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ダークイリュージョンー最期の宴ー  作者: 彼方
第一章 第一部 東大陸編 
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魔術の使えない二人

 昼休みあけ最初の授業は、魔術運動だ。

 その名のとおり、魔術とスポーツを融合した授業である。

  単純に魔術を使うだけでなく、体を動かすため体力や筋力も関わってくる。

 場所は魔術実演棟の一階にある、ただっ広い実演室だ。

 板張りの床で、ところどころテープで線がひかれている。

 魔術関係なく、普通に球技をしたりレクリエーションに利用されたりすることもある。


 今回の授業は二人一組で行う。

リヤカーに積まれた重りとなる金属の塊(約六十ロキル)に質量操作の魔術を使って軽くし、二人でリヤカーをひきながらゴールを目指すレースだ。

 ゴールまでにかかる時間で優劣がつけられる。

 ペアは自由ではなく、前後の席の者と組むことになっており、レセルは前の席に座る男子と組むことになった。

 結果は……散々だった。

 二人で魔術を使いあい、いかに金属を軽くできるかが勝敗を分ける。

 レセルのペアは、相方の男子だけしか魔術を行使できないため、実質彼一人でやっているのと大差ない。

 当然のごとく他ペアに圧倒的なまで差をつけられ、最下位となった、


「お前のせいで負けたんだからな!」

「……ごめん」


 相方の男子に怒鳴られるも、まったくもってその通りなので言い返せない。

 彼は魔術の成績がそこそこよかったし、ペアを組む相手がレセルでなかったら少なくとも、最下位なんて結果には終わらなかっただろう。

 レセルが魔術を使えないため招いた結果だ。


「俺の成績にひびいたらどうしてくれるんだよ!どう責任とるつもりだ!」


 他ペアが次々とゴールを決める中、半分ほどしか軽くなっていない金属をひいて、のそりのそりと進んだのがよほど悔しかったのだろう。

 男子は、思いつくかぎりの罵声をレセルに浴びせた。

 授業が終わり、担任教師のネオンは次の授業の準備のためそそくさと退室しており、今実演室に居るのは生徒だけだ。

 怒ると怖い教師が居ないのをいいことに、男子は延々と暴言をはく。


(そんなに怒らなくてもいいのに……)


 情けない結果で終わったのは、間違いなくレセル一人に原因があり彼は何も悪くない。

 だが、レセルだって質量操作をできなかったぶん、頑張ってリヤカーを全力でひいたのだ。みじめな思いをしたのはレセルだって同じだ。

 いくら自分に非があれど、こうも言われると気分が悪い。


「だから、何度もごめんって言ったじゃんか」

「なんだよ、逆ギレか?」


 男子はレセルの胸倉をつかみ、拳をにぎった。


「おいやめろ!」


 ジタンは、ズカズカと大股で歩みより、レセルと男子の間に割って入った。


「レセルは十分に反省してる。その辺にしてやれよ」

「ジタン……」

「けっ、魔術の使えない者同士庇いあうのかよ。だいたい、前から思ってたけどお前ら何で学校くるんだ?ここはお前らみたいな、魔術の使えない奴らが居る場所じゃねぇんだよ!」

 男子の言葉に、黙って静観していたクラスメイトたちから笑い声がもれる。

「目障りだから、お前らもう学校くるな!」

「んなの人の勝手だろうが。だいたいお前は何様だ?なんでお前に指図されなきゃなんねぇんだよ」


 ジタンが射抜くような鋭いまなざしで睨むが、男子はひるまない。


「お前らみたいなクズが居るとな、みんなの士気が下がるんだよ。魔術の授業ではなにもできず、今回みたいな授業では迷惑しかかけれない。ほんとウゼー。なぁ、みんなもそう思うよな?」


 男子が声をあげると、クラスメイトたちがざわつく。


「たしかに、目障りだよね。あの二人授業サボるか寝てるかのどっちかだし」

「やる気ないやつは学校くんなよな」

「ってか魔術の学校なのに、なんで魔術使えない奴居るの?マジ意味わかんない」


 どれもが辛辣な言葉で、魔術の使えない二人に味方なんているはずも――


「うるさーーい!」


 クラスメイトの中にいた、一人の女子が大声をあげた。

 驚き、誰もが彼女に視線をやる。

 周りの視線をうけながらも、女子は美しい赤髪をかきあげて言い放った。


「あんたたちね、コイツらにやる気感じられないのは事実だけど、だからといってそんなこと言わなくてもいいでしょ?目障りなんだったら放っておけばいいじゃない。なんでいじめみたいなことするのよ」

