52 両想い?
―――――随分痩せてしまった。
只でさえ華奢な身体が更に一回り小さくなって見えるほどに。
先刻シュシュを抱き上げた時、その身体のあまりの軽さに僕はヒヤリとした。
元々虚弱な体質で暑さに弱い種族―――そこにこの酷暑だ。
今ほど『あちら』の文明の力を頼りたいと思った事はない。
特に空調設備!
『私』の視点で見れば『僕』の暮らすこの世界はファンタジー的な要素で溢れているけど、生憎『あちら』の巷に氾濫していた娯楽小説によく登場する『魔法』みたいなものはこの世界には存在しない。
生まれつき特殊な能力が備わっている人もいるにはいるけど、誰もが習得可能な術式とかは形成されていないから、呪文ひとつで発動して便利に機能する、というその発想自体が無い。
一瞬で室内の空気を冷やすような都合の良い方法が在るなら、とっくに自分が試してるし。
寝台に腰掛けた状態の僕の膝の上で、くったりと胸に身体を預けて荒い息を繰り返すシュシュ。
何度横になるように勧めてもしがみついて首を振り、仕舞いには泣き出してしまう。
どうやら眠ってしまうと僕が居なくなると思っているらしい。
この前一日一緒にいるって約束しておきながら、緊急呼び出しのせいで折角の休みが台無しになって、僕の信用もガタ落ち。
あーあ。失敗しちゃったなー…。
「――――やっぱり熱い…」
背中の翅を撫でていた手を額に当てるとかなりの熱が伝わる。
どうしたものかと視線を回らせていたら、サイドテーブルに置かれた水差しと薬包が目に入った。
未開封の包みには『発熱時服用』の文字。
「丁度良かった、これ飲もうか」
僕が手に取り上げたそれを見て、シュシュの顔が一気に曇る。
どうやらこれもかなり苦手な代物のようだ。
開けてみたら薬包の中身は小粒の丸薬で、なんと香りが“正露〇”。
「うわー…これはナイわ」
ほんとにコレ解熱剤?
思わず包みにラッパの印が付いていないか確かめてしまった。
んくっんくっ、と音を立ててシュシュがコップの水を飲み干しす。
口許に薬を差し出された時は嫌そうな表情をしたものの、健気に言われた通りきちんとそれを飲み下した。
「まだ苦い?」
空になったコップを握り締めてコクコクと首を縦に振る。
中身を継ぎ足したそれを僕がそのまま口に含むのを見て、恨めしそうに口を尖らせる様子も半端なく可愛い。
そのままそっと顎を捉えて上向かせ、唇を合わせるとこくりと喉が鳴った。
「――――口直し」
唇が離れた瞬間のとろりと熱のこもった眼差しが、やけに色めいて見えたのは僕の煩悩のせいだけだろうか。
『…続きは元気になったらね』
秘密の言語で囁けば柔らかな腕がふわりと首に絡まった。
“正〇丸”味のちゅーとか……有り得ん。




