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50 その後の顛末

「それにしても…可愛くないっ」


目の前の騎士の制服に身を包んだ青年をじっくり観察してみる。

3年前14・15だった筈だから現在18くらいか。

年齢の割に小柄で目ばかり大きな幼顔おさながおの子供だったのが、今はすっかり大人の体つき。

小綺麗な顔立ちと言えない事もないけど、既に男臭さが漂い始めている。

体育会系の集団の中で生活していればそうならざるを得ないのは理解出来るけど。


「男に可愛いげを求められてもなぁ。前にそれでエライ目に遭ったのは誰だっけ?」


「………君もあの上司と同じ目に遭わせてあげようか」


「ウソウソ!失言でした!」


するとここでノッティが恐る恐るといった感じで口を挟んできた。


「例の話ってさ……どこまでが実話?」


下世話な話題ほど世間に広まるのは早い。

ましてやそれが普段お高く取り澄ました高位貴族の醜聞ともなればなおのこと。


『傍系とはいえ王家の血筋の人間が血迷って同性の部下を手込めにしかけ、手痛い反撃を喰らった挙げ句不能にされた』


とかなんとか。


「ほぼ実話?」


「………お前…王族不能にしといてよく無事だったな」


「あー、それは僕もそう思ってる。自主的に騎士の位を降りたとしても処罰は免れないと思ってたんだけど、どういうわけか誰も何も言って来なかったんだ」


「――――言えないさ。騎士団の期待の星を潰しといて、そのうえ処罰とか」


「そうか?」


「そーだよ!スォードはあんまり地位に執着してなかったみたいだけどね。スォードが即座に投げ棄てた騎士の名は、物凄く重要な意味があったのさ。散々引き留められただろ?」


「………それはまぁ」


「上層部の長年の宿願だった『飛天の騎士』の可能性が一族の鼻つまみ者のお陰で一瞬にしてパァ!おまけにスォードが王都を出た後ライディーンが怒り狂って、元凶になった男の邸を黒焦げにしてまわったもんだからそいつ再起不能の状態になってさ」


身内の恥が片付いていっそスッキリしたくらいだと王ものたまったとか。

飛天アレいかづちは天災と同義語だ。

人間にはどうすることも出来ないあたり、己の身に降りかかればさぞや恐ろしかろう。

もしそれを思いのままに御する事の出来る人間が現れれば、天を動かすにも等しい力を得た事になる。


今更ながら、自分に求められていたものに寒気がする。


飛天アレが人間の言うこと聞くわけないだろ!

気付けよ!!

利用してやろうとか考えた途端こっちの喉笛喰い千切ってトンズラするに決まってる。



「――――それよりさっきライディーンが女性に反応しただろ、赤毛の彼女!もしかして彼女が関係してるのかい?あのヘタレっぷり」


「あー…それは…」



――――――さて、どこから説明したものか。










食堂にシュシュを抱っこしたニキータがやって来たのは、僕とノッティの二人がかりで殿下に一通りの説明を済ませた後だった。


シュシュが特例措置で保護した子供であること、何故かライディーンに気に入られていること。

そして―――――――…


「うわ…本当に翅がある…!『天翅』って言うんだっけ?」


いきなり知らない相手に子供のような興味丸出しの視線を向けられたシュシュが、驚いて僕の首にかじりついた。

此所ここの環境にも大分慣れ、寮の外でもケープを外して過ごせす機会が増えたのは良いことなんだけど。

こういった部外者の不躾な視線は、臆病なシュシュを悪戯に怯えさせてしまう。


あれだけ繊細な子だからと説明したのに、このド阿呆!!


「―――――いだッ!………スォードの…拳骨、久々…」


「ぎゃあっ!!不敬罪確定!?」


「……だ、大丈夫!イツモノコトネ」


「でん…ロード……の頭にタンコブがっ」


いつもってなんだ。

そんなにしょっちゅう殴ってた覚えは無い。


「人の話を聞かないところは相変わらずか坊っちゃん」


「あら、そこの騎士様スォードの知り合いだったの?」


「うん、まあ。王都からわさわざライディーンの様子を見に来たんだってさ」


見るからに育ちの良さげなロードを見てニキータは僅かに目を見張り、言葉遣いをやや丁寧に修正した。


「そうなんですか。でもあの子、暴れたのは最初だけで最近はずっとお行儀良くしてますよ?」


「………………………………………………………………………………………“お行儀良く”?」


耳を疑うような台詞に聞き違いかと耳をほじくる殿下。

まあ…それはそうだろう。


アレにはこの世で最も縁遠い筈の言葉だ。










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