シーン 2 / 登場人物紹介 1
【主要人物紹介】
金谷 勇二
本作の主人公。
本人の意思とは無関係に異世界に召喚された青年。
現在は“組織”と呼ばれる団体に所属している。
主な仕事である怪物の討伐では、特注の太刀を使った独特の剣術を得意としている。
基本的には情に厚い性格だが、戦闘時は別人のように攻撃的な一面が現れる。
アーヴィン・クオリス
銀色の長髪が特徴の青年。
主人公と同じ組織に属し、チームを組んでいる。
年齢は主人公より一つ上だが、子どもっぽい印象もある。
剣の腕はそこそこだが、頭よく知略を巡らす参謀タイプ。
性格は一匹狼で仕事がオフの時は極力一人で居たいと思っている。
レオパルド・ウィーバー
組織の中堅で、切り込み隊長として活躍するチームリーダーの男性。
ゴリラのような身体付きで、フルプレートと呼ばれる超重量の鎧を愛用している。
剣の腕には自信があり、怪力を生かしたパワープレイも得意。
主人公たちからの信頼が厚く、チームのお父さん的存在。
ミーナ・クリステル
栗色の髪を背中まで伸びたポニーテールが特徴の女性。
歳は主人公より二つ上。
スーパーモデルのような体型で、マラソン選手のような粘り強い持久力を持つ。
力こそ男性陣には劣るが、持ち前の素早さと全身のバネを使った攻撃が得意。
性格は少し強引だが寂しがりやなところがある。
いつもことだが、仕事が終われば自由の身だ。
次の予定が入るまでの間は休みになる。
町の中を見渡すと、そろそろ夕食時ということもあり、酒場に明かりが灯り始めていた。
「さて…と。今日はどこで食べて行くかなぁ」
「…おやおや、こんなところで会うなんて奇遇だね~」
店を物色していると背後から声がかかった。
振り向くと悪戯っぽい笑みを浮かべたミーナの姿があり、隣には冴えない顔をしたアーヴィンも一緒だった。
「お前ら…それ、偶然なんかじゃないからな?そういうのをストーカーっていうんだぜ」
目を細めて二人を見た。
今居る場所は組織の建物からそれほど離れておらず、何より二人とは先ほどまで一緒に行動していたのだから、ここで出会ったとしても不思議ではない。
一応、組織にはプライベートの自由が暗黙のルールとして存在している。
その代わり、仕事の時は有無を言わさぬ強制力が働くため、下される命令は絶対服従が原則だ。
そのため、同じチームのメンバーであっても、仕事のあとは仲間同士で行動しない者が多い。
元々一匹狼を信条にする連中が多いため、当然といえば当然だ。
しかし、この二人は例外で、特にミーナはその傾向が顕著だった。
裏を返せば寂しがり屋な面があるというべきだろうか。
彼女には戦災孤児という過去があり、人の温もりの大切さを誰よりも理解している。
それを象徴するように、仕事中であっても、気を抜ける場面では昼間のようにじゃれ合ったりしてくることも多い。
「いいじゃないか。そんなことより、これから飯だろ?」
「あぁ、ちょうど入る店を探してたところだ。って、背中を追って来たならそれくらいわかるだろ?」
「はははッ、細かいことは気にするな。何、お姉さんに任せておけば大丈夫だよ。最近オープンした面白い店があるんだ」
「まったく…お前って相変わらずだよな。まぁ、新しい店には興味があるし、話のタネに付き合ってやるよ」
「さすがユウジだ。いや~どこかの頑固者とは違うなぁ」
そういってミーナはアーヴィンを流し見た。
見られた当の本人はどこか不満そうな表情を浮かべている。
しかし、決して不満を口には出さないのが彼のポリシーだ。
彼の本心としては、他のメンバーと同様に一匹狼の気があるため、性格的に合わないのだろう。
それでも、その本心を曲げてでも一緒にいるのは、積極的な彼女の性格を理解した上でのことだ。
どこか諦めにも雰囲気が感じられるが、今の僕にはどうしてやることもできない。
これは以前聞いた話だが、アーヴィンは一度だけミーナの誘いを断ったことがあるらしい。しかし、その後に待っていた彼女の愛がこもったありがたい説教だった。
内容の大半はコミュニケーションの何たるかについてで、数時間に渡って熱いレクチャーが行われたようだ。
この時の教訓は、素直に食事に付き合えば一時間程度で済む話が、説教で余計に長引いてしまい、大変な思いをしたということにある。
彼は説教の終わり頃になると半ば放心状態で、何も考えられないくらい追い詰められていたと話していた。
それ以来、アーヴィンがミーナの申し出を断らなくなったのはいうまでもない。
僕としては彼とは違い、ニーナの申し出に対して心の中では非常に感謝している。
