4 日の当たる場所へ
明るさが戻った地下ホールにはざわざわと落ち着きのない空気が充満し、それぞれ事後処理に追われる隊員達が忙しく動き回っている。
そのホールの一画で、子供たちを保護するために向かった隊員達が実に情けない表情でオロオロとその場に立ち尽くす様子が目に入った。
「どうかしたのか?」
「あ、あぁ…なんか酷く怯えられちゃってさ」
「近付くと泣き叫んでパニック状態なんだ」
見れば子供たちは皆身を縮めてカタカタと震えている。
余程酷い扱われ方をしていたのか、全員顔色も悪く痩せ細って、おまけに服の下には痣や傷の跡までが見える。
日常的に謂れのない暴力に晒されてきたのなら、武器を身に付けた大人の男など恐怖の対象でしかないだろう。
急いで自分の腰の剣を鞘ごと引き抜くと隣にいた男に押し付け、膝をついて視線を子供たちの高さに合わせる。
「…もう君達に暴力を振るう大人はいないよ」
オドオドと躊躇い迷うような目が幾つもこちらに向けられる。
疑い、確かめるような視線。
「これから柔らかい寝床で体を休めて、明日からはお日様の下で遊べる。―――――もう、自由にして良いんだ」
「………………ほんと…?」
「おうちに帰れる…?」
向けられる眼差しに漸く僅かな希望が混じり、すがるような言葉が零れ出た。
「警備隊の皆が君たちの家を探すよ。約束する」
だから、行こう。
そう言って手を差し出すと、恐る恐る小さな掌が重ねられた。
そしてひとり、またひとりと立ち上がり、隊員に付き添われて地下ホールを後にして行く子供たち。
そうして最後のひとりになったとき、残るひとりの子供が立ち上がる力も無く床に両手を着いたまま項垂れている事に気が付いて、慌ててその身体を抱き上げた。
「……気が付かなくてごめんね。このまま運ばせて?」
身体に合わないブカブカの外套のフードを深く被り、体型も殆ど隠れてるけど10歳くらいの女の子なんじゃないかと思う。
いきなり抱き上げられて吃驚したのか一瞬身体を強張らせたけど、左腕に座らせるようにして歩き出すと、バランスを取る為にか肩に細い腕を回して身を寄せてきた。
それにしても軽すぎる。
「――――――っ…」
「?」
腕に抱いたその子がフードの奥で何か言葉を呟いた気がしてふと視線を向けると、慌てて被り物を深く引き下ろされてしまった。
警戒されちゃったかな。
「取り敢えず明るくて安全な場所に行こう。皆一緒だから心配いらないよ」