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17 深読み禁止

隊長の執務室を出た後、僕らはその足で支部の敷地内にある食堂に顔を出した。

建物自体は別棟だけど渡り廊下で繋がっていて、隊員達がよく利用する施設だ。


昼食時にシュシュが慣れている女性隊員と合流する手筈にしてある。

他の奴等に会わせるにしても、いきなりむさいオッサンの群に放り込む訳にいかないし。




「待ってたわよぅ~シュシュ~」


食堂にはあらかじめ約束を取り付けていたハナとニキータ以外にも、数名の女性隊員が待ってくれていた。


「ほら~、こっちいらっしゃあい」


ハナが両手を伸ばすとシュシュは素直に手を差し出して僕の腕からハナの腕の中へと移り、他の女性隊員達を悔しがらせた。


「あっ!ズルいハナ――――!」


「あたしもシュシュ抱っこしたかったのにぃ~」


「お~っほほ。譲らないわよ~。あぁん、良い抱き心地。フカフカ~」


シュシュは見た目以上に軽くて女性にも難なく抱き上げられる重さでしかない。

しかも警備隊にいる女性は皆体力自慢の女傑ばかり。

ハナに限らず彼女達がシュシュを抱っこしたがるのは、幼女がお気に入りの人形を独占したいのと同じ感覚なんだろう。

本人もさして嫌がってないから、まぁいっか。


シュシュを真ん中にして一つのテーブルを囲み、和気あいあいと食事が始まる。

昼時なだけあって一度に100人以上が入れる食堂も既に半数以上の席が埋まっている。

新たに人が入ってくるたび此方の席をチラ見しながら軽く挨拶をして行く。


「よう、スォード。それが例の嬢ちゃんか?」


「そうだよ。人見知りだから慣れるまでそっとしといてやって」


「俺の娘とおんなじくらいかー」


「アローズのとこの娘さんはいくつ?」


「今、9歳だ。母親に似て口喧やかましくなって敵わんよ」


やっぱり他の人間から見てもそのくらいの年齢にしか見えないよね……。


他にも何人か親身な言葉をかけてくれる同僚がいて、それは大概子持ちの既婚者か孫のいるような年代の者だった。

若い連中は気になってはいてもどう接したら良いのか分からず、遠くから見守るに留めたようだ。


「おーい、スォード。これ小鳥ちゃんに差し入れ」


……あいつがまだだった。

何やら小さなかごを手にして、糸目を笑いの形にゆるめている。


「帰る途中の市で見繕ったんだ、女の子は好きだろうと思ってねー」


ノッティがほらと差し出したのは、初夏が旬の真っ赤なベリー。


「あら、美味しそう。もうこんな季節になったのねぇ」


「シュシュ折角だからひとつどう?はい、あーん」


ハナが口許にベリーを近付けると嬉しそうに小さな口を開けてパクリと赤い果実を頬張り、その甘さに満足したのかニッコリと微笑んだ。


「~~~~~っ。か…カワイイっ!」


「あたしも!あたしもあげる!」


「シュシュー、お口開けて~」


今まで見てきた中で一番の自然な笑顔かも。

ノッティ、グッジョブ!


それにしても。シュシュの“ニッコリ”にやられた周りの席の奴等が、俺も今度はあの手で!とか考えてるのがダダモレだ。


「………ちょっと、スォード」


ハナに呼ばれて何かと視線をやれば、シュシュが思いっきり期待に満ちた目で此方を見上げている。

あー、これは。


「――――もっと食べる?」


よく熟れた実を選んで口許まで運ぶ。

すると嬉しそうにパクリとかぶりついたのは良いけど一口で食べきれなかったようで、滴った果汁が自分の指を濡らす。


それが勿体なかったのかシュシュは果汁に濡れた僕の指に、ちゅっと音を鳴らして吸い付いた。

あーあ。


「ちょっ…こら!そーゆーことすると、シュシュまで汚れるってば。ああ、ほら口の周りのベタベタ。……しまった、ハンカチ忘れた」


袖口で拭ってしまえ。


くすぐったそうに身を捩るシュシュの顎を捕らえて自分のシャツの袖でぐいぐい擦る。

袖口は赤く染まったけどシュシュの顔はキレイになったからいっか。


「ふふ、今度はどうかな。これなら一口でいける?」


さっきより小さめのベリーを口の中に指で押し込むと、モグモグと咀嚼してから満足そうにふにゃりと笑う。

おお、良い表情。


―――――――――アレ?何で皆そんなビミョーな顔してるのかな?

なんか心持ち顔色が赤いし。


(((……無自覚エロがいる……!)))


気のせいか周囲から妙な心の叫びをぶつけられてるような気もするけど。


問題なし!!


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