Conflict
「こんにちは、私はレオナ。大日本帝国異世界進行部隊連隊長よ」
「え゛!?」
耳を疑った。
大日本帝国。恐らくほとんどの日本人が知っているであろう名称。第二次世界大戦のときの日本の名称だ。
「えーと、僕は刈谷慎吾って言うものだが、そちらの目的は?」
今さっき聞いたばかりだが一応念のためである。
別に愛国心とかはないが、少なくとも自分自身に被害が出るから黙認するわけには行かない。それにもうすでに攻撃もしたからな。
「わかっていることを聞くのはよくないわね。
まあいいわ。さっきも言ったとおり私はこの世界を侵略しに来た侵略者。
それで、あなたは何者? 兵士、用兵、冒険者、軍人……どれかしら?」
「どれでもないな」
首を振って否定を表す。
「じゃあ、何者なの?」
その問いにはけっこう簡単に答えられる。
「ただの一学生さ。ちょっと特異的な立場にいるけどね」
“目”でより深くより大きく視る。
軍勢がこちらを伺いつつ少しずつ前進している。その態度からは司令官を心配する気配はまったくない。
―――予想はしていたが、こいつには勝てそうもないんだが……。
「学生か、君よりも強い人はどれぐらいいるの?」
話を長引かせて多くの軍勢を進めたいらしい。
こちらにも利があるから乗らせていただこう。
「さてな、知らない。いることは知っているが……どれぐらいいるのかはわからない」
「まあ、それもそうよね」
話を続けつつ己のうちに没頭し、軍勢を囲うように魔術を作り出す。
「―――さて、こちらから質問だ。この戦争をやめて帰る気はないか?
恐らくだが、国交をつなげること自体はできると思うぞ。そちらが攻撃さえしなければ」
「残念だけどね。そこらへんは政治の分野。私は軍人だからそういった話は上に通すことしかできないの。あなたは降伏したら? あなたは才能もあるし頭もよさそうだからここから逃げることができないことぐらいわかっているでしょう」
確かに、僕はここから逃げられない。だけど……。
「残念なことに僕にもまだ愛国心が多少あったらしい。こういった不条理な侵略には徹底抗戦させていただこう」
そういって右だけで剣を握り、左手を頭上に掲げ……。
「さあ、舞え! 踊れ!!」
号令のように真下に振り下ろした。
―――慎吾の内から出た魔術は大部隊の下で顕現し、その場にまさに剣山を具現した。
人一人入ることのできない隙間しか空けず、海上を進む船の上に勢いよく生えた剣たちは、人だったものと一緒に上空であるここまで上がってきて突き刺さったものたちをその刃でばらばらに切り裂いた。
「っく、―――炎竜の息吹―――」
その炎は多数の剣を蒸発させつつこちらに迫ってきた。
“知っている”
強力な魔術である。炎の温度は一瞬で剣を蒸発させられるほどの高温。こんなもの近くにあるだけでやばい。
―――だが、それも“目”を持ち、己のうちに観測者の潜む慎吾にはあまりにも意味がない。
“刈谷慎吾はこの敵を知っている”
「―――氷竜の息吹―――ッ!!」
だが、さすがの観測者といえど、一瞬のうちに鑑定、改良、発動を行うのは脳に莫大な負荷がかかる。
“知っている魔術を解析する必要はない”
高温の炎と、絶対零度を思わせる冷気は衝突し、互いに互いを打ち消し、消え去った。
慎吾はここ手詰まり。これ以上何かをするには自分という殻が邪魔になる。
―――だが、相手にはその次があった。
「セイッ!!」
一瞬のうちに距離をつめたレオナは慎吾の背後を取り、鋭い突きを繰り出していた。
―――ギィン!
