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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン4-アクサノ編-
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第八十九話 研究ノートの内容が、ほぼ日記な件について




乾燥卵の中から産まれてきたのは……?

―前回より・研究ノートの内容―


10/9 天候・曇

 四番から七番水槽までの卵が白くなっている。顕微鏡で見たところ、残念ながら死んでしまったようだ。

 これら四つの水は擬似的な海水を再現していたんだが、卵のまま死んでいる所から見て塩分濃度の濃い環境に弱いと見える。

 温度には影響されないのか?


10/11 天候・晴

 喜ばしい事に、9日に死滅した奴以外の卵4つ全部が無事に孵化してくれた。水槽内を泳ぎ回っていたのは全長1cm以下、ミミズの幼生に似た生物だった。泳ぎ方は魚に似ていて動作が素早く、水温25度で中性の真水を入れてあった二番水槽の個体が一番活発だった。次からは他の水槽も二番と同じ環境にするか。

 光学顕微鏡で見てみると、僅かに体節のようなもんが見えている所から見て環形動物か? だとしても何故人型ミイラの身体にこの乾燥卵が?まぁ良い、今度はこいつらの餌を考えてやらんとな。


10/12 天候・晴


**前略**


 と、このように色々なものを与えてみたが、どれも食い付きがいい。動物食らしく、二番水槽の奴はソーセージを必死で貪っている。この分なら皆順調に育ちそうだな。


10/20 天候・雨


 ここ八日間で随分と育ったもんだと思う。全長は既に平均11.5cm、生まれたてが1cmにも満たない所からスタートしたと思うと、とんでもない成長力だ。それに伴って光学顕微鏡サイズの頃では捕らえきれなかった色々な特徴が判ってきた。

 例えばその全体的な姿はミミズというより細長いイモムシ(完全変態をする昆虫の幼虫)に似ていたし、動きも魚というより蛇のような落ち着きを見せ始めていて、体色も成長するに伴って乳白色になりつつある。

 だが何より特徴的なのはこいつらの頭部で、そこには赤と青の目玉に似た器官がついていた。節足動物ならばまだ判るが、環形動物で明確な目があるなんて聞いたことがねぇ。


10/28 天候・曇


 今更かもしれないが、こいつらは相変わらず発育が良い。というか、良すぎる。ここまで来ると、不意にとんでもない大きさまで育ってしまうような気がしてならない。

 忍びないが、近いうちに解剖でもして間引くべきか?


11/2 天候・曇


 管理委員会が節電しろと言って来た。どうせいつもの言い掛かりだろうが、この際従ってやるとするか。丁度こいつらを間引く必要性があるとも感じていたので、忍びないが三番を解剖する事にした。

 下に張ったのが解剖前の三番だ。最初とは比べ物にならないほど体格が良くなっていて、今こうして日記を書きながら思い返しても改めて恐ろしく思う。実際に解剖してみて判ったことだが、驚くべき事にこいつは体内に内骨格を持っている。つまり脊椎動物だって事だ。内臓までしっかり似せてやがる。

 骨格の構造は魚類とも両生類とも爬虫類ともつかない形だったが、頭の先にあった目玉も脊椎動物が持ってるのとそう変わりのねえ水晶体軸の目玉だった。

 解剖を終えた死体はバラして他の奴らに喰わせることにした。リサイクル感覚だが、大丈夫だよな?


11/5 天候・晴


 相変わらず三匹は元気だった。同僚から言われたが、そろそろコイツ等に仮の種名をつけるべきかもな。そう思って色々考えた結果、『テソロサノ』というのを思い付いた。これからはそう呼ぶことにしよう。


11/7 天候・雨


 今朝方一番水槽を見ると中にはテソロサノが居らず、代わりに白く巨大な毛玉が浮いていた。何事かと思って調べてみると、毛玉の正体は何とテソロサノだった。どうやらフィルターの不備が原因で発生した水カビにやられたっぽい。ツレに種類と進入経路の特定を頼んでおこう。

