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シーン 7

数時間に渡って燃え続けた炎は夕方になってようやく勢いが衰えた。

途中、炎が西風に煽られる場面もあったが、村人たちの息の合ったバケツリレーで大事には至らなかった。

普段から一緒に仕事をしていることもあり、村人同士の団結力の強さはさすがといったところか。

農地は焼け野原になり、もはや元の面影はのこっていなかった。


問題のクローラーはアーヴィンの放った魔法に焼かれ、大半が灰すら残らない状態だった。

また、魔法から生き延びたクローラーも四方から迫る炎に巻かれ、弱ったところを村人たちが袋叩きにしていた。

ここまでしなければ完全に駆除できないとは本当に厄介な魔物だ。

今回のような作戦はそうそうあるものではないが、できれば今回で終わりにしてもらいたい。

しかし、振り返ってみれば予定以上にうまくいったように思う。

クローラーは本能的にクイーンの周りに集まったため、アーヴィンの魔法で一網打尽に出来たのは本当に運がよかった。

また、村人たちにも被害はでなかったため、これ以上の成果はない。


「…っつ」


戦いの後、村の診療所に運び込んだアーヴィンがようやく目を覚ました。

一体どれだけ眠っていただろうか。

作戦開始の開始は昼間だったが、今は辺りが暗くなっている。

つまり、時間にして半日近く眠っていたというわけだ。

頭痛がするのか、目が覚めて早々に頭を抱え表情が苦悶に歪んだ。

僕自身、魔法を使ったときの反動は経験したことはない。

そのため、彼にどれほどの負担がかかったのか想像すらできなかった。

しかし、辛そうなところを見ると、想像するより遥かに負担が大きいようだ。

体力的な疲労であれば少し眠れば回復するが、精神的なものは眠ったくらいではすぐに完治はしないのだろう。

怪我のように見た目ではわからないため判断が難しい。


「目が覚めたか?」

「…あぁ、酷い寝覚めだ。頭が痛くて生きた心地がしない」

「そりゃ、あれだけの力を使ったんだからな。だけど、お前のおかげでうまくいったよ。助かった」

「そうか…それはよかった…」


アーヴィンは気だるそうにベッドから身体を起こした。


「おいおい、大丈夫か?気をしっかり持てよ」

「…悪いな。今は気持ちが落ち込んで仕方がないだ。まぁ、いつものことだがな」

「おッ、それだったら俺がガツンと一発気合いを入れてやろうか?効くぜ~」


そういって張り手の準備をした。

某レスラーのように頬を思い切り叩けば気合いが注入できるという寸法だ。

できればその後に「ありがとうございました!」の一言があればなお良い。

ただし、僕の場合は力加減を誤れば顎の骨を砕いてしまう危険性がある。

アーヴィンも最悪の事態を想像したのか、慌てて顔を左右に振った。

もちろん、意識しているのでそこまで酷いことにはならないと思うが。


「ば、バカ野郎!?」

「ははッ、元気出たか?冗談だよ。案外単純なヤツだな」

「じょ、冗談かよ…。ったく、リーダーも黙ってないで何とかいってくださいよ」


アーヴィンは部屋の隅にある椅子に腰掛けるレオに助けを求めた。

彼は基本的に放任主義のため、やれやれといった顔をして腕を組んだ。

彼としても面倒事は御免なのだろう。

一息置いて小さくため息をついた。


「あー…何だ、仲がいいな」

「え…それだけですか?」

「はははッ。それより、身体の方はもういいのか?」

「それよりって…まぁ、見ての通りですよ。でも、出来ればもう少し休ませて欲しいです」

「そうか。では、明日の朝にはハイマンに戻れそうか?」

「えぇ、それまでには何とか」

「わかった。私は少し村長に用がある。また顔を見にくるからな」


レオは席を立って部屋を出て行った。

大方、昼間の後始末にでも行くのだろう。

すでに消火活動はほとんど終わっているが、数名の村人は用心のために翌朝まで交代で見張りをするようだ。


「…で、お前はいつまで居るつもりだ?」

「ん?寂しいと思って一緒に居てやろうと思ったが、邪魔だったか?」

「テメェ…俺の性格知ってるくせによくいうぜ」

「はいはい、わかったよ。じゃあ、邪魔者は消えますかね、と」

「おう、行け行け。どこかで適当に飯でも食いに行ってこいよ」


アーヴィンを診療所に残して外に出た。

村の中は点々と松明が灯され、その明かりを頼りに何とか出歩くことができる。

しかし、この松明というのは少し厄介だ。

電気やガスの街灯とは違い、時間が経てば燃え尽きてしまう。

つまり、誰かが定期的に管理しなければならない。

それを解決するために、松明があればそれを管理する専門の職人がいる。

彼らは松明の管理以外にも夜間の警備も担っている。

しかし、警備といっても見張りをするくらいで実際に戦ったりすることはない。


松明の灯りを頼りに宿屋にたどり着いた。

店内は村人や宿泊客で賑わっている。

店員に案内されてカウンターの席に着いた。

メニュー表を片手に適当に料理を選んだ。


「…ったく、何だよあの…計画が台無しだ」

「シッ、声が大きい!気をつけろ」

「わ、悪い。つい…な」

「飲み過ぎだ。まったく、店を代えて飲みなおすぞ」


背後から聞こえた声は確かに計画と聞こえた。

悔しがっている様子から何か重要なことだったのだろう。

慌てて振り向いたが、すでに声の主はおらず立ち去る二人の背中だけが見えた。

顔はわからないが中肉中背と小太りの二人組だ。

気になって店員に二人のことを聞いてみたが、どうやらこの村の出身ではないらしい。

