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18 君が望むものは

例の人身売買に関する調書が上がってきた。


保護した子供達の身元の殆どがミスルギ国外出身で、周辺の国に問い合わせてはいるものの恐らく解決にはかなり時間がかかるという。


親がいて公的な機関に行方不明者の届け出を出していればともかく、貧困などからその親に売られていたり、犯罪柄みだったりした場合、子供達が元の暮らしに戻れる望みは薄い。


そしてあの子に関しては、予想どうり何一つ確かな事は掴めていなかった。








「せめて言葉が話せれば色々分かるかもしれないんだけどな…」


「――――小鳥ちゃんの事か?」


市街を巡回する通常任務の最中、頭で考えてるだけのつもりがつ言葉に出してしまってたらしい。

今日も当たり前みたいにコンビを組まされている相方から反応があって、ふと我に返った。


「……こっちの話す言葉にはいくらか反応があるから、多少は会話が理解出来ているんじゃないかと思うんだけどさ……片言さえ口にしないから、気になってね」


「なんか理由があるんじゃないのか?元々声が出せないとか」


「前に泣いたとき……声は普通に出てた。出ないのは『言葉』だよ。咄嗟の時とか普段使ってる言葉が出てもおかしくないのに」


「シュペルツハイト医師せんせいに相談してみたらどうだ?」


「…………………誰それ」


「ダレって……お前、もしかしてうちの隊の主治医の名前忘れてんのか」


………………そんな名前だったのかあの医師センセイ








その日の夕方。


「シュペルター医師の見立てとしてはどう思います?」


「…………………シュペルツハイトだ。恐らく心因性のものではないかと思うとるが」


老医師の診療所は詰所のある通りから東へほんの数分歩いた場所にある。

近所に3年住んでいながら自分からここに出向いたのは実は初めてで、当の老医師は玄関で僕の姿を見てから慌てて空を見上げて天気の心配を始めてた。

だから「雷なら落とせるけど」って言ったら、余計な事をするなって怒鳴られた。

僕の数少ない特技なんだけどなー。


たまに放出してやらないと勝手に放電するから危ないんだよね。この剣。


「心因性?」


「恐らく、だ。何が障りになっているのかは分からんが……強い恐怖や過度のストレスが原因というのは可能性として有りじゃ」


「じゃあ…どうしたら良いんです」


「―――――焦らん事だ。この半月で大分嬢ちゃんの表情が良くなって来とるだろが。無理に急かすと逆戻りしかねんぞ」


それは困る。

折角可愛く笑うようになったのに。


「僕は……、話が出来たらあの子がどうしたいのか聞いてみたかったんです。もしかしたら家族の元に帰りたがってるかもだし」


寧ろそのはずだ。

誰ひとりとして同族がいないこの場所が、居心地が良いはずもない。


「――――小僧っ子が。あまり思い上がっとるんじやないぞ。嬢ちゃんが帰りたいと言うたらお前さん帰してやれるのか。何処に居るとも知れない仲間を、世界中駆けずり回って探しだしてやれるとでも言うつもりか」


「―――――――――――…」


言葉に詰まった。


それは……その通りだ。

なんか一人で自惚れてた感じでちょっと…かなり恥ずかしいかも。


老医師センセイ……ただの助平爺ぃかと思ってたら、結構深いこと言う人だったんですね」


「―――――――帰れ糞餓鬼」












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