31 疑問符
奇妙な事に、あの天馬と遭遇した後にも何度も似たような出来事が続いた。
水鳥の群れが岸辺まで揃って押し寄せて来たり、通常なら人間を怖れて傍に寄る事などしない小鳥が僕らの周りを飛び回ったり。
“僕ら”と言うよりシュシュに惹かれて、と言った感じ?
「―――…もしかして君、仲間と思われてるのかな?」
最初の天馬にやたらガン見されてたけど、この子の事心配して飛んできたとか。
あれ…じゃあ自分て人拐いか何かと思われてた?
でもその割には最終的には何かやたら呆れた感じで溜め息つかれてたような…。
何故に。
この日の午前中ひとまず散歩は満喫出来たけど、訳の分からなさは増加した。
陽射しが本格的に強くなる前に離れに戻ったのは正解だった。
水辺の風は涼しいけれど、流石に初夏ともなれば少し歩いただけでも汗ばんでくる。
翅を隠す為に上衣が手放せないシュシュには些か辛い季節になりそうだ。
『離れの中でなら上衣を脱いでも構わないよ。暑いだろう?』
昨日うっかりシュシュの上衣を脱がしかけて、肉食獣の前に差し出された仔兎のような目で見られてしまったから、予め日本語でフォローしておく。
「…………」
こくりと頷く表情はやはり不思議そうだ。
どうして言葉が通じるのかと疑問に思っている顔だ。
でもそれは僕にもちょっと上手く説明出来ない。
『私』の記憶や知識が本物だとするなら、この“日本語”は恐らくこの地上の何処にも存在しないはずの国の言葉だから。
現在『僕』が暮らしているこの世には、世界中の隅々までが記された地図というものは存在しない。
そんな技術は無いからだ。
ところが『私』の住んでいた所では、『世界の形』はほぼ完全な姿で詳細まで認識されている上、国名がすべて明らかにされていた。
そして、かつての『私』がよく知る世界地図の何処にも、この世界にある国の名はひとつとして目にした覚えが無い。
シュシュ。君は何処から来たのかな。
この世に無い国の言葉を理解出来るのは何故なんだろう。
君までが向こう側の世界の記憶を抱いたまま、生まれ変わった『誰か』なのかい…?
僕はまだ、何も訊けないままだ。




