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12 自覚あります

天翅てんしの少女に“シュシュ”と名前を付けた。


可愛らしい音の響きは周囲の人間にも好評で、今では本人も呼び掛けられれば振り向く程度には、すっかり定着している。






「そういえば、ボガード隊長明日から復帰するらしいぜ」


相も変わらずトンズラした副長の代わりに、執務室に次々持ち込まれる書類に目を通していると、代理のサイン済みの分を回収しに来たノッティが言った。


「本当か!?……やっとこの作業から開放される…」


「今回は随分長かったよな。この前の捕り物の辺りからだから、10日近くか。本来ならこういうのは副長の役目なんだけど……あの人には期待するだけムダだし」


「…………あの脳筋猪イノシシっ。頭ん中に『呑む』『打つ』『買う』以外の単語は無いのか!!」


「下手にストレス与えると暴走して手がつけられないからなぁ…」


巻きにして水路に沈めてしまえっ……!」


入隊以来アレの尻拭いをさせられ続けている身としては、此方の方こそストレスで胃に穴が開く気分を味わっていると言いたい。

どちらかといえば自分も頭脳労働デスクワークより肉体労働向きだ。

誰が何と言おうと実戦で汗をかいてる方がよっぽど性に合ってる。


「………駄目だ。ノッティ後で手合わせしてくれ、身体がなまってストレスで死ぬ」


「えええ!勘弁してくれよ!」


「剣は使わない、組み手でいいから」


「冗談!?お前のあの妙な体術マトモに食らったら骨が砕けるだろ!!」


「や、手加減するし」


「無理無理!絶対ヤダ!!この前何人ブッ倒したと思ってんだよ。床に沈めた奴の半数は翌朝まで使い物にならなくて尋問が進まなかったじゃないか!」


ええい、根性無しめ!


ノッティとは3年前20歳で都市警備隊に入隊してからの付き合いになるけど、鍛練こっち方面の付き合いはあまりよろしくない。

以前そう文句をつけたら「脳筋はお前もだ!!」と罵倒された。


や……自覚はあるけどね。




「そんなにイライラするなら小鳥ちゃんの顔でも見て癒されて来ればいいじゃないか」


「………!」


その手があった!


「そのうち俺達にも会わせてくれるんだろ?一応15番隊の仲間になったんだから」


「シュシュの状態次第かな。でも、そろそろ大丈夫な気もするんだ。このところ表情も豊かになって食欲も増してきたし、来たばかりの頃に比べたらずっと健康的になったよ。ハナやニキータのお陰かな」


「あの二人は特に面倒見が良いからねぇ」


取り敢えず今は自分にこそ癒しが必要。

あの小さくて軽くてふわふわな生き物を、おもいっきり愛でて回復してこよう。










「―――――――――何で老医師センセイがいるんだ?」


いつものようにシュシュの顔を見に女子寮を訪れると、馴染みの人物が応接室の長椅子に悠々と腰を下ろして、優雅に午後のお茶を楽しんでいるところだった。


「往診に決まっとるじゃろが」


「あの子の?」


「おうさ。身体の造りが人間ヒトちごうとるしな、経過観察が要る―――――というのは建前で単に嬢ちゃんの顔を見に来たんじゃい。可愛いしのー」


……………ロリ好みかエロじじぃ。


「はいはーい。お姫様のご到着~」


今日のシュシュは女性隊員の有志が持ち寄ったお下がりの衣服に手を加え、背中を開けて翼が出せるように工夫をしたクリーム色のワンピースを着せられている。

毎回来るたび違う服を着けているから、隊員の中に裁縫の得意な女性がいるんだと思う。


すると僕の姿に気付いたシュシュがダッシュで駆け寄ってそのまま腕の中にダイブ。


すっぽり腕に収まるサイズは相変わらずだけど、ちょっとだけふっくらと柔らかくなった。


「あー、今日も可愛い」


「んまっ。相思相愛ねぇ」


ぎゅっと抱き込むと嬉しそうにすりすりと頬を寄せて膝の上で丸くなる。

小鳥というか、仔猫?みたいな感触。

あー、いいわぁ。コレ。

抱っこして寝たい。

ぬ、断じて不純な動機ではありません!

猫飼いなら誰しも覚えがあるはず!


とまあ、そんな感じで人目を憚らずシュシュを撫で回していたら、すぐ側で呆れたような溜め息が聞こえたけど、問題なし!



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