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「お願いします! 私に魔力の制御を教えてください!」

 いきなりそんなことを言われて混乱しないわけがない。

「はぁ、とりあえず君はなんて名前?」

「あ、失礼しました。私は市村彩香といいます。同じクラスで、昨日の試合を見て感動しました。人ってあそこまできっかりと魔力を調節できるんですね」

 その口調は早口ではないが、慎吾も一気に言われるとさすがに困る。そして近い。とても近い。あと十センチと三ミリで顔がくっつく。

「とりあえず近い。あと、そんなに魔力の調整って分かるか? あとリチャードに聞いたらいいあいつのほうが教えるのは上手そうだ」

 と、まあ否定はせずに提案やら質問やらで返す。

「あ、すいません。魔力の調整が分かったのはこれのおかげで、リチャードさんは他国の方なのであまり手の内はさらしたくないんです」

 そういって出してきたのはなにやら測定器のようなもの。

「これはその魔術にどれだけの魔力が使われているかを測る機器で、あなたの魔術は過不足なし。完璧だったんですよ」

 徐々に興奮してきたのか、口調が強く、早くなっていく。

「あなたなら私のあまりにもだめな魔力コントロールを何とかしてくれると信じています。

 お願いですから私に魔力のコントロールを教えてください」

 そういって、頭を深々と下げる。

 慎吾としては平日は恵美さんから教えてもらうという予定があるため、休日しか教えることはできない。

 しかし、休日にはいろいろと調べたいことがあるので、事実上、教える時間は……。

「―――っち、あるのを見つけちまった」

 平日の早朝。いつも自分の自主練に当てる時間を使える。自主練といってもやることはそこまで難しくないから他人に魔力コントロールを教える時間はある。

「平日の朝六時から七時半までなら大丈夫だ。そこでいいなら教えるが」

 ここで慎吾の読みの甘さがある。

 ―――まさかここまでできないとは思ってもいなかった。

「ありがとうございます。第二実習場でいいですか?」

「ああ、了解。じゃあな」

 そういって彩香は去っていった。


 ―――市村家といったら固定砲台の名をほしいままにしてきた千士である。超遠距離からのその豪快な魔術からは予想もつかない精密さで敵本陣を焼き尽くす。得意とされる系統は特異属性である雷で雷だけならほかの魔術師にもそこそこいるもののそれでここまでの大きさの家は日本ではここだけである。



「お前、わざとやっているのか?」

 第二実習場には数多くのこげあとと、あたりに多くの剣(避雷針)を作り出している慎吾と、その発生源で息一つ切らさずに必死に頭を下げる彩香がいた。

 何があったかといえば、ごく単純に彩香が魔術を使い、それが暴走してあたりに多くの被害を出したのを見て、慎吾がいろいろとアドバイスをしてもう一度やったらこんどはもっと多くの被害が出て、慎吾も危なかったから避雷針を作って雷を避けていたのだ。

 それを十回ほど繰り返したところでこの台詞である。

 ―――まあ、よく我慢したといえるのではないだろうか?

「仕方ない、これからやることは誰にも言うなよ」

 そう慎吾は言うと“目”を使い、彩香の後ろに立ち、背中に手を当てて待つ。

「いいぞ、魔術を使え」

「っえ、でも……」

 そういって困惑する彩香だったが、慎吾が「これでだめだったらあきらめろ」といったのを聞いて発動を始める。

「大いなるいかずちよ、その力を我が元に顕現し、彼のものを滅せよ。

 ―――サンダーボルト―――」

 突き出した手から一筋の雷が出て、的である慎吾の錬金した鎧人形に直撃した。

 その魔術は暴発しなかった。

「あれ、できた」

「ああ、疲れた」

 慎吾は“目”で彩香の魔力を見続け、異常のあった部分を一つずつなくしていき、こめられる魔力を調整したのだ。集中力をだいぶ使った。

「――――――」

 しかし、慎吾はどうにも納得できなかった。

 こいつが魔術を上手く使えなかったのはどう考えても人為的だ。犯人は恐らく……。

「どうしたんですか? やっとできました、ありがとうございます」

 慎吾はそういう声を聞いて一応教師として教えていたのを思い出した。

「―――なあ、お前、いつからそうだった?」

「え、確か……小学校三年のころからです。

 ―――あれ? じゃあ、それまで私は魔術が使えてたんじゃ……」

 慎吾はそうやって思考の海に沈み込もうとする彩香を引きとめ、もう一つの質問をする。

「考えるのは後で、お前兄弟いないか? 弟か妹か」

「妹ならいますけど?」

 そこで大体の予想がついた。

「じゃあ次だけど、その妹って母親とか、祖母とか、そういった肉親に異様に好かれていないか?」

 いやな予感が掠めるも続ける。

「何でそんなこと知ってるんですか? 確かに妹は祖母に好かれてます。私は嫌われているようですが……」

 慎吾は悩んだ。予想でしかないが、これ以上聞いたらこいつは僕が何を考えているか悟るだろう。しかもそれは恐らく自分の中で完結できるようになる。

 ―――これ以上踏み込むべきか……。

「―――何か気付いたんでしょう。教えてください。私も分別はついてます」

 そういわれて答えることにした。これで結果がどうなろうが、自分に被害が出そうでなければ聞かれたことは答える主義なのだ。

「じゃあ、もう一つ質問だ。と、言うよりも確認か……お前の祖父か父親、もしくはその両方が今いないか今にも死にそう……まあ、要するに近い将来跡継ぎの関係で何かしらの抗争がありそうか?」