「なんだよリセア、お前はコイツらのかたもつのか?」

 レセルを糾弾した男子が責めるように言うが、リセアは凛とした姿勢をくずさない。

「そうよ悪い?少なくとも私は、弱い者いじめをするような奴らなんかの味方じゃないわ」

「なんだと!」

「実際そうでしょ?そもそも、試験でもない普通の授業で、そんなに成績にひびくわけないじゃない。ネオン先生だってレセルが魔術使えないことわかってるんだし、最下位だったからってアンタの評価下げたりしないわよ」


 リセアは呆れたとばかりに、これみよがしに嘆息する。


「ってか、こんなことでキレるとか小さい男ね」

「うるせぇ!お前に関係ないんだろ!」

「文句あるなら私が相手になってあげるわ。まだリヤカーも重りも片づけてないし、同じ競技で勝負してやろうじゃない」

「ぐっ……」


 男子は悔しそうに歯噛みする。

 単純に重りをひいての競争だったら、女子であるリセアに負けるはずもないが質量操作の魔術が絡む。

 リセアのほうが彼よりも、重りとなる金属を圧倒的に軽くすることができるだろう。

 このクラスで彼女と勝負して、勝てるのはクロムぐらいだが、彼は周囲とは離れたところで傍観している。口出ししてくる気配はなかった。


「くそっ、おぼえてろよ」


 捨て台詞を残し男子が退室すると、意心地が悪くなったのか、嘲笑していたクラスメイトたちも、そそくさと出ていった。

 大半の生徒が居なくなり、残ったのは数名だけだ。

 一気に静かになった実演室にリセアの声が響く。


「あんなの気にするんじゃないわよ。アンタ今日珍しく頑張ってたじゃない」

「うん、なるべく迷惑かけないようリヤカーひいたんだけど……でも、あんま意味なかったな」

「そんなの、たいして重りを軽くできなかったアイツが悪いんだろ」

「そういや、ジタンのペアは何位だったんだ?」


 レセルはリヤカーを押すのに必死で、周りを見る余裕なんかなかった。

 ゴールしたあと、ネオンが一組ずつ順位を発表していたが、息がきれていて話をきくどころではなかった。

 呼吸がおちついてきて、ようやく耳にはいったのがレセルのペアが最下位だという通知だった。そのため、親友の順位がわからない。


「俺?一位」

「え?なんで??」


 思わず耳をうたがってしまう。

 魔術が使えないのは彼も一緒だ。

 レセルペアと全く同じ条件であるにも関わらず、どうしてこんな差がでるのだろうか。

 普通なら、ジタンペアと最下位争いをしていなければおかしい。


「パートナーの差だよ」

 ジタンが、おもしろくなさそうに言った。

 前後の席の相手とペアを組む。ジタンの前後の席は誰だっただろう、と思いだしていると、自信家で優等生の少年の顔が思い浮かんだ。


「そっか……ジタンのパートナーってクロムだったのか」

「あぁ。……ムカつくがアイツの実力は本物だ。一人で重さを完全になくしやがったからな」

「えっ、うそ?私たちは二人がかりでも、五ロキルは残ってたわよ」


 リセアが信じられないといった声をあげる。レセルも同じ気もちだ。


「ま、そのあと『僕は力仕事なんて性にあわないから、ジタン一人で運んでよ。僕一人で質量操作したんだから問題ないよね?』とかぬかしやがったけどな」

「うわ……」

「そして俺が一人でリヤカー押してる間、アイツは隅で胡坐かいて、のんきに手であおいでた」

「ほんっと腹のたつ男ね」


 リセアがすかさず同意を求め、ジタンがまったくだと頷く。

 レセルは、そんな二人をクロムが離れた位置から見ているのに気づき、なんと言ったらいいのかわからず、苦笑をうかべるしかなかった。


†■††■††■†




 クロムは、残った数人のクラスメイトと共に、劣等生二人と二番目の優等生の噂話に耳をかたむけていた。


(まるきこえなんだけどなぁ……)


 役割分担をしようという正当な申し出をしただけなのに、あんなふうに言われるのは実に心外だ。

 それはともかく、


(あの二人、なんで魔術が使えないんだろ……?)


 今更なことだが、改めて気になった。

 少し、探りをいれてみるのもありかもしれない。

 そう思い、クロムは二人の劣等生に視線をむけた。


†■††■††■†




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