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異説 太平洋戦記  作者: 水谷祐介
第七章 同盟国の裏切り
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三八 マレー沖海戦


 「電測より艦橋! 対空電探に感有り! 本艦より方位二二〇から敵編隊接近! 距離六〇海里、速力は……四〇〇キロです!」

 一九四二年二月二二日早朝、南シナ海に浮かぶアナンバス諸島近海。

 二つの輪形陣を組んで付近を遊弋していた第二機動艦隊に突如として緊張が走る。

 「よりによってこんな時に来るとは……」

 旗艦「酒匂」の羅針艦橋で司令長官の小澤治三郎海軍中将は唸った。

 第一南遣艦隊の指揮下に入っている第二機動艦隊は、シンガポールを空爆するために、今まさに指揮下の第三航空戦隊から第二次攻撃隊を発艦させようとしていたのだ。

 そんなわけで同戦隊に所属する二隻の航空母艦、「飛龍」と「翔龍」の飛行甲板には航空機がずらりと並んでおり、こんなところを爆撃されれば目もあてられない悲惨な事態に陥る。

 「敵編隊が本艦隊上空に達するまで後、一〇分と少しだ……艦戦は上げられるだけ上げろ! 艦爆と艦攻は急いで格納甲板に下ろして爆弾を外せ!」

 第三航空戦隊は第二機動艦隊司令部の直率部隊であるため、その二隻の空母を守るべく小澤は表情はそのままに絶叫した。

 直ちに二隻の空母は速力を上げ……まだカタパルトは搭載されていなかったが、幸運にも艦首は風上を向いていた……零戦を次々に発艦させ、彗星や九六艦攻から爆弾を取り外して格納甲板におろしつつ、それが間に合いそうに無い機体は爆弾だけ外して回避運動の際に振り落とされないように、甲板にワイヤーで固定する作業に入った。

