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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン4-アクサノ編-
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第九十六話 この中に1つ、真相がある!




クアンに隠された力とは!?

 一般的に林霊教の教職者と言えば神官や巫女であるが、そればかりが林霊教の教職者であるというわけではなく、これら以外の教職者も数多く存在する。その中でも『知者』と呼ばれる者達は、そういった教職者の一種の中でも一際風変わりな存在であった。

 彼らは古来より伝わる秘術『書架』により生きながらにしてその内側に数多の情報を宿しており、差詰め『生きた百科事典』若しくは『生体情報記憶装置』とでも言うべき者達である。

 そんな知者の肩書きは本来、書架の秘術と共に親から子へと先祖代々受け継がれるものである。継承者は様々な掟の元に独自の修行を積み、一生を費やして一人前の知者(即ち内側に『世界そのものとも言い表せるほどの膨大な情報』を宿した上で、『それら全てを理解し決して忘れない』存在)となるべく生きるものであった。

 しかしながらそれも最早過去の話。現代となっては案外簡単に修行を始められたり、新聞に求人広告が載るなど、ある種の職業として扱われるまでにその本質は変容している。


 供米の部下ことサオーラ系禽獣種の女・クアンもまたそういった『近代型知者』の端くれである。知者としては未だ未成熟である為書架の力は限定的にしか使えないが、それでも彼女の体内に宿された情報は莫大かつ多種多様であり、現代に於いてその情報が絶大な力を誇っているのは言うまでもない。


―前回より・市役所の一室―


「では早速だが、宜しく頼む」

「はい。お任せ下さい、供米神官」


 目を閉じたまま椅子からゆっくりと立ち上がったクアンは、スタンダードな祈りの姿勢を取る。これこそ彼女を初めとする若手の知者が書架を発動・行使する際の手順である。

 祈りの姿勢により集中力を高めた彼女は、これより意識のみで自らの内側に存在する書架の中へと入り込むのである。


「用意が調いました。検索を始めましょう」

「よし来た」


 供米は懐からメモ用紙を取り出した。リューラから聞いたキーワードを、書き記したものである。


―書架―


 クアンは背景が白い異空間に佇んでいた。その内部には様々な書籍にノート、巻物のといった紙媒体の他他、USBメモリーやカセットテープ等ありとあらゆる『記録するもの』が空中へ無作為に浮かんでいる。これぞ知者が持つ秘術・書架の実態であり、若手の知者はこの中から任意の情報を検索する事が出来るのである(完成系に達した知者はそれら全てを完全に把握・理解している為そもそも検索の必要が無いのだが、検索できるだけでも十分便利なためこの段階に移行せんとする者は極めて少ない)。


『最初のキーワードは「アクサノ大陸の熱帯雨林」だ』

「畏まりました。絞り込みを実行します」


 何処からともなく供米の声が響き渡り、それを認識したクアンが絞り込みを実行する。すると情報の内『アクサノ大陸の熱帯雨林』に関係しない情報が取り払われる。


『次のキーワードは……「孤立した草地」とでもしようか』

「では『孤立 草地』でor検索をかけましょう」


 or検索とは、複数設けられたキーワードの何れかを含む事を条件として探りを入れる検索方法である。

 この検索方法は精密性こそ『and検索(該当キーワード全てを含む事を条件として探りを入れる検索方法)』には劣るが、その分幅広い情報を得ることが出来るという代物だった。

 or検索による絞り込みは莫大な情報の中から『孤立』『草地』のどちらかを含む情報を探り当てた。しかしその検索結果が少々多い事に不安を感じたクアンは、一段階戻って検索方法をand検索に切り替えた。


『続くキーワードは「睡眠」としよう』

「畏まりました。ではその二字を含む単語を一通りor検索にかけます」


 結果として検索結果はかなり絞り込めた。だがまだ完全でないと考えたクアンは、徐々に単語を減らす、検索方法を変えるなどして繰り返し検索をかけていく。

 そして彼女は遂にただ一つの検索結果へと辿り着いた。

 白い背景の世界に浮遊する『情報』は、図鑑のようなサイズの少々分厚い本であった。くすんだような灰色の表紙には羽虫の絵が描かれており、アルファベットで書かれたタイトルには銀色の箔押しがされている。


「供米神官、見付けました。これこそが恐らく、件の怪奇現象を引き起こしていた得体の知れない力の根源でしょう」

『何と! それは本当か?』

「はい。情報整理と記録を始めますので、ホワイトボードと水性ペンの準備をお願いできますか?」

『判った。至急用意しよう』


―部屋―


 書架を閉じ検索を終えたクアンは、広いホワイトボードにサインペンを走らせる。そのペン速たるや、常に落ち着いた態度を崩さず見る者に淑女的な印象を与える彼女の手つきとしては信じがたいほどに素早いものであった。


「成る程……そういう事だったのか……」

「私としても驚きです。まさかあれがあのようになろうとは……」

「浮世とは極端な考え方で全てを判断できる訳ではないという、確固たる証拠なのだろうな。何はともあれ、早速嶋野様にこの一件をお伝えしなければ」


 供米は得られた情報をリューラに伝えるため、受話器を手に取った。

次回、ダルク・アルポの正体が明らかに!

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