49 仲良き事は
「――――殿下。ライディーンの様子見の他にも何か任務があるんですか」
「うん…ちょっとね。でもそっちは限り無く野暮用に近いと言うか……あ。“視察”は建て前だから!そこら引っ掻き回す気はないし、俺の事は放置して構わないよ」
「や、そういう訳にもいかないんスけど…」
貴賓室で一通りのやり取りを済ませて最初の面子に戻ると、途端に殿下の口調が砕けたものに変わる。
元々人当たりが柔らかい分更に気安い雰囲気になって、この青年を見て王族だと思う人間はまずいないだろう。
「それから二人とも『殿下』は禁止。色々面倒臭いから」
「ええと…じゃあハイル殿?」
「騎士団の同僚はロードとかロディとか呼ぶけど」
「……無理っす」
呼び捨て!?胃に穴が開く!!と言わんばかりにノッティの顔が思いきりひきつる。
「え?昔散々馬鹿だの間抜けだの呼んでくれた奴がそこにいるけど?」
「――――――はぁ!?」
「人聞きの悪い…。元はと言えば殿下が身分を偽ってたからです。自分と同じような貴族の坊っちゃんだと思えばこそですよ」
「嘘吐くな!バレてからもアホの子呼ばわりしてくれただろ!!」
「それはまぁ――――実際その通りだったので」
嫌いな相手に正面から噛み付いて庭木に吊るされたり、仕返しを仕掛けた挙げ句追い回されて馬糞の山に頭から突っ込んだり。
この殿下は色々と愉快な武勇伝をお持ちの方だ。
「……な?こういう奴だったんだよ!名前呼びくらいどってことないって」
最終的に呼称は『ロード』で落ち着く事になった。
通常王都からエムローザまで馬で駆けた場合、最短でも7日から8日はかかる。馬車なら10日以上、徒歩なら一月は確実の旅程だ。
ミスルギが比較的治安の良い国とはいえ、役人の目が届きにくい都市の外側では、追い剥ぎ野盗の類いはほぼ標準装備。
むしろ他の国より多いかもしれない。
そういった連中は富裕層だけを狙い、多くを奪わず、殺さずのやり口で官憲の本気の取り締まりを逃れているため、根絶するのはかなり難しい。
「よくまぁ単騎で無事に此処まで辿り着けたたもんです」
長旅の直後だけにまずは休息を、という事になって一先ず僕らはいつもの食堂に殿下を連れて来た。
夜の食事にはまだ大分時間があるため、利用者は殆ど居らずほぼ貸切状態だ。
「速駆けする軍馬を狙うような根性のある追い剥ぎはそうそういないと思うよ?」
「それはまぁそうですが。遠方の任務の場合普通は何人かで組むでしょう」
「…取り合えず辿り着いたんだから良いじゃないか。俺だってそれなりに鍛えてるし」
「だからと言って…」
「まぁまぁスォード。で…ロードだって一人前の騎士なんだから、自分の事くらい責任取れるさ。それより久々に会ったってのに小言ばかりじゃあんまりだろ」
割と気配りの男ノッティ。
こういうところが女性にも密かな人気らしい。
「…………はぁ。分かったよ。ならせめて南領にいる間は単独行動は避けて。僕のいる場所でロードに何かあれば先代に顔向け出来ない」
「――――了解。……はは、言葉遣いがすっかり昔に戻ってる」
何嬉しそうに笑ってるのかな?この坊っちゃんは!
ええい、余計な手間を増やしおって!!
隊長はこれの補佐をしろと言ったけど、早い話が護衛に付けということだ。
いくら本人が砕けた人柄だろうと王族は王族。
掠り傷一つ負わせずに王都に送り返さなければならない。