 最近忙しくてバタついてやがったとはいえ、水代えと掃除はきっちりやんなきゃなんねぇわな。


11/10 天候・晴


 唐突に管理委員会から書類が来た。何でも『新しい研究対象に人員を割くから研究を取り止めてチームを解体しろ』とか抜かしやがる。ふざけんじゃねぇ。元はと言えばてめえらが他の研究機関に負けたくねぇとか言いだして、強引に引き取ってきた金属塊を俺らに押しつけたんだろうが。

 派手な研究結果が出ないと判った途端新しい研究対象に乗り換えて古いモンは捨てるってか? 俺が見付けたテソロサノはどうなんだと思ったが、そういや委員会の連中はああいうモンが極端に嫌いだったな。


11/11 天候・晴


 昨日配られた書類の内容にキレた上が管理委員会を訴えやがった。俺は知らねぇぞ。


11/12 天候・雨


 裁判は管理委員会の敗訴に終わり、研究チームは守られた。

 だが油断は出来ねぇ。うちの管理委員会は権威主義者の老害共が使う天下り先としちゃ最大手……何をしてくるかは全く予測できねぇからな。

 あと、テソロサノ共は相変わらず元気だった。何があってもコイツ等の末路だけは見届けねぇとなと、俺は決意した。


11/15 天候・曇


 今朝は珍しく寝坊しちまった。テソロサノ共に餌をやる時間を十分も過ぎちまった事を後悔しながらダッシュで廊下を走ってると、非常ブザーの耳障りな音が俺の耳を劈いた。いやぁ、改めて思ったがやっぱあんなに酷い音はねぇな。またどうせ化学(ケミ)系の奴らが爆発事故でも引き起こしたんだろう、うちは大丈夫だと思っていた俺は研究室の扉を開いて唖然とした。つーか、絶句した。

 そりゃそうだ。いつもの研究室だと思ってたのが、いざ戸を開けたら大勢の同僚共が悉くぶっ殺されてるんだもんよ。しかもスプラッターだかパニックもんだかばりに無惨な姿にされてやがった。

 俺は一瞬取り乱したが、ネットに転がってるようなホラー画像に比べりゃどうって事ぁねえと思い何とか正気を取り戻すことが出来た。こういう時、俺みたいな異常者は便利だよな。


 どこのどいつか知らねえが、こんな異常者相手でも対等に接してくれた同僚達を皆殺しにするとは太ぇ野郎だ。そう思い俺は現場の状況を知ろうと同僚達を見て回ったんだが、何かがおかしい。


 ざっと二分ほど確認してみて漸く判った。死体の数が若干足りてねぇんだ。しかも、若い女ばっかり。ばっかりと言うが、若い女の同僚でも死体の残ってる奴は居た。だが皆死んでいた。無惨な姿にされて。


 その時、ふと俺はある重要な事を思い出した。そうだ、テソロサノ共だ。二番と八番は無事なのか?

 そう思って俺は自分用の研究スペースに向かったが、そこでとんでもねぇ光景を見ちまった。


 あんなに元気だった八番が死んでて、二番水槽がぶっ壊されてたんだ。何が起こったんだ?そう思った俺はひとまず八番の死因を調べることにした。調べた結果、八番の死因は水槽内の塩分濃度が急激に上昇した事にあると判った。多分管理委員会の奴らが何か細工をしたんだろう。死亡推定時刻から見て、俺が餌をやった直後に死ぬよう仕組んでいたらしいな。ド畜生めが、命を何だと思ってやがる。

 んで次に二番だが、こっちは水槽をぶっ壊されたばかりか姿さえも完全に消えていた。脱走したとしてもこのドサクサで生き残れるとは思えねぇし、陸上での運動能力は皆無に等しいからそれほど遠くには行ってねぇ筈だ。

となると盗まれたという説が濃厚だが、公的機関なんぞアテにゃなんねぇ。俺なりに出来る事をしつつ、上からの指示を待つか。


11/18 天候・晴


 駄目だ。もうここには居られねぇ。明日の朝、荷物まとめてラビーレマ出るか。

研究員達の身に何が起こり、二番水槽の個体はどこへ消えたのか!?

次回、影に潜む何かが動き出す!?

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