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異説 太平洋戦記  作者: 水谷祐介
第一〇章 南太平洋海戦
52/113

五二 ハルゼー艦隊の思惑


 トラック環礁の南方で繰り広げられる空中戦は、文字通り熾烈をきわめている。

 由来はともかく『空の要塞』の異名を持つB−17の大編隊は、トラックに近付くにつれその数を減らしていたが、速力を落とすことなくひたひたとトラックに向かって進撃していた。

 しかし、そんなB−17を日本戦闘機から守るためについてきたP−38は、すでに姿を消していた。

 元々護衛にはむいていないことに加え、二五一空のベテラン塔乗員が操る零戦の機動に翻弄され、低空に誘い込まれて撃墜及び撃破される機体が続出し、ついにはいなくなってしまったのだ。

 だが、そんな二五一空やB−17に取り付いていた三四三空も、次々と弾を使い果たした機体が発生したため、順次トラックに引き上げ始めていた。


 だからといって、帝国海軍航空隊は迎撃の手を緩めはしない。

 トラックの南、約六〇海里。

 塔乗員不足のために三個中隊編成になっている二一一空の零戦と、帝国海軍唯一の双発戦闘機である月光を装備し、こちらは機体不足のために三個中隊編成になっている一八一空がB−17に向かって突撃を開始する。

 彼等は数が少ない代わりに、零戦は二発、月光は四発の三号爆弾を吊しており、それらをB−17の未来位置めがけて一斉に投下、いや、ばら蒔いた。

 約七〇〇メートル降下した辺りで破裂するように設定されていた時限信管が作動し、B−17の上空に重量わずか二〇グラムの焼夷弾の雨を降らせる。

 史実より実用化が半年早く、帝国海軍オリジナルの空対空爆弾として開発されたこの世界の三号爆弾であるが、命中率がとんでもないことに変わりはない。

 とは言え、一挙に五〇〇発以上ばら蒔けば話は別である。

 その雨の中を不運にも突っ切ってしまった、二一機ものB−17が突如火を噴き墜ちていく。

 また突っ切らずともかすった機体の中には、エンジンをやられて速力ががた落ちになるものも現れた。

 そこへすかさず二一一空の零戦が急降下して、B−17の上部機銃座を潰していく。

 続けて、一八一空の月光が急降下を開始する。


 ちなみに、月光は元々、英独空軍による夜間爆撃の威力に危機感を覚えた当局が開発した、電探装備の夜間戦闘機である。

 元々、とはつまり、一八一空の月光はそのタイプの戦闘機ではない、ということだ。

 電探や秘密兵器の斜め銃を搭載した、夜間戦闘機としてのタイプ……月光二一型……は電探に不具合が発生したため実戦投入がおくれており、一八一空が装備しているのは帝国陸軍が使用している屠龍……月光一一型……を改造した、月光三一型である。

 対重爆戦闘を特に意識しているため、屠龍、つまり一一型と比べて重武装になっている。

 そんな月光三一型は機首に四挺、主翼に二挺の合計六挺の二〇ミリ機銃と後部座席に一挺の一二,七ミリ旋回機銃を装備しており、その破壊力たるや凄まじいものがある。


 さて話を元に戻そう。

 両翼に取り付けられた栄二一型エンジンが一一〇〇馬力の咆哮をあげ、八〇〇キロ近い速度で急降下する月光の機首及び主翼から、六条の太い火箭が重々しい連射音と共に、B−17に向かって伸びていく。

 頑丈さが売りのB−17も、エンジンやコックピットにこれを喰らうともはや終わりである。

 エンジンを撃ち抜かれたあるB−17は、炸裂した二〇ミリ弾によって燃料が発火し、そこから黒い煙を吐き出しながら、またコックピットを撃ち抜かれた別のB−17はガクンと機首を下げながら、どちらにしろ太平洋に向かって墜ちていく。

 急降下の勢いを利用して急上昇した零戦や月光が、再びB−17に向かって突撃を開始する。

 数え切れない程の火箭が飛び交い、そのたびにB−17が、そして零戦や月光が墜ちていく。

 それでも、B−17の大編隊は零戦や月光の必死の迎撃をものともせず、ひたすらトラック目指して北上していく。


 この大編隊を阻止する砦は、トラックの南三〇海里で待機する三二一空の雷電九六機と、トラックの上空で待機する陸軍航空隊の戦闘機各種六三機のみ。

 南東方面艦隊司令部は、B−17のトラック上空への侵入は避けられないと判断し、各島に配置された高角砲陣地に対空戦闘の用意を命じた。

 帝国陸軍がマーシャル諸島を要塞化したように、帝国海軍はトラック環礁を要塞化している。

 そのため、南東方面艦隊隸下の陸戦隊は設営隊と防空隊が多数を占めており、いわゆる四季諸島や七曜諸島、未島、竹島、楓島等に設置された高角砲が砲身をもたげ、南の上空を睨む。

