Welcome to JMHS. 1
JMHSはJapan Magic High Schoolの略です。
間違ってたらすみません。
意味としては“日本魔術学園へようこそ”となります。
この学園の系列は全ての魔術学園である。
魔術学園は一国に一校あり、それら全てがそれぞれと交流がある。
しかし、全ての魔術学園が集まるのは三月の全国魔術競技会のときのみであり、それ以外だとそこまで多くの学校とは交流がない。
今回来るのは英国からだ。英語は話せないが、翻訳魔術を使えば問題ないし、あちらは成績優秀者しか来ないらしいので、翻訳魔術は使ってくれそうな予感はする。
―――正直なところ、雫に教えてもらった初歩の魔術で一番感動しているのがこれだ。
現在六月の末。梅雨は終わり、強い日差しが身体を焼く。
今回来る生徒は終業式と同時に帰るらしい。ただし、あと一週間もすれば文化祭なので、それが最初の異文化交流になるのではないかと思われる。
―――なにか、妙にいやな予感がする。
周囲の気配は変わった感じがしないのだが、それでもいやな予感はなくならない。
「――――っ!」
反射的に剣を作り、背後を薙ぐ。
キンッ! と高い金属音が聞こえたところで振り返ると黒服の男が剣を振り下ろした状態で止まっていた。
「っち!」
そうした打ちすると黒服の男は逃げ出す。追おうと思ったが、よりいやな感じがしたので振り向くと、黒服の女が周囲の生徒を倒していた。
中には首を切られた人もいたし、人によっては気絶させられただけのものもいるようだった。
「―――まさか防げるものがいるとは……」
何を言っているのかわからないが、こいつが敵だということは理解した。
「何者だ?」
答えは返ってこないものだと思って口にしたが、返ってきた。
「私は渡部厘だ。君は見込みがある。一緒に来てもらおうか」
「名乗ったからって一緒にいくとは思わないほうがいい。僕はちゃんと親に知らない人や怪しい人についていってはいけないといわれているんでね」
少し笑いながら言うと、相手が笑い出す。
「はっはっは。まさかそういって断られるとは思ってもいなかった。面白い。ちょっと手荒だが、勘弁してもらうぞ」
腰を落とし、手にした短刀を逆手に構える女。こちらも腰の剣を両手に構え、腰を落とし、すぐに対応できるようにする。
ただし、“目”は使わない。“目”についてばれるのが一番まずいと思ったからだ。
「っは!」
「せあ!」
刃が交わり、慎吾は鍔迫り合いを続けながらもう一つの剣で敵を薙ぐ。
敵は一歩引いて構えなおし、ファイアボールで牽制する。
ファイアボールをウォータボールで相殺し、水蒸気が立ち込める中を踏み込み、一閃する。
敵は剣を一歩横に動くことで避けるとがら空きの右脇を切り裂こうと短刀をはしらせる。
慎吾はそのまま身体を回転させ、左の剣で敵の首を狙う。
それを短刀で防ぎ、お互いに大きく距離を開ける。
「出鱈目な剣技だね」
「そっちも結構変な動きだと思うぞ。見切りがよすぎるだろう」
お互いに言い合っている間に敵の情報を整理する。
女の武器には毒が仕込んであり、一撃入れればしびれて動けなくなる。
しかし、慎吾の動きは一撃入れると同時に首がとばされそうだった。かすらせるだけで勝てるのにそれが難しい。守りに重点を置いた動きである。
女の動きの不自然さに、慎吾は気付いていた。あの場面で脇を狙い、首を狙わないということは、とにかく傷をつけることが目的としか思えない動き、だから短刀の毒の存在には気付いた。
「ああもう、結構勘良いし、毒で動きを止めるのは難しいか……」
面倒くさそうに言って、短刀を構えなおした敵はゆっくりとこちらに歩み寄る。
「――――っ!?」
なぜかよくわからないが、妙に敵がきれいに見える。
欲情していると気付くまでの間に距離をだいぶつめられた。
「よるな!」
思わず怒鳴って大きく距離を離す。
「あれ? もう気付いた? 早いね」
“目”の使用がないとここまで魔術に抵抗できないとは……。
「―――魅惑の姫君って呼ばれてるんだ、わたし」
顔を覆う布を取り払い、妖艶に微笑む。
「何が目的かは聞かないが、魔術で他人の心に干渉するなんて趣味悪いな」
そういって己のうちに没頭し始める。間に合うか?
