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Individual magic

 ちょっと短めです。

「おーい、生きてるかー」

 男は慎吾にそう問いかけるとわずかにくびが動いた。

 どうやら横に振っているようだが、動くのなら生きているのだろう。

「そうか、生きてたか。どうだったレオナ、よかったか?」

 その問いかけに慎吾は一瞬のうちに立ち上がると周囲を見渡す。その動きはまさに手負いの獣のようで、すばやかった。

「うそだ、安心しろ」

「心臓に悪い嘘はやめてください。あと、寿命が延びるって言うのは嘘ですよ、きっと。死ぬかと思いました」

 復活した慎吾は普通に応対を始める。

「お、意外だな。てっきり暴れると思ってたんだが……諦めか?」

「諦観者ですから」

 自分で言うのはどうかと思うが、それが一番あっている気がする。

「―――で、僕が戦う魔族ってどういうやつなんですか?」

 半ば予想はついているが、聞いてみる。

「人間の能力を五割増しした連中かな? それが一番説明としてはいいと思うが、お前さんにやってもらいたいのは固有魔法を用いての前線での敵の一掃だ。固有魔法こそ魔族に無い特性だからな」

 そういいつつ何か名刺のようなものを出してくる。

「これに魔力を軽く込めてくれ。これはステータスカードって言って意外と詳しく能力がわかる。だけどあんまり過信はするなよ。あと、EXが最高でFが最低だ」

 そういわれるままに魔力を込める。



 刈谷慎吾 17 総合A

 筋力C 耐久B 魔力C 精神力A 知力※※

 スキル 真眼 直感

 固有魔法 舞い踊る無限の剣         

 装備 病人服 [己への誓い]



「とりあえず、この“己への誓い”って何だ?」

 装備の欄に括弧で括られている。

「いや、それより知力のところが文字化けしてやがる。ドンだけ高いんだよ」

 だが、慎吾にとって知力(それ)それは驚くに値しない。多くを観測し、記録するものが人を測るもので測りきれるわけがない。

「ふむ、そうだな。こうなるのは大体装備しているけど今身につけていない場合だ。例えば腕輪の中に剣を入れておくと腕輪が表示されることは当たり前で、剣が括弧に括られて表示されるからな。

 それにしても“己への誓い”か、固有名詞ってことはそれなり以上の業物ってことだけど……心当たりは?」

 そういって聞かれるが答えることはできない。

「わからないから聞いているんだ。

 ―――まあ、でも要するに身にはつけていなくてもすぐに取り出せるものがそうなるというわけだな」

 そうしたある意味で確信を持った問いかけに男はうなずく。

 ―――そうして、慎吾のどこかが理解した。確かにそれならば装備していると。



 慎吾はもう一度眠るとそのままあの丘に上にやってきていた。

 ある意味での確信とともに、その存在を確認しに来たといっても過言ではない。

 ―――あまりに多くの魔術式が並べられる中、そこを堂々と胸を張って歩く。

 無論、その中には慎吾自身の知るものがほとんどであるが、いまだ知らない魔術も多い。これらがどのような結果を導き出すのか、今の慎吾には理解できていない。

「―――これか……」

 それはあまりにも無骨な剣だった。

 名は一切刻まれることなく飾りなどない、どこまでも平凡なただ“創った”だけ、剣として使えるならばどんなものでもよいといった創り手の心を感じさせる片手でも両手でも使える長剣。

 握ってみると不思議と手になじむ。引き抜いて、軽く振って、そして理解した。

「―――それだけか、そんなに難しくないな」

 剣はただ蓄えて放出するだけのものだった。

 確かにその剣は神と竜に対して強力な力を秘めているが、それ以外に対してはただの魔力の貯水庫のようなものでしかない。

 それだけのものならば、理論上は地上においても作り出すことが可能である。が、これほどまでの貯蔵量となると無理である。

 その剣にためられる最大の値はない。いうなれば込めた魔力は際限なくそこに収められ、担い手にそれを解放されるまでその中にためつつけるだけのもの。

 ―――ただし、侮るなかれ。この場にあるのならば、たった一日分の魔力で上級の魔術より強力な威力が出る。一年込めればそれだけで大都市を灰塵に返せる。千年込めれば一国を消失させることすら可能だろう。