 その多くは旧式化にともない艦艇からはずされた八九式四〇口径一二,七センチ連装高角砲であり、敵機に向かって一発の弾も撃ったことがない物がほとんどだ。

 対空戦闘には関与しない将兵や民間人等は、順次防空壕の中に避難していく。

 最新式の土木作業用の機械を装備している設営隊の面々は、飛行場が破壊されたときに備え防空壕の入り口を陣取る。

 また五〇人程の整備兵と数台のガソリンタンク車が、竹島飛行場の駐機場に整備道具や戦闘機用の弾薬を携えて待機している。

 彼等の任務は五月雨式に帰還してくる二五一空や三四三空の戦闘機に、B−17が来襲するまでに補給作業を済ませて再び戦闘に参加出来るようにすることだ。



 「敵は今どのあたりだ?」

 夏島の地下に設けられた戦闘指揮所の中央にある、南太平洋の地図に手をつきながら、南東方面艦隊司令長官の片桐英吉海軍大将は言った。

 「はッ、敵は現在、夏島より方位一八〇距離四〇海里を時速二〇〇海里程度で北上中です」

 いわゆるレーダースコープを凝視していた電測員が、体をひねりながら答える。

 「後、一〇分ですか」

 「退避の状況はどうだ?」

 「第三艦隊以外の艦艇は、ほとんどが環礁外に出て北に向かっております。陸攻や輸送機の空中退避及び民間人の避難も完了しています」

 南東方面艦隊の首席参謀が即答する。

 「それからラバウル近辺に発見された敵機動部隊についての情報はないか?」

 「はぁ、第三艦隊が偵察機を飛ばしていますが、今のところその偵察機からも潜水艦からも新たな情報はありません」

 「森下一番より入電! 『三二一空、これより突撃す』」

 無線機の前にかじりついていた通信士が叫ぶ。

 「竹島飛行場より、『三四三空所属機我が飛行場に帰還中なり。速やかに補給作業を行う』以上です!」

 「竹島飛行場に無理をせず、いざというときは機体は放棄して全員避難するように伝えよ!」

 第一航空艦隊司令長官の大川内傳七海軍中将が叫び返す。


 「長峰一番より入電! 『我、敵重爆三八機撃墜、及び一七機を撃破す。我が方の被害は被撃墜一六なり』以上です」

 「新郷一番より入電! 『我、敵戦闘機八三機撃墜、及び四〇機以上を撃破、敵重爆も四機撃破す。我が方の被害は被撃墜一一なり』以上です」

 この報告に、指揮所内に歓声が沸き起こった。

 特に二五一空の戦果がすさまじい。三四三空の戦果も決して見劣りするものではない。

 しかし、指揮所の中央にいる片桐以下幹部達の表情は厳しい。

 二五一空の戦果報告を事実とすれば、結果的に二五一空に戦闘機を集中攻撃させた作戦は成功したと言える。

 だが、肝心のB−17は精鋭の三四三空をぶつけても数量的には全体の二割も減っていないし、その課程で丸々一個中隊、つまり一六人もの塔乗員が犠牲になっているのだ。

 その時、いったんは鳴り止んでいた空襲警報が、再び唸りをあげた。

 敵機がすぐそこまで来た、という合図である。

 そしてそれから一分が経ち、唐突に高角砲独特の鋭い砲声が頭上から微かに響いてくる。

 B−17がいよいよ環礁に接近し、各地の高角砲陣地が応戦を開始したのだ。

 「竹島飛行場より入電! 『敵機接近につき、我、補給作業を中断す』」

 「冬島防空隊より入電! 『敵大編隊我が頭上を通過中!』」  「……来るぞ」

 片桐が心のなかでつぶやいてから約二〇秒後、海軍設営隊がその威信を賭けて夏島の地下に建設した戦闘指揮所は、その頑丈さから崩壊やひび割れさえしなかったが、転倒による負傷者が数名出る程に揺さぶられた。



