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51 ヤンデレ?

「ライディーン、待て」


今にも飛び掛かってじゃれつきそうな様子の獣を身振りで押し止める。


シュシュが暑気当たりで寝込んでからというもの、忠犬ハチ公顔負けの忠誠心を発揮したライディーンは女子寮の窓の下にずっと居座り続け、夜間の狩りにも出掛けずそれこそ不眠不休で(半分屍化して)番犬の役目を果たしていた。

久し振りのシュシュとの顔合わせに狂喜するのは解るけど、その勢いで飛び掛かられたら此方はたまったもんじゃない。


定位置の腕の中でシュシュが手招きをすると、黒い獣は注意深くソロソロと近付いてあと数歩の距離を置いてピタリと止まる。


そこからシュシュが腕を伸ばしてライディーンの鼻面を撫でると、喉からぐるると嬉しそうな声が漏れた。

慎重な動きをする本体とは対称的にブンブンと激しく振り回される尻尾は、正に犬。


『最凶の獣が最早下僕状態』な様子に、殿下はカパッと顎を落として絶句した。





「ナニあれ!!」


わかるわかる。

殿下の気持ちはよーく解るとも。


そもそも飛天は見た目からして“可愛い”とか“愛嬌がある”という言葉からはかけ離れた生き物で、黒く厳つい無駄に恐ろしげな姿は常に周囲を威圧して、『視線が合ったら人生終わり』と城の騎士達を怯えさせていた。


多少の例外はあるにしろ、人間と馴れ合うような気性じゃなかった。


それがどうだ。


暴君の名を欲しいままにしていた獣の王が、病み上がりの小さな少女を気遣い、牙も爪も隠して気持ち良さげに喉を鳴らしている。



「なんか色々と有り得ないんだけど……。俺、こいつの眼中に入ってないよな?一応『知り合い』くらいには位置付けされてると思ってたのにさ……はぁ」


ションボリと肩を落とした殿下を見たシュシュが眉を曇らせると、ライディーンはゆるりと首を動かして“それ”を視界に入れた。


ぶっふん。


『なんでオマエがいる?』的なこの反応は、ライディーンにしては上等な部類だ。

つい今しがたのデレッデレな状態の方が変だし。





―――――――その後。


「………身体が熱い。ごめんシュシュ、無理をさせたね」


約半時余りで中庭から屋内に移動したものの、表の陽射しはまだ病み上がりのシュシュには堪えたらしく、ようやく回復しかけていた体調が一気に逆戻りしたようだ。

熱を帯びて上気した頬は赤く、額にうっすらと汗が浮かんでいる。


「ニキータ、悪いけどシュシュを部屋に連れてってくれるかな」


「はいはい、シュシュ此方にいらっしゃい―――って…あらぁ?」


抱っこを交替しようとニキータが腕を差し出した瞬間、僕の首にきつく腕を回してイヤイヤをするようにかぶりを振るシュシュ。


「ダメだよ、ちゃんと休まないと。治るものも治らない」


ふるふるふる。


グハッ!な…涙目で上目遣いとかっ、そんな反則技どこで覚えた――――――!!


光の加減でユラユラと色彩いろを変える瞳に涙をいっぱいに溜めて、何か言いたそうにじっとこちらを見詰めている。


「あー、アレだ。お前この前休み途中で仕事に駆り出されて小鳥ちゃん放り出しただろ」


「ほ…放り出したわけじゃ……っ」


「『アタシと仕事どっちが大事なの!?』ってやつだろ?埋め合わせしてやれば~」


「ええっ!―――もしかしてその子スォードの幼な妻!?」


「馬鹿ロード!!」


こいつら意外にノリが合ってるのと違うか!?

この、馬鹿二人連れめ!


「俺、今日はもう疲れてるし早目に部屋を借りて休むからさ、スォードはこのまま仕事上がれば?」


「そうそう。で…ロードの補佐は俺がバッチリ務めとくし!」


なにやらイイ笑顔で送り出されてしまった。

……ま、いっか。

あいつらには後で酒でも奢るとして、今はシュシュだ。




















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