シーン 49
岩の上から周囲を見渡した。
しかし、目線の高さが二メートルほど高くなったくらいでは全体像を把握することはできない。
そもそも、空から見下ろさない限り、この土地の広さを正確に把握している者はいないだろ。
「ミーナ、姉さんが捕らえられてる中心部ってどの方角だ?」
「この位置からだと南西だな。ちょうどあちらの方角だろう」
ミーナは竜の谷の中心部と思われる方角を指差した。
どうやら先ほど逸れた道もそちらに続いているらしい。
先ほどの道を進めば中心部へたどり着くようだ。
しかし、ここから見る限り先ほどの道が最短ルートというわけではない。
道は川に沿って続いているため、このまま順調に進んでも数時間はかかるだろう。
「そういえば気になったんだが、姉さんはどうやって捕らえられているんだ?こんな危険な場所に長い間捕らえられてるなんて不自然じゃないか?」
「尋問した者の話では巨大な岩山に開いた洞窟の中にいるらしい。洞窟の入口は人が中腰になって入るくらい天井が低いから身体の大きな魔物は入れないようだ。それと、入口には逃げられないよう鉄の柵も設置されているらしい」
「岩山の洞窟…か。牢屋みたいなイメージだろうか」
「そうだろうな。ただ、私も人から聞いた話だ。正確なことまではわからないよ」
ミーナは少し自信なく話した。
確かに人から聞いた説明では実際のイメージとずれている場合がある。
この場合、特徴的なイメージを参考にすれば間違いも少なそうだ。
そのためにも、まずは中心部にあるという岩山を探さなければならない。
「えっと、岩山というとあそこに見える小高い山ではないでしょうか?」
そういってベルは視線の先に見えたものを指差した。
僕とミーナもそれに習って視線を移すと、緩やかな弧を描く岩山の頭を見つけた。
ちょうど野球のスタジアムのようなイメージだろうか。
岩山は竜の谷では定番の鉄分を含んだ赤錆色をしている。
方角もミーナが教えてくれた南西に符合した。
「方角はピッタリだな。ミーナ、あれで間違いないか?」
「断言はできないが、その可能性は高そうだ」
「しかしよく見つけたな。みんな赤いからなかなか気付きそうにもないと思うんだが」
「方角を聞いてそちらの方を眺めていたんです。それに、あそこに見える岩山だけ他とは違いますから」
「違う?」
「えぇ、魔物とは違う気配を感じるんです。数は…そうですね、四つでしょうか」
ベルは微かに感じる気配の数を教えてくれた。
そして、それは魔物の気配ではないらしい。
だとすれば一つは姉さんのもので、残りの三つは姉さんを捕らえているダーシェ派のものと考える方が適当だろう。
一つ残念なのは距離が離れすぎているために僕では気配を探れないという点だ。
それでも、これまで彼女の気配を探る能力には助けられているため間違いということは考え難い。
「ユウジ、岩山まで岩の上を移動しよう。これだけ高ければ魔物に襲われ難いだろう」
「わかった。ベル、何か気配を感じたらすぐに教えてくれ」
僕らは岩の壁を伝って移動を再開した。
壁自体は大人三人が横に並んで歩くことができるほど幅がある。
それでも滑落すれば怪我では済まない高さのため、先ほどと同様に一列になって移動しなければならない。
歩きながら周囲を見渡して周囲の気配を探った。
意識を集中すると遠くに小さな気配をいくつか感じ取ることができる。
そのどれもが先ほど感じた禍々しい殺気とは違い、平原で出会うコブリンやオークとよく似ていた。
奥へ近付くたびに先ほど感じた禍々しい気配が近くなっていった。
どうやら進行方向に先ほど感じた気配の主が居るらしい。
しかし、両者のにらみ合いが続いているらしく、ベルは問題ないと判断している。
僕としてはどんどん近付いていく気配に内心動揺が走り、いつでも太刀を抜けるよう柄に手が掛かりっぱなしなっていた。
しばらく岩の上を進むとベルが制止の声をあげた。
その理由はすぐにわかった。
視線の先には巨大な生物の頭が二つ見えている。
一つは額から伸びた角を持つ怪物だ。
そしてもう一つは蛇のような鱗に覆われた頭をしている。
どうやら前者がタラスクスで後者がサンドワームらしい。
岩の壁から頭を出しているところを見ると、全体像こそ把握はできないがその巨大さがよくわかる。
お互いに睨みを利かせてこう着状態になっていた。
「おいおい…あんなヤツらが縄張り争いをしてるのか?シャレにならないぞ…」
「レイジさん、落ち着いてください。冷静にしていれば気付かれる距離ではありません」
「待て、ヤツらに動きがあるぞ」
タラスクスとサンドワームの様子を冷静に観察していたミーナが声をあげた。
すると、タラスクスは巨大な角を振ってサンドワームに威嚇を始めた。
どうやらかなり気が立っているらしい。
対するサンドワームも口を大きく開けて牙を剥いて威嚇の姿勢を見せている。
まさに一触即発といった雰囲気だ。
ただ見ているだけの僕らにも緊張が走った。
いつ両者の争いが始まってもおかしくない状況だ。
「ユウジさん、ここは少し様子を見たほうが良さそうです。これ以上進むと刺激してしまうでしょう」
「あ、あぁ…あんなヤツらとまともに戦ったら命がいくらあっても足りないからな」
ベルの提案はもっともだが、先を急がなくてはならない事情もある。
だからといって、彼女の制止を振り切って先へ進めば無用な争いに巻き込まれる恐れもある。
痛し痒しとはよくいったもので、自動的に両者の争いが終わるまでここで足止めが決まった。
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