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24 温泉といえばハプニング

ミスルギは全体的に水資源が豊かな国だ。


何本もの河川が国土を走り、南部には大きな湖がいくつも点在している。

主だった都市に上下水道が完備されているのはごく当たり前という、近隣諸国の住人が泣いて羨ましがる環境が整っていたりする。


「――――――温泉?」


「はい、数年前に近くで源泉を堀り当てましてねぇ。湯量がとても豊富でしたので宿の湯殿に使用しております。離れでもご利用になれますよ」


宵の刻に食事を運んできたバーサが自慢気に教えてくれた。

新たに井戸を作ろうと地面を掘っていたら、たまたま源泉に当たってラッキー!みたいな感じだったらしい。

初めから温水であれば湯を沸かす必要もなく、薪や火炎石も大幅節約出来て良いこと尽くしなんだとか。


街中で庶民の個人宅に風呂が設置されている事はあまりなく、軽い沐浴で済ませるか公衆浴場を利用するのが一般的だから、惜しみ無く湯が使える温泉は立派な贅沢の部類に入る。






「おー、本格的」


温泉を堀り当てた年に改築したという湯殿は、大人数人が余裕で利用できる広さがあり、タイルの床面に埋め込まれた浴槽に神獣を模した石像の口から適温に調整された湯が常に注がれる“源泉掛け流し”というやつだった。


『私』の記憶の中でも似たようなものを見た覚えがある。


「あ。こら、湯殿でふらふら歩き回ると―――――」


………ドッボ―――――ン。


「シュシュ!」


やると思った。


バーサの話を聞いて楽しみになったものだから、食事の前だったけどちらっと覗いて見るつもりで湯殿に入ったら、当然シュシュが追いかけて来て。


「もー、危ないじゃないか」


ザブザブと湯を掻き分けて華奢な身体を掬い上げると、湯を飲んで噎せたのかケホケホと咳をしながら涙目でしがみついてきた。


薄い身体に濡れた服が貼り付いた少女は尚更細く小さく見える。


「うーん…、もうこの際か」


今着替えたところで二度手間になるだけだし、いっそこのまま風呂を使わせた方が手っ取り早い。

濡れた服はそのままでシュシュを洗い場まで運び、ケープだけをスルリと脱がす。


するといつもは衣服の下に隠している翅を急に露にされて驚いたのか、シュシュがふるふると小刻みに震えながら上目遣いに僕をじっと見上げてきた。


『…なにするの?ねえ、なにするの?』


言葉にしたらこんな感じ。


「……………っ、………違っ!」


状況的には、いたいけな少女を脱がしにかかってる成人男子とその毒牙にかかりかけてる被害者の図。





ヤバかった……。


別に不埒な真似をしようと思ったわけじゃないけど、配慮が足りてなかったのは否めない。


あれで怯えて金輪際近付いてきてくれなくなったらどうしよう。

僕の唯一の癒しなのに。


慌てて身振り手振りで風呂に入るように示し、入浴に必要な道具類を手渡して湯殿から逃げて来たけど。


断言してもいい。


100人の破落戸ゴロツキに囲まれたところで、

あれほどの窮地とは思うまい。

そこは全員殺ればいいだけの話。


あれこれ悶々と考えてソファの上でどんよりしていたら、不意に背中にピトリと柔らかな感触が当たった。


「シュ……」


湯上がりのガウン姿ですぐ隣にちんまりと正座するシュシュ。

どうしたの?とでも言いたげに首を傾げながら此方の顔を覗き込んでくる瞳に、怯えや嫌悪の色は無い。

その事に何だか凄くほっとして、漸く気分が浮上してきた。


「………さっきはゴメン。今度から気を付けるから」












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