 すでに第一次攻撃隊を放っている第五航空戦隊からも、念のために甲板にあげられていた零戦が発艦を始める。

 艦隊上空にあって直衛任務についていた零戦隊は、我先にと敵編隊に向かって飛んで行く。

 「電側より艦橋! 敵編隊急速に高度を上げます! 数は三〇、距離一五海里!」

 「くそっ! 低空飛行で電探の電波をかわしたのか!」

 「全艦対空戦闘用意! 目標右舷の敵編隊!」

 電測室からの報告に参謀長の山田定義海軍少将が舌打を打つと、その脇で小澤が大音声で全艦艇に命令を発した。

 「通信より艦橋! 赤城一番よりより入電! 『我、敵艦隊見ゆ。巡洋艦三、駆逐艦七。位置、二機艦より方位一三〇、距離四〇海里』以上です!」

 「波状攻撃か! 長官どうします!?」

 山田の慌てぶりに代表されるように、「酒匂」の羅針艦橋は大騒ぎである。

 「……慌てるな。一つずつ対処して潰していけばよい」

 小澤は腕組みをして、強い口調で答えた。

 「本館の対空戦闘用意完了! いつでも撃てます!」

 「見張りより艦橋。直衛の零戦隊、敵編隊に突撃します!」

 艦橋トップの射撃指揮所、そして見張り員の絶叫が伝声管を通して聞こえてくる。


 さて、合わせて三〇機のブレニム爆撃機とボーファイター戦闘機は、上昇中ということもありほぼ真正面から零戦隊の迎撃を受けた。

 爆弾を抱えたボーファイターはこれを阻止するべく前に出る。

 しかし双発戦闘機であり、その機動力では零戦について行くことは出来ない。

 身軽な零戦は機体をフワリとダイブさせて、一瞬ボーファイターの視界から消えた。

 零戦にとって攻撃すべきなのは後方の爆撃機部隊である。

 降下しつつボーファイターの下をくぐりぬけ、こちらも上昇中のブレニムのどてっぱらめがけて、直径一二,七ミリの弾丸をばらまいた。

 基本的に航空機は真下からの攻撃には弱い。なぜなら反撃のしようがないからだ。

 機銃を乱射しつつ零戦の群れはブレニムの編隊を突き抜けた。

 遅ればせながら後部座席の旋回機銃から零戦隊に向かって弾丸を撃ち込んだブレニム隊だったが、当たるはずもなくまたその数も半減していた。

 一方のボーファイター隊には、慌てて空母から飛び立った八機の零戦が果敢に襲いかかっていた。

 とは言え相手は倍の数を揃えており、また低空からの攻撃だったため急降下による反撃を受けてしまい、三機の零戦が撃墜されてしまった。

 「対空戦闘用意! 目標位置、三時の方向高度三〇〇〇、距離一万五〇〇〇! ……撃ち方始めッ!」

 零戦の迎撃を突破したボーファイター隊は二つの輪形陣の内、前を進む第三航空戦隊とその護衛部隊に向けて突っ込んで来る。

 これをうけて輪形陣の一番外側を進む秋月型護衛艦一番艦『秋月』の四基の一二,七センチ連装高角砲が、艦長の号令と共に火を噴いた。

 他の護衛艦艇や空母自身も「秋月」に遅れまじと、一斉に持てる高角砲を振りかざして発砲を開始する。

 ボーファイターの針路上に、次々と九九式対空炸裂弾が破裂したことを示す黒い花火が花開き、弾片を巻き散らす。

 七機のボーファイターがこの弾幕に捉えられて脱落したが、なおも六機が突っ込んで来る。

 「機銃撃ち方ぁ……始めッ!」

 高角砲の弾幕を突破した機体が、果敢に輪形陣内に突っ込んでくるなり、各艦の砲術長が号令を発し、高角砲に加えて膨大な数の三〇ミリ機銃が火を噴き、大空に無数の火箭をかけていく。

 その濃密な弾幕に捉えられ、一機、また一機とボーファイターが墜落していく。

 結局のところ空母に向かって投弾出来た機は無く、一隻の陽炎型駆逐艦に落下してきた残骸が運悪く当たり、前部砲塔が全壊したのが被害の全てであった。

 ちなみにブレニム隊はというと、零戦に撃墜されるか爆弾を捨てて逃げるかしていた。

 零戦隊も深追いしなかったのだが、それでもマレー半島の基地に帰ってきたブレニムは三機しかいなかったという。


 「敵機の逃走を確認!」

 「酒匂」の羅針艦橋に喚声が沸き起こり、そしてすぐに静まる。

 敵はまだ別にいるのだ。

 「六戦隊と一水戦をもって迎撃する。準備急げ!」

 「六戦隊司令部に命令。『我に代わって迎撃戦の指揮を執れ』」

 「艦隊針路二〇度! 退避する!」

 小澤が矢継ぎ早に命令を下し、第二機動艦隊の艦艇群は対空戦闘で乱れた陣形を立て直しつつ、それぞれ指示通りの方向に艦首を向ける。

 「見張りより艦橋。六戦隊及び一水戦、艦隊より離脱します! 針路は一五〇度」

 司令長官が座乗していることを示す中将旗をはためかせた「酒匂」や四隻の空母が、その艦体をきしませながら北に向かって退避するなか、重巡洋艦「古鷹」に率いられた迎撃隊は単縦陣を組んで最大戦速で南下していく。


 「電測より艦橋! 対水上電探に感有り!」

 しばらくして、この迎撃隊の司令艦である第六戦隊旗艦の重巡洋艦「古鷹」の昼戦艦橋に、電測室からの報告が響いた。

 「敵艦隊の航行序列は先頭に駆逐艦七、続けて巡洋艦三。単縦陣を組んで向かって来ます。距離三万五〇〇〇。敵艦隊の針路は一八〇度、速力は三〇ノット以上です」

 「迎撃隊針路一二〇度!」

 「右砲雷戦用意! 目標、右前方の敵艦隊!」

 「六戦隊各艦及び一水戦旗艦は観測機を発進せよ!」

 第六戦隊司令官の五藤存知海軍少将は、小澤から即席の迎撃艦隊の司令官に指名されたからか、いつにも増して意気揚々と声を張り上げた。

 「古鷹」以下「高雄」「愛宕」の三隻の重巡の艦橋前後に、二基ずつ配置された二〇,三センチ連装砲や、艦橋の両側に二基ずつ配置された六一センチ三連装魚雷発射管が右に旋回する。

