Though the future was decided, it cannot know and cannot change, either.
―――炎が燃えている。
戦場で一人の男が剣を杖にたたずむ。
その周囲では数々の人だったものが散らばり、燃えカスとなっている。
―――その剣は、まさに炎の体現だった。
剣を見た瞬間、自身には理解できないと悟った。あれは自分のいる世界にはない法則だ。でも、夢の中でなら、あれを手にすることも、作り出すことも、何だってできる。
―――次の瞬間、また違った場面を見た。
―――炎の剣を持っていた男が、また違った剣を持って黒い巨龍に立ち向かっている。
黒い龍は、咆哮を上げ、男を殺す。男もまた、その傷を魔術で癒しつつ龍を殺す。
だが、その動きはだんだん鈍くなっていき、最後には腹部を貫かれて終わったように見えた。
だが、そこから男は身体を魔術によって癒し、龍を殺しつくした。そうしてこの戦いは終わったのだ。
―――次の場面へと移る。
―――次の場面へと移る。
―――――――――――。
男は、黒い龍を倒した剣を持ってもう一度黒い龍を殺し、その剣を持って神々しい球体を切り裂く。
その後は真っ暗で何も見えない。その後何があったのか、それを知ることができない。だが、一つ理解した。これは自分自身のもう一つの物語だ。と……。
―――二つ目の扉は開かれた。
観測者はここで自身を見た。よって、扉が開かれた。
よって、これを理解する。記録し、結論付け、二つの世界が一つに融合する。
殲滅の魔術師、龍殺しであり、神殺し、莫大な魔力と“ラプラスの悪魔”という精霊、さらに卓越した剣術と魔剣技を使いこなす存在。
その英雄が使った魔剣、己への誓い(オウト・プロミス)は世界の中心である丘の上に突き刺さり、その場でまた魔力を蓄える。
このときから、この世界でのときの進みはこちら側の千倍となった。ここでも、夢の中でもない世界の時の進みと同じく。
―――さあ、観測を再開しろ。まだこの世界は全てを観測していない……!
しみ一つない天井を見上げ、この退屈さを紛らわせるためにしみを数えるという行動をとろうとしていたが、残念ながらそれができないことを悟った。
己の根底に存在するものの声、『観測を再開しろ』という声から考えるに、あの声の持ち主は刈谷慎吾という人物が感じ考えたことを観測できる。そしてそこから記録を残している。
―――あの世界そのもの、そう、あいつはあの世界だ。
しみの数を数えようとするのをやめ、今度は模様をぼんやり眺める。
ピタゴラスは壁の模様から三平方の定理を発見している。この行動がどのようなことにつながるかはわからないが、まあ、この世の中に無駄なことなんてそうないだろう。
「―――魔力の枯渇による神経の麻痺か、その様子だともう治り始めているようだが」
いつの間にか横に男が立っている。
「いや、治り始めているというよりももともと麻痺がひどくなかったのか、これもその魔力浸透率のおかげか?」
男は葛城と名乗っていた。何でも倒れていた自分を助け出してくれたようである。
「何のようだ、幼女様なら来てないが」
「別に用事などない、ただお前がちゃんと安静にしているかを見に来ただけだ。俺は一応お前の命を救ったのだからな」
そう、この男曰く、あのまま放置すれば死んでいたのだ、いくら気に食わなくてもいきなり追っ払うわけには行かない。
「そのことならちゃんと分かっている。だから手足は動かしてない」
「魔力は?」
「そんなことやるか、一番つらいのは僕なんだろ」
魔力が枯渇していたところに魔力が流れ始めてすぐ魔力を動かしたら身体が内側からズタズタにされる。
その会話を最後にお互い黙っているとその空気を読まず変なのが現れた。
「やっほー、シンゴー」
その人物はとりあえず女で、自分のことを知っているということだけ理解できた。
「葛城、お前の知り合いか?」
「いや、知らんしお前の名を呼ぶということはお前の知り合いだろう」
葛城は珍獣を見たような顔をして変なのを見ている。
「ひどいなあ慎吾、私だよ。わ た し」
「オレオレ詐欺ならぬワタシワタシ詐欺が流行り始めたようだ。警察にでも連絡を入れておいてくれないか?」
そういって葛城を見る。葛城はやれやれといった風情で扉の前に行くと、
「では連絡を入れておこう。それまでは適当にあしらっておけ」
そういうと一切振り返らずに出て行った。
「で、あんた、本当に誰なんだ?」
「私は刈野由美、あなたのお姉ちゃんで刈野家次期頭首の「―――平地の悪魔」……雫さん。それは言っちゃだめだって言わなかった?」
平地の悪魔、それならば聞いたことがある。何でも平野において並ぶもの無しの夜叉で千の軍勢を一人で打倒した魔術師の二つ名だ。まさか女だとは思わなかったが……。
「雫、いたのか」
「今来たところ」
そうやって二人で話すのが面白くないのか不機嫌そうに見てくる刈野由美をみて話を戻す。
「話を戻そう。それで僕の姉とやらが何のようなんだ?」
そもそも姉という存在がいることに疑いを持っている慎吾は今もなお疑っている。
「刈野家は魔術の才のないものを刈谷として育てる。それは公然の秘密だった。
