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ダークイリュージョンー最期の宴ー  作者: 彼方
第一章 第一部 東大陸編 
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第五話 優等生と劣等生

 閑散とした放課後の教室に、レセルとジタンはうなだれていた。

 眼前には、元々吊り目がちの目を更に吊り上げ、眼鏡の奥に鋭い眼光を光らす女教師の姿が。


「貴方達、どうしてまた授業をサボったのですか?」


 ネオンの責める声音に、レセルは怖くて目をあわせることができなかった。

 次の授業サボらね?

 ジタンのこの一言が、事の発端だ。


「授業なんかうけても意味ねーし」

 

 ジタンがふてくされながら言う。

 これにはレセルも同じ思いだ。

 せっかく学院に入学させてもらったのだから……と、最初は勤勉に取り組んだ。入学して一週間ぐらいの話だ。


 だが、魔術がいつまでたっても使えない。

 自分には才能がないのかとも思ったが、どれだけ魔術に疎い者でも、指先に火を灯すなどの簡易魔術は使える。

一年近く経った現在でも、それすらできない。

こうも結果が出ないのでは、やる気など出ない。

 無駄な勉強に時間を費やすぐらいなら、友人と気ままに過ごしたほうがよほど有意義なのではないか?

 最近ではそう思えてすらくる。


「だからといって、サボっていても魔術が発現するわけではありません」


 ごもっともな言葉だが、真面目に取り組んだところで効果がないのも既に証明済みなわけで。

 まぁ教師という立場上、それを理解していてもサボリを容認するわけにはいかないだろう。


「結果が一向にでなくて、おもしろくないのはわかりますが、貴方たちの授業態度はひどすぎます」


 レセルもジタンも、黙ってネオンのお説教をうける。


「貴方達には罰として、祝勇祭の資材の運搬の手伝いをしてもらいます」


 ふいにそんな言葉が聞こえ、顔を上げる。

 顔をしかめたのはジタンだ。


「何でだよ、今年は免除されてる筈じゃ……」


 そう、今年は東大陸をあげての祭となるので、人手が何倍もある。

学院の生徒は祭事をする必要がないのだ。


「免除はされてますが、仕事がないわけではありません」

「……と、いうことは資材の運搬とかですか?」


 ジタンが嫌そうに言う。


「えぇ。開催地である王都までの運送は専門の方にお任せするとして、そこまでの運搬をお願いします」

「あんな重い物、二人だけで運べるかよ」

「ですから、そんなときは質量操作の魔術を使えば――」


 ネオンはハッとし、口もとに手をあてる。


「……貴方たちには無理でしたね」

「なら、僕が手伝いましょうか?」


 声が聞こえ、レセルは教室の入り口に視線をむける。

人当りのいい笑みを浮かべた若草色の髪の少年、クロムが立っていた。


「課題のレポートを届けにきたら会話が聞こえたもので。僕が彼らに協力しますよ」




 ブランクの街を、魔術学院始まって以来の優等生と劣等生二人が歩く。

 三人を知る者は変な組みあわせだと、珍しいものを見る目をむけてくる。

 ジタンの話によると、資材は広場に置かれているらしい。

 それを、街の出入り口付近に停車してある荷車の所まで運ぶのが今回の仕事だ。

至ってシンプルなわけだが、どうやらその資材がとてつもなく重いらしい。


 広場につく。

 いったいどんなものかと思いきや、太い鉄柱だった。

 それが十本ほど山積みにされている。

 見たところはただの金属だが、クロムいわく魔術で形を変えることができる、特別製の金属だそうだ。


 どれだけ重いのか試しに持ってみようとしたが、レセル一人の力では引きずるのが精いっぱいだ。

それもほんの少しの距離で、すぐに息があがった。

 これでは正攻法で運ぼうと思えば、三人がかりでも丸一日はかかるだろう。

 質量を変えることができる、質量操作の魔術が使えなければ、とてつもない重労働といえる。


 クロムは金属に手をかざし質量操作の魔術を唱える。

 すると、何十ロキルはあると思われた鉄柱が羽のように軽くなった。

 魔術運動の授業のとき、ジタンからきかされたクロムの魔術で金属の塊の重さがなくなったという話は本当らしい。

 とはいえ縦長な形状は変わらない。しかも金属だ。

 今はまだ夕刻の時間なので、人どおりが多い。

 この軽さなら一人でも小脇に抱えて運べるかと思ったが、それでは道行く人にうっかりぶつけてケガをさせるかもしれない。

 安全面を考慮して、両端と中央に三人がそれぞれわかれて、頭上に持ち上げる。


「ありがと、クロム。手伝ってくれて」


 鉄柱の後端部分を持ち上げるレセルが、柱の真ん中を支えるクロムに声をかける。

 本当、どう考えてもクロムが居なければ無理だっただろう。


「いいよ。別にどうせ暇だったし」

「本当にそれだけかよ」

「おーい、ジタン。手伝ってくれてるクロムにそんな事言うなよ」


 ジタン、クロム、レセルの並びで柱を運んでいるため、レセルからは先端担当のジタンの表情が見えない。だが、声に刺々しいものを感じ注意する。