 「砲術より艦橋。主砲射撃用意よし!」

 「水雷より艦橋。魚雷発射用意よし!」

 「通信より艦橋。『高雄』より入電。『我、砲雷戦の用意よし』……『愛宕』からも同文入電! ……『名取』以下一水戦の各艦艇よりも同文入電です!」

 帝国海軍の迎撃艦隊の艦艇群が次々と戦闘準備を整えるなか、豪州海軍の重巡洋艦「キャンベラ」に率いられた連合国艦隊は速力をぐんぐんと上げて、何が何でも日本機動部隊に攻撃をかけようとしていた。

 連合国艦隊の艦艇の主体は、帝国海軍とは一切戦ったことのない、「キャンベラ」以下、軽巡洋艦の「パース」「ホバート」、駆逐艦四隻を抱える豪州海軍であり、残りの駆逐艦の内二隻は英国海軍、一隻は合衆国海軍に所属するものである。


 「電測より艦橋。敵艦隊の位置、本艦の右三〇度、距離一万五〇〇〇!」

 「迎撃隊針路一〇〇度!」

 やがて電測室から新たな報告が届けられると、五藤は再び大音声で命令を発した。

 この命令は即座に後続艦に伝えられると共に、「古鷹」の操舵室では舵輪が回されている。

 しかし、満載排水量が一万トンを超える重巡のため、すぐには回頭を始めない。

 「古鷹」の舵がきき始め、そしてまた直進に戻り、「高雄」と「愛宕」も同じ状況になった時、第六戦隊の三隻の重巡は連合国艦隊に対して艦隊戦の理想とも言える丁字を描いていた。

 「六戦隊砲撃始め! 目標敵駆逐艦一番艦!」

 「主砲撃ち方始めッ! 一斉撃ち方!」

 「古鷹」艦長の山澄貞次郎海軍大佐がそう叫ぶと、すでに狙いをつけていたのか「古鷹」の八門の主砲が間髪入れずに一斉に火を噴いた。

 そして約一〇秒のときが経った頃、目標とされたオーストラリア海軍の駆逐艦「ワラムンガ」の周辺に、大量の花火のような火球が次々と出現した。

 この火球の正体は、対空用の九九式対空炸裂弾が炸裂したものだが、これは先の対空戦闘時に装填した砲弾をそのまま発射したことによる。

 もっとも、その気になれば対艦用の徹甲弾に装填し直すことも出来たのだが、九九式は炸裂すると航空機を一網打尽にするために多数の焼夷榴散弾と破砕弾丸を撒き散らすため、相手が駆逐艦程度であれば撃沈は出来なくとも戦闘能力は奪えるかもしれない。ということが開発時から指摘されていたため、第六戦隊の各艦は実際にこれを試してみたのだ。

 「電測より艦橋。敵駆逐艦五番艦取舵に転舵。続けて六番艦も続行します!」

 そんな中飛び込んできた新たな報告に、五藤が新たな指示を出そうとしたとき、「古鷹」の主砲が再び咆哮し、八発の砲弾を叩き出す。

 それらの砲弾がまたもや「ワラムンガ」の周囲で炸裂したとき、今度は見張り員からの報告が昼戦艦橋に響く。

 「見張りより艦橋。敵巡洋艦一番艦面舵に転舵。針路七〇度!」

 ここにきて連合国艦隊は三隊に分離した。

 三隻の巡洋艦は第六戦隊に丁字を描き始め、豪州海軍の四隻の駆逐艦は最大戦速で第六戦隊に肉薄を図り、英国海軍と合衆国海軍の三隻の駆逐艦は第六戦隊の後ろを行く第一水雷戦隊のそのまた後ろをすり抜けて、退避中の機動部隊に迫ろうとしている。

