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Nobody can know what destiny is.


 ―――学園祭初日。この学園の学園祭は三日あるものの、事実上一日といっても間違いではない。

 初日は普通の学校と同じで生徒による学園祭。出し物をやったり食べ物を出したりする。

 ただし、呼ばれるのは全て魔術に関係ある者だけだということだけが違った。


「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」

 女性のたかい声でご主人様(客)の対応をする。

「お、お帰りなさいませ、ご主人様」

 慎吾もまた、少々つっかえているが、女性の声で受け答えをしていた。

 ―――今のホールに男は一人。男を見破った人には粗品が出るのだが、いまだその粗品を手にしたものは偶然の人と知っている人だけである。

 言い方を変えると誰一人見破った人はいなかった。

 声は魔術で変え、格好は女子に好き勝手やられたためどう見ても女性に見えるという評判である。

 胸には詰め物をし、恥ずかしがって動き回り、ところどころを注意しておけば意外と女子になりきることはできた。逆に自分の心を踏みにじっている気がするが……。

 もともと少しきつかった目は化粧によってそれほどまで目立たなくなり、短い髪はかつらでロングに、足などの毛はもともと薄く、さらにストッキングをはくことによってまったくわからない。

 ちなみにウエイトレスの人気アンケートを行っており、昼の中間発表で二位になった。なお、一位は彩香である。

 しかし、男に胸やら足やら尻やらをじろじろ見られるのは結構いやな感じだった。裏(厨房)では爆笑しているし、さっさと終わってくれというのが本音だった。

 一度呼び出されて……。

「つ、付き合ってください」

 と、告白されたときには正直悪いとは思うが吐き気がした。

「ご、ごめんなさい」

 そういって走り去るしかなかった。

 ―――無論このときに少々内股気味でいつもより走るのを遅くするのを忘れない。


「3番にブレンドとストレートを一つずつとショートケーキ二つ」

「7番にココアとアイスとレモンが各1でチョコケーキとチーズケーキ2お願い」

 昼下がり、歩きつかれたお客様が席を埋め尽くし、慎吾も姿に恥ずかしがらず、だからといってぼろを出したりせず、受け答えをしているとそれはやってきた。

「本当に似合ってるのね」

「だから言ったでしょう。結構似合ってるって」

 幼女様と恵美さん……あの時の恨み、忘れはしない……!!

「じゃあ、刈谷さん。ミルクティーとブレンドコーヒーとレアチーズケーキとミルクレープをお願い」

「かしこまりました。お嬢様」

 まずは一礼。

 注文の品を持って行き、すっと差し出す。

「ありがとう」

 そういって幼女様はミルクティーを飲む。

 ―――唐突だが、この品々は全て慎吾が入れて、作ったものだ。この日が来るまでに用意し、一通りの品を一つずつ用意し、注文があったら適当なタイミングで出すつもりだった。

「―――――」

 なかなかに難しかったが、上手く言ったようだ。

 ―――幼女様は飲んでいたミルクティーを置くとこちらを向いてにっこりと微笑み……。

『―――よくもやってくれたわね』

 といっていた。少し目が潤んでいるのは気のせいだと思う。

 あのミルクティーの中にはまったく害のないものが入っていた。

 まったく害はないが、幼女様のとてつもなく苦手なもの……。

 と、言うかよくもまあ、あれだけ少量なのに気付いているものだ。そこまで嫌いなのか?

 それは、きれいな清流に生息し、スーパーなどでも売られているが、それらは本物ではないことが多い。それをネタに巻き寿司を作ると鉄火やカッパなどと同じく特別な呼び方で呼ばれるこれはわさびだった。

 これは偶然知ったことだが、少量でこの様子か、ミルクレープは悲惨だろうな……と漠然と思いつつ仕事に戻る。

 ―――幼女様がお帰えりになられる際には目に涙がたまっていらっしゃいました。



 そうして時間は過ぎ去り……。




「ひどい目にあった。もう着替えるからな」

「最後に集合写真撮るから」

 そういって女装男装コンテストを提案した女子は考えられないほど強い力で慎吾を押さえつけ、写真を撮ったところを襲った。

「ちょ、な、何をする」

「あー、いい、かわいいよ、ほんとに。食べちゃいたいくらい……」

 その女子はそんなことを虚ろな目で慎吾を押さえつけながら言った。

 頬をなめ、胸板に顔をつけてにおいをかぎ、はあ、と一息つく。

 そのとき、慎吾は本能的にその場から逃げ出すことに全力を出した。

 身体強化を全力で使い、身体をねじって拘束から抜け出し、寮の自室に逃げ込んだ。

 ―――押しのけられた女子は一つため息をつき、艶かしい声でこういった。

「やっぱり姉さまのようには行きませんか……でも、本当にかわいい子でしたね」

 そういってその女子、渡辺幸は姿を消した。




 ―――学園祭二日目。

 二日目のイベントは生徒会企画でまだ発表されていない。

 もともと数日前の発表の予定だったが、いろいろ(・・・・)あって当日発表のようだ。


『えー、発表します。生徒会企画は“マラソン”です。皆さんしっかりと動きやすい服装で……』

 朝、そんな放送が流れた。

 放送が終わると、元の喧騒が戻り、放送のボリュームは小さく絞られたように聞こえない。

 ―――マラソン、本当にそれだけで済むのだろうか?

