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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン4-アクサノ編-
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第九十三話 ふしゼン!



そんなこんなで準備を整え熱帯雨林へ向かった一行。

―前回より―


 一行は繁が搾取した記憶を頼りに、熱帯雨林の中を進んでいた。


「んで、一つ質問なんだけど」

そう言って話題を切り出したのは、遠隔攻撃担当という事で集団の真ん中辺りを歩いているニコラ。

「何だ?」

「被害者のイニシャル繋げたら[Tentacle]―『触手』になるってのは納得したけどさ、そもそも触手である理由の見当は付いてるの?」

「理由の見当? そうさな、強いて言うなら奴らのかもしれねぇ得体の知れない死骸って奴、アレの殆どが身体のどっかから触手生えてたんだよ。で、被害者の氏名を分析してたら偶然にも合致したと、そういうわけだ。俺だってまさか三回連続で続くとは思わなかったよ」

「あぁ、そういう事だったのね。確かに、昔から若い処女を下品に犯す化け物の代表格と言えばわけのわからない触手の塊と相場が決まってるけど」

「いや、その言い方もどうよ?まるでその方面に詳しいような言い方じゃん」

「悪趣味な金持ち相手にしてる売人の扱うアレげな物品の中にはそういうのがあるらしくってね。魔術とか学術でいろんな生き物をしっちゃかめっちゃかに改造して、人身売買で手に入れた適当な人間を襲わせて楽しむんだとかって」

『ベースとなる生物は軟体動物や刺胞動物が主であり、大概はそこへ節足動物や人間の遺伝子を混ぜ込む事が多いようですね。無論そういった商売を目的とした生命体の改造は禁止されていますし、そもそも生命体の融合自体国際条約で厳しい規制がかけられていますがね』

「そもそも触手の先端部を男性器にしてそのまま射精まで可能にするなんて、もう悪趣味の域を超えて知性体の考えるべき事ではないような気さえしてしまいますよ。好奇心と向上心が強く思考に多様性があることは確かに素晴らしいことでしょう。しかしながら、正当な理由も確固たる目的も無く、品も学も芸も無い愚劣な快楽の為に生命科学を用いる事は害悪と断言できる」

「あぁ、そりゃ確かに同意するしかねーわ。俺も元科学者っつー身の上だから言うが、学術の悪用ってのはそういうのを言うんだろうぜ。そりゃ国一つ滅ぼせるような爆弾やら改造病原菌やら電磁波発生装置なんかも悪用と言えるには言えるだろうが、根本的な学術の悪ってなるとこの辺りが妥当だろうしな」

「あー、その気持ちは解るな。『世の為人の為』とか『私利私欲NG』とかそういう偽善者めいた事は言いたかねぇが、それとはまた話が別ってモンだわ。つかそもそも陵辱は兎も角輪姦とかって格好悪くね?いや陵辱も十分格好悪いけどさ、まだ脚色次第でどうにでもなるじゃん? 輪姦は幾ら脚色しても輪姦だからなぁ」

 等と、至極普通の若者が繰り広げるような(そうでもないような)他愛もない会話を楽しみながら、一行は熱帯雨林の中を進んでいた。他の大陸以上に自然が豊かで独自の生態系が広がるアクサノの熱帯雨林には、嘗て繁がノモシアの森で見た以上に多種多様な生物がひしめき合っていた。

 例えば翼が完全に前足となって獣同然に動き回る鳥や五匹一組でキノコに擬態する甲殻類、遠目から見れば派手なクサリヘビにしか見えないような樹上棲の巨大ムカデ、蔓を能動的に動かせる植物等がそれである。

 中でも驚かされたのはバシロが見付けたカメレオンかヤモリのような中型の爬虫類で、その頭部には眼球を五つ持ち、先端部が脊椎動物の顎のように開いて獲物を掴み取るというホースが如し長い舌を持っていた(ちなみに捕食されたのは小振りなヒヨケザルに似た小型の哺乳類だったのだが、その背面には何故か白い人面のような模様があった)。