 「通信より艦橋。『峯雲』より入電。『我の後方を通過しようとしている敵艦は、英国艦及び米国艦なり』」

 「六戦隊目標、敵巡洋艦部隊。一水戦目標、豪州海軍駆逐艦部隊」

 「六戦隊針路七〇度」

 「面舵一杯! 本艦針路七〇度!」

 敵に丁字を描かせたくはない五藤は即座に同航戦に入ることを指示し、「古鷹」が「キャンベラ」と一万メートル余りの距離を置いてその方向を向くやいなや、山澄は堪えていたものを吐き出すように命令を発した。

 「目標敵巡洋艦一番艦。魚雷発射始め! 砲撃始め!」

 「水雷より艦橋。本艦魚雷発射完了」

 「通信より艦橋。『高雄』及び『愛宕』より報告。『我、魚雷発射完了』……続けて一水戦司令部より報告。『一水戦各艦、魚雷発射完了』」

 それに対し、五藤率いる迎撃隊は同航している豪州海軍との戦闘に集中し始めた。

 一見すると、退避中の機動部隊に向かう三隻の駆逐艦を見過ごす形だが、その程度の部隊など何の脅威でもない。僚艦の所属する国家が違う部隊を統制するのは至難の業であるし、四隻の空母とてある程度の護衛艦艇を従えたうえで退避しているのだ。

 「砲術より艦橋。装填されていた九九式は撃ち終わりました。次より徹甲弾に切り替え、交互撃ち方でいきます」

 「古鷹」の砲術長の報告が昼戦艦橋に響くと、日本側が敵巡洋艦一番艦と認識している「キャンベラ」の周囲で八つの花火が花開き、次いで「古鷹」の四基の主砲塔のそれぞれ一番砲が「キャンベラ」目がけて徹甲弾を撃ち出した。

 一方で、「キャンベラ」が発射した四発の徹甲弾も「古鷹」の近辺に落下して水柱を噴き上げたが、水中爆発の衝撃はさほどのものではない。

 「古鷹」の後ろを後続する「高雄」と「愛宕」も日本側が敵巡洋艦二番艦及び三番艦と認識している「パース」と「ホバート」との砲撃戦に入っているが、こちらは相手が軽巡ということもありある程度楽な戦いになることが予想された。

 「古鷹」は弾種を徹甲弾に切り替えてから六回空振りを繰り返したが、七回目の砲撃が噴き上げた四本の水柱は、「キャンベラ」の左右に確認出来た。

 「艦橋より砲術。一斉撃ち方!」

 山澄は敵艦や僚艦よりも先に挟叉弾を得たことに、心底喜んだという声色で命令を発した。

 「古鷹」の主砲塔は装填のためにしばし沈黙する。

 その間にも「キャンベラ」からの砲弾が「古鷹」の周囲に水柱を噴き上げ、水中爆発の衝撃も段々と大きくなって入るが、まだ挟叉も直撃も無い。

 ウェーク島沖海戦でアメリカの太平洋艦隊の重巡と撃ち合い、魚雷の助けもあって勝利を収めたという経験が、砲撃精度の違いとなって現れたのだ。

 やがて「古鷹」の艦内に、主砲発射を告げるブザーが鳴り響き、「古鷹」は強烈な衝撃を後に残して、八発の徹甲弾を「キャンベラ」に向けて撃ち出した。

 秒速八〇〇メートル以上の初速で撃ち出された砲弾は、鋭い飛翔音と共に「キャンベラ」に殺到し、水柱を噴き上げ艦体を抉る。

 「古鷹」の昼戦艦橋からは最低でも二発の直撃弾を確認したが、水柱が崩れた後に姿を現した「キャンベラ」は艦尾に小規模な火災を起こしているに過ぎなかった。おそらく一発は主要防御区画の装甲板によって跳ね返されたのであろう。

