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6 触れる

簡易ベッドを幾つも持ち込んで整えただけの、急拵えの子供部屋。


数名の女性隊員が部屋の隅にかがみこんで、毛布にくるまり蹲ったままの子供を一生懸命宥めにかかっている。


「ずっとあんな感じなのよー」


他の子供たちは一晩身体を休めていくらか落ち着きを取り戻し、今は食堂で用意された朝食を摂っているという。


部屋の入り口を振り向いた女性隊員達は全員お手上げの仕草だ。

困り果てたその視線が『どうにかして!』と叫んでいる。


「………はぁ。ちょっといいかな」





取り敢えず少しの間他の隊員達には部屋の外に出て貰う。

これだけ分かりやすく怯えてる子供の傍に大勢の人間がぞろぞろいるのは、警戒心を解くのにかえって逆効果だと思ったから。


ふるふる震える毛布のかたまり

そっと手を伸ばして撫でると、ピキリと緊張で固まる。

そのまま力を入れずにゆるゆると撫でさすり、時折ポンポンと軽く叩くのを繰り返して。


そうしてしばらく無言のまま寄り添っていたら、触れた掌の感触から徐々に強張りが解けていくのが感じられた。


そろそろ大丈夫かな?




「…………ね、顔見せてくれる?」


ピクリと反応があった。


「僕のこと分かるかな…?昨日ここまで一緒に来たんだけど……」


いまいち反応が薄いけど、何となく全身を耳にしてこちらの声に集中してる感じはする。

焦らず、ゆっくり、穏やかに、だ。


「昨夜はちゃんと会話する暇もなかったから、気になってたんだよ。随分身体も弱ってるみたいだし………お腹も空いてるでしょ?」


今度は毛布の塊がもぞもぞ動いた。

隙間から此方を窺う感じが猫の仔みたいで、思わずクスリと声が漏れる。


見てる見てる。


「―――――いい子だから……ね?」


長いこと迷ったようにしてから、おそるおそるといったふうに毛布の間から小さな手が差し出され、ちょんと上着の端を摘まむ動作をした。


何かを確かめるみたいに、指先で。


なにこれ、可愛いんだけど。


そして更に手は袖口から肘、肩の辺りを辿るようにして、触れるか触れないかの距離をさまよっている。


ゆらゆら。


頼りなくか細い指が空を掻く。


そして何かを諦めたように、ふっと下ろされかけた手を、慌ててやんわり捕らえて両手に包み込んだ。


ふるり、と震える気配はしたものの強い拒絶は無く、やがて押し殺したような小さな嗚咽が漏れ始める。


「…―――――っ……」


ああ、そっか。


『やっと』なんだ。


他の子供たちが泣いたり不安がったりしている間、一声も上げず身動きすら出来ず。


「………苦しかったね」


あんまり切なげな声でかれてもどかしくなり、毛布の端に手をかけてそっと引き下ろすと酷く華奢な造りの幼い面が露になった。


おとがいが細く目鼻立ちは繊細な作り物めいた左右対照。

とろりとした不思議な光沢を放つ月色の髮と同色の睫毛が今はしっとりと涙で濡れている。


埃まみれで汚れていてさえそれと気付く綺麗な顔立ちは、何を目的として買い集められたのか一目瞭然のものだ。


間に合って良かったと、心底思う。


涙で張り付いた髮を指ですいて頬を撫でていると、少女が勢いよく腕の中に飛び込んで来た。


………昨日も思ったけど、やっぱり軽すぎる。

一寸でもぞんざいな扱い方をしたら壊してしまいそうだ。




―――――そして僕は、いまだかつてないくらい慎重な手つきで、腕の中の壊れ物のような少女をそっと抱き上げた。












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