、それは恐らくライディーンにも聞こえていたはず。

―――――――ならばあの瞬殺も当然だ。


あの子に危害を加えようとするものをライディーンが赦す筈もない。


むしろよくやった!


シュシュの不安が何処に起因するものなのか僕には分からない。

今生で出会う前の体験に因るものか、それとも――――――。


どちらにしろあの子のあんな状態を目の当たりにして、この僕に『何もしない』という選択は最早有り得ない。


そしてこの先もあれがあの子をつけ狙う可能性が、ほんの僅かにでもあるというなら、僕のやるべき事はただ一つ。




―――――――【殲滅】    あるのみ。








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