 妙にいやな予感がしたが、それを振り払うように動きやすい服装で、念のために短刀を持って出た。


『―――なお、邪魔が入りますので武器の携帯は忘れずに』



 壇上で幼女様がブルマをはいて説明をしている。

「ここから目的地まで一直線で走ると距離は、死に行く子(42,195)です。さまざまな困難が立ちはだかると思いますが、皆さんがんばってください」

 距離は421,950メートルつまりフルマラソンと同じだ。

 魔術師にとって、フルマラソンと同じ距離を移動するのはそう難しくない。

 身体強化を使えば子供でも一時間程度で到着できる人もいる。ちなみに高校生なら早ければ三十分だろう。

 みんなが一列に並び、号令と同時に走り去っていく。

 慎吾は歩いて、完全に出遅れていた。

「さて、鬼が出るか蛇が出るか」

 そういって目的地に向かって一直線に走り始めた。

 ―――コースは一言も言われていない。別に道なき道を走ればフルマラソンと同じなのだ。道を通っていたら恐らくもっと掛かるのだろ。

 身体強化を使い、目的地の書かれた地図を見て跳び上がり、木々の隙間を縫って走り去った。

 時速七〇キロ近く出ている状態で木々の隙間を縫うのはとてつもなく難しい。しかし、それは慎吾の“目”が可能にしていた。

「やっぱりてめえはこのルートを思いつくか!」

 慎吾はその言葉と同時に襲い掛かる魔術を相殺し、移動しながら口上を聞く。

「俺は生徒会庶務、奥田敦だ。お前はここで足止めさせてもらうぜ」

 そういう口上を聞き終えて、慎吾は魔術を使う。

 地面から手が伸びて敦を捕らえる。

「な、てめえ、卑怯だぞ」

 そんな声を無視して走り去る。わずか数秒で敦の姿は見えなくなった。

「なんだったんだ? 今の」

 馬鹿なのだろうか、それとも間抜けなのか、わからないがどちらにしろさして問題ではなかった障害である。


 故に、慎吾はこの障害はなかったものとして、次に大きな障害があると考えた。

 ―――それは当たっていたが、その障害は生徒会が用意したものではなかったし、その障害は別の目的でこの世界に来ていた。


「ふん、こいつが例のやつか……人事部だと将来性が高いとか何とか言ってたな。

 まあ、面白そうなやつではあるか……」

 そういう女に出くわした。そして、慎吾はその女を認識した瞬間に逃げ出した。

「―――まさか見た瞬間に逃げるとは思ってもいなかった。いくら精霊がいるからってこの反応速度はないだろう。勘がよすぎるともいえるが……今回は必ずというわけでもなし、様子見と遊びも含まれてるし、まあ、いいか」

 女はそういうと遊びを開始した。

「はっはっは―――っ!!」

 コースの逆走を始めて十分。慎吾はとうとうスタート地点まで戻ったところで後ろからの災厄に追いつかれた。

「ふう、意外と早かったな。魔力浸透率の数字は嘘ではなさそうだな」

 女はわずかにも息を切らさずにつぶやく、あくまでも面倒な作業でしかないのだから。

「っち、何で追いかけてくるんだよ!」

 もっともな慎吾の台詞だが、こればかりは仕方がない。“もうすでに決まっていたことなのだから”。

「魔力は並以下、英雄と呼ぶには魔力が足りない。質としては面白い属性みたいだけど、あくまでも研究者。誰かの庇護下にいなければすぐにつぶされてしまう。一人や二人なら対応できるけど、連続で戦うのは苦手。一度の決戦で勝負がつかない戦争向きではない。血のおかげで剣術に対する適正は高く、自分自身の属性のおかげで魔術のそれなり以上には使いこなせる。しかし、その二つが同時によい方向に働くことはほとんどなく、動くとすればそれを総合的に情報として見れる能力が必要だけど、その能力はどうやら精霊が持ち合わせている。固有魔法は完全発動にいたれないという点を除いても強力。やっぱり戦争以外なら、一度や二度の決戦で勝負を決められるのなら強いといえる。惜しむべくは魔力のみ。しかし、魔力はあの方法でやったら簡単に上昇させられる……」

 慎吾はまたもや一歩後ろに下がった。女は自分ですら認識しきれていないことまでもを知っている。実践の場合も考えているし、この羅列はまるで確認作業である。

「うん、確かに現場から見てもこれは原石だね。これなら“ほしい”。

 ―――大丈夫だよ君、痛いのは一瞬だから」

 そういって気付くと目の前で剣を振りかぶる女。それに反応できたのはある意味奇跡といえる。

「―――――!」

 慎吾はもうぼろぼろの足を可能な限りすばやく動かして無様に転がって初撃をかわした。

 ゴロンゴロンと転がり、二メートル程度距離を離すと四肢に力を込めて女を見上げる。

「やれやれ、一撃でやれたら楽だったんだけど、いい原石はそう簡単には取れないか……まあ、これで終わりだけど」

 そういって横に剣を滑らせ、慎吾を狙う。

 慎吾は女に突撃し、持ち手の部分を左腕で止め、一度女の装備を確認してから右手で鎧に守られていない顔を狙って拳を突き出した。

「っふ!」

 慎吾にも、女性の顔を殴ってはならないという無意識の理性が働き、さらに左腕を襲う激痛のせいで遅くなった拳はいとも簡単に避けられ、そのまま鳩尾に剣の柄が沈み込んだ。

「ゴフッ!」

 慎吾はそのまま倒れこみ、立ち上がることはできなかった。

 それもそうだろう。彼の能力ではどうあがいてもこの女、天剣のナディアに勝てる道理はなかったのだから。


「気絶したか、人としてはよくもったほうだと思うぞ」

 そういってナディアは一度祈りをささげてから剣を振りかぶり、

「では、首を落とさせてもらう」

 そして、慎吾の血が地面に吸い込まれていった。



 報告書

 刈谷慎吾の監視を続けていたところ、文化祭にて見失う。

 後にそれとなくクラスの人たちに聞いて回ったところ女装していたらしい。写真を見たがどうやっても女性にしか見えなかった。

 重要箇所に潜入できる技能がある可能性あり。

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