40 穏やかな日々
――――いざというとき男より女の方が肝の据わりが早いのは、何処の世界でも共通なのかもしれない。
数日後出向先から戻って来た女性隊員達は、いつの間にか増えていた特大サイズの居候を見て仰天したものの、さほど取り乱す事もなく驚異的な順能力を発揮して見せた。
なにしろデカイ図体したその凶悪生物は、小動物の僕よろしくかしずいて何処に行くにもその後を付いて回り、少女の姿が屋内に消えると建物の窓際にへばりついて項垂れる。
八つ当たりで周囲に電撃を飛ばして僕に拳骨を喰らって不貞腐れる。
といったやたら人間臭い行動を繰り返し、女の目線からだと“手の掛かるヤンチャ坊主”にしか見えなかった為らしい。
勿論“言葉が通じる”という点も重要だっただろう。
「お早う、ライディーン今日もお姫様の護衛よろしくね!」
「暴れたりしないで良い子にしてるのよ?」
ぐるるるる。
女性隊員達に代わる代わる声を掛けられて「任せろ」と言わんばかりに喉を鳴らす、強面の獣。
どこからどう見ても捕食者の頂点を極めた生物としか思えない形をしているにも拘わらず、今のところ至っておとなしい。
「女ってすげえよな……。なんで平然とアレに近寄れるのか俺には分からん。肉食獣だぞ?」
「同感だ。こっちは視線が合っただけで身が竦むってのによ」
男共の一般的な感想はこんな感じだけど、まぁ、それが普通なんだよ。
警備隊の女性陣が例外過ぎるだけで。
雄同士だとほぼ力の上下関係が全てだから、仕方がないというか。
飛天にとって人間という種族は歯牙にかけるまでもない存在で、僕がライディーンに好き勝手に振る舞って許されているのは多少の友誼が成立しているから……だと思いたい。
慣れればそう悪い奴じゃないしね。
物凄く厄介なだけで。
最近のシュシュは昼間の時間を隊長の執務室で過ごす事が多くなった。
ボガードの爺っつぁまは年齢的な問題もあって、基本詰所での事務仕事が多い。
一見どころかニ見三見しても堅気の人間には見えない悪人面だけど、意外と面倒見は良いし実は子供好きな人だ。
ただ、子供には例外なく逃げられてしまうから、自分を見ても泣かずにモジモジと見上げてくるシュシュはとても珍しく、かなりお気に入りの様子。
なにしろ毎日シュシュの為に何かしら甘い菓子を手土産に出勤して来てるぐらいだし。
そしてシュシュが隊長の執務室に篭っている間、ライディーンはその窓の傍で昼寝をするのが日課になった。
「まぁ!ちょっと見ない間に執務室の書類棚がお菓子の見本市になってるわ」
任務の報告に隊長執務室を訪れたハナが目を丸くして可笑しそうに笑った。
それもその筈、ギッシリと厳めしい装丁の書籍や書類を綴じた束が並ぶ棚の、調度シュシュの背丈に合わせた位置の段には、カラフルな包装紙に包まれた菓子の箱や瓶詰めの甘味の類いが所狭しと並んでいる。
それも有名店の逸品から今流行りの駄菓子まで幅広い品揃えで。
「お店でも開くおつもりですか?隊長」
「む………」
相変わらずの無愛想さで質問にろくな返事が返らないのはいつもの事。
それでも心なしかほんのり耳が赤くなっているところを見ると、照れているらしい。
「シュシュ~。優しい“おじいちゃん”で良かったわねぇ」
声を掛けられ応接セットのソファーにちんまりと座って絵本を広げていたシュシュが、顔を上げて嬉しそうに笑った。