「………………」

 彩香はここで気付いたのか、少し黙り、口を開くと。

「ええ、父はすでに病気で他界し、祖父も病でもう短いとのことです。あと、次の質問に出てきそうなので言っておきますが、兄弟は妹しかいません。妹は今十五で私の魔力制御がこのまま上手くならなければ、次期党首は妹になるでしょう」

「―――そして、それを言い出したのが祖母……一応言っておくと、お前の中に人為的としか思えない障害があった。つうかよくあれだけやられて魔術が形になると思うよ。あれはある程度までの魔力を流したり流さなかったりして、ある程度以上の魔力を流すと今まで止めていた魔力と一緒に流すって言うやつだ」

 慎吾はそういって、一つため息をつくと立ち上がって、

「もう時間だ。教室に行くぞ」

 そういって彩香を一人にした。



 彩香は慎吾の予想を裏切って慎吾のすぐ後に来た。

 授業中もいつもどおりに過ごしていたし、実技の授業ではようやくできるようになった魔力のコントロールによって相手をズタズタにしていた。

 故に、危なかった。が、それを慎吾はあえて無視した。

 ―――助けを求められたら手を貸す。それが自分の大きな被害を出さないのなら手は貸す。だが、自分からはあまりにもやばそうな状態でなければ出さない。

 しかし、そんな彩香の状態を気にせず、学園に事件が起こるのは仕方あるまい。




 ―――そこにはおよそ魔術に必要な全てがあった。

 触媒、溶液、エーテル……この世界で作り出せない魔術は存在しない。

 生贄、月の涙、天使の羽、神の身体の一部、魔王の生き血、子供の心臓……この世界で発動できない魔術は存在しない。

 醜いものは地下深くに、美しいものは地表近くに、ここでできないことはない。

 ―――空気には大量の魔力を内包し、太陽のごとき輝きは魂。

 この世界はそれだけで完結する。世界を超え、ありとあらゆる魔術はここに集まり、その存在を確かにこの世界に残す。

 ―――うごめくものはなく、ただ、風に流されるだけのフラスコ。

 この世界に動物は存在しない。そんなものは内包していない。

 この世界はこの世界として完結しているが故に、動物は存在できない。



 慎吾は夢から覚める。

 あの世界には自分も知らない魔術が存在し、それを夢見ることで知っていく。

 ―――もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ―――

 どうしたのか、そんなことが頭に浮かぶ。

 ―――かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば―――

 全知全能の神、という風に言うことはよくある。しかし、これだけだとすぐには浮かばない。

 ―――この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり―――

 そうだ、この考えは確か……。

―――その目には未来も(過去同様に)全て見えているであろう―――

「―――ラプラスの悪魔……」

 そのときには大きな揺らぎはなかったが、徐々にしっくりとはまっていく。

「そうだった。この“目”は……」

『そう、その“目”はまさしくラプラスの悪魔。その目に映すすべてのことが理解できる“目”』

 自身のうちから声が聞こえてくる。

『久しいな、刈谷慎吾よ。盟約に元づき、契約を行う』

 そういって、慎吾の動きを待たずしてその契約は行われた。



「なあ、こいつはマジか?」

「嘘をついてどうする」

 その報告書には刈谷慎吾という名前が書かれていた。

「F(最低ランク)クラスって言うレベルじゃないだろ。しかも市村彩香の魔力コントロールまでよくしている……。Fで当たりをつけてたのは市村彩香一人だけだった。―――選択ミスだ。こいつが一番必要だ」

 この留学には、各国の人員の取り合いの部分もある。

 一番多いのが…男女が一夜をともにして……というものだったりするのだが、そのあたりのことを考えるとほしいやつの異性が同じクラスだと都合がいい。

 その関係を考えると、Fにいくべきだったのは女であり、男であるリチャードではないのだ。

「今からでも遅くない。接触するべきだ。リチャード、市村のほうはどうなった?」

「市村には警戒されて近づけません。それにほかの女子が邪魔でとてもとても」

「シャルロット、行ってきてくれるか?」

 そういわれた女性は、微笑むと。

「はい、分かりました」

 そう一礼してその場から出て行った。




 報告書

 ―――市村彩香の魔力コントロールの向上により、危険度がAAとなる。

 おそらくは刈谷慎吾によるものと考えられ、刈谷慎吾を優先目標とすることを推奨する。


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