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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン4-アクサノ編-
91/450

第九十一話 ほうそくっ!:前編



報告会を終えた翌日、再びロビーに集まった繁達…

※12/9 表記ミスを発見したため急遽修正しました

―前回より・翌日のロビー―


 報告会を終えた翌日、繁達は再び集っていた。


「さて、昨日の報告会が終わってから、俺なりに被害者の特徴について纏めてみたんだが……少しばかり被害者についての共通点というか、法則性のようなもんが見えてきたような気がする」

「法則性?」

「そうだ。言ってみれば劇場型とか愉快犯とかと呼ばれる犯罪者の事で、この手合いは自分自身の行動にルールを設定し、それそのものを目立たせたがるんだ。例えば俺らもそうだが、予め犯行予告をしたり、行為そのものを目立たせたりな」

 繁の話を聞いた一同は、フィクション作品などで語られる典型的な怪盗やインターネット上で犯罪予告をする馬鹿の事を思い浮かべた。もっとも、ツジラジメンバーからすれば後者と同格の存在と見なされるのは死んでも願い下げだったが。

「要するに演劇かゲーム感覚で犯罪に興じるわけだ。ほんで、今回処女殺しをやってる奴も当然そんな劇場型犯罪者だろうから、殺しには何かの明確なルールがあるんだ」

「ルールねぇ……一体何だってんだ? 若い処女の身体いじくって殺すだけじゃねぇってのか?」

「だよなぁ。あとルールっつったら、骨格の形ぐれえしか思い浮かばねぇんだが……」

 リューラとバシロの言い分は尤もだった。自分達はあくまでラジオDJであり鑑識ではない。故に限られたヒントの中から怪事件の法則性を割り出し犯人を見つけ出すなど、そうそう簡単に出来る筈もないわけだ。

 しかし繁は、それでも尚事件の裏に潜む法則性についての言及をやめようとはしない。自らの考えに余程自信があるのだろう。

「あぁ、そうだとも。この殺しの犯人にはそういうの以外に、明確な殺しの基準たりえる何かがある。安易に断言すると後が怖いからあんま言いたくねぇんだが、こっちにも鍵を握る情報ってのがあるからなあ……」

「フム。デハ聞カセテクレ、ツジラ殿。貴殿ノ考エル『事件ノ法則性』トヤラヲ」

「よっしゃ、そんじゃとりあえずこいつを見てくれ」

 繁はテーブルに大振りな紙を広げた。見ればそれは、顔写真付きの被害者リストであった。被害者の氏名や種族の他、年齢、職業、推定死亡日時、殺された順番や身辺調査で判明したデータなどが簡潔に記されている。

「あれ? こんなの何時の間に作ったの?」

「昨日報告会が終わった後、記録メモ見ながらワープロで作った」

「ワープロ……だから昨日夜遅くまでプリンターの音が五月蠅かったのね」

「そんなに五月蝿かったんなら言ってくれりゃ良かったのに」

「眠気が強かったので言うに言えなかったのよ」

「なら結果オーライだな。んじゃ皆、とりあえずこのリストに注目してくれ。何か思い浮かぶ事はねえか?」

 等と思わせぶりに言い放つ繁だったが、そんな事を振られたからといって何かを思い立つほど冴えた者はこの場にいない。一同は揃って首を横に振った。

「やっぱ思い浮かばねぇか……」

 やっぱって何だよ、判ってたんならそんな話振るなよ。

 誰もがそう思ったが、敢えてそこへ突っ込む者は誰もいなかった。

「じゃあこれでどうだ?」

 そう言って繁が突き出したのは、縦に繋がったカレンダー三枚―上から順に先々月、先月、今月のもの―であった。所々に赤いマジックで丸印と時刻が描き込まれている。

「これって、被害者の死亡推定日時?」

「そうだ。図示してみれば法則性が見えてくるだろうと思ってまとめてみたんだがな。ついでにこっちは時刻を図示した奴だ」

 続いて繁が取り出したのは、小学生の授業で用いられるような時計盤型の紙であった。十枚が金属製のリングで閉じられており、日付順に時針が緑、分針が黄色で表記されている。


