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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン1-ノモシア編-
9/450

第九話 再会したゼ!




元開業医と指名手配犯は再び出会い、そして……

―前々回より―


 繁がジュルノブル城に辿り着くのに、さほど時間はかからなかった。

 道中の道案内がとても丁寧で、城下町の商店経営者や城周辺の警備兵に聞けば大抵の事は教えてくれたからである。

 それどころか『建築士を目指している友人に頼まれたので、城の内部や周辺について詳しく判るものが欲しい』と頼めば、城の詳細な間取りは勿論、通気口や排水溝のルートまで事細かに書かれた見取り図を渡された程である。

「(完全に信じ込むとヤベェが……参考までに持っておくか)」

 繁は外部で準備を綿密に済ませ、ひとまず城内を見学させて貰うことにした。霊長種(我々人類と大差ない種族)の若者がガイドとして案内役を担当し、一般人に公開出来る部屋全てを三時間もかけて巡り続けた。


 繁は城の内装や従業員達の業務内容等に興味津々な素振りを見せ、時には従業員達への聞き込みも行った。

 元々善意や敬意、愛情を軸とした行動を心がける繁の積極的な態度に気を良くした従業員達は皆不平一つ言わず嬉々として自らの生い立ちや業務内容を話し、更には私生活を語る者まで居る始末であった。

 繁はそれらを大学生活で鍛えた速記で記録していくが、当然彼の目的はそんな情報ではない。

 否、城の内装や従業員達についての情報もまた、目当てではあった。

 しかしそれの優先順位はほぼ最下位であり、より重要な目的とは他にあったのである。


 それは手渡された城内見取り図の確認と、更にもう一つ含まれていた。その目的が何かは、また後程。


―帰路の道中―


「準備は完了した……あとは筋書きと下準備だが……」

 ベンチに座り込んで城の見取り図を睨みながら、繁は考え込んでいた。しかし幾ら考えても、望むような作戦概要は思い浮かばなかった。思案することを不毛に感じた繁は、食事にしようとベンチから立ち上がった――その瞬間。

 何やら鈍い音がして、木製のベンチが盛大にへし折られる。

 その根源に居たのは何と、城に向かう道中で出会ったあの女――ニコラ・フォックスであった。首の骨が在らぬ方向に折れ曲がり、頭部からは血が出ている。


「うぉっ!?あ、アンタは確か爆発事故の時出会した……ってんな悠長な事言ってる場合じゃねぇや!気をしっかり以て下さいね!?今救命隊を――「呼ばなくて良いから」――はぇ?」

 ニコラの予想外の答えに、思わず間の抜けた声が出てしまう。

「寧ろ騒ぎを大きくされたりすると困るのよ。若干政府から追われてる身だしさぁ、さっき落ちてきたのもその一件でね?」

 等と語り続けるニコラの身体は、驚くべき速度で再生していく。地に滴り落ちた血液の一滴までも傷口に吸収されていく辺り、彼女の不死性が常軌を逸している事が見て判る。その光景に言葉を失う繁を尻目に、ニコラは存外マイペースなままであった。

「驚かしてごめんね?実は私ってアレがコレでこうなっててさぁ」

「微塵も意味がわかりませんよその説明文」

「そりゃ説明する気が無いからねぇ。あぁ、自己紹介が遅れたね。私はニコラ・フォックス。この辺りで開業医をやってたよ」

田上飛蝗(タガミヒコウ)です。エクスーシアで従姉妹と薬屋を営んでいます」

 繁は偽名を名乗った。指名手配中である今、安易に外部で本名を話すわけにはいかない。

「ヒコウか…中々に良い名前だねぇ」

「いえいえ、貴女こそ素敵ですよ。その耳や尻尾もお似合いですし」

 等と適当な事を語らいながら、二人はひとまず香織の家へと向かう。公共交通機関を乗り継ぎながら交わされる二人の会話は、雰囲気だけを見れば中々に平和的だった。

 しかし内容はといえば、ニコラの素性や繁の体験談(大幅に脚色)等であり、その内容は若干恐ろしげでもあった。

「ほうほう、ではニコラさんは19歳のままで不老不死の身体に?」

「そうなんだよねぇ。理由もわからず、突然にね」

 本人達からしてみれば他愛もない会話と共に、二人の時間は過ぎていく。

 繁はこの間に、隙を見て小型通信機で香織と連絡を取り、異世界人である自分達の素性は隠すべきとの結論に至る。

 幸いにもニコラは気付いていないようで、繁は心の底から安堵した。

 香織は兎も角、自分の素性を知られてしまっては大変だし、何よりニコラを傷付けてしまうと考えたからだ。

 そして列車に揺られ、獣道を歩むこと早一時間半。二人は無事、何事もなく香織の家へと辿り着いた。ちなみに香織の偽名は『露木揚羽(ツユキアゲハ)』とした。


―玄関―


「揚羽、今戻ったぞ」

「お帰りなさい。ジュルノブルはどうだった?」

「お邪魔しまーす」

「いらっしゃい。ゆっくりしていって下さいね」


 等と家に上がり込む二人を、露木揚羽こと清水香織は温かく出迎える。

 香織はニコラを居間に案内し、紅茶とケーキを振る舞った。正体を覚られないよう、繁は尚もマスクを取らない。

 その後、三人は他愛もない世間話を楽しんだが、ふとニコラが、こんな事を言い出した。

「それにしてもまぁ、二人は上手だよねぇ」

 含みのあるその言葉に、飛蝗こと繁が問いかける。

「何がです?」

 繁の問いかけに、ニコラは軽く、しかし的確に言葉を紡ぐ。

「何がってそりゃあ、嘘がよ。というか、演技っていうのかな?随分とまぁ、巧妙なもんだねぇ。不老の身として70年以上生きてるけど、これほど上手で、それでいて悪意や私欲の感じられない嘘はそうそう見たことないね」

 その言葉に思わず動揺した香織が、口を挟む。

「う、嘘?何の話ですか、フォックス先生?私達、嘘なんて吐いてませんけ――「シラ切ろうったってそうは行かないよ?気付くのにはかなり時間がかかったけどね、その分確固たる答えが見いだせたわ。飛蝗さん、揚羽さん……貴方達のその名前、偽名だよね?確証はないけど、何かそんな気がするんだ。それから、出身地とか生い立ちとかも嘘だよね?真実があるとすれば……二人の趣味くらいでしょ?」

 ニコラの推理は、曖昧でありながらしかし的確でもあった。図星であったが故に、二人は言葉を失い返答が出来ない。

「あと出身についてだけど……二人は、さ。異世界人、だよね?何となく、だけど」

 その推理に、二人は最早言葉を失うしかなかった。

 香織の経験が確かならば、地球人とカタル・ティゾルの霊長種の間には、決定的な差は見受けられない筈であった。

 つまり、動向に気を遣って個人情報漏洩防止に心がけていれば、余程疑り深い人間とかなりの長期間でも居ないと、地球人であるという事はバレないというのが、香織の立てた定説であった。しかしその定説は今、音もたてずに瓦解した。一人の開業医が『何となく』立てたという推論によって。

 繁と香織はアイコンタクトで瞬時に意見を交換し、ニコラに真実を話す決意を決めた。通報されてしまうかもしれないが、そうならないようにどうにかするしかない。もし仮に通報されたとしたら、どうにか逃げ出そう。

 二人は覚悟を決めた。

二人の旅もここで終焉か!?

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