 今この剣には、百年弱分の魔力がたまっている。自身の魔力は全てでやっと一ヶ月分になる程度。だが、この剣の本当の使い方は、そんな究極の一撃に全てをかけたものではない。

 意識が覚醒していき、世界から切り離されていく。

 問題はない。剣の取り出し方はわかった。後はその使い方だけ。

 ―――意識とともに身体がこの世界を離れていく中、僕はこの世界の全貌を見た。

「―――――          」

 発見と、理解と、憤慨と、恐怖。それらが全て同時に現れ……消えていった。

 それはそうだろう。

 ―――そんなものは当たり前なのだから。自分の知っていたことを改めて知らされただけの話なのだから……。



「レオナ、戦場の様子を端的に説明してくれ」

 朝起きて、朝食等を済ませた後の慎吾は別人のようだった。

「―――わかった。ルムルグ高原で現在押され気味の帝国軍のアシストが目的、初陣だから戦果はそこまで期待はされてないけど、最低でも状況をこちらの優勢に持ってかないと後々に響く」

 淡々と状況を説明するレオナ。その二人の様子は長年の付き合いのようであった。

「了解、問題はない。

 今遠見を使ってみたが、あの様子なら敗走にまで追い込める。ジャマーが強かったが、後方の部隊は堅そうだ」

 戦争において、情報は一軍にも勝る。

 故に簡単に収集されぬようにジャマーを使うのだが、そのジャマーを突破して情報を収集できるのは単純な話、力技である。

「到着は明日の一〇三〇を目標に行動する。準備を頼む」

「“殲滅の魔術師”というのは伊達じゃないのね」

「そういうことだろう」

 そういって慎吾は荷物を簡単にまとめるが、必要なものはほとんどレオナが用意してくれている。

 馬に跨り、手綱を握って無理をさせない程度に走らせて戦場を目指す。

 その姿は、何処での一人の冒険者の少年のころのようだった。



「―――刈谷……」

 レオナは、慎吾にカマをかけてみた。

 “殲滅の魔術師”というこの世界では言われるはずのない名称。重なり合う幾つもの並行世界の一つで呼ばれる刈谷慎吾という名の英雄の別名だ。

 レオナは、この平行世界の中を行き来することのできる稀有な存在である。

 ゲートを開くように世界を移動するのではなく、意識だけをほかの平行世界と共有させるだけの能力。

 無論、慎吾のことも知っている。

 ある世界で、この世界を滅びから救い、歴代の魔術師の中で最高とも呼ばれた魔術師。他世界から現れた存在であり、神字という特殊な魔術形態を見つけ出した者。そして、その世界の自分が寝込みを襲った相手でもある。

 そのときのことを思い出し、思わずやってしまったというのが本音だが、襲うのはどうかとも思った。だが、本人が(今は)それほど文句も言ってこないので問題はないだろう。

 しかし、ここで問題なのはそこではない。

 明らかに、あれは刈谷だ。刈谷慎吾だ。

 ならば、あの時の自分を倒せない道理はない。それはつまり、知識を完全に共有しきれていなかったという事だろうか? そうであれば納得できる。今朝からの刈谷の様子はあのときから予想できる範囲での行動だし、あの力技でしかない魔術行使も刈谷慎吾の得意技である。(あまりほめていない)

 だがまあ、うれしいものだ。

 思い人が現れ、さらに命令とはいえ結婚もできた。後は魔族を退けて甘い蜜月を過ごすだけである。

「レオナ、そろそろ馬を休ませよう」

「そうね」

 だから、今は我慢だ。この青年が刈谷慎吾ならばこの戦争は一年とたたずに終結することは考えるまでもないのだから……。


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