This magician is an exterminator.
ルムルグ平原では思った以上に、というよりも報告で聞いていた以上に押されていた。
おおよそこちら側は疲弊しきって士気も低いのに対し、敵は揚々と歌まで歌っている始末。はっきり言っていつ敗走してもおかしくない。というより今すぐに撤退するべきだろう。
「刈谷」
レオナがこちらを向いて何をするべきかを指し示す。わかってはいるが、面倒だとも思いつつ、まず、戦場に錬金の魔方陣を敷こうと考えたが、やめた。そこらへんに剣は転がっている。
日が落ち始め、暗くなり始めたころになってようやく敵が動いた。
「舞え、剣たちよ」
剣の墓標が広がる平野に敵が全て入ったところでそうやってつぶやき、魔族たちをバラバラにする。
遠目から見てもわかるほどの血が吹き出て、いまだ生き残るものたちに引導を渡すため、慎吾は己のうちより、禁術を引き出す。
「―――ルインクラスト―――」
破滅の黒き太陽が平野の上に具現し、大地を滅びの光で照らしつける。
こうして、敵軍は消失した。
ルインクラストが禁術になる理由は簡単である。
人道に反するとか、そういったものでもあったが、何よりもそのコントロールが難しく、それに失敗すると辺り一面が砂漠になったとしてもおかしくないからだ。
わずか数分の戦いをもって、刈谷慎吾の初陣は終わった。
慎吾の最も得意とする戦法は、何よりもこのようなはるか遠方からの大魔術の連発であったのだ。決して近接戦闘において弱いというわけではないが、彼を戦争に使うということがどういうことか、この一戦が証明し、さらにはレオナに“殲滅の魔術師”であることを確信させた。
「報告はそこまでか?」
「っひ!」
魔王城の謁見のまでは玉座に男が座り、はるか下方にてある魔族が土下座をしていた。
「ふむ、『いきなり現れた黒髪の男が何かすると当たりに散らばっていた剣が急に襲い掛かってきて、それを退けたと思ったら今度は黒い太陽の光に当たって消失した』と、こんな化け物が人にいるとお前は思っているのか?」
玉座の男は穏やかにそういうと、土下座をする男を見下ろした。
だが、その穏やかな声とは裏腹に、玉座の男は怒っていた。
「し、しかし、真実そのようなことだったので……」
玉座の男こそ魔王。土下座する男はルムルグ平原の司令官である。
「魔族こそ至高なり。この世に魔族を滅ぼしうる存在などいるはずもない」
それが魔王の失態だった。魔族至上主義はこのような情報をこの男が失態を隠すためについた嘘だと判断してしまったのだ。
「さあ、この男を打ち首にせよ。我が軍勢を無駄にした罪は大きいぞ!!」
「ま、魔王様、お考え直しください!! 魔王様!!!」
そういう司令官はその場でそのまま打ち首にされ、隠匿された。
魔王軍の敗北は、民衆の支持を下げるため、情報規制がされていたのだった。
「なあ、魔王倒せば僕って用済みなのか?」
ふと思いついたことをそのまま口にする。
「そうね、戦後のことは今はわからないけど、基本的にその後は軍から離れられるはずよ。
まあ、さすがに国の危機になったら呼び戻されるでしょうけど」
そういうレオナの声を聞くなり慎吾はすぐさま立ち上がり、
「じゃあ、僕ちょっと魔王暗殺してくる」
そういった。
―――魔王城にて、慎吾は堂々と正門にたどり着くとそのまま門番ごと城門を吹き飛ばした。
「ごめんくださーい! 魔王さんに会いに来ましたー!!」
そういうとそのまま歩き始め、
「入りますねー!!」
そう叫んで魔術を具現しながら魔王城の謁見の間に向かった。
「た、大変です魔王様。ただいま人間どもに城門を突破されました」
平伏する男に対し魔王は笑って言いはなつ。
「はっはっは、それならば丁重にここまでお通ししろ。我が相手してやろう」
まさしく魔族至上主義の塊である魔王だ。人間がどれだけ集まっても、自分を滅ぼせる存在がいないと変な確信を持っているのだ。
―――この根拠はおよそ三百年前に現れた勇者一行のときからである。
勇者一行はこの魔王城に現れ、多くの魔族をその力で打倒してきたが、この謁見の間において魔王に首を取られたのだ。それからというもの、魔族に人は勝てないというのが定説になり、そこからこの魔族至上主義が生まれたのだ。
慎吾は謁見の間にたどり着くと、そのまま剣をあの世界から呼んだ。
「そのような無骨な剣で我と相対しようとはな!! 魔族に人は打ち勝つことはできないと、いまだ悟れぬ愚か者よ! その愚かさをあの世でじっくり味わうがいい!!!」
そういう魔王の口上を聞き終えた慎吾はそのまま、
「終わったか? じゃあはじめていいな」
完全に魔王の台詞を無視して返した。
というより、途中からまったく聞いていなかった。
「―――ミレニアム・ストライク―――」
“己への誓い”の魔力をきっかり千年分放出し、魔王とその直線上にいた全てを吹き飛ばした。
「―――な、あ」
近くにいた側近は口をあんぐりとあけたまま立ち止まり、その間抜けな顔のまま慎吾に首を飛ばされた。
―――さて、ここで問題だが、戦いを知らない日本の高校生が例え歴戦の勇者たちの知識を持ったとして、戦いにおいて誰よりも優れた成果を発揮できるだろうか?