高い金属のぶつかり合う音がするとレイピアを慎吾の剣が止めている。
“知っている、この攻撃の方法を知っている”
―――“舞い踊る無限の刃”はセミオート。すなわちこのように手の中にある自分の剣を自在に操ることもできる。
“この敵の攻撃のパターンはわかっている。だったら一度ぐらい防ぐことは難しくない”
「ゴホッ……」
―――吐血。
自身という障害に阻まれた無理な魔術行使は病み上がりの慎吾には無理がありすぎる。
フッと意識が消えかけ、それを根性でねじ伏せる。
「はあ、はあ……っ!!」
口から血を流し、ひどい頭痛に襲われつつも慎吾は敵を見据えて剣を再び構える。
その姿は当に限界。それは誰より本人がわかっていた。
―――無理な魔術行為は術者の内側を破壊する。慎吾は短期間のうちに二度にもわたった無理な魔術行使によって中がボロボロだった。
レオナを見据えた慎吾はこの敵には負けないように集中し、それ以外のところからの攻撃によって倒れた。
「何やってるの?」
そんな声を聞いているうちに慎吾の意識は深く落ちていった。
―――慎吾は目が覚めた瞬間、もう自分は死んでいると思っていた。
「おはよう」
故に、このように(主観として)さっきまで戦っていた敵が目の前にいるとは思っていなかった。
「?」
じっと顔を見ていたからか、女は疑問顔である。
「えーと、『おはよう』でいいのか?」
体内時計は今午後をさしている。
―――そんなことよりもちょっと前まで殺しあっていた敵とこのように話し合うのも変な気がしてきた。というよりだいぶ変だ。
「驚き、てっきりすぐにでも飛び掛ってくると思っていたのに」
相手側も変に思っているようだ。
―――だが、なぜだかわからないが、僕はどこかでこの女を信用しきっている。本気で攻撃しようとしてもできなかったし、どこかがこの女と敵対することを嫌がっているようである。
「さあ、僕自身わからん。それに僕はあんたに今殺されていない。拷問もかけられていない。だったら少しは信用するのもいいだろう」
今現在慎吾は病室のようなところで横になっているだけだ。
魔術を封じられたわけでもなく、武器はさすがにここにはないようだが、それは当たり前だろう。
「そう、それなら話が早くて助かる。
―――そうそう、安心して頂戴。君の世界への侵攻は中止になったから」
「何故に?」
「そりゃあそうでしょう。連れてきた兵士の五分の一があなたに壊滅させられたし、よくわからないけど空飛ぶ鉄の鳥とかそういったものと戦争できるほど余裕がなかったから国交を結ぶことになってるんだけど……」
そうか、いかにこの女がこれだけの魔力を持っていても、戦争に勝つのと戦闘に勝利するのは少しわけが違うというわけか。
「―――友好の印としてこちらが要求したら君の身柄はこちらに譲ってもらえることになったの」
「はあ!?」
思わず大きな声を出してしまう。
何故に!? 何のために!?
「あとは私が説明しよう」
いつの間にやら現れた女が突然説明を始める。
「―――我らは大日本帝国という名前の帝国だ。今は百二十二代皇帝ルミナ様の統治により世界は統一されている。
帝国では固有魔法の使い手を優遇している。
君のように大規模戦闘において活躍できるものはわれわれにとって咽喉から手が出るほどにほしい。
今われわれは魔族との戦争に備えて戦力を補強している。君は友好のためにという名目で戦争の駒にされるということさ。
後は……結婚おめでとう」
「はぁ……って、ぇえ!!」
まあ、前半から中盤の部分はわかった。納得はしていないが理解はした。
要するに友好を結ぶときに何を帝国側が出したかは知らないが、帝国側が対価に“刈谷慎吾”を要求したということだろう。出したのは恐らく魔術技術といったところだろうか?