だけど才のないはずのものが下手な魔術師を圧倒する実力を持っているとなればさすがにあせり始めたのね。すぐにでも連れ戻そうとしてる。
でも、一度は家から出した手前、堂々と返って来いとはいえないから勧誘しにきたわけ」
言っていることはわかる。体面とかいろいろあるのだろう。
「もちろん拒否権はあるんだよな」
「あるけどやらないほうが良いよ。家とかお金とかそういうのがなくなるから生きていくのすら難しくなっちゃうし……あ、この件に対して藤林家に助力を求めるのは意味無いからやめたほうが良いよ。あちらもそれが望みだから」
確かに、何の後ろ盾も無い僕が家に逆らうということは無意味。最終的には立場を悪くしてから入るのは面白くない。
―――だが、このまま言われるままに入ってしまうのも面白くない。
「ならば今のうちに適当な家に入り込む手もあるということか?」
「できなくはないと思うけど、藤林家に睨まれたくないだろうからどこも入れてくれないと思うよ」
藤林家と仲の悪いところがないとは言わないが、少ないし、そこは僕自身嫌われている。
―――この学園にいるうちは(学費等が無料のため)問題ないが、その後生きていく方法があまり無い。
実際いくつかある。
1、家に属さないフリーの魔術師になる。
2、犯罪組織に入る。
3、他国の集団に入る。
この中で一番いいのは1である。次が2で最後が3だ。
魔術師は国の公然の秘密部隊でもある。そのメンバーが他国に行くということはその国の秘密を他国に知らしめるということになるため平和ボケしている日本であっても暗殺される。
犯罪組織は国と敵対するが、同じように他国とも敵対する。故にどこか一組織に属したとしてもさして問題にならないことが多い。
―――どちらにしろやる気はないが。
「じゃあ、フリーでやっていけばいいと」
「そこまでやりたくない?」
「というよりも一度見放しているくせに利用しようとする考えが気に入らない」
結論としてはそこまでだ。単純に気に入らないから従わない。従いたくない。
「だから言ったでしょう。慎吾は従わないって」
雫はため息とともにそういうと踵を返して去っていった。
刈野由美は苦笑いとともに何も言わず去っていった。
二人が去ってまた独りになった慎吾は“目”を開きながら一人つぶやく。
「―――断ってはいないんだが……」
だが、もう遅かった。
―――時空に歪みが生じる。
他の世界からの魔術干渉。
そこに穴があけられ、さらに門となって二つの世界をつなぐ。
そこから多くの軍勢が迫り、この世界に具現した。
夏休み終盤。
フリーのライセンスとしていくつかの依頼をこなしてお金をため、寮に戻った慎吾はいつかの夕方のように巨大な魔力を感知した。
方角は南東、地図で言うならば小笠原諸島の近辺だった。
一軍を率いての他世界侵攻は今回が初めてというわけではない。
魔術によって他世界にゲートをつなぎ、徐々に侵略を始める。
ある世界では魔術が使えず、ある世界では食うものに困ったが、今回はどうやらスキルが使えないらしい。
「報告します。
偵察部隊によりますと、北西に島があるようで、そこでは見たことのない鉄の町があったようです。
レオナ連隊長。ご指示を」
レオナと呼ばれた金の髪を持つ耳の長い女は一つ微笑むと、
「わかりました。補給ラインを確保しつつ魔術部隊を中心に進行を開始します」
そのよく通る声が全体にいきわたったところでそれは現れた。
「ほ、報告。
一人の男がこちらに向かってきて第二部隊に損害が……」
「わかった。じゃあ、私が出る」
そういってレオナはその質素な服に合わない無骨なレイピアを差して立った。
いち早く何かが現れた気配に気付いた慎吾は内より転移の術式を引っ張り出して使用し、敵の下に向かった。
上空に現れ、下の異常を見るとそこにあったのは尋常じゃない数の軍勢だった。
この世界では見ない髪の色や特徴を持つものもいて、戸惑うのと同時に魔術によって攻撃された。
「うわっ!」
間一髪でそれを避けると腰から剣を抜き、
「行け!」
内より呼び出した魔術を降らせた。
見るからに侵攻をしている軍勢に対し、話し合いをするという選択肢は慎吾になかった。
上空より降り注ぐ魔術と重力に逆らって打ち出された魔術が衝突し、視界を妨げる。
「はぁ!」
慎吾は深く己のうちに没頭し、より多くの魔術を引き出す。
だんだんと衝突地点は敵側に近づいていき、とうとう敵を捕らえた。
「いける!」
優勢だったのはわずかであった。
敵は人員を増やして魔術に対抗するも、慎吾はこれ以上多くの魔術を顕現出来ない。慎吾の実力ではこれ以上戦闘中に深く己のうちに入り込めない。
「?」
突如、魔術が止まった。
戦闘経験のない慎吾は何も考えず魔術を止め、あがってくる女を見た。
金の髪を持つ細い女、耳が長く、まるで物語に出てくる“エルフ”のようであった。
「ふーん」
こちらを観察している女に少々いやな感じがしたため“目”を開き、観測を始める。
莫大な魔力、これを上手く使いこなせば国一つ滅ぼせそうだった。
しかし、何より気になったのは“僕、刈谷慎吾という存在はこいつを知っている”ということだった。