 『キャンベラ』の四基の主砲が負けじと火を噴き、「古鷹」も第二斉射を放つ。

 「後部見張りより艦橋。『愛宕』一斉撃ち方に移行しました」

 「通信より艦橋。一水戦司令部より報告。『我、敵駆逐艦一撃沈』」

 「『高雄』も一斉撃ち方に移行しました」

 「いいぞ!」

 指揮下の三隻の重巡が、それぞれ相手にしている敵艦に先んじて、次々と斉射に移行していることに、五藤は満足げにつぶやいた。

 ところがそんな五藤の上機嫌さを皮肉るかのように、「古鷹」は約二分の時間をかけて八回の斉射を行い、合わせて一四発の直撃弾を叩きつけていたが、この段階で運に見放されたのか一四発の砲弾が上げた戦果は「キャンベラ」の第三主砲塔を爆砕し、主砲火力の二五パーセントを奪い取ったにすぎなかった。

 そしてそうこうする間に、遂に「古鷹」の右舷側に二本、左舷側に一本の水柱が噴き上がった。「キャンベラ」もようやく挟叉弾を得たということであり、次からはいっぺんに六発の砲弾が正確な弾道を描いて飛来することになる。

 「キャンベラ」が砲弾を装填する間に、「古鷹」は徹甲弾に切り替えてから一一回目となる斉射を放ち、その爆煙が晴れたとき、「キャンベラ」の艦上に六つの発射炎がきらめいた。

 鋭い飛翔音と共に飛来した砲弾は、至近弾となって「古鷹」を四本の水柱で囲み、前甲板の第二主砲塔に相次いで二発が命中した。

 第二主砲塔に直撃弾による火花が散ったとき、五藤も山澄もこれが爆砕されるのではないかと一瞬緊張したが、第二主砲塔の装甲板はからくも堪えた。

 だが,天蓋が心なしかへこんでいるようにも見える。

 これはさらなる直撃弾を受ければ、間違いなく爆砕されることを示しているわけであり、豪州海軍のある意味意地でもあった。

 「じかーんッ!」

 そんななか、緊迫した艦橋内に突如としてある水兵の絶叫が響いた。

 そして数秒後。「キャンベラ」の左舷中央部に続けて二本の巨大な水柱が噴き上がった。砲撃戦を開始すると同時に発射していた必殺の酸素魚雷が命中したのである。

 四八ノットの雷速で突っ込んだ二本の九三式六一センチ魚雷は、「キャンベラ」の艦体を容易くぶち抜いた所でそろって炸裂し、その凄まじい爆発力は周囲の隔壁を次々と吹き飛ばしていく。

 元々重巡洋艦にしては防御力に難がある艦であり、致命的な場所に命中弾が出ないという幸運も遂にここで潰え、爆風は機関室にまで達して「キャンベラ」の行き足は止まり、二つ空いた大穴から冬場にしては暖かい南シナ海の海水が勢い良く流入し始めた。

 「敵一番艦、行き足止まりました!」

 「後部見張りより艦橋。敵二番艦及び三番艦とも大火災。戦闘不能のようです」

 「通信より艦橋。一水戦司令部より入電。『我、敵駆逐艦部隊を撃破す。撃沈せる敵艦は五、残存艦は南方に遁走せり。我が方に喪失艦無し』以上です」

 「……勝った、な」

 「えぇ。例によって魚雷に助けられましたがね」

 「まぁ細かいことは後にしよう。二機艦司令部に戦果報告。それから一水戦に一個駆逐隊を当海域によこすよう言ってくれ。敵兵といえど見殺しには出来んからな」

 「了解しました」

 五藤の言葉を受け、第六戦隊の通信参謀が艦橋から姿を消すと、彼は一呼吸おいて新たな指令を発した。

 「迎撃隊針路〇度。本隊に合流する」


 「通信より艦橋。六戦隊司令部より入電。『我、敵艦隊を撃退す。敵巡洋艦三、駆逐艦五を撃沈破、我が方の損害は軽微。我、これより反転し本隊と合流せんとす』以上です!」

 最大戦速で退避を続けていた「酒匂」の羅針艦橋に報告が飛び込むと、先程とは違って長々とした歓声が艦橋内に響いた。

 小澤は薄い微笑を浮かべて部下達と一緒に喜んでいたが、やがておもむろに口を開いた。 

 「艦隊針路一八〇度!」

 「第二次攻撃隊を出す! 準備急げ!」


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