彼女が気を使ってくれるからこそ、僕が僕のままで居られるのだから。
「よーし、着いたぞ」
たどり着いたのは新装開店したばかりの酒場だった。
ちなみに、この世界の飲食店といえば酒場が主流で、酒を扱わないレストランは珍しい。
また、喫茶店のような軽食や休憩を目的とした店は今までに見たことがなかった。
そもそも、この世界では朝食と夕食の二食制が一般的で、一部の裕福な上流階級でもない限り昼食を食べることはない。
そのため、飲食店は夕食時の営業に全力を傾け、夕方から店を営業している。
僕としては今でこそ二食制に慣れたが、当初は空腹で辛い時期もあった。
店内は新装開店というだけあり客で賑わっていた。
一時的だとしても新しい店に客が流れるのは元の世界でも同じだ。
まだ店の運営に慣れない店員に声をかけ、空いていた隅の席に腰を下ろした。
メニューは壁に書かれているため、注文が決まれば店員を呼ぶシステムだ。
店内は活気があり、さながら仕事終わりのサラリーマンで賑わう居酒屋のような雰囲気がある。
ミーナは壁のメニューからオススメの品をいくつか選び、三人分のワインを注文した。
「なかなかイイ店じゃないか。それよりアーヴィン、さっきから無口だな。どうした?」
「いや、特にどうということは…」
「ふむ…もう少し楽しんだらどうだ?それとも、またありがたいお説教を…」
「わ、わかったから。それより、料理遅いな~」
アーヴィンは食い気味にミーナの言葉を遮って視線を泳がせた。
彼の脳裏には以前の説教がトラウマとして焼き付いているらしい。
しかし、僕としてはミーナの考え方には賛成だった。
仕事上、いつ命を落とすかわからない生活をしているため、一瞬一瞬を後悔しないようにと心がけている。
そのためには、出来る限り仲間と交流を重ね、相手の特性を理解してすることで、チームワークの強化にと考えているからだ。
ただし、本質的にはあまり社交的でないアーヴィンにとって、コミュニケーション自体は苦行のようなものだろう。
もちろん、挨拶程度の表面的な付き合いは別だと考えているだろうが。
僕としては、誰にでも苦手なものはあると理解しているため、相手の思いを汲んで極力空気を読むようにしている。
「それにしても、ミーナは情報が早いよな。結構いろんな店に出入りしてるのか?」
話題を逸らしアーヴィンに助け舟を出した。
彼も僕の意図を察してか、目で合図を送って胸をなで下ろした。
「うーん、それほどでもないさ。どちらかといえばパブロの店の常連だよ」
ミーナのいうパブロは町の中でも老舗の酒場だ。
メニューが豊富で昔からの常連客も多く、開店前からできる行列は名物にもなっている。
僕もたまに利用するが、店の名前にもなっているオーナーのパブロとは顔見知りの間柄だ。
「そっか。そういえばマスターも言ってたな。ミーナは酔うと酒癖が酷いって」
「ふふッ、お姉さんだってたまには乱れたくなるのさ」
「…あ、はい。ってか、自覚があるなら少しはセーブしろよな?レオも呆れてたぞ」
「あ、あぁ…自重するよ」
ミーナはレオの名前を聞いて急に大人しくなった。
これは以前あった出来事だが、彼女とレオが二人で食事をした際、些細な事件があったらしい。
その翌日には、朝礼に現れたレオの右目に青あざができていた。
詳しい話は聞いていないが、状況から察するに酒に酔ったミーナがレオの顔面を思いきり殴りつけたのだろう。
事件以来、ミーナとレオが二人だけで食事に行く姿を見なくなった。
「おッ、料理が来たぞ」
店員の姿に気が付いたアーヴィンが声を上げた。
今度は彼がミーナの助け舟を出した形だ。
各自テーブルに並べられたワインを手に取り、二人に乾杯の合図を目で送った。
「はいはい、とりあえず乾杯な。今日もお疲れ、乾杯!」
木製のジョッキを突き合わせて本日の労をねぎらった。
ちなみに、この世界には元々乾杯の風習がなかったため、僕が二人に教えたものだ。
二人は当初戸惑う場面もあったが、乾杯の由来を伝えると目から鱗といった感動を覚えていた。
これも異文化交流というヤツだろうか。
「…ぷはぁ~、仕事終わりの一杯は最高だな」
「これが楽しみで仕事をしているようなもんだからな。って、ミーナ、飛ばし過ぎだぞ?」
よく見るとミーナのジョッキは一息で飲み干し空になっていた。
酒豪とは彼女のような人物のことをいうのだろう。
どうやらまだまだ飲み足りないらしい。
「これくらい余裕さ。それより二人とも、追加はいいのかい?」
「いや、俺はまだ平気だよ」
「こっちもだ」
ミーナは僕とアーヴィンに確認を取ると、再び店員を呼んでワインを追加注文した。