答えは否だ。
なぜなら、日本の高校生が知識として何を知っていようと経験ではないのだ。
よりはっきりいうなれば、なまじこうすればいいというのがあるだけに戦闘には向かない。できるのはあくまでも中身のない空っぽのものだけだ。
故に、彼はこれに気付けない。気付く能力があっても、気付けないのだ。それが戦闘経験という何にも置き換えられない戦闘の極意であるがゆえに……。
「っぐ……」
腹部より生えた剣。それを自分で信じられないと思いつつ見る。
振り返ってみればあの魔王が大きく退くところが見えた。
毒によるものなのか、身体に痺れが走り、出血とは関係なく身体の自由が奪われる。
「ふ、ふははははは。まさか、貴様はあの一撃で我を殺せると思ったのか?
グズめ、身体を消滅させた程度で死ぬならば今頃我は魔王などしておらん」
笑う魔王に対し、慎吾は精神力を総動員して魔術による治療と、腹部の剣をどうにかしていた。
「ああ、あの程度の攻撃ならば何度でもやってもらってかまわないぞ。
我は不滅だ。不滅ゆえに魔王だ」
魔王のお言葉を完全に無視し、治療を終えて剣を構えなおす。
油断した。生死を確認せずに油断した僕のミスだ。
「不滅って言うのはけっこう厄介だな。なら封印か……それぐらいしか出てこないが……。
―――だが、気になるな。封印しか恐れるものがないなら、もっと堂々と行動できたはずだ。それができなかったわけ……見極める!!」
慎吾はもう一度“眼”を開いた。
―――魔王自体に特別変な部分は無し、この周囲に満ちる魔力から何かしらの影響を受けたと仮定し、さらに探索範囲の拡大。脳に莫大な負荷がかかるが―――
頭に流れる情報と注意を整理、そして決定する。
―――是、周囲の魔力より何かしらの魔術が働いていると仮定した場合、それを示唆する魔術的ものの存在を検索…検索完了。魔王城そのものが魔法具であり、それが魔王を蘇生したと判断。これにて観測を終了する―――
この間の経過時間は刹那のときに過ぎない。
魔王からすれば目の前の敵が瞬きした瞬間であろう。
―――“目”はこれが何であるかを解明した。そしてそのための行動をすぐさまとる。
「―――ミレニアム・ストライク―――!!」
今一度放たれる魔力の暴風。足りない魔力は己のもので補い、その一撃は魔王を滅ぼすことが目的ではなく、この城を破壊することが目的であった。
「む、まさか……」
城のいたるところにある蘇生のための術式は全てこの魔力の暴風によって消し飛ばした。
「これで、お前も殺せば死ぬ」
「――――ッチィ!」
魔王は玉座の後ろからまがまがしい剣を引き抜き、慎吾に切りかかる。
慎吾はそれとは対照的に剣をあの丘に戻して錬金で作り出した長剣を使ってその攻撃を防ぐ。
“目”によって動体視力等の強化されている慎吾は、敵の剣を完全に見切り、相手の剣の運動エネルギーを自らの剣に乗せて、さらに自分でもエネルギーを加えて魔王を斬りつける。
それを魔王が力で押し返し、そのときの反作用を利用してさらに強力な一撃を加える。
徐々に加速し、強力になっていく剣を前に、自称最強は押されていった。
「―――く、そうっ!! 何故だ! 何故打ち負ける! このような人間ごときに!!!」
ひときわ大きな音を立てて、剣と剣がぶつかり合う。それと同時に、慎吾は力を込め―――
「―――魔剣技 狼牙―――!!」
その止めの一撃で魔王の息の根を止めた。
本当に人の世の安定を求めるならば、慎吾はここでもっとしっかりとした事後処理をしなければならないのだが、そんなものをやるような理由は―――もともと人の世の安定を望んでいないため―――それほどなく、どちらかというと一仕事終えてゆっくり休みたい気分だった。
「ただいま……」
慎吾はレオナの待つ二人の愛の巣に戻るとそのままぶっ倒れた。
ある意味では当たり前の結末である。剣にはそれほどまで魔力はたまっていなかった。二度の“ミレニアム・ストライク”は魔力的に無理があったのだ。
これは慎吾の持つ性質だが、慎吾は魔力が完全に切れると眠る。それも長期間。
具体的に言うならば三日だが、その間は何をしても起きない。それを無論レオナは知っている。これを知ったのが学院にいるときというのもなかなかに面白い話だが、そういうことだ。
レオナは、慎吾が“殲滅の魔術師”であり、“最弱の中級者”でもあり、“黒竜殺しの魔導師”であることも確信していた。
さらに、レオナは自分の心に決意を固めていた。
魔王さんが最初に死ななかったのは魔王城中に刻まれた魔方陣に蘇生魔術が刻まれていたからです。