「趣味悪いなんて……そんな事いって大丈夫なの? もうちょっとで君も私のとりこなんだよ」
フフフと微笑み、こちらにゆっくりと近づく。
だが、そのゆっくりさのおかげで間に合った。
「―――ディスペル―――」
破魔魔術をもって自分にかけられている魅了を解く。
“目”を使って魔術の式を見る。
「あら、ディスペルなんてマイナーなのよく覚えてるのね。でもあまり意味なんてないよ。だって、私の魅了は魂レベルに刻み込む。ディスペルで浄化できるレベルを超えてるの」
確かに、あまり効果はなさそうだった。まだきれいだとか思っている自分がいる。
「そういう抵抗はかわいくて好きよ。そうね、君は使い捨ての駒じゃなくて、きちんとかわいがってあげる」
―――この魔術を防ぐ手立ては少ない。そもそも魔術ではなく固有魔法のようだが、そのあたりはまあ、この際別にかまわない。問題なのはこれの解除法である。浮かばないのなら、確実な方法をとるまでだ。
「―――――」
剣に意識を向け、雑念を放棄する。
鞘に収められた剣に魔力を込め、それを圧縮し、そこに魔術式を放り込む。
「そう、ほかに意識を向けることで干渉を防ぐの……それなら麻痺させるだけだからいいのよ」
ゆっくりと近づく愛しい相手を迎え撃つため、剣の魔術を完成させる。
「よく耐えた。とほめておいてあげる。これは近づくほど効果が上がるけどここまで来てまだとりこになってないのは君が始めてよ」
そういって短刀を振り上げたとき、
「―――は!」
居合いでその身を八つに分けられた。
頭、右肩から肘、右肘からその先、左腕、右肩、左肩から腹の上部、下腹部から右足、左足。占めて八つにバラされた女はそれを最初に理解できなかった。
魅了し、ほかに集中することでそれを防いでいたやつが、近づいてきたことに反応して魅了の効果で愛しいとまで思っている相手をバラバラにしたのだ。
―――ありえない。
そう女が思ってしまったのも仕方あるまい。それほどまでに慎吾の精神は侵食されていた。
ただ、女にとっての計算違いは、異常なまでの魔力浸透率と本来の魂の性質と違ったものになったがためにできてしまった魂との決定的なズレであった。
「ふう、やばかったな。本気で殺しに来てたら死んでた」
実力差は明確、隙をつけたことだけが生死を分けた。
―――慎吾は、人を殺したことにさして大きな罪悪感を抱かなかった。後悔もしなかったし、一種の異常者のようにそれを快感に感じることもなかった。ただ、人が一人死んだと当たり前の事象を認識しただけであった。
恵美は、慎吾が渡部厘を文字どおり八つ裂きにしたところから見ていた。
しかし、中森家令嬢であり、厘にすら一人で勝てると言い切れる彼女ですら慎吾の太刀筋を見切ることはできなかった。
その太刀筋はまさに疾風怒濤、恵美は自分も剣を使うから分かるし、今まで自分がやって来た居合いはそれでも早く、もしかしたら同年代の中では最速なのではないかとまで思ったが、それが夜郎自大であったと思った。
確かに、恵美の居合いはかなり早い。先端速度は恐らくマッハ2ぐらいになるだろう。
それでも遅い。慎吾の居合いは恐らく物理法則無視の術式を組んでいたのか知らないが、ソニックブームは出なかったものの、マッハ5はあった。
それもそのはずだろう。慎吾がやった方法は太刀筋を神速にするものだし、マッハ5というのもさして間違ってはいない。
慎吾がやったのは固有魔法“舞い踊る無限の刃”を自身の剣にかけ、動き出そうとするそれを力技でねじ込み、敵の近づいたと思った瞬間に開放したのだ。
“舞い踊る無限の刃”はセミオートの術である。故に意識すれば動かす起動も設定できる。それがあの七連激、女を八つ裂きにした方法である。
「大丈夫? 刈谷君」
恵美もまた人を切った経験から、慎吾が吐きそうにしているのではないかと思った。
それもあながち間違ってはいなかった。慎吾は確かに吐きそうにはなっていた。
「大丈夫です。
―――ははは、きっと恵美さんは僕が人を切ったから吐きそうになったんだと思ったんですよね。
確かに、僕は今にも吐きそうですよ…こんなことしてなんとも思わなかった自分に、ね」
自嘲気味につぶやく。
「本当に醜い。人を殺しておいて、思ったことが『ああ、死んだな』だけなんて……自分で自分を殺したくなる!!」
徐々に語気は荒くなり、また落ち着く。
手の剣はもうすでに地面に落ち、慎吾自体もひざをついている。
恵美は最初、それにかける声が見つからなかった。仮に『分かるよ』と声をかけたところで、彼はその嘘に気付くだろう。彼女は人を殺してなんとも思わない人に出会ったことはある。だが、そいつらはこんな風にそんな自分に怒りを持ったりしない。そういう点ではまだ慎吾はまともだった。
故に、ここでこういう行動に出てしまったのは何も彼女がどうしたら良いのか分からなかったという理由でもあったし、そういう理由だけでもなかった。
「――――えっ」
恵美は優しく慎吾を抱き寄せ、背中をさする。左手で頭を抱え込むようにして、右手で背中をさすり、何も言わず抱きしめる。
慎吾は始め驚き、戸惑ったが、そのまままぶたを閉じ、顔に感じる柔らかな感覚とともに眠りについた。
―――報告―――
刈谷慎吾の戦闘能力および魔術の取得レベルについて。
魅惑の姫君との戦闘において、ディスペルを使用したことから、魔術の取得レベルは高いと考えられるも、総魔力はさして高くない模様。ただし、本人が主体とする戦闘方法は身体強化と藤林雫に鍛えられた剣術であり、魔術は防御と牽制を主体とする。
戦闘能力といった点においては、強化による身体能力の高さを無視すればさして高くないが、一瞬で魅惑の姫君を文字どおり八つ裂きにする高威力の技を取得している。
よって、油断なく中遠距離から攻撃を続け、近づいてきたら高威力の技に注意して魔術で攻撃すること。
戦闘能力のランクとしてはE、ただし一瞬の攻撃力はS。
魔術の取得レベルはS、ただし実際の使用のことを考慮するとB。
ライセンスのランクとしてはⅢ程度である。
危険度は将来的なものを考慮しA。




