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48 自己紹介

「うわあー、ナニあれ…」


南支部に着いてすぐ、中庭で半ば屍と化した獣を見ての殿下の第一声だ。

四肢を投げ出したような格好で横たわるその姿は、完全に行き倒れスタイル。

しかも放心状態。


「いまだかつて見たことが無い有り様なんだけど」


そうだろうとも。


先代の女王と縁が深く、後ろ楯の少ない女王を守護するかのように王城に棲みついた獣は、女王に害意を向けた相手を片っ端から瞬殺して回った。

そのせいで城勤めの騎士や貴族達からは酷く恐れられ、鬼神もしくは魔王のように扱われている。

触らぬ神になんとやら、というやつだ。


間違ってもこんな風に襤褸雑巾のような姿を晒す生き物じゃなかった筈なんどけど。


「………事情を聞いてもいいのかな?」


「あー…スォード。殿下には実際の光景を見て貰うのが一番良いんじゃないのか?」


「それはそうなんだけど…」


シュシュは連日の酷暑で思うように食欲が戻らず、未だに寝台から離れられずにいる。

老医師特性の栄養剤のお陰で何とかなっているようなものだ。

どう説明したものか。


その時、カタリと音がして女子寮のとある二階の窓が開け放たれた。


ヒョコリと顔を出したのは見慣れた赤毛の女性隊員で、今日は非番のニキータだ。

僕に気付いてブンブンと手を振り、ヨイショと何かを持ち上げる動作をしたかと思うと、その腕にシュシュを抱き上げた。


シュシュは片腕をニキータの肩に回し、空いた方の手を此方に向けてヒラヒラと振って見せる。

その顔には笑顔があり、僅かながら元気になったのが見てとれた。

僕も幾らかホッとした気分になって、そっと手を振り返そうとしたら―――――もっとあからさまな反応をした奴がいた。


頭上の窓にその小さな人影が見えるや否や、一瞬でガバリと身を起こした獣は千切れんばかりの勢いでブンブンと尾を振り回し、今にも小躍りしそうな様子で足を踏み鳴らし始めた。

その姿はまるで―――――――


「………………………犬?」


呆然と呟く殿下。


あれが“事情”ですよ、と付け加えた言葉が果たして耳に届いているかどうか。








「ご挨拶が遅れて申し訳ありません、ボガード殿。自分は王都守護の任に当たる白狼騎士団の団長より南領の視察を命ぜられました、シュローダー・ハイルと申します」


「…………ご丁寧な挨拶痛み入る。騎士殿」


南支部うちでは滅多に使われる事のない貴賓室も、今日ばかりは役にたった。

尤も殿下は王家の姓を名乗らなかったから、王族としての権力を振りかざすつもりはないんだろう。

あくまで騎士団の一員としての立場を優先するにしても、事実を知っている側としては対応が慎重にならざるを得ない。


何せ腐っても王族。


「……それにしてもお一人で、とは」


流石のボガード隊長も困惑気味でいつもの悪人面に少々迫力が欠けてしまっている。

13・14番隊の両隊長も突然の来訪者の身分をノッティにそっと耳打ちされると、目玉をひん剥いて絶句してた。


「単独行動には慣れているので」


するな!慣れるな!


「飛天の一件もありますし、暫く此方に滞在する許可を頂きたいのですが」


「――――任務とあれば無論の事。スォード、お前はノートルディアと騎士殿の補佐に回れ」


「………了解です」


「え、俺もですか!?」


まぁ、こうなるとは思ったけどね。






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