 「艦隊針路一八〇度、第一戦速。第一警戒航行序列で進む。」

 「面舵一杯、針路一八〇!」

 第三艦隊旗艦『日向』から、僚艦に命令が飛び、それに従いながら第三艦隊の各艦艇は巧みに陣形を組み立てていく。

 艦隊の先頭を第二水雷戦隊旗艦の『鬼怒』が進み、その左右に四隻ずつの陽炎型駆逐艦が傘型に並ぶ。

 少し距離をおいて、第四航空戦隊の三隻の空母がそれぞれトンボ釣りの駆逐艦を従え、その左右を二隻ずつの秋月型護衛艦に守られながら単縦陣で進む。

 そして最後尾を、二隻の戦艦が二隻の利根型軽巡と四隻の陽炎型駆逐艦と共に行く。

 戦艦二、空母三、軽巡三、駆逐艦一五、護衛艦四の合わせて二七隻の艦隊は、南の方角に向かって一八ノットで進撃していく。


 「方面艦隊司令部より、連合艦隊宛ての通信を傍受しました。……戦闘機隊の戦果及びトラックの被害状況に関してのものです」

 通信参謀が長い電文の綴りを手に持って言う。

 「読んでくれ」

 「はい、『我が戦闘機隊及び防空隊の戦果は、未だ暫定値なるも、敵戦闘機一二〇機以上、敵重爆一八〇機以上の撃墜破なり。我が方の被害は冬島基地及び春島基地全滅、夏島第一飛行場、楓島飛行場、秋島陸軍飛行場使用不能。我、基地の復旧に努め、敵を迎え撃たんとす。なお、戦闘機二七九機が使用可能なり』以上です」

 「南東方面軍司令部宛ての陸軍の無線を傍受しました。読みます『我が航空隊、B−17と思われる敵重爆を一七機撃墜す。敵の爆撃により秋島基地使用不能。速やかに基地の復旧作業を行う。なお基地が復旧するまで、我が航空隊は、海軍竹島飛行場を利用する』以上です」

 「……航空戦に関しては我が軍の勝利ですが、この被害は相当なものです」

 「うむ……暁雲隊からの報告はまだないのか?」

 何とも微妙な空気に満たされる『日向』の羅針艦橋の中で、第三艦隊司令長官小松輝久海軍中将は一人冷静な声色で通信参謀に尋ねた。

 現在時刻は一一時一三分。

 新型艦偵の暁雲を装備した偵察小隊が『大鷹』を発艦したのが九時三八分。

 その後戦艦や軽巡から発艦した水上偵察機とは、比較にならない速度を発揮する暁雲ならばそろそろ、潜水艦が敵艦隊を発見した海域に到達してもおかしくはないのだ。

 「はぁまだ何もありません」

 「そうか……君達は敵艦隊の目論見をどう見る?」

 小松は居並ぶ幕僚達に視線を移してそう言った。

 「トラックに我が艦隊が駐留していたことは米軍も掴んでいたでしょうから、おそらく我が艦隊の撃滅ではないでしょうか? B−17がトラック基地を破壊すれば、お互いの航空戦力はほぼ互角になりますから」

 「しかし、我が第三艦隊は連合艦隊を構成する一部隊に過ぎません。今アメリカがすべきことは戦力の増強にはるはずですから、わざわざ……」

 「方面艦隊の情報部員が言っていたが、今アメリカ国内では陸軍航空隊の発言力が相当に強いらしい。海軍は陸軍航空隊による攻勢の補助をやらされているのかもしれないぞ。現に彼等は六五一空を拘束した」

 「しかし、わざわざ我が軍の勢力圏に突っ込んでくるでしょうか?」

 「……その逆かもしれん」

 参謀長の矢野志加三海軍少将がゆっくりと口を開いた。

 「我が軍にラバウルという地点は非常な脅威である、と思わせ、あえて攻略させる。そして太平洋艦隊の虎の子機動部隊という餌を使って、我が軍を長期消耗戦に引き込もうとしているのでは?」

 「珊瑚海には手をつけない。これは我が軍の基本方針だ。そのような策などにはのらん」

 小松が力強く言ったとき、通信参謀が悲鳴をあげた。

 「『霜月』より入電! 『敵潜水艦発見。本艦の右六〇度、距離三〇』」

 その報告に小松は反射的に叫んだ。

 「艦隊針路六〇度!」

 そして航海長と通信参謀の声がだぶる。

 「取舵一杯! 針路六〇度! 急げ!」

 「『霜月』より入電! 『本艦右六〇度に雷跡!』」





 ……なぜ、戦闘シーンが上手く書けないのでしょう? 特に、臨場感に欠けているような気がするのですが……


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