「何か目的があんだろ?」


 ジタンが後ろのクロムに言った。


「目的って程でもないよ。半分は親切心だし、もう半分は……強いて言うなら君たちと話をしたかったからかな?」

「話?」

「そう。君たち二人に興味あるからね」


 一体なんだろうとレセルは思考を巡らす。

すぐにいきついた。レセルとジタンの共通点、それは……


「何で俺たちだけ魔術が使えないからか」


 ジタンがまたも無愛想に呟く。

 今度はレセルも注意する気にならなかった。無論気分のいい話題ではない。

 どういう意図かは知らないが、発言者が成績トップのクロムということもあり嫌味にきこえてしまう。


「そう。一度じっくり話してみたくてさ」


 互いの表情が見えないからか、好意的でない二人の反応を知らず、クロムは言い放った。


「ほら、僕たちって普段あんまりしゃべらないじゃん?この機会に仲良くなろうよ」


 たしかに、レセルたちはクロムとそう親しい間柄ではない。

 というより、魔術の使えない二人は周りから距離をおかれている。

 ジタンの非社交的な性格もあいまり、二人に話しかけるのは誰とでも分け隔てなく接する(クロムには例外なようだが)リセアぐらいだろう。


「仲良くなりたいと思うんなら、その嫌味ったらしい性格なんとかしたらどうだ?」

「ジタンには言われたくないなぁ。君も基本、周りにあたり強いじゃん」

「うるせぇ」

「まぁ君の性格はどうでもいいとして、僕が気になるのは魔術が使えないことだよ。ここ、東大陸では程度の差はあれ誰もが魔術師だ。それなのに君たちは使えない。おかしいよね?」

「何が言いたい」

「僕は、君たちは何らかの事情があって魔術が使えないフリをしているんじゃないかって思ってるんだ」

「……」

「だったらいいなぁ」


 レセルがぼそりと呟く。本当にそう思う。


「残念だけどそうじゃないんだ。本当に使えないんだよ。なぁ、ジタン」

「……」

 レセルは、先頭を歩く友人に声をかけるが、返事がない。

「クロム、この話はやめよう。ジタン怒ったっぽい」

「えー、気になるなぁ。じゃぁなんで魔術が使えないのさ」

「そんなこと言われたって……こっちが知りたいよ」

「ジタンも同じかい?」

「あたりめーだろ」

「……そっか。まぁ原因がわかってたら、自分なりに努力してるだろうしね」

「……どういう意味だ?」


 ジタンが声に明確な苛立ちをのせる。そして後ろを振りかえり、立ち止まった。

 それに合わせて、クロムも停止する。


「言葉通りの意味だよ」


 前を歩く二人が急に歩みを止めたため、レセルは前のめりに転びそうになった。

 なんとかふんばる。


「クロム!聞きたいことがあるんだけどさ!」


 話の流れが険悪になりかけているのを察し、話題転換を試みる。


「何?」

(よかった。一応話題は逸らせたみたいだ)


 内心で安堵のため息をひとつ。

 とはいえ、何を聞けばいいだろう。

 咄嗟の発言なため何も考えていない。


「えっと……この金属って何に使うんだ?いや、祝勇祭に使うってのはわかってるけど」

「例年と同じなら櫓の骨組みだろうね。あとは形を変えて飾り付けとか……」

「おい、んなこと歩きながらでもいいだろう。さっさとすませるぞ」

(一番最初に止まったのジタンだろうが!)


 そう思うものの、確かにさっさとすませたい。

 三人は再び歩きだし、作業を再開させた。




 街の入り口に辿りつくと、搬送用と思われる荷車が停車していた。

 何度も往復し、ようやく全ての鉄柱を運び終える。


「お、終わった……」


 レセルは、肩で息をしながらうなだれる。

 重さがほとんどないとはいえ、微妙な体勢で何往復とすると結構疲れるものがある。

 陽射しが強いなか、広い街を通行人に気を配りながら歩いていたのも大きい。


「すぐに帰るのはキツイね。少し休んでからにしようか」


 クロムも額の汗を手でぬぐい、しんどそうにしている。


「賛成~」


 これで作業自体は終わりなのだが、最後にネオンへ作業完了報告を済ませなければならない。

 当然、すぐに学院に戻ろうなどと言う者は居なかった。

 口には出してないが、ジタンも疲れたのか、どかりと座り込む。

 レセルとクロムも並んであぐらをかく。通行の邪魔になるので壁によりかかる形だ。

 一番門に近い位置で座るレセルは、開けられた門から外がよく見えた。

 広大な草原の向こうに、大きな街が視界にうつる。

 行ったことはないが、多分あれが、祝勇祭開催の地――王都・レファードなのだろう。


 もっとよく見ようと、レセルは身をのりだしたが、隣に座るジタンに腕をひかれた。

 彼が止めなければ、もう少しで通行人にぶつかるところだった。

 出入り口ということもあり、人通りが多い。

 祝勇祭が近いということもあり、他の街から行商にやってきたのだろう。

 しばらく人の通行を眺めていると、街の外から一際目をひく容姿の少女が現れた。


次回、新キャラ(女)登場!

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