この世界に石油とか化石燃料はないし、鉱石とかも違うものが多いから共通していてほしいものといったら魔術技術しかない……どこからだ?この知識は。
―――この考えに至った瞬間。慎吾は混乱を忘れた。
おかしい。
何がおかしいかって言われたら、恐らく自分がと答えるだろう。
知っているはずのない知識。至れるわけのない結論。対応できるはずのなかった攻撃。
ああ、本当におかしい。敵対したものを憎めないこともおかしい。
「君はね。なんと、ここにいるレオナ様と結婚するのです」
「え」
レオナはもう三百を超えているんだぞ。エルフだからそうは見えないけど。
―――そう思い立ってまたも疑問に思う。何故そんなことを知っているのかと。
「よかったわねー。レオナはこれでも処………」
だが、その台詞は言い終わることがなかった。
言わずもがな、レオナが物理的に口を封じた。かすかに赤くなっているあたり恥ずかしいのだろう。
“これでも”というのに大きな疑問を持ったが、それより『政略結婚のようなものだろう』と思う自分と『レオナと結婚するなんて』と恥ずかしがる自分もいた。
「じゃ、じゃあお二人さんごゆっくり」
そういって女は部屋から出て行った。
その場に残ったのは気まずい雰囲気と沈黙を守り続ける男女だった。
「一応言っておくと、私たちの結婚は“あなたを監視して可能な限り思うように動かすこと”が目的だからね」
―――べ、別に私があなたのことを好きだとかとは思ってないんだから。とは続くわけがない。こいつはレオナだ。レオナはそういう意味で言ったわけではない。勘違いされないように注意しただけ。“本当に”文字通りの意味しかないのだ。
もはや出会ってそれほどしていないのにこいつがどういうやつなのか知っている。知ってしまっている。それがどのような奇跡であり、魔術的な存在の所為なのかはわからない。
「――――――」
面倒なので、とりあえず身体が完全に癒えるまで眠ることにする。まだ足にひびか何かがあるようだ。
目を閉じ、深呼吸を一つして意識を深淵へと導く。
外の音、気配、その他一切を除外する一歩手前で、シュルシュルという音を聞いた。
「――――――?」
少しだけ意識を外に向け、何の音かを聞き取る。
―――…パサッ……………。
何か軽いものが落ちたような音、そのまま無防備な身体にかけられる束縛系統の魔術……!?
「―――んなっ!」
そのとき、目を開いてようやく状況を理解した。
「――――?」
すぐ近くのレオナは疑問顔である。まるで当たり前のことをするのに何をそこまで驚くのかといったような……。
必死になって記憶の海からエルフについての情報を引き出す。
妖精、耳が長いなどが特徴としてあげられたりする。基本的にすらっとしている個体が多い。自分の森から出ることは少なく、出てくるものは基本的に変人である。魔力が多く、事実上寿命はない。交わると相手も寿命が長くなるといい、森を一歩出るとすぐに人から狙われる。自然を利用した魔術を得意とする。帝国と友好を結ぶ集落が一つあり、レオナはそこの族長の娘。風や光といった属性に該当するものが多い……などなど。
やはり自分の持つ知識の中にこのようなことになる理由が該当しない。
「ちょっと待て、何をする気だ?」
一応無駄かもしれないが、聞いてみる。
「? 夫婦が二人で一夜を共にするのに何の疑問が? それにエルフと寝ると寿命が長くなるし老化も止まる。いいことだらけだし、それが目的で私たちは結婚させられたんだよ。
大丈夫、初めてだけどちゃんとやるから」
―――そうか、なら何の問題もないだろ……って、大有りだろう!!
「待て待て待て、そういうことは本当に大切な人とだな……」
「童貞が何を言うか……」
ぐはっ! 今のは正直に言って火巨人の一撃とか火竜の息吹より効いた。
「お、お前だって処女だろうが―――ッ!」
―――その夜は長かった。本当に、いろいろな意味で。
これ以上は年齢制限に間違いなく引っかかるため、割愛します。ご了承ください。
ただ、一つだけいうと慎吾が眠れたのは一時間もなかったとだけ言っておきましょう。
「―――これは何があったんだ?」
一人の男が現れ、部屋に入るなりそういうとすぐに換気をして倒されたときよりもぼろぼろの慎吾に治癒術を使った。
反省はしている。後悔はしていない。
―――一応言っておくと、レオナが行為を行ったのは命令だからというのが三割でその他で七割です。