 繁を除く一同は思考を巡らせた。あの繁がここまでヒントを出す程に勿体ぶっているという事は相当自信があると考えて間違いないと、そう確信できたからである。


―暫くして―


「そいじゃまぁ、俺も勿体ぶるのやめてそろそろ正直に答え言うわ」

「あ、言っちゃうの? クイズ形式とかにして私らに回答を要求せずに?」

「おう。何かそういう流れとか面倒だし、ここは俺が言っとかねぇと絞まらんだろ。時数増えて長引いてもアレだし」

 何だよそれ。散々振っておいてそのオチかよ。

 等と思う一同を余所に、繁は縦に連結したカレンダーを手に取り、言った。

「単刀直入に言うが、一連の事件に潜む法則を探り当てる鍵を握っているのは『日時』と『名前』だ」

 そう言いながら、繁はハサミでカレンダーを細長く切っては横に繋げていく。

「まず殺害された日付だが、このカレンダーをこうして横一列に繋ぐと判りやすくなると思う」

 繁はカレンダーの両端をバシロに持たせ、腕を伸ばして撓まないよう真っ直ぐに張らせた。

「成る程、横一列に並べてみると確かによく判るぜ。てっきり不規則だとばかり思ってたが、成る程そういう意味か!」

 両腕を伸ばしつつ首を曲げて横繋ぎのカレンダーを見たリューラが、感心そうに言った。

「これでもう判ったと思うが、処女殺しは一定の感覚を開けて起こっている。まず一人目の死亡推定時刻が先々月の27日、次の被害者はその15日後の7月12日。続く三人目はその五日後の17日に殺され、その後五人目までが5日おきに殺されている。その次に六人目が殺されたのは27日から三日後の30日で、その後十人目までが四回が三日おきに殺された。つまり奴は何らかの殺害日程の間隔に関して15という数に拘っているらしい」


 一同はただただ繁に驚かされるばかりであった。

 というのは、ここまで推理を展開するだけならばまだしも、それを説明するためにここまでのものを一晩で準備したという事と、それでいて居眠りの一つもせずにこうして平然と喋り続けるなど、まともな霊長種では考えられないことだからである。

 しかしながらそんな繁に意義を申し立てる者も少なからず存在した。彼の従姉妹・青色薬剤師こと清水香織である。


「まぁ確かに15っていうのは奴が逃げ出した日―11月15日とも合致するけど、そうだとすると可笑しくない? その計算で行くと十一人目が殺されるのは8月11日なわけでしょ?」

「そうなるが、どうした?」

「どうしたも何も、もうその予定日から三日も経ってるのに死体見付かって無いじゃん。別に繁の仮説を疑ってる訳じゃないけど――」

「「ツジラ殿っ!」

 香織の発言を遮るようにしてホテルの中に駆け込んできた者が居た。今朝方から別件でホテルを離れていた供米である。

「供米神官、一体どうしたのです?」

「ツジラ殿、大変ですぞ! そうこうしている間に、人里離れた山中でまたも件の死体が! これで十一人目です!」

 その場に動揺が広まるが、繁は尚も冷静に供米に問いかける。

「被害者の名前と死亡推定日時は?」

「はい。被害者の名は『ノーラ・トルドー』、死亡推定時刻は三日前の8月11日、午前2時36分です」

「やはりそうなったか……良し、皆落ち着け。まだ慌てるような時間じゃねー」

「そうは言いますがね辻原さん、また一人死んだんですよ?」

『これが慌てずに居られましょうか。落ち着いてなど居られませんよ』

「良いから落ち着け。詳しい情報も判らないまま闇雲に動き回っても徒労だぞ? 俺が見付けた法則性はまだあるんだ。それに、どうせこんな日中に奴らは動かん。動くとすれば夜明け前と日没後だ」

「へぇ、何か根拠がありそうな言い方だね。それも法則性の一つ?」

「そうだ。言っただろ? 奴らは劇場型犯罪者……殺しを執り行うにしてもルールがあるってな」

次回、処女殺害に秘められた更なる法則性とは!?

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