「…それにしても、最近は例年より仕事の依頼が多くないか?おかげで懐具合は助かってるが」
「私らの仕事は依頼のあった敵を倒すことだ。仕事が多いことは悪いことじゃないさ。ただ、レオもそのことを気にしてたし、今の状態は普通じゃないんだろうさ」
アーヴィンの問いかけに対し、ミーナの意見はきわめて仕事寄りだった。
彼女にとって敵を倒すことは生活の糧を得ることなので、そう考える気持ちもわからなくはない。
しかし、例年より仕事が多いという点については、彼女も多少なりとも気になっているようだ。
「正直なところ、俺はこれまでのことはよくわからないが、今が普通じゃないのは何となくわかるよ」
「そうだったな…ユウジは予言者の言葉通り召喚されてこの世界に来たんだったか」
「あぁ。“俺たち”の意識とは関係なく突然にさ。それに、今でも思うよ。何で俺たちだったのかって…」
そう、僕は元々この世界に一人でやってきたわけではない。
つい半年前まで双子の姉と一緒だったのだ。
そして、その姉は今も所在がわからないままになっている。
「ユウジのお姉さん、つまりユキさんと離れ離れになったのは、聖都がダーシェ派から襲撃を受けたあの日だったな」
ダーシェ派とは破滅を司る“ダーシェ神”を信仰する教徒たちのことだ。
彼らは、破壊による滅びこそが救いと信じる危険な思想を持ち、各地でテロ紛いの戦争を繰り返している。
特に、創造を司る“ゼロル神”に強い嫌悪を示し長い間敵対関係にある。
そして、僕ら姉弟が離れ離れなるきっかけとなった“あの日”とは、ダーシェ派がゼロル派の聖地である聖都フェズを強襲した日のことだ。
「…今でもよく覚えてるよ。ヤツらは殺戮の限りを尽くし、聖都を半壊にまで追い込んだんだからな」
「私は襲撃の翌日に聖都に入ったが、あの惨状は今でも目に焼きついているよ」
「俺も話には聞いている。そういえば、当時リーダーは聖都で護衛の仕事についていたって聞いたことがあるな」
「あぁ、レオが居なかったら俺も無事では済まなかっただろうさ。今の俺があるのもレオのおかげだよ」
アーヴィンのいう通り、レオは聖都を守る任務についていた。
彼の持ち場は王宮の別棟で、僕と姉さんがかくまわれていた迎賓館に通じる廊下だったと記憶している。
彼は襲撃の際、僕らの元にいち早く駆けつけ直接守ってくれた一人だ。
しかし、彼の健闘も虚しく、姉さんは敵にさらわれてしまった。
その後、姉さんに関する情報は入っておらず、無事なのかそうでないのかもわからないままになっている。
「確か、ユウジはあれがきっかけで組織に連れて来られたんだよな」
「あぁ、教皇様の勧めでな。まぁ、レオが後見人になるっていうのが条件だったから彼にも相談して決めたんだ。今、俺がこのチームに居る理由はそういうことさ」
簡潔にいえばこんな経緯で組織に加入した。
ただ、もっと深いところでは別の思惑が関係しているのも確かで、それを知っているのは教皇と一部の人間だけだ。
そもそも、レオは皇帝からの命令で僕を監視、保護する役目を与えられている。
これ以上のことは推測の域を出ないが、姉さんがさらわれたことと関係していることは間違いなさそうだ。
「そういうことか。リーダーがお前を気にかける理由はそれだったんだな」
「別に贔屓にされているわけじゃないさ。ただ、俺がこの世界の人間じゃないから警戒してるんだろ?まぁ、あんな事件があった後だし、気持ちはわかるけどな」
「いや、それもあるが、それだけではないんだろう?おそらくだが、私は君の力が関係していると考えている」
ミーナはいつになく真剣な表情をしている。
こんな時の彼女はとても勘が鋭く、場合によっては心の中を見透かされているのではと心配になるほどだ。
彼女曰わく、察しが良いらしいのだが、僕としてはそれだけでは説明できない特殊能力のようなものだと考えている。
こんな時は下手なことはいわず、話を合わせるに限る。
「どうだろうな?俺は詳しいことは聞いてないし、レオにもそんな素振りはなかった。考え過ぎじゃないのか?」
「ふむ…君がそういうならそうなのだろう。まぁいいさ、いずれ分かる時がくるだろうからな」
すでにミーナの興味は酒に移り、ジョッキを煽って残りを豪快に飲み干した。
さすがに飛ばし過ぎだとは思うが、彼女にしてみればまだまだこれからといった様子だ。
同じペースで付き合う事ができないが、適量を守っていれば泥酔することはないだろう。
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