27 記憶に残るもの
ちょと暗いです。
真珠の育った家庭環境は、とても身内の縁の薄いものだったように思う。
母親以外の親い肉親はおらず、ずっと母一人娘一人の暮らしを続けていた 。
女手一つで苦労しながら自分を養う母親の姿を見て育ったせいか、真珠は他人に甘える事をしない子供だった。
学校で苛めにあった時も、母親に心配をかけまいとして遂に一言も愚痴めいた言葉を漏らさなかったくらいだ。
勿論『私』がきっちり報復は行った。
苛めの原因は主に同性からの嫉妬。
真珠の容姿はペンペン草の茂みに花壇の花が混じって咲いてるくらいに、飛び抜けてたから。
庇護欲をそそる線の細さは異性を惹き付ける反面、同性の嗜虐心も煽ったらしく、大人の目の届かないところでねちねちとイビリは続いた。
『私』は番犬よろしく可能な限り真珠に張り付いてガードを固め、イビリの現場に遭遇しようものなら相手が誰であれ、躊躇なくそれ相応の報いをくれてやった。
お陰で親が何度も学校に呼び出しを食らってたけど、真珠を可愛がってる兄貴達には「よくやった!」と褒められ「これからもその調子で!」と激励される始末。
言われなくても、って感じ?
学校生活がこんなだから真珠の交遊関係は極端に狭く、あの子が打ち解けた笑顔を見せる相手はごく少数しか居なかった。
可愛いのに勿体ないと思う反面、誰彼かわまず愛嬌を振り撒かれても、とんだ勘違い野郎を量産しそうで恐ろしかったから、まあ、いいかとも思った。
真珠の笑顔は私や親しい者達が知っていれば良い。
でもこんなのは私の我儘だ。
真珠はもっと愛されて良いはずなんだから。
「―――――告白された?誰に」
「3年の先輩。卒業して会えなくなると嫌だから付き合って欲しいって」
「真珠の一つ上か……どうするんだ?」
「え?断ったよ」
「即答!?」
「だってあたしには蘇芳ちゃんがいるし」
「………忘れてんのかもしれないけど、私、女なんだ」
「あたしは気にしないよ?」
「しろ!!」
こんなやり取りが何度かあったような気がする。
―――――でも。ちょっとずつ時間が解決するはずだったんだ。
すぐには無理でも、真珠は相手の誠意を感じられない子じゃない。
真珠に告白してくる相手の中には、いずれ真摯な想いを寄せる男性も現れる筈だから。
でも『私』はそれを見届ける事は出来なかった。
『―――――――いやああああああぁ!!蘇芳ちゃん、蘇芳ちゃん!!』
例えただの夢でも、こんな声を聞きたくはなかった。
叶うなら、真珠の笑う声だけを覚えていたかった。