 そうこうして進んでいくうち一行は熱帯雨林を抜け、樹木が無く背の高い草ばかりが鬱蒼と生い茂る開けた土地に足を踏み入れた。広大な草叢はあたり一面に広がっており、その中央には背の高い奇妙な樹木が生えている。

 しかし奇妙なことに草叢は局所的なものであり、その周囲を取り囲むように熱帯雨林の樹木が壁を成していた。


「何なのここ……まるでこの辺りだけ人為的に木が伐採されたみたいに……」

「そもそも何故この区画だけがこうなっているのか、という事が最大の謎でしょう。普通資源目当てで伐採するならば外側から削るでしょうし、木材目当てなら中央の木だけが伐採されずに残っているのも妙な話で」

『そもそも熱帯雨林と隣り合わせであるというのに、ここまで徹底して環境や生物層が違うという事が有り得るのでしょうかねぇ』

「大方魔力か何かの影響じゃねぇの? そもそもそう言ってここ通らなかったら道分からなくなるぜ。なぁ、繁?」

「そうだな。秋本の奴ぁ女遊びに夢中で隠し場所もいい加減にしか覚えてなかったらしい。入手できた道のりではあの樹を経由するしかねぇんだ」

「んま、大丈夫でしょ。どうにかなるって」

「そうだそうだ。もしあそこに機関銃持った敵が潜んでて弾が飛んできたら俺が盾になってやるしよ」

 かくして一行は不自然な草叢の中央にそそり立つ奇妙な樹木を目指して歩き出した。並びは前から前衛としてリューラとバシロがちょうど先頭に位置している。

 そして一分ほど歩いた頃、遂に異変は起こった。

 どさり、ばさりと音を立て、リューラとバシロの後ろを歩いていた面々が次々に地面に倒れていくのである。

「おい皆、大丈夫か?」

 異変を察知したリューラがふと振り返ると、背後では彼女を除くメンバーが無造作に草村へ倒れ込んでいた。背の高い草で若干姿は隠れてしまっているが、元陸軍として銃撃戦の経験もある彼女の目に狂いはない。


「おい、大丈夫か!? 繁!? 香織!?」

 大声で呼びかけながら揺さぶってみたが、反応は一切無い。もしや神経毒かとも思ったが、呼吸や脈はあるため生きているのだろう。

「クソッ、どういう事だよ……なぁバシロ、こういう時はどうすりゃいいと思う?」

 リューラは自らの右半身に宿る亭主に語りかけたが、反応がない。いつもなら此方から語りかけるまでもなく、何かあれば直ぐに―否、何も無くとも大概瞬時に口を挟んでくるはずなのに。妙だと思った彼女は、ふと自分の右手を見た。何時もなら肉食獣とも爬虫類ともつかない異形の形をしている筈のそれだが、今は普通の人間の手に合成ゴムの皮を張り付けたようになっている。

「(……どういう事だよ一体……とりあえずこいつらを安全な場所まで運ばねぇと!)」

 とは言っても安全な場所など在るはずもなく、とりあえずその変にまとめて安置しておく他無かった。

「(とりあえず今はああしておくとして……問題はこの状況の打破だな。こんな大人数が一度に意識を失うなんざあまりにも不自然だ。となると、敵の攻撃を受けていると考えていい。だがどうする? 私は元々陸兵だ。陸兵は戦うことにかけちゃ強いが、それは相手が明確に判ってる場合の話……こんな状況、どう対抗すりゃ良いのかなんてサッパリだ。だが考えろ。無い知恵絞って考えろ。何も行動を起こさないままだと皆が危ねぇ。何か、行動をっ――)」


 リューラは尚も熟考する。自分を隔離病棟から解放したばかりか、母校を荒らす秋本一味を倒し、生きる意味を与えてくれた仲間達を救い出す為に。

次回、不自然な草地の真相とは!?そしてリューラの前に現れた敵の正体とは一体!?

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