この店を利用したのも偶然だったらしく、再び来店するかは不明だ。


食事を済ませて酒場を出た。

一人の夕食はいつぶりだろうか。

最近はよくミーナたちと一緒だったため、不思議と懐かしい気分になった。

それでも、頭の片隅には先ほどの男たちが話していた言葉が残っていた。


「…計画、か」


ポツリと呟いて夜空を見上げた。

周りには松明と家々から漏れるわずかな光しかない。

そのため、空に浮かぶ星がよく見えた。

ただ、どの星も見たことがないものばかりで、知っている星座などは見当たらない。

そもそも、この星が地球と同じ宇宙に存在するのか疑問もある。


「…ん?誰かと思えばユウジか」


不意に声がかかり振り向くとレオの姿があった。

辺りが暗いため近くまで来なければ気付かなかったようだ。


「あ、うん。レオはこれから晩飯か?」

「あぁ、とりあえず村長に話を付けてきた。今夜は無理をせず見張りだけに留めておくようにとな」

「そっか。それはそうと、さっき気になることを耳にしたんだ。確証はないが、悪い予感が的中したかもしれない」

「ほぅ…では場所を移そう。ここでは誰が聞いているかわからんからな」


レオは夕食を後回しにして二人で宿の談話室に移動した。

談話室はロビーの一画にあり、簡単な応接セットが置かれている。

壁や目隠しの仕切りはないが、この時間はロビーの往来が少ないため気にすることはないだろう。

彼はソファーに腰を降ろすと少し前のめりになって顔を近づけてきた。


「それで、悪い予感とは?」

「あぁ、酒場で偶然耳にしたんだ。話してたのは二人組の男だったが、そのうちの一人が“計画”という言葉を口にしてな。その直後にもう一人の男が慌てて制止をしていたんだ。雰囲気からして人に聞かれてはマズい内容だったみたいだ」

「ふむ…だが、それほど重要な話ならそんな場でボロを出すものか?」


レオは腕を組んでそう答えた。

確かに彼の考えには一理あるが、すかさず考えを伝えた。


「場所が場所だからな。口を滑らせた男は深酒をしていたようだ。もう一人の男も酔ってはいたが冷静だったな」

「なるほど。それで、計画の詳しい内容は何か聞いたか?」

「いや、実は肝心なところは聞けなかったんだ。店内もう少し静からならよかったんだがな…」

「そういうことか。だが、このタイミングだ。大方、当たらずとも遠からずといったところか?」

「確証はないがそんなところだ。ただ、結論を出すには情報が少なすぎるけどな」


最終的な結論を出すには話の出所を突き止める必要がある。

ただし、話をしていた二人組の顔を見ていないため、これ以上情報を掴めかは疑問だ。


「何か手がかりがあればいいが…」

「手がかり…か。…ん?それならあるぞ!ヤツら、別の店で飲み直すといっていた。今ならまだ間に合うかもしれない」

「だが、顔を見ていないのだろ?いくらハイマンに比べて店が少ないとはいえ闇雲には探せまい」

「背中の特徴なら覚えてるよ。こう見えても記憶力だけはいいほうだからな」


レオに二人組の特徴を伝えるとすぐに宿を飛び出していった。

行動力の高さはチームでも随一だ。

しかし、少し不安もある。

彼ほど身体が大きいとどこに居ても目立ってしまう。

それに、昼間村人たちに顔を晒してしまったため、おそらく組織の一員という素性もバレているだろう。

つまり、二人組がレオに気付けば警戒することも考えられる。

あまり否定的ではいけないが、過度に期待はしない方が無難だろう。


レオは数時間して宿に戻ってきた。

成果を聞こうとしたが浮かない顔をしていたため、案の定といったところか。

詳しく聞いてみると数名の村人に囲まれ、村の英雄として祭り上げられたらしい。

おかげで二人組の捜索ができず、肩を落として引き返したようだ。

時期が時期ということもあるが、こればかりは仕方ないので諦めるより他はない。


翌朝。

復活したアーヴィンを診療所まで迎えに行きハイマンへの帰路についた。

順調にいけば昼頃には着くだろう。


「ふぅ…ようやく帰れるぜ」

「まったくだな。それに、今回は少し特別だ。あんな思いは二度とごめんだよ」

「おッ、何だ、まだ気持ちが沈んでるのか?」

「違う、一般論だ。まぁ、能力無しのお前にはわからないだろうさ」

「そんなもんかねぇ」


馬車の中はいつものような他愛もない雑談に花が咲いた。

まぁ、アーヴィンとは気を許した仲なので、これくらいの方がちょうどいい。

話が一旦途切れたところで、昨晩の出来事を教えてやった。


「…と、いうわけだ。お前はどう思う?」

「その計画って部分が分かるまで何ともいえないが、お前やリーダーが考えるように無関係ではなさそうだな。できれば内偵捜査をしたいところだが、簡単に尻尾を出すかどうか…」

「だよな。とりあえず、このことは村長にも伝えてある。村の中にも内通者がいるかもしれないからな。何か分かれば連絡があるはずだ」

「そうか。考え過ぎだといいんたがな」

「まったくだ」


今回の依頼はとりあえず成功したが、根本的な部分が解決していないように思う。

ただ、何が問題なのかと問われれば答えるのは難しい。

感覚的につじつまが合わない部分があり、今回はそれに付随すると思われる影もチラリと垣間見た。

今はまだ“点”の状態だが、何かの拍子に“線”で繋がる可能性もある。

何にしても、結論が出るまでは用心しておいて損はないだろう。

ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘があればよろしくお願いします。

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